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    9-5 令息は戦場に立つ②

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 最近朝晩寒くて大変ですね。体をいたわりつつ日々過ごせていますか? 筆者は微妙な立ち位置にいます。

 それでは、いざ開戦!


「前列はしっかり盾を構えろ! 中列、槍で突け! 後列は魔法で援護だ!」


 2日目の昼ごろから、終に本格的な戦闘に身を投じることになった。俺たちは基本的に兄の指示に従い、敵部隊の側面に一撃あてては退くを繰り返すヒット&アウェイで敵を攪乱していた。兄の部隊の指揮と戦闘をここまで間近に体験したのは初めてだが、兄が指示するところに一当てすると、面白いくらいに敵が動揺し、崩れる。どうやら敵部隊の弱点や防備の薄い所を嗅ぎ分けて突かせているみたいだ。

 それだけでなく、兄の配下の兵たちも士気が高く、向かってくる帝国兵たちに物怖じすることなく戦っている。彼らが帝国兵たちを受けとめ、ひきつけてくれているからこそ、俺たちの攻撃が上手くいっているのだとわかる。改めて、すごい兄を持ったものだ。


「レオン、あの旗が立っているところを攻撃しろ!」


「よし、行くぞ!」


 指示された場所に飛び込み、少し暴れたら離脱する。また敵が浮足立つのがわかる。戻って隊列を整ええるか。


 その時だった。鬨の声と共に悲鳴が聞こえた。()()()()()()()()。なんだ? 後ろには王国軍の後衛と本陣があるだけのはず……。


「ほ、報告します!」


 兄の元へ駆けこむように伝令と思われる兵が飛び込んできた。


「だ、ダグラ伯爵をはじめとしたいくつかの貴族軍が、わが軍の本陣に攻め掛かっています!」


「!?」


 言葉の意味を理解するのに数秒かかった。……寝返り⁉


 伝令兵の言葉に、周りの兵たちは理解が追いつかないのか呆然としている。それを破ったのは兄の言葉だった。


「———後退する! 本陣近くまで退くぞ!」


 その声で皆一瞬で覚醒して動き始める。俺も味方を纏めつつ考える。


 鬨の声が聞こえたのは本陣の方。つまり、もう伯爵たちの攻撃は始まっているとすれば、このままここにいると寝返った奴らと正面の帝国軍に挟撃されかねない!


『主様!』


 その時、カヅキの声が頭に響く。何があった⁉


『ダグラ伯爵をはじめとした4つの貴族が味方を攻撃し始めました。その数は1万。伯爵らの攻撃を受けて味方のケッキ子爵の隊が壊滅、デオチネラ伯爵の隊も撤退を始めました。伯爵らはこちらの方に向かってきています』


 このままじゃ本当に挟み撃ちじゃねえかよ!


 くそ、フィオナと領内の警護に人員を多く割いていたとは言え、ダグラ伯爵の調査はもう必要ないと考えずにもっと調べとくんだった。このタイミングで寝返ったということは、おそらく計画的なものだろう。もしかしたら以前の護衛の時には既に帝国とつながっていた可能性すらあった。


 なんとか後方、本陣の近くまで来た時に聞こえてきたのは、撤退を指示するラッパの音。つまり、王国側の総大将が撤退するという合図だった。


『主様。本陣の兵は戦場から離脱しました。総大将は深手を負っている模様。そして他の王国側の兵たちもさほど持たないかと』


 味方が突如攻撃してきて、総大将は撤退。もう統制なんか取れない。士気崩壊まっしぐらじゃないか!


 というか俺たちもここにいたら危ない。撤退をすべきか……?


「お前たち、目の前を見ろ! ただやってくる敵を倒せ!」


 兄の声が響く。


「今ここで逃げ出せば、お前たちの大切なものは蹂躙される! 故郷、友、家族、全てがだ。それを今、守れるのはお前たちだけだ!」


 馬上の兄はハルバードを掲げ叫ぶ。


「奮い立て! 誇り高き王国の猛者たちよ。我に続け!」


 そう言うや、ハルバートから雷魔法が放たれ、敵中に降り注ぎ、その衝撃波で何人もの兵が吹き飛んだ。


「———おお!」


「カリオン様に続け!」


沈みかけていた士気が、一気に盛り返したのが肌で分かった。かくいう俺も、兄の言葉が心の奥に火をともすかの如く響いているのを感じる。そうだよな。まだできることはある!


