第二章-9
「どうぞ」
警備員の低い声が部屋に響くと、上下黒で揃えたチグサが部屋に入ってきた。
その手には酒のボトルが握られていた。
チグサは迷うことなく部屋の端に進むと、レコードプレーヤーのゼンマイを巻き、曲をかける。
音楽はとてつもなく大きな音で流れ始めると、チグサはボトルを開け、一口飲み込む。
「ふぅ。やはり、音楽と酒。そして、惨殺。これがいいのだよ」
チグサはそう言うとゆっくりマツバに近づく。
マツバは涙目になりながらすでにポケットの中で破いたカードを触りつつ祈る。
――ユリ姐さんたち、早く来て……! 睡眠薬使っちまったっすよ……!
だが、チグサは残忍な顔をしてマツバに近づくと、いつの間にか手に握っていたナイフを振り上げた。
「まずは、一撃」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
外で待っていたユリはカードが破られたことを感じ取り、ベルとランに目配せする。
「突入するよ。急がないとマツバが切り刻まれちゃう」
ユリの言葉にベルとランは頷いて、かぶっていた外套をその場に起き、バーへ入る。
入り口の警備員はユリ達の事を記憶しているため、特に止められることなく、バーの中へ入る。
「こっちだよぉ」
ベルがユリ達に小さく手招きし、バーのバックヤードへと案内する。
ところがバックヤードの階段を降りようとしたとき、ちょうど店員が出てきてしまう。
「あら、お客様。ここから先はVIPルームです。ご注文いただかないと入れません」
即座にベルが前に出て言う。
「あらぁ、そうだったのぉ? じゃあ、お手洗いがどこにあるか教えてぇ?」
ベルの質問に店員がトイレの方向へ顔を向け答えようとした時、ユリが店員の死角へ入り込んだ。
「ごめん」
ユリはそうつぶやくと店員の腹を思い切り殴りつけた。
店員はぐふっと小さな悲鳴を漏らしつつ、気絶した。
「ラン、そっち持って」
「わ、わかったわ」
ユリとランは店員をそのまま引きずって地下へと降りる。
「最後にカードを感じたのはもっと下だった……」
「一番下の部屋かもねぇ。
多分VIP専用だろうし、そんなところへ行けるってことはチグサは相当ここへ通ってるねぇ」
ユリ達は急いで階段を降りきった。
扉は防音になっていそうなほど重厚ものだったが、それでも中からクラシックの音楽が漏れ聞こえてくる。
ユリはベルとランの顔を確認する。二人とも準備はばっちりと言ったようだった。
「チグサを誘拐する事。できる限り怪我させずに。わかってるよね?」
ベルとランは頷いた。
「よし、……入ってすぐ、一撃入れよう」
ユリはそう言うとLBMT(左腕のデバイス)の始動語ファイルを手のひらへ移す。
「インストール、棒生成(barGeneration)」
リは手のひらに緑色の光が集まるのを確認する。
これで、あとはこの手のひらを何か平面につけると、権能が発動する。
ユリは一呼吸入れると、扉に手をかけた。
「そこまでだ! おとなしくしてもらおうか!」
ユリが部屋に突入した途端、目の前にいたのは筋肉隆々の警備員だった。
警備員は低い声でユリ達に言う。
「何者だ! 今ここは使用中だぞ!」
男は自分の体で奥の様子を見せないようにしているらしかった。
だが、奥からマツバの声が響く。
「うおおおおおおおお! ユリ姐さん! 早く助けて!」
「マツバはまだ無事みたいね! そこをどいてもらおう!」
ユリはそう言うと、光の集まった左の手のひらを床につけた。
同時に床から数本の棒状の木が発生し、警備員を吹き飛ばした。
「うおおおおおおお!」
警備員は見事に入口とは反対側の壁にめり込んでしまった。
ちょうど警備員の陰に隠れて、逃げようとしていたチグサの真ん前だった。
「おい、チグサ! 逃がさないよ!」
ユリがそう叫ぶと、チグサはバレちゃ仕方ないと開き直る。
「くそっ! あの時のチビ!」
「誰がチビだって⁉」
ユリはキレつつ軍刀を抜く。
「私たちはお前を誘拐しに来たんだ!
大人しくついてくるって言うなら、怪我はさせないし、こんなとこにいたこと黙っててあげるけど、どうする⁉」
チグサはハッと馬鹿にするように笑って言う。
「お前たちこそ、ここから生きて帰れると思うな!」
「死なないんだから、当然、生きて帰るでしょうが!」
ユリのツッコミをチグサは無視する。
チグサはLBMT(左腕のデバイス)に手をかけると言う。
「インストール! 音の指向操作(soundDirectionManipulation)!」




