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    9-8 令息は逃避行をする

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!

 この作品を投稿し始めたのは21年の9月でした。もう4年以上投稿しているのだと思うと(実際のところ、休載期間があるのでもっと短いわけですが)驚きますし、ここまでお付き合いしてくださっている皆さんに感謝しかありません。

 当作品も佳境に入り、おそらくですが本編は今年のうちに完結すると思います。ぜひとも最後までお付き合いいただければ幸いです。それでは本編をどうぞ!

Side:ラングレイ


 アフウ平原にて王国軍大敗す。


 その知らせがラングレイまで届いたのは戦いが終わった次の日だった。レオンが出した影がその知らせを持ってきたのである。


 その知らせに領主邸は騒然となった。なんせ味方が大敗したばかりか、この街を治めるレオンは殿軍となり生死不明だったからである。青ざめる者、狼狽する者、中には「嘘だろ」と崩れ落ちる者までいた。


「落ち着かんか。狼狽しておっても何にもなるまい。儂らにできること、しなければならないことをするんじゃ」


 その中で落ち着き払った声を張ったのはナリス翁であった。その声に一瞬で場が静まり返る。


「知らせは今のところ、緊急を知らせるもののみか? 敵の動きなどについては何かあるかの?」


「いえ。しかし、帝国軍はマルタ街道を進んでくることは明らか。ラングレイに攻め掛かる可能性は低くないとレオン様は」


「ふむ……。裏切者がいたようじゃし、ダンジョンがあることは周知の事実。楽観はできん、か」


 わかっている情報を基に考え込むナリス翁。その場にいた他の者たちも段々と事態を飲み込み始め、各々でやらなければならないことを考え始めた。


 その時、その場に通じているドアが開き、中から現れたのはフィオナであった。後ろにアンナも控えている。


「あ……。フィオナ、様」


 フィオナの顔を見たその場の者たちに緊張がはしる。レオンとフィオナの仲が睦まじいことは皆知っている。レオンが戦いに行くことをフィオナが憂いていたことも、だ。それなのに、まさかそのレオンが現在生死不明だということ聞かれてしまうなんて。


「———ナリス公」


 しかし、その口から出てきたのは、動揺した様子もないはっきりとした声だった。


「レイリスにいるアニエス様に、援軍を要請してください。それと動かせる者を総動員して、ここより帝国寄りにある村に避難勧告を行ってください。もしできるようなら侯爵領にも民が避難できるようにしてくださると助かります」


「……ふむ、ではそのように」


 ナリス翁は小さく”予想以上の娘じゃ”とつぶやくと、援軍要請の書簡を作成するため部屋に向かった。


「シンマ殿。クロエ様」


「!」


「……え? は、はい!」


 フィオナは次に身体の震えを抑えている様子のシンマと、カリオンが負傷したと聞いてから顔面蒼白なクロエに声をかける。


「すぐに騎士団と警ら隊に警戒体勢に入るように指示をしてください。おそらく、帝国はやってきます」


「それはどうして」


「……私がいるからです」


 フィオナはきっぱりとした口調で言い切った。


「帝国は黒い髪の人間、いいえ。闇魔法を使える人間を集めています。私がここにいることをおそらくあちらは知っています。それに、帝国では昨年不作であったと聞きます。食料が手に入るダンジョンがあり、軍の補給物資が置いてあるラングレイ(ここ)を見逃すとは思えません。きっと、略奪の限りを尽くすでしょう」


 それを聞いたシンマは、一瞬にして顔色が青を通り越して白くなったが、一度息を吐いた後それまでとは打って変わった顔で「わかりました。騎士団を招集しましょう。警羅隊にも手伝わせて避難させます。ギルドに緊急依頼も出しましょう」とはっきりとした声で言った。


「お願いします。ランペルのギルドにも依頼を出しましょう。帝国ではダンジョンを貴族や軍が独占することも珍しくないとか。ダンジョンから追い出される可能性が高いと言えば協力してくれるかもしれません」


