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    9-7 戦いの結末

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 主人公が倒れ、絶望感が濃くなる戦場。果たしてどうなってしまうのか⁉

 それでは本編をどうぞ!

side:マルバス


 せりあがる氷の壁と共に撤退を始めた僕たちだが、壁の脇をすり抜けてきた帝国の奴らに攻撃を受けた。奴らはどうやらレオンさんを狙っているようだった。


「……ぐ‼」


 その時、パキンという音と共に、レオンさんが苦しむような表情をし、ぐらりと身体がかしぐ。


「レオンさん!」


 慌てて受けとめるが、ほとんど力が入っていない。……ここで限界が来たのか!


「———……っ!」


 レオンさんは、魔法を一度放つとそこで力尽きた。その瞬間、ほんの一瞬だけ、僕と視線が交わる。僕にはそれが、「後は任せた」と言っているように思えた。


 必ず、レオンさんを連れて脱出する。その思いを新たにするのと、敵兵の最前列辺りが氷の塊になったのはほぼ同時だった。


 それに一瞬だけ動きは止まるが、後続がどんどんとこちらに迫ってくる。流石にこの数は!


「行くぞ! レオン様をお守りしろー!」


「おお!」


 その時、帝国兵の前に立ちふさがったのは、共に撤退していた兵たちだった。


「今のうちにレオン様を!」


「あ、ああ!」


僕らの前に出るように、次から次へと兵が飛びだしていく。僕はそれを尻目に見ながらマルタ街道に駆けこむことになった。僕の周りには数人の騎士が続いた。


 背後からは、レオンさんを頼むという声が。レオンさん、聞こえますか。あの者たちの声が。あなたはここで死んでもいいと思ったのかもしれませんが、あなたは死んではいけない人なのです。少なくとも、僕やあの場にいる者たちにとっては。


 必ず、僕たちがあなたを連れて行きます。ラングレイまで。




******




 追撃してくる帝国軍の前に立ちはだかったのは、レオンと共に戦っていた殿軍の騎士と兵たちだった。彼らは数の差をものともせず帝国兵に突っ込んでいく。攻撃すれば簡単に崩れると高をくくっていた帝国兵たちは彼らを相手に戦わざるをえなくなった。


「……我らは元々、騎士団の落ちこぼれと揶揄(やゆ)されていた。だが、カリオン隊長のおかげで、いっぱしの戦士になれたんだ。恩を返すなら今この時よ!」


 カリオン旗下だった騎士のひとりの口上に、そうだ、その通りだと声が上がる。カリオンを逃がすため、そして今度はレオンを逃がすために殿となった彼らは、ほんの少しの休息を味わっていた。彼らの勢いに気圧された帝国兵たちが体勢を立て直すために一旦下がったためである。とはいえ、すぐにまた追撃が掛かることは明白だった。


 帝国側は半分がリアム街道に流れたとはいえ、まだ2万近い兵を、敵の指揮官が鼓舞しながら追撃してくる。対して王国側は負傷兵ばかりが2000弱で、指揮官もいないという絶望的な戦力差であった。


 本来であれば脱走兵が出てもしょうがないどころか、すでに崩壊していてもおかしくない。実際、他の貴族の部隊は既にほとんどが崩壊し、脱走兵も多く出ていた。しかし彼らから出た脱走兵は他の部隊に比べると格段に少なく、かなり奇跡的な状況であった。


「おい、ラングレイの奴らは別に一緒に逃げてもよかったんだぜ? 特にあんちゃんはれっきとした騎士だろ?」


「冗談を。あなた方がカリオン殿に報いたいと思うように、私たちもレオン様に報いたいのですよ」


 騎士のひとりがそう口にするが、それに反論したのはマルスだった。彼自身は気丈に振る舞っているが、そのわき腹からは今もとめどなく血が流れており、もう限界が近いのが見て取れた。


「その兄ちゃんの言う通りさあ。俺らはレオン様が拾ってくれなきゃそこらで野垂れ死にか盗賊に身をやつしていたであろうごろつきよ。だがよ。そんな俺らをあの人はな、人として扱ってくれた上に、屋根のある家や上手い飯を食わせてくれたんだ。その分くらいは働かないと顔向けできねえってもんよ!」


