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    4-28 ダメ男は心残りを解消する

 フィオナに、前世の記憶のことを打ち明けてから、3日が経った。フィオナは俺のことを受け入れてくれたとはいえ、やはりまだ衝撃が強いのか、話したりするときに、少しぎこちない感じになることがあった。逆に俺はと言うと、抱えていた最大の秘密がなくなったことで、結構気が楽になっていた。偶然が重なったとはいえ、フィオナに自分の秘密を話すことができたからだ。心のどこかで、“このままでいいのか”と思う気持ちもやっぱりあったんだよね。……母に聞かれていたのは想定外だったけど。

 それで決心がついた俺は、伯爵家の家族に、前世の記憶のことを話した。母はあの夜の通りだった。兄は、「そんなことがあるんだな~」とあまり気にせず、父も、自分の中にレオンの人格や記憶があることを説明すると、「どんな形であっても、生きているなら……いい」とだけ言った。母が言うには、俺が倒れて寝たきりになっていた時は、顔にこそ出さなかったものの、結構心配していたのだと教えてくれた。

 おそらく、あれが父の精一杯なのだろう。

 それと、この3日間の間に、領地に帰っていたエレオノーラ嬢が、今度は10人以上もの人数で、領都の屋敷にやってきた。要件はもちろん、サクヤたちの家族のことである。彼女は、サクヤたちの父にあたる男性と、その伯父一家を連れて来ていた。結果だけを言えば、彼らは全員、伯爵家に仕えることになった。

 新しく仕えることになった6名の人たちは、ひとまず男性は父に、女性は母に仕えることになった。伯爵家で元から仕えている影たちとなじんでから、それぞれにもっと具体的な仕事を頼むらしい。

 また、これは後にカヅキから聞いた話なのだが、始め、元々仕えていた影の中には、獣人族をよく思っていない者もいたらしい。だが、カヅキの父を始め、サクヤたちも自らの実力を証明し、彼らを納得させたそうな。……たしか、伯爵家(うち)の影って結構な実力者ぞろいだと聞いたような。獣人ってすごいんだな。

 でも、影は実力主義な面もあると聞くし、そのあたりが絡んでいるんだろう。

 なお、カヅキとサクヤは俺の専任になった。ふたりには普段は護衛だったり、何らかの情報収集をしてもらったり、時々お遣いを頼んだりしようと考えている。特に、ダンジョンとかで面白い食材を見つけたときとかに。

ちなみに、休みは言ってくれれば都合すると伝えておいた。さすがに10歳の子をブラックに働かせる気はないしな。

 用事がないときは、屋敷にいるトールの食材探しを少しでいいので手伝ってほしいとも言っておいた。サクヤたちが手伝ってくれれば、外部のハンターに頼っていた部分を何とかできそうだしな。

 

 そして今俺が立っているのは、かつて魔物に襲われて、被害を受けた町だった。町は、前に訪れたときよりも格段にきれいになっていて、町が順調に復興していってるのが分かった。……でも、変わっていないものもある。

 俺が町の広場に足を踏み入れると、その奥の方に、小さな影が見えた。それに俺は近づいていく。それはやはり、かつて俺に、『罰をあたえてほしい』と言ってきた男の子だった。あの日と同じように、広場の隅で体を丸めてうずくまっていた。俺は男の子の前に立つと、声をかける。やや間が空いてから、男の子は顔をあげて、俺を見た。その顔は、ずっと泣いていたことを示すように、赤くなっていた。

「あ……。騎士の……お兄さん」

「久しぶりだな。まだ、泣いているのか?」

「………」

「今日はな……家族を傷つけたお前に、罰を下しに来た」

 精一杯に、怖く聞こえそうな声でそう告げる。俺の言葉に、彼は驚いたような顔をした。

「何を驚いているんだ? お前が望んだことだろう?」

 俺はそういうと、腰の剣を抜いて、男の子の肩に当てた。彼は、覚悟を決めたように、ぎゅっと目をつぶる。

 俺はそれを見ると、それでは、罰をあたえよう、と言ってから、剣を振り上げて、男の子の肩へと振り下ろす!

