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5品目─ギルド併設食堂『またたび亭』

「お待たせしましたー! 冒険者セットでーす!」


 私、新米冒険者ミチの前に食事セットが置かれる。

 一人用のテーブルに所狭しと皿が乗っていた。


「はわぁ~!」


 思わず奇声を上げてしまった。

 だって、ダンジョンでは食べられないものばかりだから。


「これ、一杯はおまけね」

「ありがとうトルトちゃん!」

「いーってことよ。ミチはよく食べるからね。それぐらいおまけしたって元は十分取れるもの」

「うっ……」

「あはは! じゃ、おかわりお待ちしておりまーす」


 痛いところを突かれた私を置いて、食堂の看板娘トルトは次の客のところへ早足で向かう。


「事実なんだけどさ」


 私は今、所属している冒険者ギルド併設の食堂「またたび亭」に来ている。

 いつもダンジョンばかりなので、たまにこうしてサバイバルから解放されたくなるのだ。


 それにここ、またたび亭のご飯は他に比べて美味しい。

 下手な定食屋に行くぐらいなら、ここへ来たほうが安上がりだし、量も多いし、良いことづくめなのだ。

 さらには猫に似た顔立ちの可愛い店員トルトも人気の秘密だ。

 しかも男女問わず人気なので、店は連日満員だった。


「さて、それじゃさっそく……いただきまーす」


 私は先割れスプーンを取って食事に取り掛かる。

 まずはコーンスープだ。甘くて優しい味わい。奥に少しだけ塩味を感じるが、それがスープを啜る手を止めさせない工夫だろう。

 シンプルだけど、真似が難しい逸品だった。


 続いてサラダ。

 これは葉野菜とシンプルトマト、オニオンの普通のサラダだ。

 しかしダンジョンでは野菜は重いしすぐダメになるしで持っていけない。塩漬けならまだしもサラダなんて食べられるはずもない。

 だからこそ、ダンジョンから出てきたらサラダを食べる。


 さらに言えばまたたび亭特製のドレッシングが美味しいのだ。

 酸っぱ辛いドレッシングは、野菜嫌いの冒険者でもモリモリ食べられると評判だ。

 角切りされたベーコンも美味しい。

 安価な肉だろうが、それを感じさせない美味さがある。


 そして柔らかくて甘いパンを一口食べたあと、私はナイフを取る。

 いよいよメインディッシュだ。

 冒険者セットと言えばこれ。


 『ミノタウロスのステーキ』だ。


「あー、ダメだ。よ、よだれが……」


 先に色々入れたのに、お腹がもう我慢できずに鳴る。

 わかってるよ。私だって早くそこに入れたいんだ。

 ギコギコとナイフを入れて肉を切ると、これまたまたたび亭特製のタレに漬ける。

 私はタレで輝く一切れを、一口で頬張った。


「ん~!」


 噛み応えのある肉と、口の中に一気に広がる脂の旨味。

 多少熱いが、この美味しさを味わうアクセントだ。

 噛むほどに濃厚な肉の味が広がって、私はテーブルの下で足をジタバタさせる。

 お、美味しすぎる。

 今まで食べたお肉の中で一番美味しい。


 ちなみに毎回思っているような気がするけど気にしたら負けだ。


「はー……」


 肉をしっかり噛んで飲み込み、感動の息を漏らす。

 そのまま奢りの一杯目である果実酒を取り、グッと喉に流し込む。


「ぷはー! たまらないっ!」


 小さな樽型のジョッキを置いて、私は再びステーキに挑む。

 今度は添え付けのポテトにキャロット、スイートコーンなどを絡めながら、頬張っていく。

 時々パンを挟みながら、果実酒で流し込んでいく。


「おかわり!」

「はーい!」


 我慢してやろうと思ったときもあった。

 うん、あったんだよ。

 でもね、ダメだった。

 お腹は正直だったよ。

 こんなに美味しいご飯、一食で足りるわけないんだよ!


「はい、おかわり冒険者セットドーン!」

「うわ、速い!」


 私が驚くと、トルトちゃんがニヤッと笑って親指を立てる。

 奥では料理担当であるマスターも親指をグッと立てていた。


 この人たち、できる……!