「俺たちも出るぞ! 帝国兵を街道に行かせるな!」


「おおお!」


 迫る敵を切り伏せる。少しでも長く、ここで食い止める!


『カヅキ。ラングレイとレイリスに非常事態の伝令を。頼む』


『承知』


 カヅキを伝令に行かせつつ、目の前の敵を屠る。


 自身を含め周りの味方を風魔法で強化する。


 氷の弾丸を無数に生み出し、マシンガンのように発射する。


 倒しても倒しても、敵は減る様子がない。


 それがどれほど続いただろうか。


 体力も魔力も消費して、無傷な奴はひとりもいないだろう。だが、一歩も引かない姿勢に気圧されたのか、帝国からの攻撃が緩んだ隙を使い、短い休憩を取る。この時間を使って撤退できれば……。


 しかし、そうはいかなかった。新たにやってきた一団が、俺たちに向けて襲い掛かってきたのだ。それを率いていたのは———


「まだ生きているとはしぶとい奴め! 討ち取ってくれるわ!」


 この状況を作った張本人であるダグラ伯爵だった。あの野郎!


「カリオンを討ち取れ! 女がいたら生かして連れてこい!」


 多数の兵が俺たちに、特に兄へと向かっていく。その際に兄の軍と分断されてしまった。


「どけ! お前たち、早く突き抜けるぞ!」


 何とか兄の軍と合流しようと敵を攻撃するが、無数のそれに阻まれて合流できない。焦りが募る中、目に映ったのは兄を狙う兵たちの姿。


 兄は突き出された槍を切り落とし、剣を弾き、魔法も打ち消した。


「危ない!」


 俺が叫んだ瞬間、弾ききれなかった魔法のひとつが兄の体を貫くのが見えた。






side:王国軍兵士


 カリオン様を一筋の魔法が貫き、その体が傾いていく。その光景が酷くゆっくり見えた。同時に、自分の中にあった闘志が弱くなっていくのも。


 自分は騎士団配下の兵でも、パッとしないやつだったと思う。魔法はろくに使えないし、体もそこまで大きくない。他の奴らからはどんくさいとまで言われるほどだった。


 だけど、カリオン様は自分にも親切にしてくれた。名前も覚えてくれたし、稽古もつけてくれた。自分は元々は剣を使っていたが、槍を使い始めたのもカリオン様の勧めからだ。多分あっていると言われて始めたらみるみる上達して、仲間からもすごいと言われたりした。


 そしてそれは俺だけじゃない。他の騎士団では厄介者だったり煙たがられてた奴でカリオン様にひろいあげられたのは大勢いる。中には才能を開花させて古巣の奴が悔しがったこともあった。だから俺たちはカリオン様を尊敬してるし、恩を感じている。この人のもとで戦えてよかったと思ってる。


 そんな人が今、倒れていく。それを受けとめたのはこの戦から共に行動しているカリオン様の弟君だった。


「兄上を撤退させろ! ここは私が受け持つ!」


 その言葉に驚く者、撤退を進言する者、止める者、様々であった。しかし弟君はただ静かに首を横に振ると、静かに、だけどはっきりとした声で言い放つ。


「悔しいがもう勝敗は決した。今一番死んではいけないのは兄上だ! 頼む。無事な兵と共に、安全なところ———ラングレイまで撤退してくれないか」


 どこか悲壮さを滲ませた顔でそう口にした。弟君は最後まで残り戦うつもりなのだ。


「レオン様……」


「なに、帝国兵を蹴散らして追いついてみせる。……早く行け!」


「———ご武運を!」


 決意が固いと見た副将のガズ様は、カリオン様を抱えると撤退を開始する。ガズ様配下の騎士や兵たちはそれに従った。


 だが、俺をはじめとするカリオン様直卒の騎士や兵の多くはその場に残った。


「どうした? お前たちも早く撤退するんだ」


「私たちも残ります。あなた様だって、ここで命を落としてはいけない人です」


 弟君の言葉に反論する。カリオン様は近頃、弟が立派に育っていると嬉しそうに話していた。それを見捨てて逃げたとあっては、顔向けできねえよ!


