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幕間 sideフィオナ~レオン様の秘密~

 フィオナちゃん目線のお話、2話分の2話目です。

「……フィオナ」

 突然、レオン様にそう呼ばれました。……名前だけで呼ばれるなんて初めてです。不意に胸が跳ねました。見てみると、レオン様は、覚悟を決めたような色の宿る瞳で私を見ながら、言いました。

「……もし、俺に“前世の記憶”があるって言ったら、どうする?」と。

 ……前世の、記憶?

 そう聞いて想いだしたのは、前に本で読んだ記述でした。自分が生まれる前の記憶を持つ人物のことが書かれていたのです。

 でも、それ以上に私は納得してしまいました。間違いなくレオン様であるはずなのに、感じ続けていた違和感。その正体がはっきりとしたのです。

 言葉遣いや立ち振る舞いなどに現れていた以前のレオン様とはつながらない部分。それが前世の記憶によるものなのだとしたら、つじつまが合うのではないか、と。普段使われている言葉や立ち振る舞い、纏う雰囲気など、違和感を感じる部分は多くありましたから。

 レオン様——前世ではシンゴ様、は話してくださいました。前の世界で亡くなり、レオン様として目覚めたことを。

 そして私は、なぜこの方が私に優しくしてくれたのかという理由を知ることになりました。それは、シンゴ様のいた世界では一夫一妻が普通であったからだということでした。

 その理由を聞いて、私はほっとしたような、落胆してしまったような、なんとも言えない気持ちになりました。……その理由には驚きましたが、慈しまれ、お役に立てていて、嬉しいはずなのに、なんでなの?

 気になりましたが、それをいったん脇に避け、私は気になったことを聞いてみました。

「あの……元の、レオン様はどうなったのでしょうか?」

 そう、今のレオン様がシンゴ様であるなら、元のレオン様はどこに行かれたのか、ということです。

「……今の私は、元々のレオンの人格や記憶が、前世のものと混じり合っているようなものだな。ただ、前世の方が強く出ている面はあるだろうけど」

 私の質問に、シンゴ様はそう答えました。

「そう……ですか」

 なら、この方は、シンゴ様であり、レオン様でもある……ということかしら。

「……嫌なら、嫌ってくれても構わないよ。なんせ、ずっとだましていたようなものなのだから。君には怒る権利がある」

 申し訳なさそうな顔でそうおっしゃるシンゴ様。確かに、驚きましたし、その通りなのだろうと思います。でも……。

 頭に、今朝に見た夢のことが思い浮かびました。……話すことは、もう決まっているわ。

「確かに……驚いた部分もあります。でも、私は今のレオン様に救われました。たくさんの温かい言葉を掛けてもらって、こうして領地への帰省にも誘ってもらえて。……この数か月は、とても楽しかったです。………それに、たとえ前世の記憶があったとしても、あなたがレオン様であることに変わりはないと分かりましたから……」

 私の言葉に、シンゴ様は不思議そうな顔をしています。……でも、私と婚約した時、顔を合わせたレオン様も、覚えていらっしゃらなかったから、当たり前ね。

「……きっと覚えていらっしゃらないと思いますが、私たちが婚約する前、私は一度、レオン様に会ったことがあるのです。その時、レオン様は泣いていた私の頭を撫でて、慰めて下さいました。その時の手つきや表情は、あのときと全く変わらないものでした……。あなたは、レオン様です。誰かの記憶を持っていても。だから、大丈夫です」

 たとえ、別の方の記憶を持っていたとしても、根の部分は同じだと分かったから、大丈夫。

 その気持ちが伝わるように、私は笑みを浮かべてレオン(・・・)()を見ました。レオン様は、ほっと安堵したような顔をなさると、手を差し出されました。

「ありがとう……。これからも、よろしくな」

「はい」

 私はそれに応え、手を差し出し、短い握手をしたのです。


 レオン様の秘密を知ってから、早くも3日が過ぎ去り、王都に帰る日が明日に迫っていました。思えば、非常にたくさんのことがこの3週間余りの中でありました。この地に誘われたことに始まり、たくさんの服を着たり、炊き出しを行ったり、魔物や盗賊の襲撃を受けました。そして、レオン様の秘密を知りました。

 私は、それを受け入れました。シンゴ様、いえ、レオン様と居ると、穏やかな気持ちになれます。今まで得られなかったものを、どんどんと与えられているような心地です。でも、まだ戸惑うことも多くて、ややぎこちない感じになってしまいましたが……。

 この3日の間に、サクヤちゃんたちは正式に伯爵家に仕えることが決まったと聞きました。エレンもまた来ていたみたいですが、今回は会う機会がありませんでした。代わりに、サクヤちゃんが私の所に何度か来ていました。「お姉ちゃんも好き~」と言われ、ぎゅっとくっつかれたのですが、ふわふわとしていて、とてもかわいかったです。……エレンの気持ちが少し分かった気がするわ。

 そのエレンからは、『王都に帰った後に公爵家の屋敷に来ない?』というお誘いがありました。……王都の御屋敷に帰っても、アンナたちはまだいません。せっかくだから、甘えてしまおうかしら?

