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23品目 ホーンラビット大量発生!

「……うわー、こりゃすごいね」


 ミチが呟き、マリュとエルも頷いた。

 森林型ダンジョン『ダースウッド』。


 緑の木々が生い茂るこの場所には今、ウサギ型モンスター『ホーンラビット』が大量発生していた。


 体長は60~80センチ。

 雌雄関係なく額には長さ20センチほどの鋭い角が生えており、強靭な後ろ脚での突進で突かれたら、軽防具ぐらいなら貫く可能性もある。


 ホーンラビットは年に4回の発情期がある。

 繁殖力自体は穏やかなものだが、それは群れ同士が結合しない場合だ。


 二つないし三つの群れが合流したとき、ホーンラビットの繁殖力は爆発的なものになる。

 本来は縄張り意識の強い魔物だが、発情期だけはそれが緩くなるのだ。

 そして運悪く、今回その群れが二つ合流してしまった。


 さらにまずいことに群体のホーンラビットは好戦的だ。

 草食獣ではあるのだが、今回のように群れになると、人間はもちろん他の野生動物にも危害を加える。


 このままでは街への被害も当然として、ダースウッドの生態系及び資源確保が困難になる可能性が高い。


 ミチたちはそんな未来を食い止めるべく、依頼を受けてこのダンジョンへやってきたのだった。


「ぜんぶで……100匹、ぐらいですかね」


 エルが双眼鏡を覗きながら言う。

 ホーンラビットの合流が確認されてから5日。

 最初は60匹ほどだったらしいが、着々と増えている。 

 これがさらに倍々になっていくというのだから、恐ろしい。


 とはいえ、依頼自体の難易度は高くない。

 なのでDランク目前のEランクであるミチたちも受けることができたのだ。


「オッケー。じゃあ固まってる奴らは作戦通りでいいかな、マリュ」

「うん。それで。抜け出すヤツは各個撃破かな。油断しないようにね」


 ミチとマリュが拳を軽く合わせたあと、エルのアイテムバッグから大きな網を取り出す。

 四角い大型の網で、四方におもりが付けられている。

 畳まれた網の両端を左右に広がったミチとマリュが持ち、ホーンラビットの群れに慎重に近づいていく。

 そして──。


「うりゃあああ!」


 ミチの掛け声で網が投げられ空中で展開する。


「キィッ!?」


 錘とともに網が群れの最後尾まで飛び、ホーンラビットを一網打尽にする。


「キィッ!!」「キィキィッ!?」「キイィッ!」


 甲高い声で捕らえられたホーンラビットたちが鳴く。

 抜け出そうにも角や脚が引っかかり、身動きが取れない。


「ギィイッ!」


 しかし当然抜け出した、もしくは網から逃れたものもいる。

 全部で20匹ほど。


 ミチとマリュは素早く武具を展開して、威嚇してくるホーンラビットたちに備えた。


 ミチはラウンドシールドとショートソード、マリュはショートソード二本の二刀流で構える。


「ミチ、不細工に殺しちゃダメだよ。毛皮はいい買い取り額になるからね」

「わかってる。マリュこそ、楽しくなって切り刻みすぎないようにね」

「お二人とも、頑張ってくださいっす!」


 後ろから応援するエルに二人は笑みを向け、それから突進してきたホーンラビットと戦闘を開始した。


「ギィイッ!!」

「ウリャッ!」


 額の角を真っすぐ突きつけて飛び込んできたホーンラビットを、ミチは冷静に盾で受け流すように受けた。

 さらにがら空きになったホーンラビットの首を目がけてショートソードの切っ先を突き刺す。


「ギィッ?!」


 70センチの体長を持つホーンラビットを一撃で倒す。


「ハッ! ハァッ!」

「ギッ?!」「ギギィッ!?」


 マリュのほうは二匹の小柄なホーンラビットを的確に捉え、まずは角を切り落とすと、戸惑う二匹の首をスパンと落とす。


 休日に冒険者用の鍛錬場でロングソード以外の武器を鍛えていただけあって、動きに淀みがなかった。


「かかってこーい!」

「そりゃ、そりゃ、そりゃあああ!」


 ミチの掛け声に合わせ、マリュが特攻する。

 ホーンラビットはすばしっこいが、逃げるのではなくこちらに向かってくるのであれば、二人にとって難敵ではなかった。


「ギィイイッ!?」


 瞬く間に、網にかからなかったホーンラビットが討伐されていく。

 ミチとマリュにはわずかなかすり傷しかない。


「……す、すごいっす」


 二人の戦いぶりを見て、エルが呟く。

