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第二章-10

チグサの権能により、レコードプレーヤーの音がユリ達の方へ収束する。

それを聞いた途端、ユリはチグサの狙いを見抜き慌てる。


「ベル! あのデカい警備員をお願い! ラン、マツバを解放して!」


ユリは耳栓をすると、まっすぐレコードプレーヤーの方へ走り込む。

だが、チグサが権能をさらに発動させる方が早かった。


「インストール! 音量増加(volumeIncrease)!」


ユリの目の前にあるレコードプレーヤーからとてつもない音の波動がユリへと放たれた。


「うわあああああああ! だよねぇぇぇぇぇぇ!」


ユリは叫びながらもレコードプレーヤーに近づく。

大きすぎる音は耳栓を貫通し、ユリの耳は何も聞こえない状態になってしまった。

加えて音の振動がユリの全身を揺さぶり体を破壊し始める。


「くそっ! 静かにしやがれ!」


ユリは軍刀でレコードプレーヤーを真ん中で叩き切った。

叩き切るときの音すらも大きくなってユリへと襲い掛かった。

あまりの振動にユリは脳を揺らされクラりとする。鼻からは血が垂れ始める。


「隙ありだぞ」


すぐ横に迫っていたチグサがユリの顔面にこぶしをめり込ませた。


「ぐはぁ!」


ユリは壁までまっすぐ飛び、激突しそのまま床へと落ちる。


「おいおい、ここまで襲いに来て、この程度か?」


ユリは軍刀を立て、ゆっくりと立ち上がると言う。


「そんなわけ……ないだろ!」


耳が聞こえていないため妙に大声でユリは言った。

そして、まっすぐにチグサの方へ駆けだすとチグサに対して軍刀を振り下ろす。

チグサはマツバを傷つけるために使っていたナイフでそれを受け止る。

ユリとチグサの攻防が激しさを増す。


一方、マツバの方へ駆け寄っていたベルとランは、マツバの治療をする。

ランがマツバの傷口を包帯で巻いている間ベルは言う。


「マツバ、傷だらけだねぇ」


「そうっすよ……、大変だったんすから、あとで何かご褒美が欲しいっす……」


マツバは両肩と腹に刺し傷をこさえ、しっかり流血していた。

不死の人間とは言え、怪我が治るスピードはそこまで早くない。

痛みをこらえつつマツバはベルの後ろを指さした。


「べ、ベル姐さん! 危ないっす」


ベルはその言葉にすぐに反応し、背中に背負っていた斧を盾のようにして、後ろに構えた。

斧には巨大な拳から繰り出されるパンチがぶつかり、あっさりとベルを後ろへと吹き飛ばしてしまった。


警備員の男は口からこぼれる血を拭いつつ、つぶやいた。


「クソっ、このままじゃ俺はクビになっちまう。お前ら、許さねぇぞ」


警備員がおもむろにこぶしを握り直すと、ランがマツバの警備員の間に立つ。

ランは細身の剣を腰から抜きつつ言う。


「私を倒せるかしら?」


「ラ、ランさん! ダメっすよ!」


マツバは震える声でランを止めようとするが、怪我と緊張のせいでうまく動けなかった。


警備員は馬鹿にしたようにふっと笑う。


「お前など簡単に殺せるに決まっているだろう!」


警備員はランに遠慮なくこぶしを振り下ろした。

ランはぎりぎりでかわすつもりだったが、警備員の拳のスピードは想像以上だった。


「やばっ……」


ランが焦って目を閉じてしまったとき、ドンという音が鳴ったのに拳がランに当たらなかった。


「ちょっとちょっとぉ。あたしを無視しないでよねぇ」


いつの間にか戻ってきていたベルが警備員の拳を斧の平らな部分で受け止めていた。

だが、ベルは頭から血を流しており、警備員の拳の鋭さがうかがえた。


「ほう、一撃では気絶すらしないか。なかなかやるじゃないか」


警備員のお褒めの言葉にベルはニヤッと笑う。


「あんたに褒められてもうれしくないんだよねぇ。やっぱり、ユリちゃんじゃないとぉ」


ベルはそう言いつつ、斧を背負う。

武器を仕舞ってしまったベルを見て警備員は怪訝な表情を浮かべる。


「武器なしでどうやって俺と戦うつもりだ?

言っとくが俺は女に殴られて痛みを感じるほどやわな鍛え方はしてないぜ?」


「あたしの武器はこっちだからぁ。エクスポート! 記憶の本(memoryBook)!」


ベルの左手に年季の入った記憶の本が出現する。


「そんな本で何するつもりだ!」


警備員は遠慮なくベルを殴りつける。

ベルはそれをギリギリでかわしつつ、目的のページを探しあてると言う。


「インストール! 初おねしょの記憶(memoryOfFirstBedwetting)!」


ベルの記憶の本が白く輝いたかと思うと、半球状に広がりベルの近くにいた警備員とランとマツバ、そしてベル本人を巻き込んだ。


「うわっ!」


「ひぇっ!」


「あちゃっ!」


「うおおお!」


順番にマツバ、ラン、ベル、警備員が声を上げた。

彼らの脳裏には初めておねしょをしてしまい、それを保護者に報告しに行った時のベルの記憶が、フラッシュバックのように上映されていた。


ベルが当時感じた恥ずかしさが、その場にいる全員に共有され、身もだえしてしまう。


警備員は顔を赤くしつつ言う。


「なんてものを見せるんだ!」


「隙ありぃ!」


ベルがそう言うと、いつの間にか警備員の懐へ飛び込んでいたベルがそう叫びつつ、警備員の股間を蹴り上げた。


「ふぎゅぁぁぁぁぁぁ!」


警備員は白い泡を拭きながら後ろへひっくり返った。


「ほい、一丁上がりだねぇ」


「はぁぁぁぁぁぁ」


ランがへたりとそこへ座り込んでしまった。

ベルはランが無事であることを確認してほっとしつつユリの方を見る。

ユリの方はまだ戦闘が継続中だった。


ユリはチグサを誘拐しなければならないが、チグサはユリを殺せればそれでいい。

その状況の差が、この拮抗状態を作り出していた。

数回打ち合ってユリはすでにチグサが戦闘の勘が鈍っていることを見抜いていた。

だが、さすがに支部長であり、戦闘の基礎はできているため、それほど弱くはない。


簡単に制圧され、誘拐させてくれそうにはなかった。


「くそっ! なんだお前! ちょこまかと! いい加減、俺に刺されろ!」

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