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    4-26 ダメ男は感謝を伝えられる

 気がつけばこの章だけものすごく長くなってますね。どこかで分割することも考えましたが、なんだかんだつながってる部分が多いからこのままの方がいいかな、と思ったのでそのままにしています。多分あと5話くらいで4章は終わるかと思います。

「今回の戦いに加わってくれた騎士の諸君‼ そして勇敢に戦ってくれたハンターの諸君‼ 貴君らの活躍により、魔物を始め、領内にはびこっていた悪辣なる賊どもを退治することができた。まずはそのことに感謝の意を表したい‼」

 広場の壇上で、父が声を張る。

「今回は普段よりも魔物が強く、数も多かったことを鑑み、ハンター諸君らには伯爵家より報奨金を送ることとした。ギルドに預けてあるため、後ほど受け取ってもらいたい」

 そう言うと、ハンターたちから歓声が上がった。

 ここは領都の広場。2週間以上前に父が討伐の開始を宣言した場所だ。あの時は騎士やハンターが整列していたが、今は広場の端と中央にはテーブルが並び、その上には数々の料理や酒が所狭しと置かれている。そう、今日は祝勝会なのだ。

 モルンの森の出来事から2日が経った今日、領内の賊たちは全員を捕縛したという結論に達し、魔物に関しても、賊たちが誘導したり操ったりしたことでかなりの魔物が倒されたと判断された。その証拠に、かなり数が減っていたのだ。

 賊にさらわれていた人々も、皆保護された。あの日、モルンの森以外の場所でも、巡回中の騎士が怪しげな荷車を検めたところ、そこからもさらに10人を超える人が救出されたのだ。そこに居た賊は5人ほどで、そいつらも全員捕まるか始末された。

 どうやら、アスラの町で実行犯たちが壊滅したことを知って、慌てて逃げるところだったという。俺たちが戦った方もそうだったんだろう。

 ただ、魔物を操っていた奴らについては、結局何の情報も得られなかった。俺たちが戦った賊たちの方にはいたと思われるのだが、それらしき奴と対峙したラシンに依れば、そいつは使役していたゴブリンが打ち取られるのを見たとたん、消えたという。文字通り、一瞬で。消える瞬間、足元が光っているように見えたことから、転移魔術じゃないかとのことだが……。

 そいつはいまだに見つかっていない。また、フードをかぶっていて、顔も分からないため、捜査も難航していた。

 しかし、賊自体は潰したし、当初の目的であった魔物の討伐は成ったということで、父は討伐の終了を宣言したのだった。もちろん、警戒は続けるが。

「今宵は大いに飲んで、騒いで、食べてほしい。儂からの話は以上だ。存分に楽しんでくれ!」

 そう言って父が壇上から降りると、広場にいた人は、我先にと酒や食事を求めて動き回った。広場は騎士もハンターも入り混じった状態になっている。

 そして俺は、始めは会場にいたのだが、少ししてからは屋敷に戻り、今は庭園に続くバルコニーにいた。ここに来た初日に、フィオナがいた場所だ。ここからでも、会場のざわめきは聞こえてくる。

 俺はしばらく、心を落ち着かせるようにぼうっと庭を眺めていたのだが、こらえきれなくなって立ち上がり、ある場所に向かった。そして再び帰ってくる。そしてそのまま、バルコニーにあるテーブルセットの椅子に、体を投げ出すように座り込んだ。

 ハーッ、ハーッ。

 吐く息は激しい。心臓も早鐘を打っていた。なんとか座り込んで、それが収まるのを待つ。でも、それは収まる気配を見せない。

「……レオン様?」

 その時、声が響いた。ゆっくりと振り返ってみると、声の主は……フィオナだった。ふんわりとしたワンピースを着て、立っている。そのまま、俺の近くまでやってきた。

「——大丈夫……ですか? お話ししたいことがあるのですが……」

「………」

 俺には、答えられるような余裕はなかった。でも、ゆっくりと頷いて意思を伝える。フィオナは、俺の前まで来ると——頭を下げた。

「ごめんなさい」

 俺はその姿に面食らう。

「どうして……謝るんだ?」

 そう問いかけると、彼女は顔をあげて、話し始めた。

「レオン様に叱られた後、エレンからも、たくさん怒られました。いつも明るくて、笑っていることの多いエレンが、今まで見たことないくらい、泣いてました。私は……その時にやっと、私のしたことの愚かさに気が付いたのです。……私は、かけがえのない友人を、悲しませるところだったんだと。——私はずっと、エレンたちに助けられてきたのに。それを忘れて、放り捨てようとしてしまったのだということを、あの時にやっと、気が付けたのです」

