9-3 令息は護衛任務に就く
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前回の続きです! 新たな登場人物も出てきます。果たして護衛任務はどうなってしまうのか⁉
それでは本編をどうぞ!
街道の向こうから、武装した一団が近づいてくる。あれが護衛対象の補給部隊か。こちらは俺を先頭にして出迎える形だ。
部隊はどんどんとこちらに進んできて、少し間を開けて止まった。そして先頭にいる馬にまたがり、他よりも立派な鎧をまとった騎士が進み出てきた。
「出迎えかたじけない。貴殿がラングレイの責任者か?」
「ハッ! ラングレイの代官、レオン=ファ=アルバートであります。ここより護衛の任務にも就かせていただきます」
「ふむ。では———『ふん。こんな若造が護衛だと!?』」
指揮官であるらしい騎士と話していたのだが、それに割り込む声。声の主は不機嫌さを隠そうともしていない。
「これは前線で戦う者どもに補給を行うための大事な作戦ぞ。貴様の出る幕などないわ」
そう口走りながら出てきたのは肥満体を鎧に押し込んだような男。年は……父と同じくらいか?
「ダグラ卿落ち着かれよ。彼らは紛れもなく護衛の一員。言葉は慎まれた方がよい」
その言葉に面白くなさげにしながらも黙る男。あまり良い雰囲気ではない空気で護衛部隊との初顔合わせは終わった。
今日は引継ぎと休憩をして、明日朝にラングレイを発つことになる。寝る場所は、兵士の皆さんは騎士団の訓練場などにテントを張ってもらい、一定以上の階級の人には騎士団の建物の部屋や領主邸の客間を貸すことにした。
この時ひと悶着あり、顔合わせで俺に苦言を呈していたダグラ卿……正確にはダグラ伯爵がごねたのだ。なんでも俺みたいな若造がトップの屋敷なんぞに泊まれるか! と言い切ったのである。挙句の果てには屋敷から見えたエレンの別荘を貸せという始末。もちろん丁重にお断りした。公爵家を敵に回すかもしれないがいいのかと遠回しに言ったら顔を青くして引き下がったな。男爵程度の領地の若造と侮っていたのかもしれないが、公爵家と繋がりがあるとは思っていなかったらしい。少しスカッとした。
とはいえやけに絡まれる、というか敵視されている感じがしたので調べさせたところ、ダグラ家は先の帝国との戦争などで名を上げた貴族で、アルバート家と並ぶ武闘派として名をはせていたらしい。だけど休戦したことで活躍の場が少なくなったあちらに対し、こちらは魔物討伐でどんどんと名を上げ、侯爵にまでなった。それが気に入らないみたいで、やたらと突っかかってきたようだ。なんともはた迷惑な話である。
まあ当たり障りのない感じでやり過ごすのが一番か。あと一週間ほど行動を共にしなきゃいけないのは憂鬱だけど。
あくる日。王都の方に帰る兵たちを見送った後、こちらも隊列を汲んで出発する。町の南側にある門を抜けて帝国との国境方面に進んでいく。今護衛している部隊は全部で千人ほどだが、別の前線に物資を運ぶ部隊には倍以上の護衛がいるという。おそらくそちらの方が激戦になる可能性が高いのだろう。
ハルモニア王国とエルバス帝国は陸続きだが、間には山脈が通っていて国境を隔てている。だからこそ国境になったともいえるが。
そんなふたつの国を結ぶ街道は3つ。ひとつは王国南部の方に一か所だけ山脈がほぼ途切れている所があり、帝国側に続く街道になっている。ここが一番軍勢を展開しやすく激戦が予想されるところ。
ふたつめは海を渡る海路。帝国側から船で王国の南端あたりにやや突き出た半島部分に上陸できる。
そして今向かっているのが最後の3つ目。山脈がやや低くなっている所に作られた街道だ。ロアム街道と言いラングレイから続く帝国方面に向かう街道はここに繋がっている。
何ごともなく進めば国境にある山脈までは一週間ほどで着く。補給拠点があるのはその山のふもとだ。
「おや? 土が盛ってあるな」
街の南の門を出てすぐのところで、隊長が不思議そうに言った。ああ。作りかけの土塁か。
「城壁外にも少しですが家屋や畑があるんです。このあたりは魔物も出るので、それへの備えとして土塁を作っています」
街の周囲を囲む城壁は修繕したり、街の再開発に合わせて移築・拡張したのだが、それでもカバーしきれないところがあったんだよな。だから街の防衛策のひとつとして土塁と堀を作ることにしたのだ。それに魔物がやってくるんじゃおちおち住めないし畑も耕せないだろうしな。
「は! 城壁が作れないから土で作ったと素直に言えばいいものを。みすぼらしい有様は魔物狩りの一族にお似合いのものよな」
聞き耳でも立てていたのか、厭味ったらしいセリフが飛んできた。声の主はダグラ伯爵だ。
浅はかな。確かに城壁は石でできているのが主流だが、土の壁だって負けていない。それがいかに強固で優れているかは歴史を見れば明らかなのに。
ラングレイを出てからすぐは平地が多いが、隣の領地が近くなると地面に高低差が出てき始める。このあたりから帝国との国境になっている山脈地帯に近づくからだという。ここから国境までの領地は山が多く果樹や木材を売るところもあるとか。逆に産業がなくて貧しいところもあるみたいだが。
