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18品目 ジャングル型ダンジョン

「……あつー」


 ミチは顎まで滴る汗を腕で拭って、水筒の水を飲んだ。

 ジャングル型ダンジョン『デレ・セレージオ』。

 木々が生い茂る世界は、平原や普通の森林とは違う蒸し暑さに覆われていた。

 湿気がまとわりつき、午後を回ってもまだ暑い。


「ふー……これはけっこう大変な依頼だ」

「き、きついっすー」


 後ろにはマリュとエルもついてきている。

 今回、ミチたちが依頼を受けたのは、このジャングル型ダンジョンの近くに集落の村長むらおさからだ。

 曰く──。


『助けてくれ。我々の主食であるバーナの実とディオディオの葉を取りに行こうとしたら、いつの間にかゴブリンたちが巣を作って、ジャングルがダンジョン化していた。このままじゃワシら男衆は当然、女子どもが先に飢えて死んじまう。奴らを追い出して主食を取り戻してほしい。どうか頼むよ』


 ということで、最近順調に力をつけているミチたちに依頼が回ってきたというわけだ。

 しかし、実際は押し付けられたといっていいかもしれない。

 ジャングル型ダンジョンは3人とも初めてで、その過酷さを舐めていた。

 とにかく暑いし虫も多い。

 虫は魔術師組合特製の虫よけ軟膏が効きまくるから良いが、蒸し暑さだけはどうにもならない。

 冷却魔法をかけたローブもあったが、ギルドから貸し出すほど安価なものではないし、そうなると当然自分たちで買うという選択肢はなくなる。


 そんなわけでミチたちは今、ジャングルの暑さに文句を言いながら、ゴブリンの巣が発見された場所まで向かっているのだった。


「……ゴブリンかぁ」

「嫌な思い出でもあるの?」


 ミチの呟きにマリュがすぐ反応する。

 しかしミチは首を緩く振って、目の前の草を山刀で切り拓く。


「あいつら食べられないからテンション上がらないなと思って」

「あー……」


 納得したようなしてないような声で返事をしたマリュも、ミチが逃した鬱蒼と生える熱帯の植物を切って道を切り拓いていく。

 エルは一番後方で大半の荷物持ちをしている。

 なのでエルに負担が行かないように、ミチとマリュで出来る限り道を整地しているのだった。


「でも最近バーナの実が出回らないと思ったら、あいつらのせいだったとはね」

「そんなに頻繁に食べるものじゃないっすけど、無いとなると、なぜ食べたくなるんすよね」

「そうそう。まさにそれなのよ」


 エルの相槌にミチが苦笑いする。


「だからゴブリンはそこまでテンション上がらないけど、本場のバーナの実料理が食べれるかもしれないチャンスだからね。頑張らないと」

「ミチはそっちの目的が本命だもんね」

「当然でしょ」

「アタシも食べてみたいっす」

「うんうん。さっさとゴブリン倒して、現地料理食べさせてもらいましょ」


 そんな会話をしながら歩いていると、ようやく現地民が赤い粉で印をつけた大木が見えた。

 そしてその根元に二十匹以上のゴブリンも確認。

 木と葉だけで作った簡易的な住処は、セーフエリアがないときに中級からベテラン冒険者たちが作るテントに似ていた。ゴブリンたちのほうが歪な形だったが。


「ゴブリンの巣を発見。あー……食べてるね」

「うわ、ホントだ。いっぱいいるし」


 ゴブリンたちはバーナの実をぐちゃぐちゃにして食べており、同じくジャングルで取れる甘味の素であるカックオの実も棍棒で叩き潰して実を貪っていた。

 暗い緑色の肌をした子どもサイズの魔物たちは、バーナやカックオを食べ散らかし、さらにはオルラクと呼ばれる鹿の頭を潰して引きずってくる。これから食べるつもりのようだ。

