5-18 ダメ男浮気相手に別れを告げる
応援してくださっている皆さん、いつもありがとうございます! ゴールデンウィークですが、いかがお過ごしでしょうか?私の拙い作品が日々に少しでも彩を加えているなら幸いです。
今話から本編に戻ります。今回、ついにあれが……!
怒涛の学園祭から早くも1週間が過ぎた。カルロスが謹慎になるということもあってか学園はその話で持ちきりだった。いつの間にか様々な噂が流れていた。曰く、『一部の生徒を重んじすぎた』とか、『婚約者の怒りをかった』といったところ。……外れていないところがなんとも言えないな。
後、『レオン=アルバートを怒らせたから』なんてものもあった。なんで? 確かにあの時は怒ってたけど、俺にはそんな権力も実力もありはしないぞ。どこぞのスライムな大魔王様や、神殺しの魔王様じゃないんだし。
まあそれはさておき、俺はというと、学園祭が終わってから、声をかけられることが増えた。どうやら闘技会優勝というもののネームバリューはかなり大きかったみたいで、初めのころはかなり驚いた。なんせ、休み時間ごとに誰かしら来るんだから。移動中も声をかけられたし。
彼らは大体が少し話をしたり、握手を求めたりしてきた。……大人気のアイドルかなんかになった気分だったな。
ほぼすべての人がそれで満足して帰ってくれるんだが、中にはしつこい人もいる。その筆頭格は……。
「レ・オ・ン・様~~」
響き渡る甘ったるい感じの声。やってきた彼女は開口一番叫んだ。
「ちょっと! レオン様があ、困ってるでしょう? やめなさいよお」
アメリアはそう言って今俺と話していたふたりの女子生徒に視線を向けた。このふたりは俺に握手を求めに来ただけで、そこまで迷惑してるわけじゃないんだけど……。ふたりはアメリアが現れると、俺に軽く礼を言ってからそそくさと離れていった。
俺はため息をつきたいのをこらえ、アメリアを見る。
「……何でいるんだ? やめてほしいと言ったはずだ」
ちょっと強めの口調で言う。アメリアがこんな風にやってきたのは今日が初めてじゃない。これで……何回目だ? 最初は驚くばかりだったが、2回目だか3回目だかに「やめてほしい」ときちんと伝えた。だけど、こうして来てるあたり、伝わってない……?
「でもお、レオン様は私と愛し合っているんだってことをわからない人が多いみたいなのでえ」
アメリアの台詞に絶句する。……この人がナニ言ってるのか全然わかんない。どうしたらそんな風になるの?
「”歌い手の集い”では優勝できませんでしたけど、でもお、あんなの無効だしい、実質私が優勝みたいなものですしい」
「……は?」
もう一度はっきりと拒絶の言葉を、というか勘違いのしようもないくらいきっぱりと別れの言葉を継げようかと思っていたが、聞こえてきた言葉に思わずアメリアを見る。
「だってえ、あんな根暗でレオン様と釣り合わない人が優勝なんてありえないですもん。歌だってちょっと変だったし~」
甘ったるい口調で放たれたソレは、明らかにフィオナを小馬鹿にし、蔑む悪意ある言葉で。思わずぞっとする。言いようのない不気味さが俺を襲った。
「あの子、レオン様のことなんてこれっぽちも『やめてくれ』」
アメリアの言葉を遮る。聞くに堪えなかったし、これ以上話したくなかった。
「アメリア。……もう終わりにしよう」
「……え?」
「もう君とは話したくない。今まで一緒にいてくれたことには感謝している。でも、平然と他人の、しかも俺の婚約者への悪口が言えるような人とはもういたくないんだ」
「え……。そんな」
「今までありがとう。さようなら」
俺ははっきりとその言葉を口にして、アメリアから遠ざかる。
「ま、待ってくださいよ! いきなり、そんな。あ、あの子が”歌い手の集い”で優勝したから?」
アメリアの慌てたような声が飛んでくる。俺は立ち止まると、振り返る。
