4-23 ダメ男は兄と共に戦う
賊が出たりしているので今の騎士団はかなり忙しいです。新人でも使えるなら使います。
翌日。俺は再びモルンの森の中にいた。少しでも慣れている所での捜索及び警戒の方がやりやすいだろうという父の判断だ。しかし、同じ班だったカイルたちは未だ療養中だ。そしてひとりで捜索したりは無理だ。だから新しい班となった。それが誰かと言うと……。
「まさかあのカリオン様と一緒に戦えるなんて……。光栄です‼」
「はいはい。分かったから周りをちゃんと見てよ、シン。どこから襲ってくるかわかんないんだから」
「ははは。俺も共に戦えてうれしいぜ。ふたりとも強いと聞いてるからよ」
そう、兄とラシンとシャーロットであった。
なぜこうなっているかと言うと、ここ、モルンの森は、“賊が潜んでいるかもしれない地域“のひとつだからだ。とは言ってもかなりはずれの方にあるのだけども。今は他にいくつもある場所で一斉に山狩りや森狩りを行っているわけだが、騎士の数も無限じゃない。そして範囲のはずれにあるモルンの森は他よりも騎士が少ない代わりに、少数精鋭になった。その筆頭が兄と言うわけだ。
ラシンたちは領都に丁度いたのと、兄がふたりの強さを見て父に推挙したからだと本人が言っていた。どちらもアスラの町では騎士にも負けぬ活躍をしたことで、既に特別報奨の話もあるらしい。もしかしたら将来的には伯爵家の騎士団に、という思いもあるのかもしれない。アルバート伯爵家では、普段の任務や魔物討伐で成果を出して騎士爵の位をもらった人もいくらかいる。武功をあげて騎士爵になりたいと考えているラシンには魅力的かもな。
俺も負けてはられないな。足手まといにはならないようにしないと。
森に入ってから1時間ほど経つが、戦闘はまだ数回程だ。今回は俺とラシンが前衛。兄が中衛でシャーロットが後衛という布陣になっている。人数は少なくなったけど、今のところうまく回っていると思う。何より、兄の力が凄い。俺とラシンが押さえこんでいる間に、素早く回り込んで一閃するだけで、だいたい終わってしまうのだから。やっぱすごいわ。
でも、兄は全ての戦いに加わるわけではなかった。何度かは様子見に徹している。多分俺たちだけでも戦えるか見ているのだろう。兄は結構人を育てるのが好きなようだ。ラシンたちも気に入っているみたいだし。
魔物を俺が察知して、現れた魔物たちに魔法を叩き込んでひるませてから、ラシンと一緒に切り込む。シャーロットは魔法を放ちながら遊撃的な攻撃をする。俺が後衛に回ることもあったが、何とか大きな怪我をすることなく戦うことができた。
さらに数時間が経ち、森の中で昼食を交えた休憩を取った。ラシンは兄にしきりに話しかけていて、シャーロットが呆れた感じでそれを嗜めている。兄も楽しそうにしていたし、俺も何だか穏やかな気分になっていた。……なんかいいな、こんな時間。
しかし、休憩を終えようとしたその時、兄の「静かに‼」という声で一気にその場に緊張が走ることになった。俺は剣をもって、いざとなれば魔法を放てるように兄が指し示した方に意識を向ける。俺の探知圏内にも反応が現れる。数は3。魔装・纏のスキルを得たからか、探知範囲は50メートルほどまで増えていたが、まだまだ兄には及ばないか。
見る見るうちに反応のひとつがこちらに近づいてきて、正面の草木が揺れる。
ガサガサッ! ガササッ!
