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1品目‐スライムモチ

毎週更新を目指して書いていきますので、よろしくお願いします。

 きゅるるるる~……。


 マトマの街にあるダンジョン『ライラックの迷宮』一階層。

 そこで私、新米冒険者ミチのお腹が盛大に鳴った。


「おなか……空いた……」


 朝、ダンジョンに入ってから6時間。

 まだ食事をとっていない。


 ダンジョンは広大だ。

 一階層だからといってバカにはできない。

 探索に慣れたはずの冒険者の迷子が毎日発生している。


 そんな中を歩き回っているので、当然お腹も減るわけで……。

 私はひとまずセーフエリアを探すことにした。


 セーフエリアとはダンジョン内でありながら不可視の結界で守られている場所だ。大きさはまちまちで、個室みたいなところもあれば6人パーティーが5組入ってもまだ余裕、みたいな大部屋もある。


「あったあった……ふー……」


 今回見つけたのはソロの冒険者専用、といった具合の手狭な空間だった。

 警戒する場所が入り口一つなのはありがたい。


 先客がいないことを確認してから、四角く切られた石の上に座る。

 手先の器用な冒険者が作ってくれたか、それともダンジョン自体にもともと備え付けられているものなのか私にはわからない。

 まあ、どっちだっていい。

 これでようやくご飯が食べられる。


「えっと……どこしまったっけ」


 床に下ろした斜めがけカバンを探る。

 カバンは魔法で異空間につながっているアイテムボックスだが、誰でも手に入れられる安価なモノだ。

 その分容量が少ないので、入れる品は厳選しなければならない。


「よっと……」


 私は吟味して持ち込んだ火打石とナイフに水、それから小型の鍋と木のスプーンを取り出した。

 前にここへ来た冒険者が使っただろう、石を並べて作った簡易コンロの上に鍋を置く。

 その下に魔術師組合が生産する固形の燃料キューブを設置した。


「水と、あとコンソメがいいかな。それからフリーズドライの野菜も忘れずに」


 水を鍋に半分ほど注ぎ、これまた魔術師組合産のキューブ型コンソメとフリーズドライの野菜を投入する。


 良いものは値が張るので、フリーズドライはクズ野菜ばかりを固めたモノだ。

 ああ、早くまともな冒険者になってフリーズドライ界では有名なアーノ産の野菜パックが食べてみたい。


「あとは……」


 6つあるポーチの1つから塩と胡椒を取り出しておく。

 安物だが、品質に問題はない。


 スープの材料がそろったところで、ナイフと火打石で燃料キューブに火を点ける。

 あとはスープができるまで干し肉を齧っていよう。


「あ、そういえばあれも持ってきたんだった」


 朝、ギルドの簡易宿泊所を出るときに熟練冒険者さんから格安で譲ってもらったものを思い出した。


 ポーチの1つを開けて、板状に重なった『スライムモチ』を1枚取り出す。

 白色で指に返ってくる弾力が心地よい。


 スライムモチを鍋の中にぼちゃんと落とす。


「えへへ、おいしいんだよな~これ」


 硬い干し肉を噛んで柔らかくしながら、鍋の中でクズ野菜とともに煮えていくスライムモチを眺めた。


 スライムモチはその名の通り、モンスターのスライムで出来ている。

 新米冒険者たちはこの原材料である『モチスライム』を狩ってはギルドに卸し、日々の糧を手に入れている。


 モンスターのときはモチが頭にきて、食材になるときはお尻にくる。

 誰が決めたかは知らないけれど、そういうルールだ。


 東方の国で作られるおもちによく似ているから、この名がつけられたらしい。一度食べてみたことがあるが、確かに食感がよく似ていた。


 ただしモチスライムはそれだけでは食用にはできず、魔術師組合で加工してもらう必要がある。

 自分で加工できれば一番いいのだが、そんな技術があれば組合に入っている。


