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    9-9 ラングレイ防衛戦前①

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 タイトルに防衛戦とありますが、まだ始まらないため”前”とついています。今回のお話は戦いに敗れる前にぎくしゃくしていた男女の話から入ります。

 それでは本編をどうぞ!

Side:クロエ


『クロエの隊は……ラングレイで待機だ』


『!? な……どうしてですか!?』


 団長の言葉に思わず抗議の声をあげる。国境を越えて侵攻してきた帝国軍をこれ以上進ませないために、アフウ平原で帝国軍を迎え撃つ今回の任務。激戦になると囁かれているが、あいつと一緒に戦い抜いてみせると思っていたのに……!


 そんなアタシに告げられたのは、このラングレイにある補給物資を護衛するというもの。前線から離れた場所での任務だった。


『ねえ! なんでアタシは後方任務なの!?』


 団長とはいえ、アタシの隊だけ別の任務に就かせることはできない。直属の上司でもあるカリオンの同意がなければ。


 そのことに思い至ったアタシは、すぐにあいつに食って掛かった。カリオンはどこか難しい顔をしながらこっちを見た。近くにいる同じ副長のガズさんはあちゃあと言いたげな表情だ。ということは先の指示は……。


『……帝国の情勢などから物資の護衛が必要だと判断した。お前が適任だと思ったから推薦しただけだ』


『ここにはラングレイの兵士もいるでしょ! わざわざ護衛を出さなくたって』


『———じゃあはっきり言おう。今回の戦いにおいて、お前では戦力不足だ』


『な……!?』


 その言葉に頭が真っ白になるのがわかった。確かにアタシは副長になりたてで、戦場の経験はあまりないけど———!


『納得できない! アタシだって戦えるわ!』


 その言い方は、まるで今までのアタシの努力を否定されているような気がした。副長に指名した時に言っていた”充分にこの役目を果たせると判断した”って言葉は嘘だったの?


『……命令だ。ラングレイの騎士団と協力して事にあたれ』


 カリオンはそう言ってアタシに背を向け、歩き出す。……なんで。


 あんたを追いかけて騎士団に入った。嫌なこともあったけど、あんたに褒められるのが、一緒に戦えるのが嬉しかった。やっと、認められたと思ったのに。


『戦力にならないなんて言うくらいなら、なんで期待させたのよ———!?』


 溢れそうになる涙を抑えながら叫び、走り出す。悲しくて、悔しくてたまらなかった。


 その時のアタシには、その言葉を聞いたカリオンがどんな表情をしていたかなんて考えられなかった。


 


 王国軍がラングレイを出発していくのを見送った1週間後。


 王国軍がアフウ平原で大敗し、カリオンを始め幾人もが生死不明。


 その報告をレオンさんの部下がもってきたとき、目の前が真っ暗になった。崩れそうになる足を必死で抑える。


 報告では、総崩れになりかけた王国軍を立て直すために踏ん張っていたカリオンを敵の放った魔法が貫いたと。その後すぐにレオンさんがカリオンを騎士団の仲間に託して撤退させ、自身はその場に残ったと。


 おそらくここに撤退している最中だろうと言われたが、魔法で貫かれたという衝撃的な状況に頭が付いていかない。どれくらいの怪我なの? 治療はできたの? 


『戦力にならないなんて言うくらいなら、なんで期待させたのよ———!?』


 待機を告げられた時、あいつに感情的にぶつけた言葉が蘇る。……まさかあれが最後に交わした言葉になっちゃうの? 


 あの顔が、最後に見た顔になっちゃうの?


 そんなの嫌。嫌だよ。せっかく王都まで追いかけて、同じ場所で働いて、副長になれるくらい強くなって、あいつの隣で戦えるようになったと思ってたのに。


 まだ、素直な気持ちを、伝えてもいないのに。


 きっと生きてる。あいつがそんな簡単に死ぬわけない。そう思いたいのに、最悪の想像が頭から離れてくれない……!


