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    3-10 ダメ男は試験を受ける②

 戦いのシーンはあまり得意ではないので、変なところもあるかもしれませんが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。

 昼を挟んでから、体育の実技試験になる。内容は剣を使った模擬戦だ。10人ずつのグループに分かれて総当たりで戦い、その成績で点数をつける。これは騎士科だけで、他の学科だともう少し易しい内容らしい。魔法の試験は魔術科が一番難しいという。

 そう言えば、食堂でお昼を食べているときに、魔術科の魔法実技の試験で軽い事故が起きたとか言ってたな。何があったんだろ?

 時間はあっという間に過ぎて、試験の時間になった。試験会場に張られていた紙の通りに10人グループになる。俺を含めて男女比は8:2か。最近は女性騎士も増えてきていると聞いた。俺もそれはいいんじゃないかと思ってる。前世でも、女性の警察官や自衛隊員にしかできないこともあったしな。

 まあそれは置いといて、目の前の試験だ。対戦表が提示される。見てみると総当たりになるように対戦のカードが割り振られていた。

「それでは対戦表の通りに戦っていくように。魔法の使用は禁止。使っていいのは武器と体術のみとする。勝敗は武器を手放したときか、相手が降参した時だ。では、始め‼」

 担当教師の合図とともに、俺は対戦相手と向かい合う。今から9連戦か。やってやる‼

 最初の対戦相手は同じクラスの男子生徒だ。名前は……ニックだったか? お互いに一礼してから得物を構える。俺は木剣を正眼に、ニックは片手で剣を持って構えた。おそらく空いた片手には本来盾が来るのだろう。

 少しの間の後に、ニックが斬り込んできた。俺は落ち着いて剣でいなす。2度、3度と攻めて来る。それをすべていなし、隙ができたところで小手を打った。剣を取り落としたことで俺の勝ちとなる。

「ありがとうございました」

 礼をして模擬戦を終える。次の対戦相手はまだ終わっていないようなので、少し待つことにした。

 ……屋敷にいたときに騎士のみんなと訓練したのが生きてるな。いくらか余裕をもって勝つことができた。この調子で頑張ろう。

その後は5人と戦ったが、4試合で勝ち1回負けてしまった。負けた1回は相手の力が強く、剣を跳ね飛ばされたことによる敗北だった。でも、正直危なかった試合は他にもあったので、気は抜けないな。

7人目の相手は女子生徒だった。赤銅色の髪をポニーテールのように束ねている。彼女の得物は細い剣で、レイピアとか呼ばれるものだろう。構え方は前世で見たフェンシングのようだった。

試合開始と共に、素早い剣戟が俺を襲った。今までのものとは段違いに早い。こちらも剣でいなし、攻撃の隙をうかがう。焦るな。焦るな。

やがて訪れた小さな間。それを見逃さず俺は攻撃をしかけ、彼女のレイピアを狙ったが、逆に攻撃をいなされてしまい、のど元にレイピアを突きつけられてしまった。……やられた。

「まいった。降参だ」

2つめの黒星になってしまった。俺も少しばかり自信はあったんだが、やっぱり強い奴もいるんだな。慢心はいけない。改めてそう思った。

その後の8,9人目は危なげなく勝てた。面白かったのはふたり目の女子生徒との試合で、剣だけでなく蹴りを入れての攻撃をしてきたことだった。だけどうまくかわし、勝利することができた。さて、次が最後の試合か。相手は男子生徒。俺と背は同じくらい。紫色の髪をしている。武器は剣を使うようだ。礼をしていざ試合開始……と思ったら、相手は構えない。いぶかしがっていると、そいつは俺に話しかけてきた。

「またお前とやり合えるとはな。前回みたいなふざけた真似をしてくれるなよ‼」

 そういうと、切りかかってきた。振りぬかれた剣を立ち位置をずらして躱す。ヒュンという風切り音が耳をかすめた。俺もまた剣を振るう。しかし、素早く構えた相手の剣に受けとめられた。2度、3度と打ち合う。……すごい気迫だ。

 少年は、メラメラと燃えるように瞳をたぎらせて攻撃を仕掛けて来る。一撃一撃に力がこもっている。まるで怒っているようだ。レオンと何か因縁のある相手なのかもしれない。俺はそれをいなし、避け、牽制しつつ、チャンスをうかがう。

 更に数度打ち合ってから、俺は後ろに飛んで距離をとり、剣を構えようとした。相手は距離を取らせまいと距離を詰めて剣を振ってくる。俺は少年に接近するとともに剣で攻撃をいなすと同時に少年の腕を取り、足を払った。次の瞬間、勢い余った彼はくるりと体を回転させ、地面に背中から落っこちた。俺は腕を取った際に手放した剣を拾うと喉元に突きつける。これは俺の勝ちかな?