「そんなの関係ない。例え君が優勝していたとしても、君を選ぶことなんてなかった。今も、これからも、彼女を大切にしたい。そう思ったから別れを告げた。……それに」
少し間を開けてから続ける。
「……あの歌は、俺の好きな歌だ。変だとか言わないでくれ」
それだけ言うと、今度こそ俺は振り返らず、その場を後にした。アメリアは、追ってこなかった。
かなり衝動的にアメリアに別れを告げてからさらに数日が経った。アメリアと会うことはほとんどなくなった。聞いた話では、最近やや授業を休み気味で、少しボーっとしていることが多いんだとか。そしてカルロスたちが以前にも増して彼女に構いまくっているらしい。ちなみに、カルロスは謹慎期間が終わったので、もう登校している。
「お! レオン! こんなところにいたのか」
振り返るとカルロスとマーカスがこちらにやってくるところだった。
「……どうした?」
なんとなく用件はわかっていたけど、聞いてみる。
ふたりの言うことを纏めると、「アメリアの元気がなくて心配だ。皆で元気づけよう」という感じだった。俺の答えは……
「俺は行かないよ」
「!? なぜだ」
「どういうことです?」
ふたりは困惑したように理由を聞いてきた。……もう全部話すか。
そして俺は、数日前にアメリアに別れを告げたことを明かし、元凶かもしれない俺が言ったところで悪化するだけだと話した。
ふたりは信じられないといった様子で俺を見ていた。……まあちょっと前までは一緒になってアメリアのところにいたもんな。
「アメリアには悪いと思ってる。でも、今の俺はアメリアよりも、婚約者のフィオナ嬢の方が大切なんだ」
かなりこっぱずかしいセリフだが、あえて堂々と言い切る。それくらいの思いがあることの証明として。
俺の言葉に、ふたりは”嘘だろ!”という顔をした。……そんなに信じられないか?
「な、何を言い出すかと思えば。血迷ったのか? あんなできそこないの『やめろ』——!?」
カルロスが放とうとした言葉を制止する。まだ言うか。
「それ以上はお前でも容赦しない。……『決闘』をすることも辞さないぞ」
低めのトーンで、俺はそう言い放つ。『決闘』という言葉に、カルロスは困惑したような顔をした。
「け、決闘だと? ……正気か?」
『決闘』。それはこの学園において問題解決の手段として用いられているもののひとつ。互いの主張をかけて戦うといういたってシンプルなものだ。特に騎士にとって、それは己の信念を懸けると宣言するようなもの。つまり、それだけの覚悟があるという証になる。……とはいえ、今は話し合いで解決することの方が多いため、使われる回数はそこまで多くない。
「ああ。いたって正気だよ。冗談でこんなことを口にしたりはしない」
俺の言葉に、ふたりはそろって顔を見合わせた。
「とにかく、俺はこれから先アメリアに関わる気はないし、会うこともほとんどなくなると思う。だからお見舞いはふたりが頑張ってくれ」
「……わかったよ。じゃあな、レオン。……行くぞ」
「……ええ」
ふたりは失望したような表情で歩いて行く。……こりゃあ絶交にでもなるかな。まあ、後悔はしてないけど。
カルロスとマーカスの背中を見ながら、俺はそんなことを思うのだった。
そして、この日を境に俺はふたりとアメリアに関わる回数が減っていくことになり、また俺がアメリアやカルロスたちと仲たがいしたという話も広まっていくことになったのだった。
終にヒロイン? に別れを告げた主人公。……やっとです。「さっさと別れろ」とか、「遅過ぎね」という意見もあると思いますが、そのあたりは私の落ち度でしょう。別れ方にかんしても、私の文才ではこれが精一杯でした。
この後、アメリアはあきらめるのか? フィオナとの関係は? こうご期待!
次回の更新は少し間が空きますが、5月10日(火)の20時を予定しています。




