5-9 学園祭2日目。ダメ男は闘技会決勝戦を戦う①
ラシンがマルバスと戦った準々決勝の試合。結果としてはラシンが負けてしまった。途中まではかなり優勢だった。きっとあの一撃が入っていれば勝てていたと思う。
ラシンの攻撃をよけたのは、マルバスの魔法だった。マルバスは、風の矢でラシンの気をそらしているうちに、空気の膜を張って居場所を誤認させたのだ。まるで蜃気楼のように……。実際、マルバスはラシンが攻撃した場所よりもやや後方にいた。俺は観客席で見ていたから分かったが、ラシンと同じ目線だったら分からなかったかもしれない。
とにかく、マルバスは強い。やるなら全力で、使えるものは全部使った方がいいな。
俺は控室に戻る。次の試合は準決勝。俺の試合だ。
控室に行くと、ラシンが傷だらけの身体でいるのが見えた。
「! 起きてて大丈夫なのかよ!」
すると、ラシンは俺を見て、こう言って来た。
「……すまん。負けちまった。あんなに鍛錬に付き合ってもらって、色々助言もくれたのによ……」
昨日、マルバスとの戦いを想定して、俺たちは鍛錬をした。その時に、俺はラシンに竜巻の防壁を突破する方法を教えていた。あの竜巻の防壁は、上空がぽっかり空いていたので、山なりにすれば防壁の中に攻撃できるのではないかと思ったのだ。
その時に投擲の魔法も教えていた。“手に収まるもの“が制約だけど、槍の持ち手だって手の中に一応納まってるからできると思ったのだ。結果は試合でも見た通りだ。
「……負けちまったのは悔しいけどよ、あの野郎に痛い一撃入れてやったぜ」
そう言ってラシンは笑った。だけど、……本当はすごく悔しいんだろう。その拳はずっと硬く握られたままで、感情を抑え込んでいるみたいだった。
「……ラシンの分も、俺があいつに叩きつけてやる。だから、休んで体力回復させな。そんなんじゃあ、シャーロットに笑われるよ」
「はは……。そうだな。………頼んだ」
そう言うと、ラシンは電池が切れたみたいに体から力が抜けて、瞼を閉ざした。
その後、担架で運ばれて行くラシンを見送った俺は、準決勝の戦いに挑んだ。
それから30分もしないうちに、俺とマルバスで決勝戦を行うことが決まった。決勝戦の前に、休憩時間が設けられたので、俺は観覧席の方に来ていた。父と母がいたのである。
「決勝まで残るなんてすごいじゃない! 試合中の動きもよかったわよ。ねえ? ジル」
「……。前とは比べ物にならない動きだった。……次はアルグランテ家の嫡男とあたると聞いたが?」
父の問いに、俺は頷いた。
「はい。次の決勝で戦うことになります」
「ふむ……。副団長とは何度か話したことがある。儂とはそりが合わなかったな」
そう言うと父は渋い顔をした。
……もしかして父親もあんな感じなのか?
「それよりも、フィオナちゃんが『歌い手の集い』に出るのよね!? 楽しみだわ!」
「それは明日ですよ。それに、フィオナならどこかで見てると思うので、探したらどうですか?」
「それもそうね。じゃあ、フィオナちゃんと一緒にレオンの雄姿を拝ませてもらおうかしらね」
そう言って、母は父と共に歩いて行こうとした。……あ。そう言えば……。
「母上。ちょっといいですか?」
俺は母を呼び止めてあることを聞いた後、その場を後にした。
通路を移動し、控室の前まで来たとき、“気配察知”に反応が……。それは控室の中にいた。……。
俺はドアの前で立ち止まり、深呼吸をしてから中に入る。控室のいすに足を組んで座っていたのは、決勝戦の対戦相手であるマルバスだった。
俺はドアを閉めて近づいて行く。するとマルバスは立ち上がり、俺の正面に立った。……背はあっちの方が少し高いか。
「せっかくだから、決勝で戦う君にあいさつに来たよ」
「……それはご丁寧に」
「伯爵家の次男なんかのためにわざわざ来てやったんだ。感謝しろよ」
じゃあ何で来たんだよ。暇か? 暇なのか?
