第二章-7
マツバは背中に滝のような冷や汗をかく。
被害者役が客を選べるわけがない。
チグサと当たりたい一心で、余計な質問をしてしまった。
焦って店員から目を逸らすマツバに店員はああ、わかったという表情を浮かべる。
「解体してほしい人がいるのか?
お前、物好きだな。時々そう言う奴がいるって聞いたことあったが……。
お前、そういう趣味か。誰に解体してほしいんだ?」
どうやら、マツバは相当な変態であると言う烙印を押されたらしかった。
マツバは心の中で少しだけ憤慨しつつ、言う。
「あ、その、店の奥にいた真っ黒の上下の男っす」
「へぇ、異性じゃねぇのか。あいつの解体そんなにいいのか?
ま、なんでもいいが、わかった。その客から注文があったらお前に回してやるよ。
今回の注文は全然違うマダムからだ。あ、もう時間ねぇな。お前でいいや」
店員は正面にいた男を立たせると店のバックヤードへ連れて行った。
彼はこれから幾つにも切り刻まれる運命にあるのだろう。
マツバがホッとため息をついていると、正面の女がマツバに話しかけた。
「あんた、ここじゃ、ほとんど見ない顔だね。ス
ナッフバーの被害者役をやるやつなんて、大体睡眠薬にトチ狂った馬鹿ばかりだけど、あんたはそうじゃないように見える。
おまけに、客を指定するなんて聞いたことないよ」
マツバは女の方を見る。
女は別に興味もないがというように明後日の方を見ながらマツバに語り掛けていた。
「そうっすね……。ちょっと刺激が欲しくなっただけっす」
「フーン。ま、あいつはこの街の偉い人間だからね。媚を売りたくなる気持ちもわかるよ」
マツバはバッと女の方を見る。
女はそんなマツバを見てやっぱりなとニヤニヤする。
マツバは女の誘導尋問に引っかかってしまっていた。
「ああ、やっぱり。あいつに媚を売りに来たんだな?」
「……そんなとこっす。あいつの正体、ここじゃバレてるんすね」
「ふん。あんな怪しいやつの素性、噂にならないわけないじゃないか。
ただ、金払いがいいんで黙認されてんのさ」
「そうなんすね……」
そこへ店員が顔を出す。
「おい、さっきのマダム、もうお替りをご所望だ」
「ワタシが行くよ」
女は手を挙げる。店員は分かったと女をバックヤードへ誘導する。
「うまくいくことを祈ってるよ」
女はマツバに対して最後、そう言い残してバックヤードへと消えていった。
「あざっす……」
女に礼を言いつつも、マツバは徐々に緊張で自分の足がふわふわ浮いているような感覚になる。
マダムが人を殺したような雰囲気など店の中から一切感じなかった。
機密性は抜群の店のようだった。
しばらく黙って部屋で待っていたが、再度店員が顔を出す。
「ったく。あのマダム、早漏すぎる。
すぐにぶっ壊しちまって。
そんなに在庫があるわけじゃないんだぞ」
店員はそう言いつつ、最後まで黙っていた女を連れて行った。
「早すぎるっす……」
このままではマダムにぶち殺されてしまう。
マツバはその殺人狂マダムが次の殺人だけはゆっくり楽しんでくれるように祈った。
だが、マツバの祈りは一切届かなかった。
「次の奴……、すまんな、お前の希望をかなえてやれなくて」
店員は申し訳なさそうに、マツバを立たせる。
「いえ、いいっす」
マツバはそう言いながらも頭をフル回転させて、この状況からチグサに殺されるようにするにはどうしたらいいかを考えていた。
バックヤードのすぐ近くに地下への階段があり、店員はマツバを地下へと案内する。
地下はひんやりと冷たく、所々につるされたアルコールランプが、ほのかに廊下を照らしていた。
扉の一つ一つは鉄でできているらしく、アルコールランプの火を怪しく反射している。
「ここだ。それじゃ、生き返ったら報酬を払うからな」
店員はそう言って、鉄の扉の前にマツバを立たせると、扉をノックした。
「次の人をご用意しました!」
「入っていただいて!」
マツバが中に入ると、そこには浴衣姿の女が立っていた。
朝顔の絵が描かれた浴衣にはあちこち血で染まっており、日本風のホラー映画に出てきそうな風貌だった。
部屋の中はすでに血の匂いで充満しており、あちこちに、このマダムが殺してしまったのであろう人の部品があちこちに転がっていた。
「あ、どうもっす……」
マツバがぺこりと頭を下げた時、店員がマツバの背後で扉を閉めた。
その瞬間だった。
「インストール! 水の鞭(waterWhip)!」




