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    9-4 令息は戦場に立つ①

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 今回からついに戦争に突入します。いったいどうなってしまうのか……。

 それでは本編をどうぞ!

 補給部隊の護衛から早4か月が経ち、季節も移り替わって寒くなってきた。本来ならそろそろ”箒星の夜会”のシーズンだが、まだ戦争中なため、もっぱら話題はそちらが多い。


 戦況は一進一退。ほぼ膠着状態だという。俺はというと、最初の護衛が終わった後王都の学園まで戻ったわけだが、ひと月も経たないうちに学園はほぼ休校状態になってしまった。それからほどなくして兵を出せるように準備しろという指令が来たため、ラングレイに再び移動して内政と練兵をする日々。


 調べたところ、どうやら少し押されている模様。このままだと護衛で向かった街道のところが押し込まれるかもしれないという。


 それからすぐ、王都を中心に志願兵の募集を始めたと聞き、苦しいのだということを実感した。なんせ、ラングレイ(うち)にも志願兵になりたいという人が来たからだ。彼らの故郷を守りたいという思いと決意に感謝しつつも、俺は再び迫る戦争の足音をひしひしと感じていた。


 王都よりも前線に近いからこそピリピリとした緊張感を感じる中、仕事をしているとドアをノックする音が響いた。


「レオン様。王都のアルバート侯爵家より手紙が届いております」


「ありがとう。そこに置いておいてくれ」


「承知しました」


 手紙を見ると、ひとつはエレンから。ひとつは母からだった。


 エレンからの手紙には、ついに帝国の皇太子が婚約者の公爵令嬢を婚約破棄したということと、その御令嬢を引き抜くのに成功したという報告だった。一緒にご令嬢の家族含む関係者も一部引き抜いたらしくホクホクだと書かれていた。


 アメリアの情報も書かれておりやはりやりたい放題しているようだ。皇太子はじめ何人もの男を侍らせ、彼女に心酔する者も増えて来ているという。


 しかも、王国への侵略を声高に叫んでいるのは皇太子たちを中心としたアメリアに心酔する者たちが中心だとか。


 いくつもの国をひっかきまわして、さらに戦争の扇動か? とんだ悪女だ。やはり卒業パーティの時に捕まえておけばよかったと思う。たらればだけども。


 母からの手紙には侯爵領とうちの連携についてのことが書かれていた。これは万が一帝国兵に国境を破られたときの対策のひとつだな。実家とラングレイでは、街道の関係でラングレイの方が国境に近い。もし攻め込まれた場合うちが先に戦場になる。そうなった場合の援軍や支援物資についてだ。役立つ時が来ないことが一番ではあるけれどね。


 またフィオナに寂しい思いをさせていないかとも書かれていた。フィオナは今ラングレイにいる。俺の移動についてきた形だ。


 学園が休校になったこと、俺が忙しそうにしていることから手伝いたいと言われたのだ。


 フィオナの気持ちは嬉しかったがあまり歓迎はできなかった。


 それはラングレイの方が前線に近いことと、領内にも帝国の密偵がいることだ。


 帝国は闇魔法を使える人間を保護とかの名目で連れて行き(時には誘拐し)、洗脳かなんかで兵士や暗殺者なんかに仕立て上げているようだ。フィオナの元両親が彼女を帝国に売り払おうとしたこともあるから、向こうもフィオナの存在は掴んでいるはず。誘拐犯が来てもおかしくない。実際、サクヤたちからそれらしい奴を切り捨てたという報告も数件上がってきていた。尋問したところ黒い髪の女を連れて来れば大金がもらえるとそそのかされた奴もいた。


 今は戦時中であわただしいから、どこかから入り込まれる可能性もゼロじゃない。だからこそ、今のラングレイに彼女を連れてくるのは危険かもしれない。


 そう考えたのだが、結局のところ王都とラングレイのふたつに護衛の戦力を割くよりもラングレイに戦力を集中させた方がいいということになり、フィオナはラングレイにやってきた。王都の方は本家の影と協力して情報収集を。ラングレイには護衛を呼び寄せて警護する。母も物資と共に護衛用の女性騎士を送ってくれるとのことだった。


 フィオナは今頃どうしているだろうか? 部屋で本でも読んでいるのかな? 本当は一緒に外に出たいところだが、今はそれも難しい。窮屈な思いをさせてしまってはいないだろうか。