 いかにも荒くれものといった見た目の男が声をあげる。身体には剣で切られた傷がいくつもあり、頭からは血を流していた。


 そうだ、そうだとマルスたちに呼応するようにラングレイ側から声が上がる。


「あの方がいなければ既になかったであろう命じゃ、ここで使い切っても後悔はない!」


「格好いいこと言っているが、その割には膝が震えていないか?」


「できるなら働けなくなるまでお仕えしたいとか前言ってたよな」


「う、うるさい! 最期くらい格好つけたっていいじゃろ!」


 ひとりの老兵の言葉の上げ足を取るようなセリフに、周囲は笑いに包まれた。指摘された老兵は顔を真っ赤にして怒るが、誰も聞く様子はない。


 笑い声が収まると、その場にいた兵たちは表情をやわらげ、やがてぽつぽつと言葉を紡ぎ始める。


「最初は青臭いガキが来たと思ってたんだがな、とんでもないガキだったよな」


「ああ。荒れ果てた街をどんどんキレイにしてったな」


「俺たちみたいなやつらにまで飯が食えるようにと仕事を斡旋してくれた」


「……賦役の給料で俺は母ちゃんの薬が買えたし、こうやって仕事に就くこともできた」


「兵の仕事はきつかったけど、おかげで家が手に入ったし、美味い飯も食えるようになったよな」


「女だって抱けたしなー」


「レオン様のおかげで、がりがりに痩せていた家族に腹いっぱい飯を食わせられるようになった」


「俺は嫁が持てたぜ。……腹の子に会えないのは残念だが、あの方ならば俺の子も守ってくれるはずだ」


「あの方は豪雨で流されたわしの娘を泥だらけになりながら何日も探してくれた。周りの者が止めても、”ひとりでも多く見つけて、家族の元に帰してやりたい”と言われてな。その言葉にどれほど救われたか」


「じいさんもあの大水で惚れたクチか? 俺もだ。俺の村は大水でなくなっちまってなあ。レオン様は俺たちのために住む家や食べ物を用意してくれた。前の領主が見捨てた同然のちっせえ村のために何日も泥だらけになってよお。その姿を見て、”この人のために働きたい”って思ったのさ」


「正直言やあ、兵士にならなくたって街で賦役でもやって働き続けても良かったんだけどよ……。俺バカだから、これが一番恩返しになるんじゃねえかって思ったんだよなあ」


「ふん。それ聞いたらあの方は怒るぜ。現場でもよく”人命の安全が第一!”って言ってるしよ。それで怒鳴られた奴が何人いたことか」


「違えねえ! ……まあ単純に俺らが、恩人が戦いに行くってのに自分だけ安全なところにいれなかったってだけだな」


「そうだな」


 そんな言葉が語られるのを、カリオン旗下の者たちは静かに、どこか納得した様な顔で聞いていた。彼らとて、カリオンのために命をささげても構わないと思える出来事があったからこそ、この場に残っているのだから。


 そんな彼らの耳に、帝国軍の荒々しい足音が飛び込んでくる。そこにいた者たちは皆瞬時に理解した。帝国軍が数の利でもって自分たちを蹂躙しに動きだしたことを。


 ゆっくりと立ち上がった兵たちの顔に、さっきまでのどこか弛緩した空気はない。あるのは”死”を覚悟した戦士の顔のみ。


 彼らはそれぞれ得物を構え、敵を見据える。彼らに訪れる次の休息は文字通り”死”のみである。なぜと問うなかれ。彼らはこれから帝国軍に向けて突撃を仕掛けるのだから。


 戦場の状況を見れば、既にカリオンとレオンは戦場から離脱しており、彼らの撤退の時間を稼ぐという目標は達成されていた。もう逃げてしまっても問題はないのである。


 ならばなぜ彼らは逃げないのか。それは彼らに、目の前の敵軍から逃げるための余力がないからだ。無傷な者はだれ一人おらず、装備もあちこち壊れていたり、欠けている者ばかりだ。例え逃げ出せても、今度は安全な場所まで生きてたどり着けないだろう。