「た、助けてえ‼」
やや高めの声が響いて、草むらから出てきたのは………10歳ぐらいの子供だった。白い髪に、緑の目をしている。身に着けているのは、薄汚れたシャツとズボン。顔も汚れていた。
飛び出してきた子は俺たちの姿を見るや、ダッと一直線に走り——なぜか俺にしがみついた。
「ええ⁉」 どゆこと⁉
しかし考える間もなく再び草むらが揺れ、現れたのはふたりの男だった。どちらもハンターっぽい恰好をしている。
「待てやこのガキがあ⁉」
「逃げられるわけが、…っ⁉ なんで騎士が⁉」
ふたりは俺たちの姿を見たとたん、顔をひきつらせた。そして次の瞬間、その片方が吹き飛んだ。——文字通り、上半身を吹き飛ばして。そして残った下半身が地面に落ちる前に、もうひとりもまた剣によってその命を刈り取られた。
あっという間に出来上がった、ふたつの亡骸。それをやったのは、兄だった。
「あ、兄上。これは……」
「レオン。その子を見てみろ」
「え?」
俺は脚にしがみついているその子——多分男の子——を見る。そして気が付いた。……その子の両手には、手錠のようなものがはまっていたのだ。……⁉
「まさかこの子は!」
「十中八九、さらわれた子だろうな。そんで、今のやつらは賊の生き残りだろう。……この近くにいるのかもしれねえな」
兄がそう言ったとたん、俺にくっついていた子が、声をあげた。
「助けて! 助けて下さい‼ 兄様が、兄様がまだこの先に‼」
そう言いながら涙を流す。
「よし‼ 行くぞ。おまえ、案内できるか?」
そう兄が問いかけると、男の子は泣きながらも、こくん、と頷いた。
「よし、レオン。その子を抱えていくぞ。ふたりも来い!」
「‼ はい!」
兄の号令一下、俺たちは森の奥へと踏み出した。背中に担いだその子の案内で、森の中を進んでいく。
やがて、探知範囲に反応が現れた。数は2。同時に、金属同士がぶつかり合うような音も聞こえた。
そして目にしたのは、さっきの子と同じくらいの年の男の子が、ひとりの男と戦っている様子だった。その子は、黒い髪に緑の目をしていて、やはり、腕には手錠のようなものがかけられていた。
たいして男の方は、ハンターらしき格好で、剣を持ちその子を甚振っている。その子は手錠を使って必死にガードしていた。
「兄様‼」
俺の背中から発せられた声に、その子の意識がこちらへと向いた。その瞬間、男の剣が振り下ろされようとする。
「……⁉ 危ない‼」
「ッ⁉ しまっ……⁉」
振り下ろされる剣。しかしそれが当たることはなかった。
バシイイィィィィン‼
一閃の稲妻により、男の上半身が消失。少しの後、残った体の半分はドサリと地面に落ちた。男の子は何が起こったのか分からない様子で、ポカンとしていた。しかし、俺に担がれている子の姿を見つけると、「サクヤ‼」と言って駆け寄ってきた。サクヤと呼ばれた子も、「兄様‼」と言って俺の背中から降り、飛びつく。サクヤと呼ばれた子は涙ぐんでいた。
「ダレイムとモナリオは、周囲を警戒しててくれ。俺はこいつらに聞くことがある」
「「は、はい‼」」
ふたりは間を取って、周囲を警戒し始める。そして兄は、抱き合っているふたりの男の子のそばにやってくると、腰を折ってふたりと目線を合わせた。
「俺の質問に答えてくれ。……ふたりは、盗賊に捕まっていたのか?」
その質問に、先ほどまで戦っていた方の男の子が、「……そうです」と答えた。
「この近くにいるのか? 数はわかるか?」
兄はその子にいくつもの質問を重ねていき、男の子もまた、少し詰まる部分はあったものの、答えていった。
男の子——カヅキの話を纏めると、カヅキとサクヤは母親と共に雇い先に向かっていた所を賊に襲われて囚われの身になった。そしてこの森の奥にある洞窟に閉じ込められていたらしい。この1ヶ月ほどで自分たち以外にも30人以上もの女性や子供が連れ去られては運ばれて来ていた。