 魔物の出現は生態系を壊す。

 食べられる魔物ならマシだが、ゴブリンのように食べられない魔物でかつ、人間に積極的な敵対行動を起こす魔物は討伐しなければならない。


「よし、行こうかマリュ」

「おっけー」


 ミチがショートソードを抜き、ラウンドシールドを構える。

 マリュも武器を抜き放つ。今回はロングソードではなく、ジャングルでも取り扱いやすいショートソードの二刀流だった。


「エルちゃんはここで待ってて」

「了解っす!」


 エルは応えると、その場にリュックを置いてガサゴソと中を漁り始めた。

 それを見終える間もなく、ミチとマリュがサッと大木の陰から飛び出す。


「ギッ!?」


 近くのゴブリンが気づいたが、ミチの一閃で首が飛んだ。


「ギギャッ!?」

「ギャーッ!」


 さらにマリュの攻撃でゴブリンが二匹沈む。


「ギャーッ!」

「ギギ―ッ!?」


 楽しい食事の最中に突然の襲撃で、ゴブリンの巣はパニックに陥った。

 棍棒を持って向かってくるゴブリンもいたが、単独相手に後れを取ったりはしない。


「りゃっ!」

「はぁっ!」


 ミチとマリュが冷静に、確実にゴブリンを倒していく。


「ギギャー!」

「あ、待て!」


 十匹ほど倒すと、ゴブリンたちが方々に逃げようとする。


「あ、待て!」


 一匹倒している間に逃げ出すゴブリンを追いかけ、ミチが走る。

 すると。


「ギャギャッ!?」

「ギャベバッ!?」


 ゴブリンたちが急に転んだ。

 その足元を見ると、簡易式小型トラバサミに“噛まれて”いた。


「ミチさん、今っす!」


 横からエルの声が聞こえ、ミチはその魔術師組合製の罠を誰が仕掛けたのか理解した。


「オッケー! いっくぞー!」


 ミチは転んでいないゴブリンから片付け、まだトラバサミを外せず四苦八苦しているゴブリンを斬り捨てた。


「ギャー!」

「ゲギャー!」


 ゴブリンたちの断末魔はミチたちの背後からも聞こえた。

 マリュが見事に全員を叩き切ったのだ。


「見える限りのゴブリンは終わったよ~」

「お疲れー」


 マリュが戻ってきて、ミチは倒れたゴブリンを数える。

 全部で二十一匹。これで全部のはずだ。

 しかし、ダンジョン化は解けない。


「……逃がしてないよね?」

「見た限りはね。もしかしたら、ゴブリン以外もいるかも」

「うわー、そっちかー。まあ、解けてないなら、いないと考えるほうが無茶か」


 該当の魔物を倒した場合でもダンジョン化が沈静化されないことがある。

 それはすなわち、他にダンジョン化を維持する魔物がいることを表していた。


「……とはいえ、すぐ動けないよね」


 ミチが聞くのと同時、三人のお腹が「ぐぅ~」といつものように鳴いた。


「とりあえず今日はここで、ご飯にしますか」

「さんせーい」

「アタシも賛成っす!」


 ということで、ミチたちは場所の確保に動いた。

 ゴブリンたちは大樹の下に置いておく。こうするとダンジョン化した土地が魔物を“喰う”のだ。

 セーフエリアがないので、ゴブリンたちが使っていた“巣”を手直しして使わせてもらう。

 基本的には木と葉っぱなので、軽く掃除して木の骨組みを整えれば使い物になるのだ。

 あとは料理用に焚火を作れば簡易的なセーフエリアにすることができる、はず。


「よし、とにかく手分けしてご飯の準備にとりかかるぞー」

「「おー!」」


 ということで、ジャングルでの初めての食事作りが始まるのだった。


ー・ー・ー・ー 今日の食材 ー・ー・ー・ー


・水

・行動食(乾燥パン3つ)

(おなかすいた……)

読んでいただきありがとうございます!

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ではまた明日の料理&食事編で。

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