 だからこそ彼らが選んだのは、敵兵を一人でも多く巻き込んでの玉砕だった。そうすることが、レオンたちの逃げる時間をさらに稼ぎ、故郷にいる家族など、大切なものを守ることに繋がると誰もが確信していた。


「さて、帝国の奴らに、俺たちの意地を見せつけてやるぞお!」


「おおおおおおっ‼」






 勝利を確信し、殿軍など蹴散らしてやると意気込んでいた帝国軍に取って、その光景は信じられないものだった。


「うおおおおお!」


 満身創痍の王国兵が、鬼気迫る顔で突撃してきたのである。勝利に緩んでいた所に冷や水を浴びせられた彼らは、その光景に恐れおののき、散り散りになった。


 勝利に酔い、勝ち戦による褒美に胸躍らせていた帝国兵たちは、死にたくない一心で逃げまどう。もう将が叱咤してもとどめることなどできなかった。


 彼らの褒美は、生きていなければ受け取れない。ここで死んでは元も子もないのだ。


「こらあ! 逃げるな! 戻らんか!」


 将は必死で声を張り上げて兵たちを押しとどめようとするが、パニックになった彼らが止まることはなく、逆に彼らの様子を見た味方にパニックが広がっていく。邪魔な味方を攻撃して逃げようとする者や、味方に魔法を放つものまで出てもう収拾などつくはずもない。


 そしてついに、殿軍と帝国軍が衝突した。人と人、またはそれ以外がぶつかり合い、命がいくつも散っていく。血しぶきが舞い、肉片が飛び散った。しかしそれを殿軍側はまったく気にせず進み続ける。


 帝国側はそれを見て恐慌状態に陥り、さらに混乱が加速する。


 殿軍達は真っ直ぐに突き進んで帝国軍の中に浸透し、乱戦状態に持ち込もうとなおも突撃を続けた。だが、それを見ているだけの帝国側ではなく、攻撃を加えようとするものももちろんいた。それは勇気を奮い立たせた騎士であったり、アメリアの魅了にかかって万能感に浸っている者であったり。


「ふん、聖女アメリア様の加護を前にすれば、あんな奴ら一ひねりよ!」


 その中のひとりである騎士は自慢の槍でもってやってきた殿軍のひとりを突いた。その兵はまともにくらって転がる。これには周りにいた兵たちも喜色を浮かべ、突いた騎士もやってやったとほくそ笑むが……。


「う、嘘だろ、こいつら……!」


「あ、アンデットか!? ハルモニアはアンデットを飼っているのか!?」 


「ここ、こんなやつらと戦えるか! 冗談じゃねえ!」


 戦場に広がったのは恐怖に引きつった帝国側の悲鳴であった。


 槍で突かれた兵士は倒れるどころか、もっていた槍を支えに起き上がったのだ。脇腹に穴を開けたまま。


「う、嘘だ!聖女様の加護を前にこんなことがあり得るわけ———」


 信じられず槍を振り回す騎士であったが、槍を抑えられたところを組みつかれ、首をあらぬ方向に曲げられて絶命する。それを見た他の兵たちは悲鳴を上げて逃げ出した。


 そして同じ様な光景は、戦場のあちこちで起きていた。


 それを目の当たりにした帝国兵たちは理解した。王国兵たちは死してなお立ち上がる、アンデットの軍勢なのだと。


 もうその場に、勝利に酔っているものはひとりとしていなかった。酔いが醒めた彼らは、命惜しさに逃走を始める。もはやそれは誰にも止められなかった。


 王国兵の咆哮が響くたびに、帝国兵の誰かが倒れる。魔法で攻撃しても、剣で切っても立ち上がる王国兵たちに彼らは逃げまどうばかり。そんな彼らをひとりでも道連れにするため、王国兵たちは歩き続ける。全ては、受けた恩に報いるために。