 そんなアタシに喝を入れてくれたのはフィオナちゃんだった。きっと一番辛いのは彼女だ。レオンさんは最後まで戦場に残った。それはあいつよりも生きてる可能性が低いどころか希望はほとんどないに等しい。今にも泣きだしてしまいたいくらい辛いはずなのに、フィオナちゃんは真っ直ぐにアタシを見て、街を守るために力を貸してほしいと言ってきた。


 ……アタシ、何をやっているんだろう。ここでただ悲しみに沈んでたら、それこそここにいる意味なんてない。


 アタシは、あいつの背に守られているだけの存在じゃない。曲がりなりにも実力を認められて副将に抜擢されたんだもの! 今立ち上がれなきゃ、あいつの隣になんて立てやしないわ!


 うじうじしていた自分を追い出すために、自分の頬を叩く。……よし。ちょっとましになった。


 そんなアタシの様子に、フィオナちゃんはにっこりと笑う。きっと心は泣いてる。精いっぱいの虚勢でアタシたちを纏めようとしてくれてる。アタシよりも年下の、しかもまだ学園に通っている子がこんなにがんばっているんだもの。アタシも意地を見せなきゃ。


「皆を集めて。これからのことについて話すわ」


「は、はい!」


 アタシは、アタシにできることをしなきゃ。


 ラングレイに撤退してきた騎士団の兵たちと、ガズさん達に担がれてあいつが戻ってきたのはそれから4日後だった。






 見慣れた団員たちが少しずつラングレイの門をくぐる中、アタシはやきもきしながらアフウ平原につながる街道を見ていた。ここまでで帰ってきた団員はもう300を超える。だけどまだカリオンの姿はなかった。いたのは騎士団員に成りすまして侵入しようとした間者くらいだった。もう、早く帰ってきなさいよ……。


 夕日があたりを照らす中、こちらにやってくる一団がある。今までよりも人数が多く、2,30人はいそう。だんだんと近づいてくるその一段の中に、見知った顔を見つけた。


「! ガズさん———⁉」


 アタシと同じ副長のガズさんの姿に、あいつのことがわかるかもと駆け寄って絶句した。ガズさんは傷だらけで、鎧も欠けていた。傷を応急処置したらしい包帯も痛々しい。そしてそれは、その場にいた他の皆もそうだった。一人で歩けず肩を貸してもらいながら歩いている人もいた。


「おお、クロエか……。ラングレイは大丈夫みたいだな」


 ガズさんが疲労を隠せない顔でそう言う。


「え、ええ。今はやってくるであろう帝国軍を迎え撃つための準備をしているところよ」


 ガズさんの言葉に答えながら、アタシの目はあいつを探す。まさか、嘘よね———


 そして見つけた。ガズさんたちの後方。仲間数人の手で運ばれている、あいつの、カリオンの姿を。


「———っ⁉」


 思わず駆け寄る。目を閉じてぐったりとしていて、身体はガズさんたちにも負けないほど傷だらけだった。何よりも、脇腹に見える赤黒い血のにじんだ包帯に頭が真っ白になる。


「う、そ……」


 駆け寄ろうとするけど、ガズさんに止められた。


「動揺するのもわかるが、すぐに治療しないと危ない。今は安全なところに運ぶのが第一だ」


 動かないあいつをガズさんややってきたラングレイの兵士たちが運んでいくのをアタシは呆然と眺めているしかできなかった。確かに一番に会えたけど、こんな再開は嬉しくなかった———。




「……よお。逃げてきた仲間たちを迎え入れるためにいろいろと準備してくれたんだってな。助かった」


「アタシは、何もしてないわ。フィオナちゃんや、ラングレイの人たちのおかげよ」


 あいつが寝かされている部屋の近く。別の部屋でうなだれていたらガズさんに声を掛けられた。あいつは、何とか治療が間に合ったけど、かなり危ない状態だったみたい。まだしばらく目を覚まさないだろうといわれた。


