3-2 ダメ男は鑑定を使う
(お、薬草発見。根っこまできれいに採って……と。お。向こうの方にも生えているな。検証もかねて、薬草以外にもいろいろと採ってみよう)
今日は学園が休みだったので、俺は早速、ハンターの仕事を行っていた。今回の仕事は、前回と同じ薬草の採取だ。前回よりも王都に近い森に分け入って、薬草を探す。また、薬草以外の草や木の実なども採取していた。やがて収納がいっぱいになった感覚があったので、採取をやめて森の中にある少し開けた場所に出ると、収納の中身を取り出した。薬草、石、木の実、薬草ではない草。ひとつずつ並べてから、まずは薬草を手に取って、唱える。
「鑑定」
すると、薬草の情報が提示された。
名称:ジンズー草
説明:葉の部分は清涼感のある香りが、根も独特の香りを持つ植物。特に根の香りを魔物が嫌っている。葉も根も加工すると薬の材料になる。食用可能。
「ううむ。まあこんなもんか」
そうつぶやくと、薬草改め、ジンズー草を置く。今俺がやっているのは、いろんなものを鑑定して情報を得ることだ。そもそも、なぜこんなことをやっているのかというと、それはハンターになった日まで遡る。
「はあ~。今日は大変だったな」
ベッドに寝ころびながら、そうひとりごちる。手には、今日もらったばかりの証明書があった。
ハンター名 シンゴ (レオン=ファ=アルバート)
ランク ストーン
状態 健康(疲労:低)
称号 「転生者」
魔法 「風魔法」 「氷魔法」
スキル
体力 D
魔力 E
備考 「歌好き」
提示されるステータスに変わっている所はない。状態の所に“疲労”というのがあるくらいだ。でも、分からないことだらけだ。「ランク」や「魔法」はわかるが、「称号」や「備考」ってのは何なんだ?
物は試しとステータスが映っているパネルをタブレットの要領で操作できないかと思ったが、触ることがまずできなかった。いくつか思いついたことをやったがうまくいかず、最後に思いついたのは異世界系では定番の「鑑定」をすること。もしかしたらスキル扱いかもとは思ったが、試しに「称号」の部分を見ながら”鑑定“と唱えて見たら、なんとできたのである。だが結果は、
称号:所有者の名誉・名声などを表す
という何とも微妙なものだった。なお、「備考」も同じような感じで、
備考:所有者の持つ資質を表す
となっていた。
効果は微妙だが、できるのならば、と部屋にあったものを手当たり次第に「鑑定」したところ、わかったことがあった。
それは、〈鑑定したものの情報は、自分自身の知識量に左右される〉ということだ。まず、物を鑑定した場合、名前とそれについての多少の情報が提示される。だが、それ以上の詳細な情報は提示されず、それを得るには、自分自身がその鑑定したものについての知識を持たないといけないということが分かった。……やっぱり性能が微妙だな。
しかし、部屋にあったものをあらかた鑑定した後に、再びステータスの「称号」と「備考」を見てみると、「称号」は変わっていなかったが、「備考」には新たな説明が加わっていたのだ。
備考:所有者の持つ資質を表す。所有者に新たな力を授ける種となり得る
抽象的でわかりにくいが、つまり「備考」っていうのは「才能の基」みたいな感じなのかも……。いつか進化とかするのかもしれないな。
とにかく、その時の経験から、「鑑定」を使い続けたら経験値的なものが溜まって性能が上がるんじゃないかと思った俺は、こうして仕事の傍ら、いろんなものを鑑定しているというわけだ。……決してアメリアたちを避けるいい方法が思いつかなくて逃げているわけでは……ない。
ジンズー草に続いて他の物も鑑定してみる。
名称:石(小)
説明:その辺に転がっている小石
名称:アロン草
説明:葉の部分がやけどの生薬の材料になる。食用可能
名称:コムの実
説明:コムの木に生える果実。硬い皮に覆われた木の実で中心部分の種は食用可能
名称:ザラリ石
説明:片面がヤスリのようにザラザラした石。ザラザラ具合は石によって様々。
詳しいことはともかく、基本的なことは分かった。俺は背負っていたリュックを下ろすと、コムの実を入れ、アロン草は収納に入れた。ザラリ石もふたつほどリュックに入れておいた。
「しかし、このリュックはなかなか便利だな。容量も多いし、ポケットもついてるし」
王都の雑貨屋に置いてあったのだが、いい買い物をしたな。収納の容量にも限界があるし、両手も空くから色々な場面で重宝しそうだ。
それからさらに1時間ほどかけて、コムの実や薬草などを採取した。森の中は穏やかな静けさに満ちていて、とても心を落ち着かせることができた。前世の森林浴を思い出すな。時々ウサギなどの小動物の姿を見かけた。この森は王都に近いこともあって魔物はほとんどおらず、普通の動物がほとんどらしい。
「ふうっ」
さっき鑑定をしまくっていた広場まで戻ってきた俺は、辺りを見回して、警戒をする。熱源感知も行ってから、少し早めの昼食をとった。その後再び採取したものを並べて鑑定し、分けていく作業を行う。
「♪♪~ ♪~~」
ついつい前世の癖で、鼻歌を歌いながら作業した。お、これも薬になるのか。買い取ってもらおう。……これは食べられるのか。今度トールに聞いてみよう。
そして作業開始から少し経ったころ、気が付いた。
(何かいるな)
自分から見て斜め右前方の草むら。そこに何かがいる。俺は鼻歌を歌ったまま「熱源感知」を発動し、そちらの方と、少し休憩するふりをして周りも見てみた。……右斜め前のひとり……いやふたりか? いるのはそれだけらしい。こちらの様子をうかがっているように見える。だけど、時々身じろぎするのか、少し草が揺れるので俺でも何かいるのは分かった。多分盗賊とかではないだろうな。同じハンターか?
しかししゃがんでいるのかちゃんとした背丈が分からないので、子供か大人かもわからない。……警戒しとくにこしたことはないか。
そう結論付けた俺は、気が付いてないふりをしつつ、作業を続ける。声をあげたら反応するかと思い、鼻歌に歌詞をのせてみたが、少し草が揺れただけで、動いてはいない。やがて歌も作業も終わったので、立ち上がり、警戒しながら件の草むらに向かって、話しかけた。
「おい、そこで見てるだろう。俺に何か用か?」
少しして、びくびくしながら出てきたのは、小学生くらいの男女だった。




