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    4-24 ダメ男は盗賊と戦う

 

 カヅキの案内で、俺たちは森の奥へと警戒しながら進んでいった。先頭には兄とカヅキ。シャーロットとラシンが続き、俺とサクヤが最後尾だ。なぜかは分からないが、サクヤは俺にくっついて離れなかったので、そのままにしていた。

 それから十数分くらい歩いたところで、兄が立ち止まった。そして“ついてこい”という合図を出して、背を低くしながら進み始める。俺たちもそれに倣った。

 進んでいくうちに、俺の探知範囲にも何者かの存在が映り始める。数は……かなり多い。何人かが集まった塊がいくつもあり、その周りにもばらばらに反応がある。やがてその存在たちの姿が遠目に確認できるところまで進んだ。兄を真ん中にして、近くの草や木の陰からその方向をうかがう。

 そこは片側が高さ2メートルほどの崖になっていて、その崖の下に沿うように見た感じ2台の荷車が停まっていた。そしてその周りには、先ほどの男たちと大差ない恰好のやつらが荷車を囲むようにして居座っているのが見える。休憩中なのか、話し声も漏れ聞こえてくるが、まだ内容までは分からなかった。

 そこからさらに風下の方にそろりそろりと移動する。そして、荷車の後方の辺り、約10メートルまで近寄ることになった。荷車はやはり2台で、中には(たる)や箱が詰め込まれている。カヅキが言うには、捕まっていた人たちはあの箱や樽に詰め込まれているらしい。その周りにいる賊だが、人数は……10人以上いそうだ。おまけに、武装したゴブリンも10数体いる。

 男たちは見られていると思っていないのか、ぎゃはははは……と下品な感じの笑い声をあげていた。そして話の内容も、少しだが聞こえてきた。

「にしてもあいつらおっせーなあ。ガキふたり捕まえんのに時間かけ過ぎじゃねえか?」

「はっ! どうせ甚振ってんだろ。なんせいい女がそろってんのに味見もできねえんだ。憂さ晴らしもしたくなるってもんだろ」

「あのガキどもの母親、綺麗なのにもったいねえよなあ。……1回くらいいいだろ別に」

「何言ってんだよ。汚しちまったら値段が下がる。それにあのガキと母親は貴重な商品なんだ。なるべく傷をつけるなって話だったろ。忘れたのかよ」

 ……ちょっと出て行って殴りつけてやりたい衝動に駆られたが、兄が俺の腕をつかんで止めた。はっ!? 危ない危ない。だけど、今の会話から、さらわれた人たちがひどい目に遭っているわけではないと分かった。それにはほっとする。

 少しの間、俺たちは奴らの様子をうかがいながら、作戦を練った。あいつらはカヅキとサクヤを探しているみたいなので、もうしばらくはこの辺りにいるだろう。なんせここはモルンの森の結構奥だ。騎士もなかなかやってこないだろうし。

そして、ついに作戦決行の時が来た。兄が俺たちを見渡しながら、小声で言う。

「行くぞ。情け容赦は無用。それぞれの仕事をしっかり果たせ。……しっかり終わらせて、美味い飯でも食おう」

「「「はい」」」

「よし、散開」

 兄の言葉に応じ、俺たちは散る。そして所定の位置に着く。俺は兄の近くに、ラシンたちはやや離れたところに。サクヤとカヅキは、手錠を壊して自由にしたうえで、草むらに隠れているように言いつけた。

「大丈夫だ。絶対にふたりのお母さんを助けてやるからな」

 俺の言葉に、ふたりは頷いた。俺はすぐに移動を開始して、兄に追いついた。

 少しすると、賊の男がひとり、歩いてきた。先ほど用を足しに行っていた奴である。そして、樹々に囲まれた場所を通るわずかな時間。それが男の最期の時間になった。

 パキッ

「ん? なんだこ——」

 ザン! グラ……ドサリ。

 最後まで言葉を紡ぐことなく、一瞬のうちに男の命は刈り取られた。これでひとり。

 男の足元に隠れていた俺が氷球を転がす。それを踏みつけて下に意識がいった瞬間に兄が一太刀で斬る。単純だが薄暗い森の中では効果が高い。その後もさらにひとりを殺した。これ以上は警戒されそうだということで、戻る。荷車の方では、仲間たちがもう5人以上旅立ったことを知らないやつらが居た。………ここからが本番だ。むりやりに心を落ち着かせるように、息を吐く。兄は、ラシンたちに合図を送ると、クラウチングスタートのように、身体を沈める。すると、兄の体は光に包まれ始めた。それに覆われた体の表面には、電光が走っている。

