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1-8  3日目② ダメ男は婚約者に会う

ここでこの作品におけるヒロイン(本物)が登場です。

 コンコンコン。

 ノックの音で目が覚めた。……起きてみると、窓の外はまだ明るく、そんなに眠ってはいないことが分かった。返事をすると、燕尾服を着た壮年の男性が入ってくる。彼はこの家で執事をやっているアレク。レオンや兄上もお世話になりまくっている人で、魔法も剣も使いこなす有能な執事らしい。

「レオン様。来客がありまして。ミストレア家のフィオナ様がいらしてますが、どうなさいますか?」

 フィオナ……? あ⁉ レオンの婚約者の令嬢か! これは会わないわけにはいかないな。

 会うことを伝えると、アレクは部屋を出ていく。俺はベッドの上に起き上がって、身だしなみを整える。本当はしっかりとした服装で、ベッドではなく椅子にでも座っているべきなんだろうけど、まだ体を動かすのがきつい。申し訳ないが、このまま会うことにしよう。

 ほどなくして、ドアが再びノックされる。返事をすると、おずおず、と言った感じで、ひとりの女の子が入ってきた。落ち着いた色のシンプルなワンピースを着ていて、腰の近くまである髪は、黒に近い色をしていた。少し伏せられた顔は、小ぶりでまだ幼さの残るものだった。瞳は空色をしていて、そわそわと落ち着かない様子で動いている。

 やがて、フィオナ嬢は、少し離れたところで立ち止まり、そこで口を開いた。

「突然の訪問、申し訳ありません。レオン様。……けがをされたと聞きました。お体の具合は、どうですか?」

少し小さかったけど、全て聞き取れた。こちらをうかがう顔には、心配している様子が見て取れる。

 確か彼女はレオンにひどいことをされていたはずだが、それでもこうして見舞いに来て、体を気遣ってくれるのか……。普通にいい子に見えるぞ。勉強教えてくれようとしたこともあったみたいだし。……こんなに献身的な子を悲しませるなんて、やっぱりレオンはクズだ。

 内心そんなことを思っていると、フィオナ嬢は、俺が何も言わないからか、落ち着かない感じでそわそわし始める。……なんだろう。小動物みたいで、ちょっとかわいい。あおいの友達にも、こんな子がいたな。名前も覚えていないが。

「……すいません。あまりいても迷惑ですよね。もう帰ります……」

 フィオナ嬢――いや、フィオナがいいか? は、俺が言葉を発しないのは怒っているからだとでも考えたのか、帰るそぶりを見せた。

「あ! 待ってくれ!」

 思わず大きな声が出てしまった。その声に驚いたのか、フィオナは、ぴしりと身体を固くする。そしておそるおそるといった感じでこっちを見た。

「いきなり大声を出してしまって、すまない。少しこっちまで来てくれないか?」

 フィオナは少し戸惑った素振りをしている。もしかして、いつものレオンと口調が違うからか? とはいっても、前のレオンのようにこの子を蔑むようなことは言いたくないし、言う気もない。ごまかし方は考えてあるから、それで納得してもらうしかないかな?

「は、はい。……どうかしましたか?」

 少しびくびくしながらさっきよりも近くまでやってきたフィオナを改めて見てみる。前世で見慣れた黒に近い髪色。でも瞳は空色をしていて、顔立ちもやはりヨーロッパの方の顔に近い。自信なさげに揺れる瞳を見ていると、保護欲をそそられる感じだ。……うん。かわいらしいな。

終止びくついて、こっちをうかがうような顔をしているのは、多分周りの環境が原因なんだろう。レオンを含め、彼女を(さげす)み、軽視するような人間に囲まれていたら、そうなっても仕方がない。……せめて自分の前では、こわばった顔ではなくて、穏やかな顔ができるようになるくらいには打ち解けたいな。

「フィオナ嬢」

「は、はい」

「今日はわざわざ見舞いに来てくれてありがとう」

「……⁉」

「実はな、けがをした際に頭を打ってしまって、まだ記憶が混乱しているような状態なんだ」

「‼ それは……」

「ああ、別に命に別状はないんだ。記憶が消えたわけでもない。ただ……なんというのかな。すっきりした気がするんだ。憑き物が落ちたような。今までの私はとても愚かだったんだと骨身にしみてわかった」

「……」

「目覚めてからまだ少ししか経っていないが、この数日間だけで、私がいかに恵まれているのかを思い知ったよ。憎くて、好きになれなかった家族も、家も、私の居場所なんだってことが分かった。なにも見ずに、逃げていた自分が恥ずかしくなってしまった。……父も、母も、兄も、ちゃんと私を見てくれていたというのにね」

 そこで一度言葉をきって、彼女を見ながら続ける。

「私は、今からやり直そうと思っているんだ。家族のことも、学園のことも。そして、君のことも……」

「……えっ?」

 そして私は、彼女に向かって、頭を下げた。

「今まで、本当にすまなかった」

「今まで君にしてきたことを思えば、到底許されることではないということはわかっている。今更謝罪しても、君の受けた傷は治らないし、私の言葉が信用できないことも。だから……」

 頭をあげて、真っ直ぐに彼女を見る。

「これからの私を見て、君が判断してほしい。私はこれから、全部と向き合う。もちろん君とも。だから、それを見ていてくれないか?」

 フィオナは、事態が飲み込めないというように、目を見開いていた。そうして沈黙が続いた後、彼女は「えっと……じゃあ、そうします」とか細い声で言った。

「そうか。ありがとう。……また来てくれるとうれしい」

「は……はい」

 フィオナが帰り、再びひとりになった。

(彼女の様子は、完全にいじめを受けている人のものだった。……当たり前か、周りの人のほぼすべてから「無能」扱いされていればな。……安心して笑えるように、心穏やかに暮らせるようにしてあげたいものだな。……ははっ。これじゃあまるで、俺が彼女の親かなんかみたいだ。まあ、前世を思えば、彼女はあおいと同じくらいなんだよなあ。やっぱり「婚約者」よりも、「娘」か「妹」のように感じてしまう。……このままいけば、いずれ俺は彼女と結婚することになる。その時、俺は彼女を「妻」として見れるのだろうか?)

 前世の妻の姿が頭に浮かぶ。……少なくとも、今の俺には難しいかな……。


かなりびくびくしていて、弱々しいフィオナちゃんですが、これから少しずつ精神的に強くなっていく予定です。共に見守ってくれればうれしく思います。

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