ボクらはホモだち?2
「あのなぁ。別に男好きになったワケじゃねぇよ」
「そうだよ。好きになったのがたまたま男だっただけだよ」
ホモ扱いされるのは自尊心が許さない。
それが一般男子である。
「でもそーゆーの好きな子に聞いたら、男同士の恋愛はフツーだよって教えてくれたよ。だからそんなに強くふたりの愛を否定しなくても大丈夫!」
マユミは男と男が抱き合っている表紙の薄い本をかざして力説した。
「腐ったオタ女子の妄想を現実に持ち込むな!!」
「しかもソレ、成人向けじゃないか!!?」
「せーじんむけ?あ、聖人向けってこと!?ホモの経典みたいな内容なんだね♥」
中途半端なオタクのBL講習を受けたと思われるマユミは、どうやら布教物の中身は確認していないらしい。
(BL初心者にハードなもの渡すなよな……)
はぁっとため息交じりにタクヤは口を開く。
「マユミ。おまえその本をちょっと読んでみろ!」
「え~。みんなで読もうよ」
「断固拒否する!!ンなもん読んだら尻のあたりがカユくなるわ!」
「タクヤくんのイジワル。だったらヒロシくん一緒に読も♪」
「ちょっと、ボクもいいかな……」
「ふたりともノリが悪いゾ~。ブーブー!」
ぶすっとした顔つきでマユミはひとり薄い本を広げた。
ページが進むにつれだんだん顔が赤く染まり、そして物語も終盤に差しかかるくらいでマユミが我慢出来なくなったのか、突然大声を張り上げたのだ。
「ちょっと待ってぇ!どうして男の人同士ってオシ――」
「マユミ!ストップ!!」
「それ以上は言わなくていい!!」
タクヤとヒロシはそろってマユミの口を手でふさぐ。
知らない世界を垣間見て、マユミの興奮はなかなか冷めやらない。
「とにかくこの危険物は早々に持ち主に返しとけ」
薄い本を取りあげて、マユミの手に届かないところへタクヤは置く。
マユミは『うんうん』とうなずくように首をたてに振った。
そこでようやく彼女の口の拘束を解く。
叱られた子犬のようにマユミはしゅんと表情を暗くした。
「――友達から『少女マンガみたいなものだよ』って言われて借りたけど……でも、違ってた」
「絵はな、少女マンガっぽいけど中身はえっぐいエロマンガだったろ?」
「BLはねぇ……。キャラをふたなりの女の子だと思えば、まぁ読めるかな」
「なぬっ!?」
不意打ちのヒロシの意外な暴露にタクヤがおどろきのあまりにすっとんきょうな声を上げる。
すると無意識ででた自分の発言に気づいたヒロシは彼から目を背けた。
「おい、ヒロシ。……今なんつった?」
「いや……あの……」
「正直に言えよ。オレとおまえの仲だろう?」
「ううっ……」
ヒロシが困っている姿をみて、タクヤはとてもいい顔で彼の肩に手をおく。
からかわれていることに疲れて、ヒロシは嫌々ながらも語りだした。
「うち妹たちが、家のどこにでもBLマンガ置くんだよ。それがどうしても目に付くから気になって、つい読んじゃうんだよ……。まぁ絵は少女マンガ風だし良い作品もあるから、心の中で片方をち〇こついてる女設定にして読むことにしてるんだよ」
「なるほど!そういうシュチエーションならオレでも読めそうだ!!」
「……本当!?」
「ああ。オレなら男の娘にするわ!」
「男装少女でもいいんだよ?」
「そう考えると奥深いな……」
「はは。タクヤは本当にロリキャラが好きだな」
「おまえこそ、絶対に攻めキャラの方を女に見立ててるだろう」
幼なじみで付き合いが長いから、お互いの性癖はよく知っている。
男ふたりがアレコレ好きな|二次元ガールの話で盛り上がっているそばで、話の内容についていけないマユミはスマホ片手をぽちぽちといじっていた。
そして楽しく会話しているふたりの間に割り込み、そっとスマホを見せてきた。
「あの本の友達から、こんなのきたよ」
そこには
『あなたたちに女は必要ない。ふたりだけがいればいいでしょ?』
というメッセージと、さきほど教室でタクヤがヒロシを連れ出す画像が貼られていたのだ。
男ふたりは一瞬で無表情になり、タクヤはマユミからスマホを取りあげる。
そしてを指を超高速で動かし、相手に何かメッセージを送り返していた。
「ほら、返す」
「ん、もう。ヘンなこと書かなかったよね?」
「ヘンなことは書き込んでない!」
ちょっと困り気味なマユミに対し、タクヤは鼻息を荒くしてスマホを返した。
その後、ヒロシはタクヤの耳元でささやく。
「なんて返事したの?」
「おまえと嫁たちがいればいいって書いといた」
「嫁って……」
「ちゃーんと嫁の名前を全部書いてやったぞ!」
「殿堂入り合わせて何人いるんだよ」
「ざっと50ちょい」
「うわっ、嫁テロだねぇ」
ぶははっと笑い合う。
何も変わらない日常。
変えることもない日常。
今までと変わらない日常は、フラれたことも告白しあったことも、まるで夢のように感じられたのだった。