第二章-11
「誰が、刺されるかそんな鈍いナイフ!」
ユリはそう言いつつも決定打に迷っていた。
相手を無力化する。それに、怪我もさせない。
よく殺すより生かす方が難しいと言うが、その通りだとユリは歯噛みする。
「おいおい、お前こそ、攻め手が緩いぞ!
そんなチビの剣術俺には通用しないってことだ! いい加減あきらめろ!」
ユリが手加減していると言うことに気が付かず、チグサがそう言うとユリは頭に血が上った。
「いいだろう! まず、一回死んでもらおう!」
ユリが本気で軍刀を振り始めた。それほどパワーがなさそうな見た目であるユリの軍刀は、きちんとしたフォームで振りぬかれており、体重がしっかり乗っている。
対して、チグサは上半身と下半身の動きがちぐはぐであり、腕力だけでナイフを振っていた。
ユリがしっかりと動き始めれば、もうチグサは余裕がなくなった。
そして、ユリが最後に軍刀を振り上げた瞬間、チグサのナイフは天井へ突き刺さった。
「うわっ! 何しやがる……」
すでにチグサの首にはユリの軍刀が差し出されていた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ユリが軍刀を思い切り前へ押し込もうとしたとき、ベルが叫んだ。
「そこまで! インストール! あの夏の盆踊り(thatSummerBonDance)!」
ベルの本から再度白い光が広がったかと思うと、その部屋の意識のある人間全員が、二回拍手の手のひらを掲げる、盆踊りを始めてしまった。
「ヨヨイのヨイ!」
「ヨヨイのヨイ!」
ちょうど殺し合いをしていたはずのユリとチグサも、楽しく盆踊りをしてしまう。
だが、ユリもチグサもその表情だけはハイエナのように相手を睨みつけていた。
「はい、これ飲んで」
先んじて盆踊りの呪縛から抜け出したベルが、盆踊りを辞められないチグサの口に睡眠薬をねじ込んだ。
「ぐふぅ……」
チグサは睡魔に少しの間抵抗しつつ盆踊りを続けたが、結局、睡魔に負けてその場に倒れ込んだ。
後に残ったのは、盆踊りを踊りながら恨めしそうにベルを睨みつけるユリだった。
「ユリちゃん。目的忘れたよねぇ?」
「いいえ」
「ユリちゃん、あたしに、嘘、通じるかなぁ?」
ベルがユリの顔をまっすぐに覗き込んだ。
ユリは盆踊りをしているため、ベルから顔を逸らすことができない。
ベルは『記憶』の権能の持ち主。
そして、ユリは洗脳系の権能対策のため、ベルに記憶を解放している。
嘘を付けば嘘をついたと言う記憶がベルに伝わる。
「……いいえ。すみませんでした」
ユリは踊りながら謝った。
「許してあげるよぉ。アンインストール」
ベルはそう言ってユリの体を触る。ユリは盆踊りの呪縛から放たれる。
手に持っていた軍刀を鞘へ納めるとチグサを見る。
「よくもチビって呼んでくれたな……。あ、そうだ。おでこに肉って書いていいかな?」
「いいんじゃないかなぁ」
ベルの許可も出たことだしと、ユリはいそいそとカバンからペンを取り出して、チグサのおでこに肉と書いた。
▼ショウとチグサ
気絶したチグサをユリ達は白い塔のショウの部屋へと連れ込んでいた。
ベルとマツバはチグサに対して厳重にロープを巻き付け縛り付ける。
ユリは一人、ショウへ近づくと言う。
「さて、チグサとの会話をする前に、一つ伝えておくことがある」
相変わらずベッドサイドに座っているショウは信じられないものを見て、目を真ん丸に見開きつつ言う。
「本当に連れてきたんですね……」
「もちろん」
「なんで、おでこに肉って書いてあるんですか……?」
「ああ、あれは私に対してチビって言ったから」
「そ、そうですか……」
「それで、ショウとチグサの会話の間、私たち至天の案内人は一切口出ししない。理由は、あなたの生死の判断に至天の案内人の考えをできる限り影響させないようにするため」
「……そうですか」
「もうこれ以上会話することは無いと判断したら、私たちに声をかけて」
「わかりました」
ショウは頷きつつ緊張した面持ちでチグサを見る。
自分の事をあれだけ悪し様に言っていた人間が、ぐるぐるに縛り上げられ椅子に拘束されている。
ショウはその光景を不思議な気持ちで見ていた。
当時、このような景色を見せてもらっていれば、心のうちに抱えてたモヤモヤが一気に晴れたかもしれないなと、ショウは苦笑いする。
ショウの隣に立ったランがユリに問いかける。
「ユリさん。私はどうしたらいいかしら……?」
ランに対してユリは首を振る。
「ショウの人間関係に私たち至天の案内人は関与しない。
逆に言うと、ランはどんな助言をしようと、話に割り込んでも、チグサをぶん殴っても問題ない」
「わかったわ」
ランもうなずき少し緊張した面持ちでショウとチグサを見ていた。
ユリはそれを準備完了と受け止め、振り返る。
「ベル、マツバ、準備はいい?」
「いいよぉ」
「問題ないっす!」
ベルもマツバもすでに部屋の端で待機していた。二人ともやることは分かっている。
「よし、それじゃあ、起こすよ」