「わざわざありがとうございます」
ほとんど棒読みで返す。やっぱ好きになれないわこいつ。
「おいおい。爵位が上の人間に対して礼儀がなってないんじゃないのか? 伯爵家風情が」
「ほほう。それならあなたは年長者への礼儀がなってないんじゃないですか? ついでに言うと、爵位をお持ちなのはあなたのお父上であってあなたではないですよね?」
きっと他の人には俺たちの間に火花が見えることだろう。
そして一歩も引かない態度を見せる俺に少し気おされたのか、マルバスは苛立たし気な顔をした。……そんな顔するなら言ってくるなよ。
「……ふん。そう言えば、お前の同級生をふたりも倒してやったぜ。どっちも弱っちいな。あれで誇り高き騎士を目指そうなんて笑っちまうぜ」
……ラシンたちのことか。
「特に女の方。平民の分際ででしゃばりやがって、見苦しいったらなかったな」
マルバスは下種な笑みを浮かべながらそう言ってくる。……おそらく俺があいつらと交流があるのを知って、揺さぶりをかけてきてるんだろう。
「男も弱いくせしてまとわりついてきてうっとおしかったなあ。たしかお前と伯爵領で戦ったんだろう? その時に大怪我でもすればよかったのに。ああでも下賤な奴らなら、伯爵家の騎士団には丁度いいかもな」
「それは……アルバート伯爵家への侮辱ととってもいいのか?」
「はあ?」
「……俺たちは命を懸けて領民たちを守るために戦ったんだ。ラシンやシャーロットだってそのために命を懸けてくれた。それを貶される筋合いはない。謝ってもらおうか」
トーン低めの、感情を乗せた声で言い放つ。あれを体験したからこそ、家族や騎士たちを馬鹿にする発言は許せなかった。
「……は。なんで僕が謝罪をしなければならないんだ。弱い奴を弱いと言って何が悪い。どうしてもやれって言うなら僕に勝ってからにするんだな」
そう言い捨てると、マルバスは控室を出ていった。
…………上等だ。叩き潰してやる。
「さあ、いよいよ闘技大会も大詰め! 決勝戦の始まりです!」
司会をする人の声が聞こえてくる。名前を呼ばれて、舞台へと足を踏み出した。
舞台上で向かいあうマルバスは、こちらを小馬鹿にするような表情を浮かべている。……今すぐ張り倒してやりたいが我慢だ、我慢。
「決勝戦……。試合開始‼」
合図とともに、マルバスはウィンドアローを放ってきた。俺もまた放つ。双方の魔法が空中で激突し、打ち消しあった。風がそよりと頬を撫でる。その余韻も収まらないうちに、今度は風の刃が飛んでくる。それを避けた俺は、身体強化の魔法をかけて、マルバスとの距離を詰めようとする。そうはさせまいと奴はさらに矢を俺に放った。俺はそれらをいなし、払い、避けていく。
やがて俺の動きにいらだってきたのか、マルバスは自ら突っ込んできた。俺もまた用心しながらそれを迎え撃つ。
ギイイィィィィン‼
舞台の中央近くで金属音が響き渡った。幾度か打ちあい、鍔迫り合いになって動きが止まる。
そのまま膠着状態になった時、唐突にマルバスが口を開いた。
「ああ。さっきは言い忘れていたが……」
……。
「お前、あの魔法もろくに使えない無能な女が婚約者なんだって? 気の毒だなあ。……でも、伯爵家風情ならお似合いかもな」
間近にある奴の顔が歪んだ笑みを浮かべていた。ああ。そうかよ。
よし決めた。てめえに地面の味をたっぷり味わってもらおうじゃねえか! 一度といわず、何度でもな!
俺は瞬時に“纏”を発動して奴の剣を押しのける。そして氷柱を生成し、放とうとした。
「引っかかったな。馬鹿め」
しかし、それよりも早く、奴は俺に迫ってくる。確実に魔法は間に合わない。でもな。
「その言葉。そっくりそのまま、返してやるよ」
俺に攻撃しようと迫っていたマルバス。だが、その踏み出した足が、つるりと滑った。そのまま前のめりに倒れていく。奴は手をついて体勢を立て直そうとするが、そのついた手もきれいに滑る。
結果として、奴は見事に顔面から地面に激突することになった。奴は何が起きたのかわかっていないようだ。まずこれで1回! まだまだ味わってもらうぞ!
卑劣なマルバスに主人公の怒りが爆発! 次回、本気モード炸裂!?
今後の更新ですが、闘技会が終わるところまで更新して、それからお休みに入ろうと思います。
次話は27日(月)更新予定です。