 新米で金がないから、エルのような半端な解体士でもいい。というのが最初の出会いだったはずだ。


 けれども二人はあっという間にここまでの強さを手に入れていた。


 ホーンラビットは確かに強いわけではないが、それは単体での話だ。

 どんな魔物だって群れになれば強い。


 そんな群れを相手に、二人は余裕さえ見せて戦っている。


「わっ、と……!」


 戦いっぷりに見とれていると、首を落とされたホーンラビットが勢いあまってエルのところまで飛んでくる。


 まだ離れた頭と胴体がピクピク動いている。

 鮮血が草土に流れて浸みていく。


「…………」


 エルは一瞬だけ躊躇い、それからホーンラビットを拾って、そばに置いた。


 まだ、生き物が殺されていく様、死んでいく様、命が失われていく光景は怖いと思う。

 二人の依頼に同行させてもらいながらも、未だに慣れることはできていない。


「いつっ……!?」

「ミチ!?」

「大丈夫! 前、来るよ!」

「うん!」


 声にハッとして顔を上げると、ミチが二の腕を薄く裂かれていた。血がにじむ程度だ。

 ミチは攻撃してきたホーンラビットの首をすぐさま落とし、続けざまに突進してきたホーンラビットの角を盾で殴って折る。


「良かった……」


 ホッとしたエルは、しかし拳を強く握った。

 二人は優しいから、そんなことはないと言ってくれるが、依頼に同行する解体士として、やはりエルは半端者だった。


 アタシも、モンスターと戦えたら。


 守ってもらう人間が一人増えると、戦う人間の負担が増える。

 それは当然のことだった。


 解体士としての腕は上がっている。

 師匠にも褒められた。同行させてくれる冒険者に感謝しろと言われた。


 そんなのは当然だ。

 きっとミチやマリュが思っているよりも、エルは二人に感謝している。

 それはなんだか、解体士としての気持ちを超えている気がする。


 アタシは、二人と“仲間”になりたいと思ってるのだろうか?


 エルの頭に疑問符が浮かぶ。

 最初はそれこそ、自分みたいな半端者を連れて行ってくれる冒険者として感謝していた。

 けれど今は、二人の仲間になった気持ちで、感謝している。


 エルはあくまでも、同行解体士だ。

 正式なパーティーメンバーではない。


 目の前で戦う二人の背中を見つめる。

 いつか、二人が上のランクに行ったら、契約は終わりになるだろう。

 当然のことだ。


 けれど、と思う。

 この二人と別の解体士が冒険しているところを見るのは、正直寂しいと思うのだ。


(アタシはやっぱり、二人と一緒に……)


「ギィイイッ!」

「ハッ……」


 気づくと、目の前にホーンラビットがいた。

 敵意をむき出しにして、額の角をグッと地面に向けている。


 ここから飛び上がって、真っすぐ角を刺すつもりだ。

 とっさに、スキナーナイフを握っていた。


「ギィイイッ!」

「くぅっ!」


 飛び掛かってきたホーンラビットに、エルはがむしゃらにスキナーナイフを振るう。

 角と刃先が当たって、ホーンラビットが地面を転がる。

 当たり所が悪かったのか、ホーンラビットはすぐ立ち上がらず、その場でふっ、ふっ、と荒く呼吸をしていた。


 横っ腹がむき出しだ。

 今ならナイフで刺せば簡単に討伐できる。


 だが、エルの手は震え、ナイフを振り上げることすらできない。

 二人と一緒に冒険をして、ゴールドドラゴンを倒すなら、これぐらいできなくてどうする。


 そう思っても、手を動かすことができない。


「エルちゃん無事?!」

「あ……」


 すると、他のホーンラビットを倒したミチが飛び込んでくる。

 そして容赦なく、躊躇いなくホーンラビットを突き刺した。

 一度、二度、ビクッと痙攣したホーンラビットは、あっけなく命を失った。


「大丈夫だった?」

「は、はいっす。ありがとうございます、ミチさん」

「うん! じゃああとは網にかかったやつだけだから、エルちゃんは解体の準備よろしく!」

「了解っす!」


 エルは去っていくミチの背中を見つめ、それから自分の手を眺めた。

 まだ少しだけ、震えていた。


 自らの情けなさに嫌気が差しながらも、ミチが討伐してくれたことにホッとしてもいる。

 そんな己の弱さに、エルは一人でそっと、歯噛みするのだった。

エルちゃん……。

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