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第二章-1

▼街を支える男


ユリ達はランに廊下の奥にある部屋へ案内される。

部屋には最低限生活に必要な家具が用意されていた。

質素な椅子と机。明りのため壁にかかったろうそく。

そしてベッド。


ベッドサイドには腰掛ける一人の男がいた。

男はユリ達を一瞬見るだけで、すぐに何もない壁へ視線を戻してしまった。


「彼がショウ。私が至天の案内人コンシェルジュに会わせたかった人よ」


ユリが見たショウの姿は、廃人そのものだった。

もう何も見たくない。

もう何も聞きたくない。

もう何も考えたくない。

自分が感じるものすべてを否定し、自分そのものを全て否定し、もう自分に何も残っていないと思ってしまった人間。

ユリにはショウがそう言う状態であると感じられた。


そして、ユリは直感する。

彼は至天の案内人コンシェルジュの依頼人になる。


ランはじっとしているショウに、ささやきかける。


「……あなたが熱望していた、至天の案内人コンシェルジュを連れてきたよ」


そう言われたショウは一気に顔を上げると、ユリ達の顔を見た。


「……あなたたちが、僕を死なせてくれる人ですか……?」


ユリは自分を指して言う。


「初めましてショウ。

私はユリ、こっちの背の高い女はベル。こ

っちで肘を掻いてる男はマツバ。

私たちが至天の案内人コンシェルジュと呼ばれる活動をしているのは事実だよ」


ユリがそういうと、マツバは肘を掻くのをやめ、ちょっとだけ顎を引き、モデルのような立ち姿になり、すこし不満げに言う。


「ユリ姐さん。俺の紹介、やり直してほしいっす」


マツバの文句をユリは華麗にスルーする。


「ショウ、至天の案内人コンシェルジュはあなたを死なせるのではなく、『死』の選択肢を与えるだけ。最終的に『死』を選ぶかどうかはあなたが決めることになる」


ショウはユリの話などどうでもいいと言うように首を振って言う。


「つまり、僕が死にたいと思っているなら、死なせてくれると言うことですよね……?」


ユリは少し渋い顔をしながら言う。


「……究極的にはそう言うことになる」


ショウは涙を流しユリに縋りつく。

すぐにベルがショウを引きはがそうと動いたが、ユリがそれを制止した。


「なら、僕を今すぐ死なせてください! 僕はもう耐えられない! もうこんな生活は……!」


ユリは頷きつつ、ショウを落ち着かせる。


「ショウが『死』を欲していることは分かった。まずは、ショウの事を教えて」


ユリはそう言うと手近にあった椅子を引っ張ってくるとベッドに座るショウへまっすぐ向き合った。

ユリの後ろにベルとマツバも座り、ランはショウの隣に座った。


「そんなこと聞いて、どうするんですか……?

 僕の事なんて聞いても面白い事なんてないですよ……?」

 

ユリは首を振って否定する。


「面白そうだから聞いているんじゃないよ。

私たちは至天の案内人コンシェルジュとして、あなたが自分自身をどう思っているのか聞かせてほしい。

そして、どうして『死』を望むようになったのか」


ユリの静かな瞳がショウをじっと見つめる。

ショウはそんなユリの視線に耐えきれず、視線を外してしまう。

ョウはしばらくの間、沈黙を貫いた。ユリが、これは何日かかけてショウと仲良くならなければならないかなと感じ始めた時、ショウが意を決して話始めた。


「……僕の名前はショウ。この逆さ街の白い塔で権能を発動し続け、街を支えて五十年になります」


「五十年っすか? ここから、一歩も出てないんすか⁉」


マツバが驚きの声を上げると、ショウは頷いた。


「……はい。

 僕の『重力』の権能を使って街を支えるために、権能を発動しっぱなしにしておく必要があります。

 また、この権能は僕を中心として半径五キロに対し有効です」


ユリはなるほどとうなずいた。


「ちょうどこの街の直径が十キロくらいだから、ショウが大きく動いちゃうと街の一部が落下することになるのか」


「ご理解が早くて助かります。その通りです……。

 だから、僕はこの塔以外の場所に行くことはできません」


「塔? この部屋じゃ無くて?」


ユリの質問にショウはうなずいた。


「……僕の権能は上下について融通が利きますから……」


「……なんで、そんな苦行を買って出たのぉ?」


ベルの質問にユリはちょうど聞いてほしいことを聞いてくれたとうなずいた。


「約束……というより、因果とでも言いましょうか……。

 僕は……こうすべきだからと思って街を支えることに同意しました」


「誰かと何か契約でも結んでいる?」


ユリの質問にショウは首を振って否定した。


「いえ。していません。僕は確かにこうすべきだと思って、街を支えています」


ユリは表情に出さないようにしつつ、心の中で首を傾げた。

どう考えても誰かから依頼されてここに閉じこもっているにもかかわらず、まるで自分の考えかのように語っている。


――この辺の言い分の揺れは、解消しないといけないだろうな。


ユリはそう考えつつ話を進める。


「『死』を欲するようになったのは、どうして?」

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