「いくぞ!」


 弟君が口を開く前に、敵に向かって突撃する。ここから先へは行かせねえぞ!




******




 兄が倒れるのを見たとき、誰に言われたわけでもないのにその役目を引き継ぐのは俺だと考えた。今一番助からなければならないのは兄だ。少なくとも、ここでアルバート侯爵家の子息ふたりが同時に命を落とすことがあってはならない。


 ガズさんに兄と無事な兵を託し、残った兵で少しでも時間を稼ぐことにしたが、思ったよりも兵が多い。どうやら兄を慕う兵たちが自主的に残ってくれたらしい。……ありがたい。


 近くまでやってきたマルスに話しかける。


「……今ならまだ逃げられるぞ」


 暗に逃げてもいいと言ったが、マルスは剣を持ち直すと「あなたをひとり置いて逃げるなんてできませんよ」と返した。それに呼応するように「そうだそうだ」「仲間外れなんてなしでっせ」とラングレイの兵たちの声が上がる。……物好きどもめ。物好きと言えば、


「マルバス! いつまで隠れているつもりだ。もう生きるか死ぬかの瀬戸際だ。存分に暴れようぜ。一緒にな」


「バレてましたか」


 兵たちの中から鎧姿のマルバスが出てくる。その姿は他の皆と違わず傷だらけの血まみれだ。名前を変えずに志願兵になっていた時点でバレバレだったな。とはいえ、直接俺のところに来ずに志願兵で一兵卒を志願してたから今まで放っておいたけど。


「レオンさんと戦場で戦えてうれしいです」


「俺としては、チェスとかもっと平和な戦いがよかったけどな」


「帰ったらやりましょう」


「……そうだな!」


 おしゃべりはそこまで。敵が声を張り上げ、こちらに迫ってきた。一瞬で意識を切り替える。


「———続け!」


 兵たちを鼓舞し、やってくる帝国兵に突撃する。戦力差は倍以上。しかもこちらは疲労困憊。いつまで持つか……。


 だけど、ここで時間を稼がなければ、最悪の事態になる。せっかく復興した土地は荒らされ、略奪される。その中には、街で話したことがある人や……俺の大切な人もいるかもしれない。


 それだけは許すわけにはいかない!


 鎧の上から、フィオナのくれたアクセサリーのあたりを触る。……フィオナは怒るかな。……泣くかな。


 2度も死にたくはない。だけど、守りたいものを守れずに生きる事だけは許容できない!


「カリオンが逃げるぞ! 何をしてるか、追え!」


「追わせるものか!」


 俺の声に呼応するかのように周りからも声が上がる。


「行け、行け! 王国の奴らを討ち取れ‼」


 敵は数を頼みに強気に攻撃を仕掛けてくる。だけど、まだここを通すわけにはいかない!


 向かってきた敵を剣で切り伏せる。振り向きざまにもう一人。剣を構えなおして斬りかかる。


 それを何度繰り返しただろうか。もう体についているものが、自分のものなのか、斬った敵のものなのかもわからない。周りも皆そんな感じだ。


 もう何度目かもわからない剣を構えなおす動作をする。はあ、ふう。……もう魔力は残り少ない。どう使うべきか。


 その時、額を汗がつたって、それが目に入った。一瞬、気を取られてしまい、それに気が付くのが遅れてしまった。


 目の前に迫っていたのは一本の槍の穂先。とっさに避けるが躱しきれず、槍はかぶっていた兜の端に当たった。同時に頭を襲う衝撃。グワングワンと視界が揺れ、意識が遠のいていくのがわかる。これ、脳震盪———。


 理解できた時には、もう力が抜ける直前だった。


「レオンさん!」


 誰かが名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、答えることもできない。






 …………ごめん。

 次回更新は12月5日(金)を予定しています。それでは、また!

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