「んっん~♪」


 スプーンで鍋をかき回す。

 干し肉がようやく柔らかくなってきた。一部分を咀嚼して飲み込むと、お腹が空いていたのに加え、塩味を欲していた身体が大喜びで鳴く。


 ぐ~。


「待っててね、おなかちゃん。あと少しだよ~」


 ソロの冒険者は独り言が多くなる。

 1人でそんなに話すことなんてあるかな。そう思っていた時期が私にもありましたとさ。


「さて、もういいかな」


 コンソメが溶けて良い色合いになり、野菜もほどけて美味しそうだ。

 スライムモチもほどよく蕩けている。


 鍋の取っ手を掴み、簡易コンロの上から外す。

 燃料キューブは元より少量だったので、そのまま燃えるに任せて焚火代わりにする。


「ふふふ~」


 鍋を覗き込み、思わず笑みがこぼれる。

 ダンジョン料理の定番『スライムモチのスープ』完成だ。


「いただきまーす」


 本当はおしゃれにスープ皿を使いたいところだが、アイテムボックスの容量を考えるとそんなワガママは言ってられない。

 私は鍋に直接スプーンを突っ込み、まずはスープを掬った。


「おい……しぃ……」


 啜ってから、嚙みしめる。

 温かいスープはダンジョンに入ってからろくに休むこともせず、低級モンスターと戦いダンジョンを歩き回った身体によく染みた。


「はふ、はふ……」


 野菜も少しずつ口に運ぶ。

 黄金色の液体を滴らせる葉っぱや根菜は、クズ野菜とは思えないほど美味しかった。


「んへへ……」


 そしていよいよメインディッシュだ。

 スライムモチはかなりトロトロになっているが、スプーンを差し入れると一口大にカットできる。

 熱いスープと一緒に口へ運び、私は身体をギュッと縮こまらせた。


「おいっっっっしぃいいっ……」


 足をジタバタさせる。

 定番料理とはいえ、干し肉や乾パンが基本のダンジョン内ご飯では、温かいスープというだけで価値がある。

 そこへさらにスライムモチとあっては、舌鼓を打たざるをえない。


 胡椒と塩で味を変えたりしつつ、スライムモチのスープを食べていく。

 追加でもう1枚入れてやろうかなどと思うが、そんな贅沢もしてられない。

 新米冒険者から御用達の具材ではあるものの、毎日買えるほど安い食材でもない。


 私はポーチに伸ばした手を泣く泣く引っ込めて、今あるスープを大事に大事に一口ずつ、ちびちび啜った。


「ごちそうさまでした」


 スープを飲み干し、ふー、と一息ついて、片づけを始める。

 鍋用の布巾をアイテムボックスから取り出しきれいに拭いていく。


 食器をキレイにするクリーン(清浄)の魔法もあるにはあるのだが、魔力の乏しい私には無縁の話だ。


「……よし!」


 焚火にしていた燃料キューブが消えたので、荷物を片づけて立ち上がる。

 腹が満たされると、人は元気になる。


 と、セーフエリアの目の前をモチスライムがぴょんぴょん跳ねていく。

 まん丸の白いスライム。


 ──私の目に、先ほどスープに入っていた美味しい板が蘇る。

 食べたばかりなのに、またお腹がきゅうん、と動いた気がした。


 食後最初の獲物は決まった。

 私は狩り用のナイフを取り出し、モチスライムに向かって突進する。


「覚悟ー!」

「ッ!? キュキューッ!」


 そうして新米冒険者と哀れなモチスライムの低レベルな死闘が、今日も繰り返されるのであった。


ー・ー・ー・ー 今日の食材 ー・ー・ー・ー


・コンソメスープの素 キューブ型×1

・野菜フリーズドライ キューブ型×1(安価)

・スライムモチ     板状   ×1

・干し肉(硬い)  板状   ×1


面白かった。期待が持てるなど思ったら高評価していただけるとありがたいです。

次回もよろしくお願いします。

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