「作戦、開始だ」

 そして兄の体が、消えた。そして次の瞬間、賊の悲鳴が聞こえてきた。

「ぎゃあ!?」

「な、なにが……い、痛ええ!」

「お、俺の腕がああ!?」

 雷光に身を包んだ兄が、縦横無尽に走り回りながら、賊たちを翻弄していた。雷で焦がされ、腕を斬られ、悲鳴をあげながらのたうち回っている。……見ている場合じゃない!

 俺はすぐに草むらを飛び出し、戦場に飛び込む。そして1直線に荷車に向かった。別方向からも、ラシンとシャーロットがかけて来るのが見えた。俺は進路上で何が起きているのかわかっていない様子の賊のひとりに、氷を纏わせた剣を叩きつける。剣を握る腕から、人体を穿つ感触が伝わってくるが、歯を食いしばってそのまま振り切った。斬った相手を気にすることなく、荷車の前にたどり着く。荷車の所には、何人かの賊がいたが、いずれも怪我を負っている。兄は荷車近くの敵を重点的に狙ったのだ。あと、荷車の車輪が壊されているのは移動できないようにするためだろう。

 俺は次々に、負傷している賊たちの命を奪って行った。剣で、魔法で。自らの手で命を絶つ感触に、辺りに漂う血臭に気持ちが悪くなり、体が止まりそうになるが、止まるわけにはいかなかった。

 もうひとつの荷車の方では、ラシンとシャーロットが戦っていた。その荷車の上では、モクモクと赤色の煙が出ている。あれは兄がシャーロットに渡していた発煙筒みたいな魔道具か。きっといくらかもすれば、あれを見た他の班の騎士が来るはず。それまでは、なんとしてでも持たせる!

「なめんじゃねえぞ、このガキがあ‼」

 見てみると、怒りを顔に(にじ)ませた男が3人と、さらにゴブリンが10体向かってきていた。……考えてる暇もない! “纏”‼

 心の中で唱えると、体に力が満ちる感じがしてくる。魔装・纏は、パッシブで少しだけ身体能力が上がり、魔力制御の効果がある。そして任意で、身体能力をさらに引き上げられるのだ。

 俺はすぐさま男たちに向かって“ウィンドボム”を投げつけ、男たちを吹き飛ばして距離を取る。そしてやってきたゴブリンたちには“ウィンドアロー”を叩き込んだ。それによりゴブリンたちの動きが少しだけ鈍る。俺はすぐさま剣に風を纏わせ、振る! 生み出された風の刃は、ゴブリン4体を真っ二つにする。残りの6体が接近してくるが、俺は氷球をいくつも地面に転がし、動き回った。ゴブリンは俺を追おうとするが、氷球に足を取られたり、”纏“で上がった速さについて来れない。そのまま動き回り、凍り付いた奴を斬り、孤立したやつを斬り、少しずつ数を減らしていく。

 そこに、先ほど吹き飛ばされた男たちが戻ってきた。だが、ひとり倒したのかふたりになっている。どちらも目をギラギラさせて襲い掛かってきた。俺は攻撃をいなすと、男の横をすり抜けざまに斬りつける。持っている槍を振るおうとしているゴブリンに魔法を放ち、動き回ってかく乱する。

『ひとりで多数を相手にする時は、絶対に囲まれないようにしろ。動き回ってかく乱して、的を絞らせるな。そして相手よりも早く行動して、攻撃させないようにするんだ』

 ダンジョンに潜った時の、兄の言葉がよみがえる。うまくいってるかなあ!? 

