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便器かよ



 気がついたら、俺は掃き溜めにいた。


 暗い、暑い、そして、とてつもなく臭い。


 手足が動かせない。


 喋ることもできない。


 痛みがないのは、不幸中の幸いだろう。


 なんでこんなことになってんだ?


 確か、テスト中なのに学校のトイレに駆け込んで、その後、、、


 どうなったっけ?


 いや、思い出せ。


 洋式トイレが閉まっていて、消去法で和式トイレに入った。


 駆け込んだ後、足を滑らせて、そのまま顔面から、


 便器にダイブした。


 

 

 ……………………俺、死んだのか。


 骨の折れる鈍い音がしたような気がするし、間違いない。


 そうでなければ、手足も動かせず、考えることしかできない説明がつかない。


 動揺してるはずなのに、頭は酷く冷静だった。

 


 まだ、俺は何もしてない。


 親孝行だってしてないし、まともな恋愛だってしてない。


 未練しか残らないまま、死んでいくのか。


 あぁ、なんか泣けてきた。


 ズルズルと鼻をすすることはできるらしい。


 そんな断続的な音は聞こえる。


 だが、妙なことに、その音が近づいているような感じがする。


 なんだ?誰かがくる?


 すると、木の擦れる音を立てて、目の前から光が差し込んだ。


 木でできた古びたドアが開き、目の前には両目に涙を溜めて、鼻水をすする子供がいた。


「なんで、誰も分かってくれないの……」


 声の高さと背丈からして、少女のようだ。

 

「トト様、カカ様、、、助けて」


 ボサボサの白い髪にが印象的で、服は泥まみれで小汚い。

 

 少女は涙を流した。


 俺の前に来るまで、ずっと溜め込んでいたのだろう。


 少女から溢れた涙が、俺の身体に落ちる。


 温かくも冷たくもない。


 そんな一縷(いちる)の涙が、俺に命を与えた。

 

 【魔女の涙を入手したことで、レベルが上がりました】


 レベル?何のことだ?


「私、一人だよ。一人ぼっちにしないって言ったのに…あんまりだよ。これでもまだ生きろっていうの?」


 少女は嗚咽混じりの声で呟く。


 (君は誰だ?)


「え?誰かいるの?」


 (誰かってここにいるだろ。目の前に)


「なに!?本当に……声が聞こえ、いや、頭に直接流れ込んできてる?」


 (からかってるのか?いるだろ、今、目が合ってる)


「もしかして、トイレの神様?」


 ん?トイレ?


 今トイレって言ったか?


「それとも、ゴーストなの?」


 【レベルアップにより、クソボロなトイレ1がクソボロなレトイレ2に上がりました】


 なんか頭の中に流れ込んでくる。


 魔女の涙は、この子のことだろう。


 クソボロなトイレ、、、、、、


 俺はこの時、初めて自分を自覚した。


 目の前のハエ、喉元には謎の違和感があり、胃がムカムカする。


 俺はトイレの中にいることは分かった。


 いや、これはもしかして………………


 嫌な予感が脳裏によぎる。


 (いや、ゴーストではないぞ。君のことは下から見えるしな)


「下から見てるの?変態なゴーストさん」


 (俺は断じて変態ではない)


「幻聴まで聞こえるなんて、私もうダメかな。早く済ませて掃除の続きしないと…」


 少女には覇気なく、諦めるように呟くと、下半身の衣類に手をかけた。


 (ちょ!!まっ!!!見えてるから!)


「見えてるって、可笑しいね。私のこと、周りの村の人たちは見えてないフリをよくするのに」


 少女の声音は変わらず元気がないく、暗くて分かりにくいが、少女は俺に近づくと、屈んで局部を露わにしているようだ。


 (まてまてまて!早まるな!)


「早まりたくもなるよ。後何百年、こんなことやり続けるのかな」


 瞬間、近づいてきた少女の顔だけは、はっきりと見えた。


 白い髪と対照的な紅色の瞳。


 頬には汚れが目立つが、吸い込まれそうな魅力が子供ながらにしてある。


 明らかに日本人ではないし、外国人でもそうはいない。


 そんなことより、


 (ストップ!ストーーーップ!今出そうとしてるの一旦やめよう!)


 俺の予想では、きっとあれだ。


 お花を摘みに来たのだろう。


 アナウンスはトイレと言った。たぶん、俺のこと。


 ……マジで幼女に尿をぶっかけられるってこと?


「え?我慢できないよ」


 (そこをなんとか!)


「もう、無理……!」


 その瞬間は否応なく訪れた。


 少女から排出された生温かい液体が、頭からかかる。


 いや、正確には喉のような気がする。


 その辺の感覚は曖昧だが、そんなことはどうでもいい。


 数秒、人としての尊厳を潰された感覚になるのは言うまでもない。


 なぜ目が覚めたら田舎っぽい便器になっていて、訳も分からず羞恥の極みのようなプレイをさせられているのか。


 控えめに言って、絶望……

 





 だった。






 

 そう……………………だったのだ。


 なぜ過去形かって?


 自然と喜んでいる自分の側面に気づいたからだ。


 不思議な気持ちだ。


 俺ってこんな変態だったっけ?


 新しい性癖に目覚めるというのは、こういう感覚なのだろう。


 身体が元から求めていたかのよう。


 これはきっと天賦の才だ。


 目の前の幼女に、排尿をぶっかけられて、こんなにも高揚している自分がいて、その勢いが弱まってしまうのを名残惜しくさえ感じているのだから。

 


 あぁ、俺は、、




 


 本当に今、トイレなんだ。



 


【魔女の聖水を獲得、レベルが上がりました】

 

 魔女の聖水は、案外美味かった(経験値として)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 変態な部分はあるけど内容としてはとても面白かった! [気になる点] なんでトイレに駆け込んで便器になったら女子トイレだったのかとか知りなたい!あと次はどんな人が来るのかが楽しみだね [一言…
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