 振り下ろされた剣は、男の子の肩に、チョン、と当たった。衝撃は多分、肩を軽く叩かれたくらいだろう。ややあってから、男の子は恐る恐る目を開けた。俺はと言うと、既に剣をしまって、彼に目線を合わせるようにしゃがんだ状態になっていた。不思議そうな顔をしている男の子。俺は彼に、「罰はもう済んだ」と言うと、彼を立たせて、広場の中央へと誘った。

 そして、彼の背中を推しながら、言った。

「これからは、償え。後悔した分だけ。涙を流した分だけ……な」

 広場の中央にいたのは、ふたりの女性。その姿を射た瞬間、男の子は、泣き出した。

「……お姉ちゃん! お母さん‼」

 そしてダッと駆け出して、抱きついた! 3人で、再会を喜び、抱きしめあっている。男の子はしきりに、「ごめんなさい」と言っている。そんな彼の頭を、ふたりは泣きながら撫でていた。

俺はそれを見届けると、その場を後にした。

 領地における長い戦いが終って、もう少ししたら王都に帰るという時になって、俺は、ひとつだけ心残りがあった。それはあの男の子のことだ。あの子に何も言えなかったことが、引っかかっていたのだ。そして、賊から救出した人たちの中に、あの子の家族がいることを知った俺は、そのふたりを含む護送隊に立候補し、あの町に向かった。そして町の人に事情を話し、あの小芝居じみたことをしたわけだ。町の人たちも、男の子を不憫に思っていたので、快く協力してくれた。肩に当てた剣も、刃を潰した模造刀を使うということまでした。多分、一度形式だけでも罰をあたえないと、きっと彼は前に進めなかったと思ったから。そして償いとして、家族に謝って、これからも一緒に過ごすように、と促した。

 とにかく、うまくいって良かった。お節介だったと思うけど、これで心置きなく、王都に帰れる。


 その夜。俺は部屋でくつろいでいた。王都に帰る日が明日に迫り、荷物の整理も早々に終わらせたことで、暇ができたのだ。

 コンコンコン。

 ドアがノックされた。誰かと思って返事をしてみると、やってきたのはフィオナだった。返事をすると、フィオナは無言で部屋の中に入って来た。とりあえず、ソファに案内して、メイドにお茶を持ってきてもらう。……そういえば、こうしてふたりっきりなのは、あの日以来だな。

 運ばれてきた紅茶を飲んで、喉を潤す。そうしてしばらくしてから、フィオナが口を開いた。

「あの……お聞きしてもよろしいですか?」

「ああ。何かな?」

「……その、シンゴ様のいた世界には、魔法がなかったのでしょうか?」

 ここ数日の間、ほとんど触れられてこなかった話題がいきなり来た。びっくりだ。

「……そうだな。魔法は、空想の産物だったよ。前世の世界では、魔法の代わりに科学と言うのが発達していた。文明的なことを言えば、あっちの方がずいぶんと発達していたよ。それと、呼びにくければレオンでいい。今はレオンだから」

 俺の言葉に、フィオナは頷く。そして、一呼吸おいてから、また口を開いた。

「レオン様は……その世界にいる家族に、また逢いたいと思ってますよね?」

「え?」

「……私がレオン様の部屋で寝てしまった時、私はレオン様の歌う声を聴きました。そしてその時に、一組の家族の姿を、見た気がするのです。……もしかしたらあれは、レオン様の家族の姿だったのではないかと思って」

 フィオナに言われて、頭に浮かんだのは、うなされる彼女に歌を歌っていた時の記憶。……確かにあの時、俺はフィオナが安らかに眠れるようにと願いながら、家族のことも思い出していた。

「なんで……」

 フィオナは、思案するように言葉を続ける。

「あのとき、私は一時だけ、目を覚まして、歌っているレオン様の顔を見ました。レオン様の顔はとても悲し気で、それが頭に残っていたのです」

 そして、俺を見ながら、言った。

「先日のお話を聞いて、わかったんです。あの時に見えたのは、レオン様の大切な思い出で、レオン様がまだ、ご家族を愛していらっしゃる証なのだと。それを否定するつもりはありません。でも……私には、それが眩しかった」

 フィオナはそこで、顔を伏せた。その顔は前髪で隠れてしまい、どんな表情をしているのかは分からなかった。

「……本当に、私なんかでいいんでしょうか?