 兄は、少し離れたところで10人近い賊を見事に翻弄している。賊たちは手も足も出ていない。

 ラシンとシャーロットは、背中合わせでお互いを補うように戦っている。

 俺は、動きながらも、残りのゴブリンを倒し、荷車まで下がる。前にいるのはふたりだ。

 その時、突如として後ろの荷車の中にあった反応が動き出し、俺の後ろから飛び出した‼ とっさに横に動いたが、腕に痛みが走る。見てみると、腕からは血が出ていた。そして賊は3人に増えている。……荷車の中に潜んでやがったのか‼

 その賊は俺に再び剣を振り下ろそうと動く。残りのふたりも迫ってきている。やべえ⁉ 囲まれる!

 俺はすぐさま”ウィンドボム“を現れたばかりの男に放とうとした、その時‼

「やああああ‼」

 ずいぶんとかわいらしい声がしたと思ったら、その男の頭めがけて何かが飛びだしてきて、持っていたものでそいつを思いっきり殴りつけた‼

「ガッ……!」

 不意打ちの攻撃に男はよろける。そして男を殴りつけたそれは、男から飛びのいて、地面に着地した。

「サクヤ……⁉」

 男を殴りつけたのは、サクヤだった。崖の方から回り込み、自分の手を戒めていた手錠で男をぶん殴ったらしい。とにかく、その隙を見逃さず、俺は男のどてっぱらに魔法をたたきつけ、すぐさま生み出した風の矢で残りを牽制。できた間で剣を構えなおして、賊ふたりを迎え撃つ。本音を言えば、さらに魔法で牽制して、ひとりずつ相手をしたいが、もう魔力が心許ない。でも、なんとかするしかない‼

 剣に魔法を纏わせるのはやめ、相手をにらみつける。男たちは俺が疲れていると見たのか、ふたり同時にかかってこようとした。……だが、まだやれることはある!

 俺は氷球3つほど出して相手の足元に投げつける。地面にあたって割れた凍球は、すぐさま周囲を凍らせた。賊も思わず足を止める。その隙にもうひとりを……と思った瞬間、そいつはつんのめったように転んだ。その足元にはサクヤがいる。転ばせたのか? 移動したのが見えなかった。

 俺は無防備に背中をさらす賊の首を落とすと(吐き気がしたが無視だ無視!)、足止めした賊を見る。そいつは氷地帯を避けてこようとしたようだが、片足が氷に巻き込まれていた。俺はすぐさま近寄る。剣を構えて。

「や、やめ——」

 なんか言ってるそいつを斬りつける。そのままどさりと崩れ落ちた。周りには、賊も魔物もいない。何とかなったか?

「うお⁉ 何しやがる!」

 ヒュン‼

 突然声がしたと思ったら、俺から離れたところに矢が突き刺さった。見てみると、やや離れたところに男がいて、そいつが矢を射てきたらしい。だけど、男の腕に何かがくっついていて、それで狙いがそれたようだ。そして、男にくっついているのは、カヅキだった。

「あいつ!」

 周りに敵がいないことを確認した俺は、すぐさまサクヤを抱えて走り出した。置いていくわけにもいかない。サクヤはどうやったのか身軽な動作で、俺の背中にくっつく。カヅキがくっついていたら魔法は使えない。剣でやる!

 しかし、駆けつける前に男がばたりと倒れた。近づいてみると、そこにはその小さな体全体を使って、柔道の技のように男を締め上げているカヅキの姿があった。恰好から見るに、どうやら頸動脈を抑えたっぽい。男は青い顔で気絶している。こいつは……一応捕虜にするか?

「うおおお‼」

 カヅキに話しかけようとしたその時、新たな一団が現れる。すわ盗賊のやつらか⁉と思ったら、それは騎士たちだった。どうやらあの煙を見て駆けつけてくれたようだ。

 それからは早かった。騎士たちが現れたことにより、わずかに残っていた残りの賊たちもあっという間に倒された。なお、兄は先ほど翻弄していた奴らをしっかり全員倒していた。

 そうして、モルンの森における戦いは終わりとなった。荷車の荷物に押し込められていた人たちは全員救出することが叶い、サクヤたちも母親と再会することができたのだ。


 そんな戦いが終わった、次の日。ベッドで目を覚ますと、なぜか隣に白い髪の女の子が寝てました。………どういうこと?

 ちなみに、お兄さんひとりで行った場合は、まず荷車の中にいる賊を倒した後に荷車の周りにいる賊をあの雷を纏う技で一掃し、そのまま残りも……という感じでした。

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