「はい、二杯目ね~」

「わーありがとうー!」


 果実酒も無事二杯目に突入。


「そういえばさーミチ」

「ん? なに?」

「冒険者セットAとは言わないけど、Cぐらいは頼まないの?」

「ぶーッ!」


 せっかくの美味しい果実酒が減った。

 ごめんごめん、と言いながらトルトちゃんが少しだけ足してくれる。


「私、まだ新米だから無理だよ。収入だって少ないし」

「そっかー。じゃあ、楽しみにしてるね。ミチがCセット頼む日を。あ、ちなみにCはあれね」


 悪い顔をしながらトルトちゃんが遠くのテーブルを指さす。

 そこにはCランク冒険者たちが卓を囲んでいた。


「うっ、眩しい!」


 またたび亭の冒険者セットは安くて美味い。

 しかしランクがあり、下は今ミチが食べているFセット。

 そして最上位はAセットだ。

 値段もランクに応じて上がり、中間のCでさえ、ミチの稼ぎでは届かない。生活費がすべて吹っ飛ぶ。


 FランクとCランクの内容はほぼ変わらない。

 けれど、肉の種類は選べるし、サラダにしても、果実酒にしてもすべてが上質なのだ。

 心なしか輝いて見える。いつか、いつかあれを食べてみたい。

 というかCに限らずAセットも食べれるようになりたい。


「いつか、必ず食べにくるよ!」


 私が宣言すると、トルトちゃんは胸にお盆を抱えて右頬だけを持ち上げる。


「その前に引退しちゃダメだよ。あ、あと私が店員引退する前にはよろしくね」

「そ、そんな遠い話じゃないから!」

「おっけ、楽しみにしてる。じゃ、おかわりお待ちしてまーす」


 トルトちゃんが去っていく。

 私は苦笑いを浮かべつつ、それでも感謝してステーキやサラダに手をつけていく。

 トルトちゃんなりの激励なのだ。

 冒険者は過酷だ。張り詰めてばかりいるから、息抜きが上手にできないと死んでしまうことも多々ある。


 それに周りはライバルだらけ。

 仲間がいればいいが、ミチみたいなソロは心も折れやすい。


 人は、やり残したこと、守るものがあると生存率が上がるという。

 だからトルトちゃんは、私みたいなソロの冒険者にやり残したこと、という名の帰る場所を作ってくれているのだ。


 だからまたたび亭にはソロの常連も多い。

 全員、この食堂でご飯を食べるために、生きて帰ってくるのだ。

 私はトルトちゃんに心の中で感謝しながら、おかわりしたセットを食べ終える。


「お……」


 今一度おかわりする前に、メニューを開いてCセットの値段をチラ見する。


 ……やっぱり無理だ。

 一時の欲望でダンジョンに潜るお金に手を出すのはまずい。


「おかわり!」

「はい、冒険者セットお待ち!」

「やっぱり早い!」


 私は結局いつものセットをおかわりすることにした。

 またもや二人が親指を立てたので、私も立てる。


 そして三度目のいただきます。

 三度、皿が空になるころ、ようやく私のお腹は満足げに膨らむのだった。


「ごちそうさまでした」


 私はお腹をさすりながら、テーブルでお金を払う。


「はい、毎度あり。今日はこのあとどうするの?」


「さすがに帰って寝るよ。こんなお腹じゃダンジョンに潜れない」


 私はトルトちゃんに膨らんだお腹を見せる。

 トルトちゃんは苦笑し、お金をエプロンのポケットにしまった。


「それもそうだ。じゃあまたね、ミチ」

「うん、ありがとう。マスターもごちそうさまでした!」


 私は喧騒に負けないように大声で言う。

 マスターはこちらを一瞥し、また親指を立てて調理に戻る。


 私はトルトちゃんに手を振り、ギルドの冒険者用宿舎へ帰る。


「ふー、食べた食べた。明日からまた、頑張るぞー」


 お腹をさすりながら、一人ごちる。


 明日はどこのダンジョンへ向かおうか。

 英気を養った私は、新たな冒険にワクワクしながら帰路につくのだった。


ー・ー・ー・ー 今日の食事 ー・ー・ー・ー


・またたび亭冒険者セット(F)×3

・果実酒×2(奢り×1)


完食、ありがとうございました。

美味しかった、面白かったと思われたらいいね、高評価などよろしくお願いします。

ではまたのご来店お待ちしております。

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