 私よりも素敵な女性(かた)は、たくさん……います。私なんかより、そちらの方と婚約なさった方が、きっとレオン様のためになるのではないかと……」

 その言葉に、俺は腰を浮かしかける、が思いとどまって腰を下ろす。

 受け入れてもらえて安心したと思ったら、今度は、フィオナから婚約解消ともとれる言葉が出てきた。でも、きっとこれはフィオナの本心なんだろう。

「ま、待ってくれないか⁉ 何でそんなことを?」

 聞いてみたところ、フィオナは俺の秘密を知ったことで、先ほどの言葉の通り、自分よりも価値のある人と婚約した方が俺のためになる。と考えてしまったのだ。これから俺の評判はどんどんとよくなっていくだろうから、自分が婚約者だと足枷になるのではないか、と。

 俺はすぐに否定した。個人的な意見だが、きっとフィオナ以上に素敵な婚約者なんかいないだろう。それに、勉強だったり、この前もらった剣や魔道具など、彼女に助けられたことはたくさんある。あと、一緒に過ごしてきて、彼女にそれなりに好感を持っている。今更、他の女の子と、ていうのは……。

何より、俺の秘密を受け入れてくれたのが大きい。だから、彼女を逃がすつもりはない。……今更別の人なんてお断りだし、理解者を手放す気もないからな。

 そのあたりを一部ぼかして伝える。特に、婚約はこのままで、というところを強調して。フィオナは、安堵した感じの顔で帰っていった。……焦ったなあ。

 再びひとりになった部屋で、俺は先ほどのフィオナの言葉を思い出していた。

「家族に、逢いたいと思っている——か」

 正直な話、俺は自分の死に納得しているし、生き返ることも、再び里香()たち()に会えるとは考えてない。

 でも、どこかで引きずる気持ちや、そのよすがに縋る気持ちはあったことを、否定はできなかった。

 ……だから、終わりにしよう。何の因果か、俺はこの世界を生きている。前世を引きずり過ぎるのは、よくないだろう……。

 思いを込めれば、それは必ず届く……と言うしな。今回で最後だから、大切な家族(みんな)を想うことを許してくれ……。

 俺は、歌を歌った。それは、家族に聞かせ、フィオナにも聞かせたあの曲を。ただ、歌詞はところどころ違っている。大切な家族(みんな)との思い出を歌おうと思ううちに、少しずつ歌詞が変わっていった。

 元は同じでも、もはや3つ目の曲となったそれを、部屋の中に響く程度の声で歌う。

 俺は、この世界を生きていく。この世界で、生きていく。皆のことは、この先も忘れないだろう。でも、思い出として、しまうことを許してくれるかい? 俺はこの場所で、皆の幸せを願い、歌おう。

 その日の夜。俺は夢を見た。家族が笑っている夢を。まるで「頑張れ!」と言われているようだった。

 ——ありがとう。——さようなら。


  条件が達成されました。スキル「歌唱者」を獲得しました。これよりスキルの権能が全開放

  されます。また、付随ユニークスキル「音楽プレイヤー」が解放されました。

  スキル獲得により、備考欄の「歌好き」は消去されます。

 ついにスキルを獲得した主人公。どんな能力なのか!


 この世界では聖女様の影響で、心を込めて紡いだ言葉に込められた思いは、相手に必ず届く……という考え方が浸透しています。それもあって音楽が盛んなのです。

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