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プロローグ-3

「言ってろ!」


百合はゼリーを取り出す。

袋に入れてあり、簡単にちゅるんと食べられるタイプのそのゼリーは、十個入りで売っていたもののうち、最後の一つだった。


「さて、私はチェスAIをだいぶ改造してきた。今度は負けないよ?」


百合がそう言ってニンマリ笑うと、絵里も同じようにニンマリ笑った。


「実は私も改造してるんだよね」


「いいね、勝負を決めよう!」


百合がそう言うと、百合と絵里は二人とも、左手でデバイスに触れ、LBMT(左腕のデバイス)に右手の人差し指を沿える。

作成したばかりのAIプログラムをタッチすると、手のひらの方へフリックして言う。


「「インストール! 三次元チェスAI!」」


百合自作のAIと絵里自作のAIが三次元チェスの指し手としてインストールされた。

盤面は目まぐるしく動き始める。あちらの駒をとり、こちらの駒が移動し。

突然、絵里が声を上げた。


「あっ! それ、めっちゃずるい!

なんでそんな悪手打てるの⁉

そのせいで私の方の計算が狂うじゃん!」


三次元チェスのややこしいところは、特定の陣形を取ることで駒の動き方が変化することだった。

百合のAIが指した手によって、百合の陣営の駒は変幻自在の動き方をし始める。


「ふふふ、努力のたまものだよ、絵里くん」


「どうやってそんな狡猾な方法、覚えさせてくるの……?」


百合は得意満面の笑みで絵里を見る。


「さすが、ゲスユリだねぇ」


鈴音がそう言うのに対して百合はギロリと視線を向ける。

チェスは刻一刻と変化し、百合は勝利を確信すると、ゆっくりとゼリーに手を伸ばす。


「それじゃあ、このゼリーは」


「あら、おいしそうなゼリーじゃない」


だが、百合の手の先に会ったゼリーをヒョイとさらっていった人物がいた。


「お、お母さん!」


百合は絶叫する。


「ちょっと、百合? ここは病院よ?

あんまり大きい声出さないで頂戴」


「そ、そんなこと言っても! そのゼリーは私の……!」


「はいはい。もう食べちゃったから無いわ。

それより、準備するからどいてちょうだい」


もう少しで百合の勝利というところで、三次元チェスの電源を切られてしまった。

百合と絵里の母親である朝日あさひ、そして、遅れて父親であるすぐるが病室に入ってくる。俊は何やら大仰な機械を引き連れていた。


「あ、百合ちゃんと絵里ちゃんのご両親、お邪魔してますぅ」


鈴音がぺこりと挨拶すると、二人ともぺこりと頭を下げる。

黙っていそいそと機械の準備を始めてしまった俊に代わって、朝日が答える。


「鈴音ちゃんもいつもごめんね。こんな偏屈姉妹に付き合って。大変でしょう?」


「誰が偏屈だよ!」


「偏屈なのはお姉ちゃんだけだよね?」


いつの間にか裏切られていた姉の方は、あんぐりと口を開けて妹の方を見た。

妹の方はすでに、自分の体にペタペタと機械から延びるケーブルを張り付けていた。


鈴音は首を振りつつ言う。


「二人とも偏屈だから退屈しないですぅ」


「鈴音ちゃん、うまいこと言うね」


朝日は涼音に対してバチコーンとウィンクを飛ばす。


「誰か否定してよ……」

百合のつぶやきは虚空の彼方に消えていった。

絵里は自分と機械を接続するちょっとひんやりするパッドを体に貼りつつ聞く。


「これ、何の準備なの?」


「よくぞ聞いてくれた」


この病室に入ってから、初めて俊が口を開いた。


「今回のアップデートをもって絵里の体内にいるバイオナノマテリアルを進化させ、性能を次のレベルへと引き上げる。

それにより、ようやく、絵里の体内の突然変異に完全対応できるようになる」


絵里は感動のまなざしで俊を見る。

ようやくベッドの上でなく、そこら中を走り回ることができる。

百合が買ってあげたランニングシューズを絵里は見る。


百合も鈴音も同じ思いであったらしく、全員でその黄色のランニングシューズを見ていた。


「感動するのはまだ早い。機械を実行し、結果を確認し、走り回れたその日に、感動しなさい」


俊はそう言うと機械をいじり始める。

朝日の方がため息をつきつつ、準備を手伝う。


「そっか、絵里もついにお外デビューか。

さすが、お父さんとお母さん」


「ふ。褒めてもお小遣いはアップしてやらんぞ?」


百合と絵里と朝日と鈴音は驚きの表情で俊を見た。

俊は普段、冗談なんて言わない、寡黙な人間だった。

どうやら、俊もテンションが上がっているようだった。

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