 ふとフィオナに渡されたアクセサリーを見る。ペンダント型のそれは、フィオナが学園で魔道具の作り方を学び、付与魔法を使って作ってくれたものだ。彼女が付与魔法の修練のために、そして少しでも役に立ちたいという思いで作ったそれは、50個以上。守護の魔法が込められている。俺を始めとした騎士たちに配った。はめ込まれた小さな魔石に触れると、フィオナの思いが感じられる気がする。


 窓の外を見ると、ラングレイの街が見える。屋敷は少しだけ街よりも高台になっている部分にあるため、街がよく見えた。


 はやく平和な日々に戻りたいものだと思う。またデートしたいし、フィオナは孤児院とかの慰問にまた行きたいと言っていたしな。戦争が終わって周りが落ち着けばまた行けるようになる。


 だけどその願いが叶うことはなく、また俺に従軍の命令が来たのはそれから2週間後のことだった。






「はっはっは! まさかレオンとこうして肩を並べて歩くことになるとはなあ!」


「……行き先が戦場じゃなければもっとよかったんだけど」


「そう言うな。大将が弱腰じゃ下の奴らも不安になっちまう。デンと構えろ」


 そう言うや兄は俺の背中を叩いた。痛い。


「その通りですぞ」


 兄の部隊の副将のひとりであるガズさんも笑った。


 俺は数か月前に護衛で通った道を、再び通っていた。今度は護衛ではなく、戦うための兵としてだ。


 ロアム街道の防備が破られて突破された。その報が届き、それからすぐに兵を編成してすぐに出ることができるようにしろという指示があった。


 数日後にラングレイにやってきたのは万にも及ぶ軍勢だった。率いているのは第一騎士団の人物で、その下に貴族の騎士団がいる模様。日本で考えれば、大名の直属軍と配下の持つ軍みたいなものか。……ダグラ伯爵の軍もいて、随分と嫌われたようで睨まれた。伯爵の隣には息子らしき男もいて、そいつからも憎々し気な顔をされた。この前のこと根に持ってるのか? 息子の方は心当たりないんだが。


 その答えは兄が持っていて、息子の方はかつて騎士団にいたそうだが、問題行動があり少し前にやめたとか。やめる前に兄が男の行動を叱責したり、模擬戦でコテンパンにしたりしたそうで、それで恨まれているんじゃないかとのこと。男を見て兄は小さく何かつぶやくと、どこかほっとしたような顔をしていた。


 話が逸れたが、ラングレイは俺が代官をしているが形の上ではまだ国の直轄地であることから、王都の騎士団の指揮下に入ることになったのだ。そして、第一騎士団の副将が兄だったわけだ。


 俺は兄の指揮下に入り、進軍したわけだが、否が応でも戦いの雰囲気を感じている。なんせ空気感が全然違う。前回の護衛時も緊張感はあったが、それよりもさらにひりついた感じがするのだ。


 それは報告で帝国軍は俺たちが物資を運び入れた砦を乗っ取って前線基地にし兵を編成していると聞いたことでより濃くなった。このまま行けば決戦の場所はアフウ平原になる。現在地はアフウ平原から半日ほどの場所。明日には戦いが始まるかもしれない。……俺も覚悟を決めなきゃだな。






 遠くに、小さく黒い影が見える。もちろんただの影じゃない。隊列を組んだ帝国兵たちだ。こちらから2キロくらい離れた所に布陣している。


 対して俺たちもまた、隊列が組み終わり、いつ戦いが始まってもおかしくない状態だ。


 帝国軍は大体3万くらい。味方は約4万がこのアフウ平原に布陣している。


 俺がいるのは中央寄りのやや後ろ。ラングレイ方面に向かう街道を背にした布陣だ。隣には兄の率いる軍もいる。


 今回俺が指揮する兵力は500。前回の十倍になっていた。兄は更にその十倍以上の5500を率いているが。


 ラングレイにはシンマを領主代理にして残してきた。打診した時は嘘でしょ!?という顔をしていたが、半ば押し付けてきた。……あいつ。いや()()()()なら、大丈夫だ。


 それとは別に、兄の部隊の副官にまで出世していたクロエさんが、一部の兵と共に補給物資の警備という名目でラングレイにいて、合わせると3000ほどがラングレイにいる。


 そう言えば、それを決めたときにひと悶着あった。警備の隊長としてラングレイに残ることは、クロエさんにとって寝耳に水だったらしく、兄に食って掛かったのだ。それを説き伏せる兄は、いつもの様子と違い、どこか歯切れが悪く、最終的に命令だと言って周囲を黙らせていた。周囲もどこか心配そうな顔をしていたし、ふたりの間に何かあったのか?