 アフウ平原での戦いは、王国側の敗北で終わった。勝利を得た帝国側は、ロアム街道とマルタ街道に兵を分けて進軍しようとしたが、マルタ街道側に陣取った王国の殿部隊に足止めされ、全く進めていなかった。


「なぜじゃ! なぜ進めぬ! ロアム街道方面の部隊は順調に進軍しておるのに、ワシらだけ動かぬままなわけにはいかんのだぞ!」


 指揮官は2万近くいる大軍勢が、10分の一ほどしかいない兵によって足止めされているという事実を理解できず怒鳴り散らす。


「し、しかし、マルタ街道前に陣取る王国兵たちはアンデッドの群れのごとく大暴れしており、兵たちが怯えております。特に中心部にいる約2000は手が付けられません!」


 報告の通り、戦場では死兵と化した王国兵たちに対し、帝国側は防戦一方となっていた。命を投げ捨てた彼らは、何をされても足が動く限り、前に進み続け、目についた帝国兵に襲い掛かった。彼らの標的となった哀れな者たちの断末魔が戦場のあちこちで響きわたる。


「ひいいいい! こんなところでしし、死んでたまるか! 俺は逃げるウウウ!」


「こんな奴らと戦ってられるかよおおお!」


 命を投げ捨てた王国側に対し、帝国側の兵は生きていなければ褒美も金ももらえない。逃げ出すものが出るのは必然だった。


「アメリア様のために貴様らを倒す!」


 唯一逃げなかったのはアメリアの信者達であったが、飛び出してくる信者たちはよい標的。王国兵たちに群がられ、数を減らすことになった。


 しかしそれでも、王国兵たちの数は段々と減ってくる。やがて立っている王国兵は誰もいなくなり、帝国兵たちは安堵の息を吐いた。


 だが、それは帝国側のミスによって再開される。帝国側の魔法使いのひとりが、周囲に回復系の魔法を使ってしまったためだ。その魔法使いは本当にアンデットが出たと勘違いしての行動だった。アンデットならば、それでダメージを与えられただろう。しかし、彼らは死兵ではあるが人だ。


 魔法を受けて回復した彼らは再び起き上がり、帝国兵たちを攻撃し始める。その光景はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図であった。


 完全に戦意喪失し、怯えた彼らは突撃を繰り返す王国兵の数が目に見えるほど減っても、帝国兵たちは恐怖に呑まれて前へと進むことができなかった。


 そして今度こそ、立っている王国兵がひとりもいなくなり、帝国兵たちは心からの安堵の息を吐く。やっと終わったのだ、と。


 既に日は傾き、空の端は夜の色に変じていた。それは殿部隊たちが、帝国軍を数時間以上足止めし続けたことを意味する。


 初めは6000人いた兵の内、半分以上が犠牲となった。王国兵たちの壮絶な最期を目の当たりにしたことで帝国兵たちは勝利したにも関わらず恐怖と脅えが蔓延していた。それでも指揮官は声を張り上げ、少しでも逃げた者たちを追撃するため、マルタ街道に入ったところで野営の陣を敷くべく進軍を開始させる。


 だがしかし、この時にまたいだ王国兵の中にはまだ生きているものが数人混じっており、自身をまたいだものの足を掴み、その喉笛を嚙みちぎらんと襲い掛かった。運よく助かったものもいたが、襲われたショックで半狂乱になり、それが伝播した結果再び帝国軍は大混乱に陥る。


 結果、彼らはこれ以上の進軍は無理だと諦め、昨夜と同じ場所に陣を張るため引き返す決断をする。そしてそれは、先に撤退した王国軍への追撃をあきらめるということであった。


 撤退戦には成功したものの、結果を見れば負けであり、これにより王国側、特にレオンたちは苦境に立たされることになる。



 今回のお話でアフウ平原の戦いのお話はおしまいです。次回以降は戦いの場所が移ります。場所はもちろん……。

 今日が今年最後の更新になります。私のつたない作品を応援してくださっている皆さんには感謝してもしきれません。今年もあと少しとなりましたが、皆様ご自愛してお過ごしください。

 次回更新は3ヶ日を超した1月4日(日)の20時を予定しています。それではよいお年を!

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