SS 隠密見習いたちの至福
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今日も小話になります。小さいけど有能なあの子たちのお話です。
「サクヤ。カヅキ。ちょっと来てくれないか」
学園祭が終わり、少し落ち着いたころ、俺は寮の部屋にふたりを呼んだ。すぐに表れるふたり。そろっているのを確認して、話し始める。
「ふたりを呼んだのには理由があってね。学園祭の前からふたりにはいっぱい働いてもらっただろう? だからその分ふたりにボーナス……まあ臨時の給金を払おうと思ってな」
アメリアについて調べてもらったり、フィオナの見守りと話し相手。マルバスについても調べてもらった。俺がまだ本格的に働いていないため、ふたりの給金は伯爵家から出ている。だが、今回は俺が感謝の気持ちとして少しばかりだがボーナスをあげたいと思ったのだ。ちなみにお金は夏の討伐のあまりと、学園祭の後に王様から報奨金として少しもらったので、それで出した。なんでも、俺の願いと優勝者に本来与えるべき褒賞が釣り合っていないとのことで、差額分をお金で……ということらしい。聞いたところ、願えば本来いくらかの武功をあげないとなれない騎士爵になることもできたとか。
「これは俺からの感謝の気持ちだと思ってくれればいい。受け取ってくれるか?」
俺はそう言ってお金の入った袋をふたりに渡す。ふたりは手の上に乗った袋を見て不思議そうな顔をしていた。あんまり深く考えないで、お小遣いがもらえた程度に思ってくれていいんだけど……。
じっと袋を見ていたサクヤがおずおずと聞いてきた。
「主様。これってご褒美みたいなものですか?」
「ん? ……まあ確かにそんな感じだな」
するとサクヤは何か考え込むような顔をした後、俺に言った。
「……だったら、わたし、これいりません」
「……そうか? ならお休みとかでもいいぞ」
しかしサクヤはいらないとばかりに首を振る。
そして一呼吸おいてから、サクヤは言葉を発した。
「……お金も休みもいらないので、……なでなでしてください!」
とても期待したような顔で。
そして現在、俺はサクヤの頭をなでなでしている。サクヤの白い髪(いや、毛並みか?)を優しく一定方向になでる。サラサラのつやつやで撫でごこちはとてもいい。撫でるときに耳に触れると、ピコピコと動いた。
「みゃあん……」
気持ちいいのかサクヤの顔はもうとろけそうな感じになっていて、尻尾もピンと立ってゆらゆらしている。そのうちゴロゴロというのどを鳴らす音まで聞こえ始めた。……癒されるわあ。猫カフェに通い詰める人たちの気持ちがわかる気がする……。
ふと視線を感じたので見てみると、その先にはカヅキが。カヅキはふにゃふにゃになっているサクヤと、それを撫でる俺を見ていた。表情はあまり変わっていないが、その瞳は雄弁に「羨ましい……」と言っていた。尻尾もゆらゆらしている。しょうがないなあ。
「……カヅキもこっちにするか?」
「!? ……お願いします」
そうして、この日俺はふたりが満足するまでなでなでをしたのだった。ふたりともすごく嬉しそうだった。
それからしばらくの間、ふたりへのご褒美がなでなでになったのは言うまでもない。
なお、ふたりに渡すはずだったお金は、屋敷でふたりの補助をしてくれている影の人たちへの酒代となった。多分喜んでくれるだろう。
今回のお話はちょっと癒しが欲しかったので書きました。
次回更新は4月29日(金)を予定しています。