 ……今はそれを気にしているときじゃないか。


 改めて目を向ければ、目の前のアフウ平原は見渡す限り人で埋め尽くされていて、ピリピリとした空気を纏っている。今にも破裂しそうなほどだ。


 帝国側から流れてくる敵意ともいえる圧に思わず身震いする。かつて魔物の大群を前にした時とは違うそれは、心にクルものがある。


 高鳴る鼓動を落ち着かせるように、大きく息を吸って少しの間止め、十秒ほどかけて吐き出す。数回も繰り返していると大分落ち着いてきた。


「皆のもの! 帝国は我らの領土を侵酸としている侵略者どもである! 汝らの大切な者を守れるかは我らの働きにかかっているのだ!」


 総大将が声を張り上げる。……始まるのか。


「———全軍、前進‼」


「うおおおおおおおおおお‼」


 雄たけびと共に前方の隊列が進み始める。帝国側の方でも鬨の声が聞こえるから、あちらも前進してきているのだろう。


 前方ではいくつかの光が炸裂している。敵味方の魔法を使える人間が打ち合っているのだ。その音がこちらまで届く。 魔法だけでなく、矢も飛んでいる。


 やがて、金属同士がぶつかり合う音と、怒号が聞こえてきた。戦闘が始まったのだ。ほどなくして空気に鉄の匂いが混じり始める。……慣れない匂いだ。


 背後からは俺よりも大きな衝撃をうけたらしい兵のえずく声も微かに聞こえる。戦場が初めての兵もいるからな。しょうがない。


「今日は戦闘にならんだろうから、今のうちに戦場の空気に慣れておけよー」


 後ろの兵たちの様子を一瞥した兄がそう叫ぶ。それに思わず背筋を伸ばして返事をするうちの兵たち。


 それよりも


「今日は戦闘がない?」


「ああ。どうやらぶつかってるやつらが膠着状態に持ち込んでるみたいだからな。このまま日暮れになる」


 そんなものなのかと思ったが、その言葉通り、その日は夕暮れまでほとんど出番はなかった。




******




Side:ダグラ伯爵


「これを届けておけ。決して気取られるなよ」


「ははっ」


 陣幕の外に出ていく部下と入れ違いに、息子が入ってきた。少し服が乱れている所を見るに、またお気に入りの娘を甚振っていたのだろう。


「上手くやれたか?」


「……ああ。ちゃんと戦っているように見せたぜ。実際負傷者も出てるからな」


「あまり派手にやるなよ」


 兵を減らし過ぎても面倒だし、かといって被害がないと疑われるかもしれぬ。


「いよいよ明日だな。ああ。今から楽しみだ。まさか後方に留まらせるとは思ってなかったが、あいつさえいなくなったっちまえば———」


 その先を想像したのか、歪んだ笑みを浮かべる息子。好みの女が自分になびかないから、邪魔者を消そうというその考えはあまりにも短絡的だが、奇しくも儂の目的とほぼ一致していた。


 脳裏に浮かぶのは、奴の顔。魔物を狩るだけの野蛮な奴が、昇爵したのが気に入らない。儂ら伯爵家は、かつての戦争の折その身と武でもって国を守ったというのに。挙句の果てには、奴の息子に我が子は模擬戦で負けたばかりか恥をかかされ、儂もまた奴のせがれによって恥をかかされることになった!


 あちらからの誘いに乗ろうと思ったのもその時。名誉を得られ、忌々しい奴らを叩けるのならば、仕える先が変わろうが関係ない。


 儂を馬鹿にした報いを受けてもらう! 目にものみせてやるわ!

 本格的な戦いに出ることになったわけですが、陰謀もあって一筋縄ではいかなそうです。

 次回更新は11月21日(金)を予定しています。それでは、また!

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