「確かにそうだな」


 頷くシンマから今度はクロエに視線を移す。


「クロエ様」


「は、い」


「……カリオン様の安否がわからず動揺する気持ちはわかります。ですが今、この場にいる第一騎士団で最も立場が高いのはクロエ様です」


「ア、アタシが、一番」


「はい。お願いします。ラングレイを守るために協力してくださいませんか?」


「協力」


「そうです。……おそらくですが、これからここに、先の戦いで負傷した騎士団の方もやって来ると思います。その方たちを迎え入れるのもクロエ様の仕事だと思います」


 ここで一度言葉を切った後、フィオナはそれに、と続ける。


「ここにいれば、帰ってきたときに一番に会えますから」


 その言葉にハッとなったクロエは、両手を頬に打ち付けた。パンと小気味のいい音が響く。


「確かに、そうね。あ———隊長がそんな簡単に死ぬわけないもの。ここで出迎えて文句を言ってやらなきゃ」


「その意気です」


 フィオナはにっこりと笑って言った。カラ元気かもしれないが、クロエの表情が上向いたことに後ろに控えていた騎士団員もほっとした様子を見せる。


 その場で決められる方針を決めたことで、それぞれが動き始める。部屋に戻ったフィオナは、ふうと長く息を吐いて椅子に腰かける。


「……フィオナ?」


 部屋で控えているアンナが、俯いている彼女を心配し声をかける。


「アンナ……」


 アンナの方を振り向いたフィオナの顔は涙にぬれていた。


「私、さっき震えてなかった? しっかりと話せていたかしら」


 震える体を両手で抱きしめ、うなだれる。


「レオン様がいないからこそ、私がしっかりしなきゃって思ってたのに」


 やっぱりだめ、不安で心が張り裂けそうと涙を流す。フィオナもまた、レオンが戦場に残ったことを聞いて内心絶望していた。フィオナに戦争のことは分からない。だけど、数多くの敵がいる中少数で残り戦ったと聞けば、その命が絶望的であることは簡単に想像がついてしまった。


 それでも、もしこの場にレオンがいたならと考え、恐怖と絶望を無理やりに押し込めて皆の前に姿を見せ、指示を出した。だけど一人になったことでその強がりはあっけなく崩れたのだ。


 そんな彼女をアンナが抱きしめる。


「フィオナはがんばったよ。フィオナが精一杯の強がりで、皆元気づけられてたもの。それに、フィオナもレオン様が帰ってきたら文句を言わなきゃ、でしょ?」


 フィオナはしばらく抱きしめられるままになっていたが、やがて涙を拭い、顔を上げた。


「……確かにそうね。帰ってきたら、いっぱい泣いて、文句もわがままも言って困らせないとね」


「そうだよ。……きっと帰ってくるわ。約束したんでしょ?」


 アンナの言葉に、フィオナは帝国の方を見ながら言う。


「うん。……信じるわ。帰ってくるって」


 どうか、無事でありますように。


 胸にかかっている指輪に服の上から触れながらそう祈る。その時、ほんのわずかに指輪が明滅したが、そのことに気づく者はいなかった。




******




 目を覚ました時に見えたのは、薄暗い天井だった。……ここは? 確か俺は戦場で、


「———レオンさん‼」


 思い出そうとしたとき、視界いっぱいに誰かの顔が広がる。……マルバスか。


「レオンさんが目を覚ましたぞ!」


 マルバスの声に、近くからいくつかの声が聞こえ、数人の足音が聞こえる。そして口々によかったと安堵の声が聞こえた。


 段々とはっきりしてきた頭を動かす。……生きてるのか、俺は。


 意識がはっきりとしてくると、先程自分が見たのは天井ではなく岩の壁で、ここが洞窟か何かの中だとわかる。


「こ、こは……?」


「ここはマルタ街道から外れた場所にある洞窟の中です。大体アフウ平原から1日くらいの場所です」


 それからマルバスをはじめとしたその場にいた者たちから今までの話を聞く。


 俺はどうやら、3日間意識が戻らなかったらしい。意識を失った俺を担いでマルバス達は戦場を離脱し、俺を休めせられる場所を探してこの洞窟を見つけたとか。この場所で手当てをしながら隠れていたという。