 フィオナは、泣いていた。きらきらとした涙が、頬を伝っている。そう…か……。

「気が付いたのなら、いいんだ。もう、あんなことは言わないでくれ。頼むから」

 俺の言葉に、フィオナは頷く。……よかった。

「……レオン様。お加減が悪いのですか? 顔色が、悪く見えます」

 フィオナにそう指摘されてしまった。ははっ。確かに今の俺は、ひどい顔をしていることだろうな。

「聞いているかもしれないが、俺は、盗賊と戦った」

「はい。……たくさんの人を助けたと聞きました」

「そう……だな。それと同時に、俺は……人間を殺した。この……手で」

 そう言った瞬間、あの時の、人の肉を斬る感触が蘇り、思わず口を抑える。フィオナが慌てて、背中をさすってくれているのが分かった。しばらくして、気持ち悪い感覚は収まってくれた。フィオナにお礼を言う。彼女はフルフルと首を振って、元の場所に戻った。

「奴らを倒した日は、何ともなかった。多分、まだ興奮していたのだろうな。次の日は、サクヤたちのことがあって、余裕もなかった。今日、終わったんだと思ったとたんに、湧いてきたんだ。……人を殺めたという実感が」

 そう。今になってやってきた、それ。頭ではわかっていた。奴らを放っておけば、また誰かが泣くことになると。それでも、拭うことはできなかった。前世でも、今世でも、初めての感覚。俺が初めからこの世界の人間なら、割り切れたかもしれない。でも、前世の価値観を持つ今の自分には、予想以上に、辛かった。人の多いところにいられず、トイレに何度も駆け込み、人のあまりいないこの場所にいたのだ。

 俺の慟哭を、フィオナは黙って聞いていた。やがてその場は静かになった。俺はもう、情けなさやら気持ち悪さやらでいっぱいいっぱいで、彼女の様子を気に掛ける余裕もなかった。そんな中、不意に、頭に柔らかな感触が乗る。顔をあげると、フィオナが俺の頭に、手を乗せていた。そのまま撫でられる。いつかの時とは逆になっていた。

「私には、レオン様のお気持ちはわかりません。……でも、レオン様のおかげで私は助かりました。サクヤちゃんや、他の人たちも。レオン様は、人を傷つけることが、怖いのですね。……でも、レオン様は、傷つけた人よりもたくさんの人を、救ったのです。

……私は、感謝しています。レオン様の勇気と、優しさが、逃げ出そうとしていた私を救ってくれたのですから。だから、自分を責めなくてもいいんです」

フィオナの口から一つひとつ紡がれていく言葉たちを、俺は黙って聞いていた。それらは、傷ついた心を優しく包み込んでいくようだった。

そして彼女は、その手で俺の両手を取ると、何かを唱える。すると、彼女を通して魔力が流れこんでくるのが分かった。じんわりと温かい魔力が、俺の体を駆け巡る。しばらくすると、あれほど感じていた気持ち悪さがなくなっていた。……これも、無属性魔法なのだろうか?

「レオン様。助けてくれて、ありがとうございました」

 そう話すフィオナは、とても自然な笑顔で、本物の妖精のように、美しかった。

 フィオナから伝えられた、感謝の言葉。それは俺の中にしっかりと届いていた。純粋に、俺を励まそうという思いから出てきた言葉。思い。それがはっきりと伝わってくる。……やっぱり、フィオナはとてもいい子だ。純粋で、素直で、かわいらしい女の子。ひどい目に遭ってきたのに、その心は清らかで……。

「……フィオナ」

 急な名前呼びに驚いたのか、彼女は目を丸くした。

「……もし、俺に“前世の記憶”があるって言ったら、どうする?」

 気がつけば、俺はその言葉を、口にしていた。

 つ、ついに……打ち明けるのか⁉ 待て次回!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「……もし、俺に“前世の記憶”があるって言ったら、どうする?」 黙っているのがしんどいので、秘密を話してしまって、受け止めて貰って、楽になろうとしているように思えるね。
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