 地面に転がったままの少年は、何が起きたのかわかっていなかったのか、少しの間呆けていたが、状況を察すると「まいった」と言った。だが、それで終わりではなかった。俺たちの勝負を見ていた先生が、これは引き分けになるという判断をしたからだ。

「ダレイムは見事に投げられて体勢を崩していた。あれは誰がどう見てもアルバートの勝利で間違いないだろう。……だが、アルバートは投げる際に剣を手放していた。今は1対1だったからよかったが、複数を相手にしていた場合、それは悪手でしかない。初めに説明したルールでも、“勝敗は武器を手放したとき”というのがあるのはそのためだ。……よってこれは引き分けとする」

 この先生の言葉に、俺はハッとなり、納得した。……確かにいつでも相手が1対1で来るとは限らない。大勢を相手にするような状況で、自ら武器を手放すなんて危険極まりないな。

しかし、対戦相手は不服なのか、先生に食って掛かっていた。自分の勝ちにしろと言っているのか?

「先生‼ たとえルール違反であったとしても、俺は見事にしてやられました。それなのに引き分けは納得がいきません‼ 自分の負けでいいですから‼」

 ……違った。むしろ完全に負けたのに引き分けはおかしいと言っていた。そういえば、試合の始めに「ふざけた真似をするな」と言っていたな。前の試験で対戦した時に、レオンはちゃんと戦わなかったりしたのかもな。それに怒っていたのかも。ならつじつまも会うか? 

 そしてこいつはどうやら、曲がったことが嫌いな質みたいだな。言動や今の態度でなんとなく察することができた。

 結局勝敗は引き分けのまま動かず、俺は7勝2敗1引き分けというのが試験の結果となった。俺としては予想以上の結果で、これでまた目標に近づけたと思う。後は成績が出るのを待つばかりか。

 試験が終わったことで解散となり、俺は荷物を取りに教室に向かおうかと思っていると、声をかけられた。相手は試験で最後に戦った男子生徒だった。

「あのときはすまなかった‼」

 なんだと思う間もなく、謝罪された。何事?

「本当にすまなかった‼」

「ええと……」

困惑する俺をよそに、重ねられる謝罪。……目の前に相手は頭を下げたままだし、どうしたらいいんだろう?

「もう‼ それじゃ何を謝ってるのか分からないでしょ‼ そこも説明しなきゃ」

 そんな俺に助け舟を出してくれたのは、これまた試験で戦ったレイピアを使っていた少女だった。

「うん? ……ああ‼ 確かにそうだな。……模擬戦の前に、お前を侮るようなことを言ってすまなかった。それを謝罪したい。許してもらえるだろうか?」

 そういうと、再び頭を下げる。……ああ。あれか。半ば忘れかけていたし、前のレオンがやってたことを想えば怒って当然とも言えるしな。でも、受け入れないとずっと頭下げてそうだし、受け入れようか。

 謝罪を受け入れると伝えると、「ありがとう。感謝する」といって手を取られぶんぶんとふられた。かなり素直な性格らしい。中々手を放さないのでどうしたんもんかと思っていると、「いい加減にしなさい。このばかシン‼」と言う言葉と共に男がのけぞった。少女が少年になにかしたようだけど、俺からは何をしたか見えなかった。でも手は離れたな。

「シャル‼ いきなり何をするんだ⁉」

「シンがうっとおしくて相手が迷惑そうにしてたからよ。その熱くなる癖、さっさと直した方がいいんじゃない?」

「む……う。それを言われるとな。重ね重ねすまなかった」

「気にしてないからいいよ」

 聞いてみると、少年が怒っていた原因は、前回のテストで戦った時に、レオンが明らかに手を抜いて戦っていたことによるものだったことがわかった。

 少年の本名はラシン=シ=ダレイムといい、シンはあだ名みたいだ。彼の家は騎士爵で、ラシンは武勇で爵位を手に入れた父のように自分も剣の腕で騎士爵を手に入れたいと願っているのだとか。それで、立派な騎士の家柄であるのに、まじめに戦わないレオンに腹を立てたということだ。ちなみに、少女の方はシャーロット=モナリオと言って、ラシンの幼馴染でお目付け役みたいなのだと本人が言っていた。素直で真っ直ぐなラシンと落ち着いた感じのシャーロット。いいコンビだと思った。

 こんな感じで新しい縁ができたりもしながら、期末試験は終わりを迎えた。これからは夏休みが始まる。でも、俺のやることは変わらない。目標に向かって進んでいくだけだ!


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