 現在の戦局は、情報収集に出ていた騎士と俺が眠っている間も偵察を続けてくれていた影が教えてくれた。


 アフウ平原で王国軍は大敗を喫し、その周辺は帝国の占領下にあるという。戦いの後、帝国軍は軍を二つに分け進軍し、リアム街道とマルタ街道沿いで略奪の限りを尽くしているらしい。俺が今いるあたりも帝国の影響が強くなってきており、移動を考えていたという。


「ラングレイには既に緊急事態の報が届き、防衛体制に移行したと報告がありました。……そして言いにくいのですが……」


「何があった?」


「———マルタ街道を進む帝国軍が、ラングレイを目指しているようなのです」


「な、んだと!?」


 これは影からの情報で、どうやら裏切ったダグラ伯爵が、ラングレイに補給物資があり、ダンジョンと温泉もあって豊かだと吹き込んだとか。……あのおっさん、重ね重ね何してくれてんだよ!


「……そうだ、兄上はどうした!?」


 あの場で一番逃がさなければならなかった人物。俺が生きていても兄が死んだんじゃ意味がない!


「……カリオン様は、逃げ伸びております。現在はラングレイの領内に入ったので、後1日もあればラングレイに到着すると思われます」


 その報告にほっとする。よかった……。


 マルバスが差し出してくれた干し肉をかじりながらさらに報告を受ける。この場にいるのは俺を含め20人ほど。残りは……。


 淡々と語られる事実に胸が苦しくなる。俺は生かされたのか。皆に。


 俺を信じてラングレイにやってきてくれたマルス。盗賊だったり、流民だったのをスカウトした兵たち。故郷を守りたいと志願してきたやつもいた。皆、気のいい奴らだったのに。


『レオン様。あんたのおかげでオレは今生きてるって思えるよ』


『隊舎で初めて食った飯の味とあんたへの恩は一生忘れないぜ』


『今度子供が生まれるんでさあ。そのためにも頑張らねえと。ありがとうごぜえます。レオン様のおかげで、嫁と子供に飯を食わせてやれます』


 訓練場や工事の現場。共に汗を流した日々の中で、交わした言葉が蘇る。……俺は今、400人以上の想いを背負っているのだと強く自覚した。


「レオンさん……」


「———大丈夫だ。皆待たせてすまなかった。ラングレイに帰るぞ!」


「———応!」


 帰らなければ。皆の思いと、彼らが残したものを守れるのは俺しかいない!


 どんなに惨めな思いをしようとも約束は守る。あの場所には、俺の帰りを待ってくれている人がいる!


 意識が少しずつ前を向いていくのを感じる。さっさとこんなところおさらばだ!




 とはいったものの、現在こっそりと街道から外れた獣道みたいなところを歩いている。なんせ街道は帝国が押さえてしまっているから、通るわけにはいかないんだ。うちの密偵曰くこの辺の領主は帝国軍に恐れをなして降伏したそうなので、見つかったら捕まる。もうラングレイの領内に入るまで安心できない状態だ。そのラングレイまではまだ歩いて5日ほどかかる。兄は何とかラングレイまでたどり着き、今は領主邸の一室で治療を受け休んでいるという。そして帝国軍の方も後2日ほどでラングレイが見える距離まで近づいているそうだ。ラングレイには志願兵含めて2000、今は援軍や兄と共に撤退した兵もいるから5000はいるだろうし、すぐには落とされないと思うが……。


