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1-2  私は誰だ?

 次に目が覚めると、朝だった。まだ少しくらくらする。体もだるい。だけど、分かったこともあった。

 まず、私はどうやら、今話題の「異世界転生」をしたようだ。前世の記憶付きで。死ぬまでの記憶がある上に、こうして他人の体で生きているのだから、そうとしか考えられない。眠っている間に、この身体の持ち主の記憶が流れこんできたので、それを整理して、分かったことがある。

 この身体の持ち主は、「レオン=ファ=アルバート」というようだ。14歳の少年で、学園の3年生。中学生である。まあつまり、前世の自分の半分以下の年齢になってしまったわけだ。前世の娘と同年代になってしまった。なんだか複雑な気分。どうやらこの男、階段から足を滑らせてその時に頭を打ったらしい。そして一週間の間寝たきりだったのだという。そして、どうやらその時に私と人格が入れ替わったというべきか、それとも私が彼の記憶を引き継いだというべきなのか、まあ、前世の記憶がよみがえったというわけらしい。あと、さすがは異世界と言うべきか、この世界には魔法があるようだ。そもそも、通っている学校は、“魔法学園”と名がつく、魔法を学べる学校だった。漫画やアニメを楽しんできた身としては、やはり魔法と聞くと、年甲斐もなく心が躍ってしまう。……まあ今は中学生だが。この身体の持ち主、レオンも魔法が使えるようなので、後で試してみよう。

 また、レオンの家――アルバート家はいわゆる貴族の家だった。しかも伯爵家。まあ、個人の部屋がこんなに広いうえ、メイドがいる時点でそうじゃないかと思ってたが。

トントン。

 廊下へと続くドアがノックされる。返事をするとふたりの人物が部屋に入ってきた。

「昨日はいきなり倒れたからびっくりしたぜ。もう大丈夫なのか?」

 そう聞いてきたのは、昨日最初に私に声をかけてきた青年。レオンの記憶に依れば、彼はカリオン=ファ=アルバート。レオンの兄にあたる人物のようだ。性格は明るくて豪快。17歳にして剣も魔法も使いこなす人物で、将来の騎士団長候補とすでに注目されている有望株。鍛え上げられた体に、精悍な顔つき。……つまり、優秀な兄だな。

「まだ寝ていなくて大丈夫なのですか?」

 そう言って心配そうな顔を浮かべるのは、レオンと目の前の兄の母親であるアニエス=ファ=アルバート。淡い金髪に明るい茶色の目をした美女だ。高校生の子供がいるとは思えない若々しい見た目である。ちなみに、兄は茶髪に明るい茶色の目をしている。そして私は、鏡を見た結果、淡い金髪にも見える明るい茶色の髪に、赤い目という容姿になっていた。まだ成長途中の少年の顔。幼さがまだ少し残るが、成長したらイケメンになりそうだった。……というか、兄を幼くしました、という感じだった。

 あと、今は仕事中の父であるジルベルト=ファ=アルバートを入れた4人がこの家の家族ということらしい。他にも、親戚がいるようだが、今は考えないようにしよう。とりあえず、2人とも私を心配してきてくれているのだし、ちゃんと答えないと。

「兄上。母上。心配をかけてしまい、申し訳ありません。もうだいぶ良くなりました。でも、大事をとってもう少し休むことにします」

 そう言うと、ふたりは安心したのか、何かあれば呼ぶように言うと部屋を出て行った。入れ替わりで今度はメイドが入ってきた。寝たきりだったせいか、まだうまく体を動かせないので、その世話をしてくれるメイドである。世話をされるのは、前世の病院でもあったので、あまり抵抗はなかった。水を頼んで、喉を潤した後、少し頼みごとをすると、彼女はすぐにそれを持ってきてくれた。準備が終わったところで、彼女には「もう寝るから」と言って部屋を出てもらった。ちなみに呼びたいときは、ベルを鳴らせばいいようだ。

 ふう、と息を吐いた私は、先ほどメイドが持ってきたものに向かい合う。それは、ノートとペン、サイドテーブルの3つだった。

 先ほども、昨日も、私はこの家の家族や、メイドたちと話したり、過ごしたりした。彼らは、私を「レオン」だと思って接しているのだろう。本当は「藤谷慎吾」なのに。「レオン」の記憶を持つとはいえ、本人ではない私が、それをしてしまうのに、少し生きづらさを感じた。それはやはり、まだ私自身がこの状況を受けとめきれていないからだろう。まだ頭の中には、前世の思い出や記憶でいっぱいだ。私はここにいるべき人間ではないという思いもある。……でも、現実としてこうなっている以上、もう私は「レオン」として生きていくしかないだろうな。家族も、使用人も、レオンを心配していた。もし彼が死ぬようなことになった場合、彼らは確実に悲しむだろう。そんな姿は見たくない。だから、決めた。本人には申し訳ないが、この身体で生きよう。今度は家族を悲しませることがないように。……まさか異世界でそれをやることになるとは思わなかったけども。

 そこで必要になったのが、先ほどの物たちだ。ノートを試しに手に取って開いて見る。前世で使っていたものよりも、少し茶色っぽい色だが、それ以外は普通のノートだ。ペンは鉛筆のように見える。試しに書いてみると、まんま鉛筆だった。どうやらこの世界には、製紙技術があるようだ。そうじゃなきゃ、こんなノートは作れないだろう。食事もおいしかったし、この世界は、時代的には中世だが、文明レベルは近現代なのかもしれない。

 話がそれた。ノートやペンで何をするか。それはもちろん、前世のことを書き写すためだ。小説ではよくある知識チートなんてものができるかは分からないが、覚えているうちにできる限り書き写しておこうと考えたのだ。それに、かつての家族との思い出を残しておきたいという思いもあった。

 それから、時間の許す限り、私はノートに向かった。思い出せるものはなんでも書いた。仕事のこと、家族のこと、テレビで得た知識、社会に関することから、果ては好きだった歌の歌詞まで、どんどんと書いた。特に歌の歌詞については前世では歌うのは好きだったこともあって、かなりの数になった。

 出せる分だけ書き出していたら、あっという間に2日ほど経っていた。ふう……。すぐに思いつくのはあらかた出したかな。後は……まあ、必要になることがあれば出てくるだろう。

 ベッドにゴロンと寝ころびながら、ノートに向かい合っていた時のことを思う。

 とりあえず、このままこの世界で暮らしていくしかないのだろう。この身体の持ち主であるレオンにも、彼を心配する家族がいるわけだし。自分も前世では家庭を持っていた身として、彼らを悲しませたくないしな。

さてと、これから生活していくにあたり、レオンのこれまでの人生の記憶を改めて確認する。学園のこととか交友関係など、知らないといけないことが多すぎる。初めは違和感があったが、なじんできたのか意識しなくてもそれが浮かぶようになっていた。多分体が覚えているのだろうだけど、整理しておくに越したことはない。また、なじんだからなのか、口調だったり、考え方が体の年齢に引っ張られているような感じがする。気をつけないとな。

そして、このままレオンとして生活する場合、絶対に取り組まないといけないことがあることがあることがわかった。それは……まともな人間になることだ。


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