 アニエス様は、討伐が終了してからは、私の所に来る頻度が減りました。聞いたところ、伯爵家夫人としての最低限の仕事だけをこなして、私についてくれていたみたいなのです。そして今は、たまっているものを片付けているのだと教えてくれました。

 そうなると、ひとりになる時間が増えました。その時、私の頭に浮かぶのは、レオン様のことでした。前世の記憶を得て、変わった方。その変化は、まさに人が変わったようです。実際、エレンやアンナは怪しんでいました。

 でも、今のレオン様は、少しずつですが周囲に受け入れられてきています。エレンの態度も柔らかくなってきていますし、以前はレオン様をよく思っていなかったラシン様も、レオン様のことを認めるようになったと聞きました。

 そして、伯爵家の方々も……。レオン様が、前世の話をしたのだとアニエス様に聞きました。アニエス様は、私と同じようにそれを受け入れたのだそうです。

 ……今のレオン様は、以前とは違うのよね。そうなると、趣味嗜好も変わっている可能性が高いわ。シンゴ様は歌うことがお好きだと言っていたけど、レオン様は歌があまりお好きではなかった。

 “歌“で想いだしたのは、私が眠っていた時に歌ってくださっていた時のこと、ぼんやりとした意識の中で見た、悲しそうなレオン様の顔。そして、消えゆく意識の中で見た、ある家族の姿でした。……もしかして、あれは……。

 ひとつ思い浮かぶと、次々と色々なことが頭に浮かびました。……直接、尋ねてみた方がいいかもしれないわ。

 夜。私はレオン様を訪ねました。そして聞いたのです。“レオン様は……その世界にいる家族に、また逢いたいと思ってますよね?”と。

 そう思ったのは、やはりあの聞いたこともない歌がきっかけでした。この国では、あのような歌を聞いたことはほとんどありません。そうなれば、あれはシンゴ様のいた世界の歌なのでしょう。それを聞いていて見た、家族の姿。それに、この方は家族の話をする際に、苦し気な顔をする事がありました。

 私の話を聞いて、レオン様は驚いた顔をしています。私はさらに言葉を重ねます。

 “私には……眩しかった“

 それは私の本心であり、言うつもりのなかった言葉。……私は、羨ましかった。家族に愛されるレオン様が。そして、家族に愛されたシンゴ様が。

 かつて、歌い手の聖女様が歌うと、その思いが聞いた人に見えたと言います。心から願い、思えば、込められた思いが見える。レオン様の歌には、それだけ強い思いがあったのでしょう。

 自分が持たないものを羨むなんて、浅ましいと思います。でも、抑えられなかった……。

 それから私は、聞きました。“私が婚約者でいいのか”と。

 レオン様は私が婚約者でよかったと言ってくださいました。そのことが私にはとても嬉しかったです。でも、レオン様の秘密を聞いて、時間が経ったことで、ふと思ってしまったのです。私はレオン様のために、何ができるのだろう……と。

 私たちは政略結婚です。でも、キースが生まれたことでその意味はもうほとんどないに等しい状態。私は、本来の目的である家同士のつながりを結ぶこともできそうにありません。そしてレオン様は、これからもっと大きくなっていかれる。領内の評判や、騎士の方々の評価も上がっていると聞きました。それはきっと、これからも上がっていくことでしょう。その時、私が婚約者では、レオン様の足かせになってしまう。私が魔法を使えないことは、貴族の間でも知られていること。貴族の女性は、家を取りまとめたり、社交の場に出ることも仕事のひとつ。私では、侮られてレオン様の立場が弱くなってしまうかもしれません。

 私は言葉を選びながら、そう説明しました。私では力不足になってしまう。それに……まだ前の家族を引きずっているレオン様のそばに居続けないといけないと思うと……。

 でも、レオン様は私との婚約を望んでくれました。私以外の方とは考えられない……と。

 私は何もできないのに、レオン様は私に価値を見出してくださる。それがありがたかった。同時に、少し胸の奥が痛みました。嬉しいはずなのに、何でなの?


 主人公への信頼度がかなり高くなっています。ここまで上げられたら、もはや目標は達成と言えるかもしれません。ただ、本人には好感度が見えるみたいな能力はないので知ることもできないのですが……。

 次はもう1話分別の人目線の話を入れます。……ついにあの話の内容が少し明かされます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィオナちゃんが諦めずに欲求を求め、そして、それを願うことによる無意識の壁とぶつかり闘おうとしている 主人公の「力だけでは『悪』とはならない」価値観が伝われば踏み出す為の支えになれるだろう…
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