「ガズさん。隊長は、なんでアタシを置いて行ったの?もしかして、アフウ平原での裏切りを知っていたの?」


 アフウ平原での戦いについての詳細をアタシも知った。あのティガルの家が裏切って味方は総崩れ。カリオンの負傷もその時に負ったのだと。


 突然の待機命令にその後の戦いでの壊滅的被害。それをしたのがアタシを狙っていた奴の兵。まるでアタシを戦いから遠ざけたかったみたい。


「……あまりカリオンを責めてくれるなよ」


 しばらくの沈黙の後、ガズさんが静かな声でそう口にした。


「あいつにとっても何が起きるかわからない中での苦渋の決断だったんだ。……あまりうまいやり方とは言えなかったがな」


「それって」


 それからガズさんはぽつぽつと話してくれた。カリオンの勘はよい悪いにかかわらずよく当たること。アフウ平原に向かう途中で最大限の悪い予感がしたこと。結果としてラングレイにいくらか部隊を残すことが最善につながると判断してアタシを含めて留守番にしたこと。


 確かにあいつのとっさの勘にはアタシも助けられてきた。時々未来を予知しているのかと思うほどの時だってあったわ。


「お前を残したのはカリオンの私情も入ってただろうけどよ、やっぱ結果としては最善だった。もしお前さんがあの場にいたら、今頃どうなっていたか。何より全滅していたら、帝国の進撃は止められなかっただろうよ」


 アタシを狙って攻撃してきたというティガルの話がよぎった。もし捕まっていたらと考えただけで寒気がした。


 ただ、あいつの判断が生きているのは分かる。無傷の部隊が少数とはいえ残っている。情報を集めて持ち帰ることも、敵部隊の足止めのために動かすこともできるのだ。それにラングレイならば親筋の侯爵家からの援軍も期待できる。足止めにも反撃にもちょうどよい。


 この場所に万が一のために指揮権を持つ人員を置いておくことは理にかなっているのだと思う。でも


「……それでも、連れて行ってほしかったし、ちゃんと話してほしかったな」


「まあ、お前さんがそう思うのも無理はない。ただ、アイツにも譲れないものがあったんだろうさ」


「さてと、俺は戦況の確認をして、仲間たちの再編成やけがの具合を見てくるとしますか。その間、カリオンの様子見といてくれ。頼むな」


 そう言うと、ガズさんは部屋を出て行った。アタシも部屋を出ると、あいつの寝ている部屋に向かう。


 部屋には誰もいない。ベッドにあいつが寝ているだけだ。ベッドの横に椅子を持って行って、寝顔を見つめる。頭。腕。見えているところだけでも包帯が目についた。顔色も悪い。もしかしてこのまま起きないのではないかという嫌な想像が頭をよぎった。


「……」


 周囲に誰もいないことを確認してから、そっとカリオンの胸の上に頭を近づける。アタシの耳は、確かにカリオンの鼓動を捉えた。胸が呼吸のたびに上下に動いていることも。生きてる。


 ジワリと涙がにじんできた。安心や後悔がどっと押し寄せてくる。生きていてよかった。だけど、なんでこうなる前にアタシは素直になれなかったんだろう。1年近く一緒にいたのに。何度も機会はあったはずなのに。フリでも恋人にまでなったのに、あと一歩が踏み出せなかった。怖かったんだ。もしも気持ちを伝えて距離を取られたらって思ったら。初めての気持ちでどうしたらいいかわからなくて、今までの関係がずっと続けばいいって。


 でも、こんなことになって、なんで気持ちを伝えなかったんだろうって後悔ばかりしてる。同時に、カリオンがどれだけアタシの中で大きな存在になっていたかが改めてわかってしまった。


 お願い。目を覚まして。魔力でもなんでもあげるから、またあんたの隣にいさせて……。



 今回は雰囲気が暗かったですね。かなり悩みながら書きました。次回は明るくなる予定です。もちろん話の主は……。

 次回更新は1月30日(金)を予定しています。それでは、また!

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