しかし少し前から盗賊たちが慌てはじめ、今日、別の所に連れていかれそうになった。でも、連れていかれる直前、母親がふたりを逃がしてくれた。そしてふたりは逃げたのだが、盗賊に追いかけられ、カヅキが時間を稼ぐために戦い、サクヤだけがさらに逃げた。そして逃げている途中で俺たちの気配に気が付いたサクヤが、助けを求めた。……と。
つまり、この先に賊の残りが居るってことか。しかも、さらった人たちを連れた状態で。
巡回の時にみた、あの男の子の姿が頭をよぎる。できることなら……。
「兄上。どうしますか?」
助けに行こうと言いたいのをこらえて、兄に言葉を投げかける。一番現場にいるであろう兄の意見を聞くべきだと思ったのだ。きっと賊は大勢いるし、人質だっている。むやみに突っ込めるもんじゃない。
兄は、しばし黙った後、ラシンとシャーロットを呼んだ。そしてこの場にいる全員が集まると、兄は重々しく口を開いた。
「お前ら、人間を殺せるか?」
とても真剣なトーンで語られた言葉に、俺たちは押し黙る。
「俺としては、すぐにでも賊どもを見つけ出して、そいつらを始末し、領民たちを助けなくちゃいけねえ。そうなれば、賊をやるのと同時に、領民たちも保護する必要がある。本音を言えば、数は多い方がいい。でもな。おまえらはまだ、ひとりも殺したことがないだろう?
アスラの町では奮戦したみたいだが、魔物相手だったしな。レオンは賊とやり合ってるが、どれも無力化しただけで、殺しちゃいねえ。もし賊どもと戦うなら、容赦なく殺す必要がある。そうしないと危険だからだ。
戦いになったら、俺はおまえらに構う余裕はねえ。自分で何とかしてもらわなきゃなんねえ。その時、戦った賊の命を奪えないようじゃ、ただの足手まといだ。
聞いた話、やろうと思えば俺だけでも十分にやれそうだしよ。おまえらはここに残ってもいいが、どうだ?」
最後の「どうだ?」という言葉が、俺の覚悟を試すかのように、重くのしかかった。
確かに、そうだ。領主館での戦いのとき、俺は殺そうと思えば殺せたはずだ。……でも、しなかった。いや、できなかったんだ。この世界は、優しいだけじゃない、そのことはわかっていたはずなのに、俺は、できなかった。おそらく、前世の“人殺しは悪いことだ”という価値観を、俺はまだ引きずっているんだ。だから、やれなかった……。
冷静になったことで、急に鼻に突くようになったのは、兄が殺した賊の亡骸が発する臭い。生臭い血と焼け焦げた人体の放つ、吐き気すら覚える臭気。それが体に纏わりつく。正直に言えば、行きたいとは思えなかった。そんなことをしたくないと、心が叫んでいた。
でも。……でも‼
頭に浮かんだのは、荒らされた町。悲しむ人々。そして、全てを諦め、身を投げ出そうとしたフィオナの姿だった。……あんなことを、許しちゃいけない。私は、逃げない‼
こぶしを握り締め、歯を食いしばって、俺は兄を見返した。やってやる‼
「行きます。こいつらを、野放しにはできない!」
覚悟を決めた瞳で、兄を見る。弱気な部分は、無理やり抑え込んだ。
「俺も行きます。あいつら、許せません‼」
「私もです。どうせいつかは通る道。乗り越えて見せます!」
ふたりもまた、覚悟を決めたらしい。その目には、炎が燃えているかのようだった。
兄は俺たちを見渡してから、にいっと笑う。
「よし。じゃあ行こうか。賊どもをひとり残らず地獄に送るぞ」
「「「はい‼」」」
賊に気づかれないよう、やや小声で返事をする。惨劇の残り香。絶対に潰してやる‼
ついに大きな決断をした主人公。森の奥では、何が起きるのか⁉




