第一章-10
ようやく塔の中に入ったユリは塔の中心を見ていた。
そこには隙間なく整然と並べられた無数の黒い管がまとめられて塔の頂上(足元)へと延びていた。
ユリは踊り場から少し身を乗り出して下のほうを見る。
どうやら黒い管は塔のてっぺんまで続いているようだった。
「維管束みたい」
「ユリちゃん。植物で例えないでよぉ」
ユリの感想にベルは苦言を呈しつつも、それ以外の感想を持ち得ていなかった。
ランは管を見つつ首を振る。
「この大量の管、何のためにあるのか、私も知らないのよ。
どうやら、この塔が作られた時からこんな感じだったらしいわ」
「へぇ」
ユリは短く沿う返事をすると欄に聞く。
「それで、私たちに会わせたい人っていうのは、この塔の頂上にいるの?」
「いや、塔の中腹ぐらいにある部屋にいるの」
ランがそう言って階段を降り始めたため。
ユリ達も一緒に階段を降りる。
塔の外側と内側で重力の向きが異なるため塔を上るためには階段を下らなければならない。
ユリは妙な気持になりながら階段を下りていく。
階段は踊り場から塔の壁に沿うように設置されており、ところどころ、バイオナノマテリアルに反応して光る弱弱しい明りが、階段を照らしていた。
その光があまりにも赤いため、ユリ達がそこを通過するたびに、何かホラー映画の表紙でも飾れそうな顔になってしまう。
後ろを振り返り、マツバのそんな顔を観察していたユリはつぶやいた。
「……肝試しできそう」
ユリの感想にランは笑う。
「肝試し……懐かしいわ。今となっては、肝試しできるような場所なんて、大体亜獣が巣にしてしまっているからできないものね」
「そうなんすか? 例えば廃校とか、廃病院とか、多そうな気がするっすけど」
ランがなんだこの世間知らずはという顔でユリを見たため、ユリは解説する。
「彼、百年ほどひきこもってたから。
この前、私とベルで行った街で偶然、引きこもりがいるから会ってみてほしいと言われて、会ってみたらこうしてついて来たってわけ」
「なるほど、純粋ってわけね」
ランのセリフにマツバは頭を掻きつつ、嬉しそうにうなずいた。
「あざっす!」
ランは、褒めたつもりではなかったためジトっとした目でマツバを一瞥する。
そんなランにユリは問いかけた。
「ねぇ、なんで、ランはあんな場所に置いて行かれて一人で亜獣と戦ってたの?」
ユリの質問に対し、ランは少しの間黙っていたが答える。
「私、これから、みんなに会ってもらう人を、この街から逃がそうとしたの」
「それが街の禁忌だった?」
ユリの質問にランは頷いた。
「この街は、その人のおかげで安全なのよ。
だから、ここから逃がしたら、この街は亜獣の危険にさらされてしまうの」
「なるほど。みんな、せっかく得た安全が大事なんだね」
ユリは街に入った時から感じていた、ぜいたくな街並み、権力を振りかざす人間を思い出す。
そう言うのは暇になった人間がやることだ。
「だから、街の外に置いて行かれた。
なるほどね。どんな場所でも人間は陰湿だね」
ユリは納得という表情をすると、歩き出した。
妙な雰囲気になってしまったため、ランはしばらくした後、ユリに向き直ると、別の話題を切り出した。
「ユリさんとベルさんはどうやって出会ったの?」
「ん? なんでそんなこと聞くの?」
ユリはそう聞き返した。ランは少し慌てて言う。
「ちょっと気になっただけで、深い意味は無いわ」
そこへマツバも手を挙げて言う。
「あ、俺も気になってたっす!」
「そっか、別に大したことじゃない、私とベルは……」
とユリが続けようとしたとき、ベルが割って入った。
「あたしとユリちゃんの出会いは、そう、本当に劇的だったんだよぉ!」
ベルは塔中に響き渡るかのごとく大きな声で話し出した。
「あたしは高校生の時、誰とも話が合わないから、人と一緒にいるのがつらくてねぇ。
それで、イライラして髪染めて学校さぼったりとか他校の奴と一人で喧嘩したりして楽しんでたのぉ」
ユリは溜息をつきながらも、ベルが紹介してくれるならいいかと、自分とベルの馴れ初めの語り部の地位をベルへ譲ると、自分は補足説明の要員として参加することにした。
「ベルはそこそこ地頭が良かったからね。
頭の回転が速すぎて相手の言葉を理解して、解釈して、発言するころには論理が二周ぐらい回ってたから誰とも話し合わないのは当然だったんだよ」
ベルはへへへと笑うと言う。
「そんなころ、あたしがコンビニでアイス買った時、ちょうど喧嘩吹っ掛けた他校の奴ら五人に囲まれちゃってねぇ。
アイス守ろうと思って相手の拳受け損ねちゃって、顎に一発もらっちゃってふらっとしてしまってねぇ。
そしたら、もう猛攻だったのぉ。顔も体もぐちゃぐちゃになるほど蹴られちゃってねぇ」
ベルははははと笑っているが、マツバはガクガク震えている。
「べ、ベル姐さん、ヤンキーだったんすか……?」




