5-11 学園祭2日目。ダメ男は拳をぶつけ合う(いい意味で)
マルバスは舞台の外に転がっている。気絶しているのか、動く気配がない。
審判を務めていた先生が、慌てた様子でマルバスに近づき、その状態を確認している。……死んではいないだろう。一応、威力は調整していたしな。……あ。でも気絶させたから、謝罪を聴けなくなっちゃったな。ダメだな。熱くなりすぎた。
やがて、俺の勝利が宣言される。そして俺が優勝したということも。わああっと今までで一番大きな歓声が響き渡った。ふと見てみると、マルバスが担架で運ばれて行くのが目に入った。……無理かもしれないが、これで少しでも反省してくれたらいいんだけどな。
控室に戻って、軽くけがの治療をしてもらった後、舞台の上で簡単な表彰式が行われた。……ただ、正式なものを、学園祭の閉会式でやるらしい。あと、優勝者には景品があった。表彰式で初めて知ったのだが、それは閉会式で、国王様にひとつお願いを叶えてもらえるというものだった。だから、それまでに願いを考えておくようにとも言われた。……やたらと豪華な景品だな。
何事もなく表彰式は終わったので、控室に戻る。
「お~い! レオン! 見てたぞ。すごいじゃないか!」
「優勝しちゃうなんてすごいです~!」
声が聞こえた方を見ると、控室出入り口真上の観客席に、カルロス以下いつもの面々がそろっているのが見えた。そして次々にお祝いの言葉を掛けてくれた。……これはありがたく受け取っておこう。
「レオン様~~。優勝の景品、どうするか決まっていますか~~?」
アメリアがそんなことを聞いてくる。なんでそんなこと聞いてくるんだ?
それに俺は「考えてはある」とだけ返した。するとアメリアはぱっと顔を輝かせて、「期待してますからね~♪」と意味不明なことを言った。期待? 何を?
それからこの後一緒に学園祭を回ろうと言われたが、この後は怪我の治療と万が一に備えた検査があったので、断った。
その後、先生に案内されたのは、白を基調とした色に塗られた建物だった。中には病室や検査室などがあり、前世の病院に似ていた。
そこで俺が受けたのは、控室の時よりも精密な治療と、体に試合の後遺症が残っていないかについての検査だった。どちらも魔法によるもので、魔法のほかにもポーションなどの薬も使われていた。
治療のおかげで身体の傷はきれいになくなった。……魔法ってすごいな。
「こんなにきれいになるなんて、治癒の魔法ってすごいんですね」
自分を診てくれた医師にそう言うと、こんな答えが返ってきた。
「確かに効果は高いね。でも、何度も続けて使うと逆に体に悪い効果をもたらすこともあるんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。短時間に何度も治癒系の魔法を使ったり、ポーションを使い過ぎるとね、体に魔力が溜まりすぎて中毒を起こすんだ。そうなると症状が悪化したり、魔法が使いにくくなる、といったような後遺症が残ることもあるんだよ」
「へえ……」
必ずしも万能ではないんだな。
「でも、魔法にもポーションにもまだ解明されていない部分はたくさんあるからね。これから先、中毒になった人を治す方法だって見つかるかもしれないし」
そう言って医師は話を締めくくった。
その後の検査でも“異常なし”と言われた俺は、外に出ようと歩いていたのだが、その途中で「そういえばここってシャーロットが運ばれたところだ」ということを思い出した。
お見舞いができるかどうかを受付で聞いたところ、入院している部屋を教えてくれたので、さっそく向かう。
2階にある病室に彼女はいるらしい。
そこにはいくつもの病室が並んでいた。その中の教えてもらった番号がふられている部屋の前に立つ。
さてノックを……と思ったら、ドアがあちらの方から開いた。
「なんだ。誰かと思ったらレオンか!」
ドアを開けたのはラシンだった。中に招き入れられる。シャーロットは奥にあるベッドに上半身を起こした状態でいた。手当ての跡が体に残っている状態で、まだ本調子ではなさそうだった。
「……日を改めた方がよかったか?」
そう言うと、シャーロットは大丈夫といった感じで首を横に振った。
「いいのいいの。ずっと寝てばかりで退屈してたんだ。それよりも、シンから聞いたよ。闘技会優勝おめでとう」
「ありがとう」
「あのマルバスに勝ったんだよね? シンがうるさくってしょうがないんだ。レオン君はすごいって」
「おうよ! あいつに勝っちまうなんてな! 俺はできなかった。できれば俺の手であいつを倒したかったんだが……」
悔しそうにするラシンに俺は声をかける。
「確かに勝てたけど、俺ひとりで勝ったわけじゃないぞ。前の試合でラシンが奴を追い詰めてくれたから、奴の切り札を見ることができたんだ。おかげで、試合でそれをされても対処できた」
俺は握った拳をラシンに向ける。
「だから……俺たちで手に入れた勝利だ」
ラシンはしばし固まって俺の拳を見ていた。
「ほら、シン!」
が、シャーロットの声で我に返ったのか、口元に笑みを浮かべると、拳を向けてくる。
そして俺たちは拳を軽くぶつけ合った。
「それじゃあ俺は行くよ」
「うん。じゃあね」
「またな!」
ラシンとシャーロットに別れを告げた俺は、病院を後にした。
会場に戻ると、家族がまだいたので、改めて優勝の報告をした。父からは「よくやった」と、母からは「頑張ったのね」と。兄からも、「いいものを見せてもらった。ありがとよ」という言葉をもらった。
……何というか、すごくジンと来た。
家族の次に、一緒に観戦していたらしいフィオナもおずおずと近寄ってきて、お祝いの言葉をくれた。
「見ていてくれてありがとう。……心強かったよ」
「! いえ……私は何も」
「気にしなくてもいいんだ。ただ、君が見てくれてたから頑張れた。それだけだよ」
……実際のところ、“フィオナを馬鹿にするやつをぶっ飛ばしたいから頑張れた“といった感じだったけど、それは知らなくてもいいことだ。
俺の言葉を聞いたフィオナはと言うと、頬を染めてもじもじとうつむいた。それを見た俺も、さっきの台詞はかっこつけすぎだったかも……と今更ながら恥ずかしくなってきて、目をそらす。
はたからみたら初々しいカップルみたいなことをしている。何してんだ俺は……。
「ふふ。若いっていいわねえ。それじゃあ私たちはそろそろ帰るから、あなたはフィオナちゃんをお願いね。しっかりとエスコートするのよ」
お互いに目をそらして固まっている俺たちに投げかけられたのは、母のそんな声だった。
いつも評価、ブックマーク、感想をありがとうございます!
誰にも見向きされないことすら覚悟して投稿を始めた作品ですが、たくさんの人に読んでいただき、評価をもらうことができてうれしい限りです。
以前にも書きましたが、ストックの確保と作品と向き合うため、1か月ほど更新をお休みさせていただきます。再開は2月初めを予定していますが、伸びるようであれば、またお知らせします。