 今のラングレイの城壁は、街を囲む丸型の城壁に五稜郭の半分がくっついたみたいな形をしている。丸部分が元々あったものと街を広げる際に移築拡大したもの、そして五稜郭、または稜堡型城郭とも言われる部分は対魔物・もしくは帝国を想定して作ったものだ。以前の護衛の時にはまだ作りかけだったが、今はもう完成していて、防御力は各段に上がっているはずだ。


 後はシンマたちがうまくやってくれればって所だが……信じるしかない。


 道中にあった食べられる野草や木の実を取って食事の足しにする。携帯食料は持っているが、量は心もとない。戦場にあった荷駄はおそらく略奪されただろうし。


 略奪に遭って焼け落ちた村も見かけた。残骸になった家を呆然として見ている村人や泣いている子供も見かけたが、今は見て見ぬふりをするしかない。


 夜は交代で番をしながら休む。火をたくわけにもいかないので寒い。”カラオケルーム”が使えればと思ったが、魔力枯渇寸前まで身体を酷使していた影響なのか使用不可になっていた。”歌唱者”の方もアップデートが入っていたし、気絶している間に何かあったんだろうな。マルバスが言うには、人が変わったみたいに荒々しく、豪快に魔法を使い、敵を圧倒していたとか。……記憶がない。無意識で戦っていたのか?


 そう言えば、目を覚ます直前、誰かの声を聴いた気がする……。何かを頼むと言っていた気がする。もしそれがフィオナや、兄のことであれば言われるまでもない。


 フィオナ、きっと俺が帰ってこないから心配しているだろうな。早く顔を見せて安心させてあげないと。


 それから2日後。


「ラングレイに敵が到着したか」


「はっ! シンマ殿が総大将に立ちランポール伯爵を総大将とする帝国軍約1万4千に対抗しています。寝返ったダグラ伯爵らも加わっているとのこと」


「味方は?」


「ラングレイ軍2500と王都の騎士団1000。アルバート家からの援軍が1500の計5000です」


 5000対14000か。籠城戦と考えるなら戦える数ではあるかもしれないが……。


「それと、別動隊約5000がランペルに向かっています」


 ……ランペル。ダンジョンを抑えるつもりか! あそこはうちの食糧庫みたいなもの。取られたら厄介だ。


「ランペル城にも兵はいたよな? 確か」


「500人弱が詰めています」


「よし、ランペルのギルドに街の防衛の緊急依頼を出せ。資金は出す」


「それですが、既に出されてまして、多くのハンターが依頼を受けたようです」


「本当か!?」


 一体誰が、と思ったら、なんとフィオナの発案で、シンマが指示したという。ありがたい!


「じゃあラングレイでも出されているのか?」


「はい。こちらも依頼を受けたハンターが斥候などをしている様子」


「そうか。ありがとう。働きづめで悪いが、休んだらまた頼む」


「はっ!」


 報告によれば、先の戦いの敗北に動揺する者たちをフィオナが諭して落ち着かせたという。そして現在、軍事関係をシンマが中心に、政務関係をフィオナが中心に回しているとか。既にラングレイよりも帝国寄りの村の住民は避難していて、ラングレイやガリアに移動したという。ギルドへの協力要請もフィオナたちの指示だし、援軍要請やラングレイに残っていた騎士団への協力依頼など、やってほしかったことがほぼ達成されていた。少しだけ安堵すると同時に、カラ元気かもしれないがフィオナが元気そうで安心した。シンマたちに指示を出しているとは思っていなかったけど。


 聞けば帝国が闇魔法の素養がある人間を連れ去っていることや帝国の酷い略奪を引き合いに出してラングレイ(ここ)に残り戦うと言ったんだとか。本当に……強くなったなあ。


 休憩をはさんだ後、報告に来た影にハンターなどに紛れて侵入している者にも注意するようにと指示を出して帰らせる。さあ急ぐぞ!

 次回、ラングレイでの戦いが主人公抜きで始まります。こうご期待!

 次回更新は1月16日(金)の20時を予定しています。それでは、また!

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