行軍は順調だった。盗賊は今のところ出ていない。魔物も少数襲ってきたくらいだった。その魔物も先頭の方にいるダグラ伯爵の兵たちが蹴散らしていた。後方にも少し出たがこれもあっさりと撃退した。
その時は伯爵がわざわざやってきて、『自分は活躍したがお前はどうなんだ?(意訳)』というありがたい高説、もとい嫌味をもらって非常にうざかった。ヨイショしておいたら満足げに帰っていった。
伯爵の態度にうちの兵たちも不愉快だと言わんばかりの表情。だけど問題を起こすわけにもいかず耐えてもらうしかない。名門意識が強いから、おだてておけばわりかし被害も減らせるみたいだし。
理不尽な嘲りに耐えつつ進むこと6日。一転して開けた場所に出た。これまでの峠や切通があった場所と比べると大分広い。
ここはアフウ平原と言ってふたつの街道が合流する場所であるそうだ。ここまで来れば目的地の補給拠点まであと少しだという。
街道が交わる要衝だからか小さいながらも関所とそれに付随する建物があったが、それ以外は特に家などもない。ここに街を作れば需要がありそうだと思ったが、その理由はすぐにわかった。
「魔物がでたぞ!」
関所を取り過ぎてからそれほど経ってないのに、立て続けに魔物が出現したのだ。このあたりの魔物はそこまで強くないが好戦的なものが多いらしく、街を作っても維持が大変なのだろう。頻繁に襲撃されたんじゃ安心して暮らせないだろうし。
「右方向から来るゴブリンどもを駆逐する! レオン殿の隊は左から来るものを頼む!」
「はっ‼」
隊長の指示に従い、やってくるゴブリンと相対する。数はそこまで多くない。
「弓隊、遠くのゴブリンを狙え! 前衛は近いゴブリンを叩く! 前衛に支援魔法を」
指示を出すと、すぐさま矢が飛んでいく。その間に前衛の兵たちに無属性魔法で支援がされ、彼らが近づいてくるゴブリンたちに襲い掛かった。
次々とやられていくゴブリンたち。他のところも順調そうだ。
俺自身がほとんど手を出すことなく戦闘が終わる。見渡すとあたりはゴブリンの死骸だらけだ。早いところ先に行った方がいいだろうな。
ところが、先頭の方ではまだやってくる魔物がいるようで、すぐには出発しなかった。後ろの方にいる俺たちは周囲を警戒しつつ待機。その間に、ゴブリンの死骸を焼いておこうかと思ってそれを見たところ、何やら違和感を覚える。……魔力の反応? だけどゴブリンは完全にこと切れている。なのになぜ?
見渡してみると、いくつかのゴブリンの死骸から魔力を感じた。どういうことかと思った次の瞬間、最も近い場所にあった死骸が宙に浮いた。いや、飛ばされた。
宙に浮く死骸。それが作り出す影から、人が飛びだしてきたのだ!
「!?」
とびだしてきたそれは短めの剣、いやナイフを一番近くにいた俺に突き出してくる。それをギリギリで躱す。振り向きざまに剣を振るうが、そいつは一直線に荷駄の積んである荷車に向かっていた。
そう言うことか!
「させない!」
”アサルト”でそいつを撃ち、よろめいたところで何もできないように続けて攻撃し氷漬けにする。……いや待てよ。こいつだけじゃないはずだ。
「ゴブリンの死骸に注意しろ! そいつの影に何か潜んでるぞ!」
すぐに声をあげたが、その時には他のいくつかのところでも散発的にこちらと同じ状況になっていたようで、動揺するような声や戦闘音が聞こえていた。
隊長にも知らせて指示を仰ごうかと思ったが、先頭の方での戦いに応援に行ってしまっていた。こうなったら!
「両隊とも荷車の近くに陣取って荷駄を守れ! 側近衆は俺についてこい!」
味方に手短に指示を出すと、近くの死骸から飛びだしてきた奴を斬りつける。側近たちが集まったところで周囲を見渡し、苦戦している所を探して援護に向かう。
どうやら相手は隠れるのをやめて一斉に出てきたようで、数はそこまで多くないものの、奇襲ともいえる登場をしたからか苦戦している所がいくつもあった。
俺はそこへ援護に行き、片づけると別の場所へ。荷車に近づくやつを斬り、飛んでくる火矢を魔法で撃ち落とし、矢を射かけたやつを探して叩き伏せる。燃えかけた荷車も冷気を当ててなんとか消火する。
「敵は少数だ! 頑張れ!」
味方を鼓舞しながら動き回り、やっと敵の姿が見えなくなった。周りを見ても、魔力を感じる死骸はない。切り抜けたか?
それから待っても新手が現れることはなく、また先頭の方で行われていた戦闘も終わったのか他の場所に援護に向かっていた部隊も戻ってきている。
「……この様子を見るに、こちらでも影からの襲撃があったようだな」
こちらの様子を見た隊長がそうこぼす。俺はこちらの状況について報告しようとしたが、一刻も早く隊列を編成し直して補給拠点に向かった方がいいだろうということでそれは後になった。
大分警戒しながらの進軍となったがそれから襲撃はなく、無事に補給拠点となっている砦に到着できた。
荷駄を引き渡した後先の襲撃の報告となったわけだが、特に攻撃が激しかった前方は護衛部隊を分散させるための陽動であった可能性が高かったという。実際その間に荷駄への襲撃があった。
荷駄の方は補給部隊の中にふたつある荷車の塊のうち、前方ではふたつの荷車が燃やされてしまった。俺が走り回っていた後方では、ひとつが少し焦げた程度で済んだ。
さて、後方で被害をかなり抑え込むことに貢献したわけだが、持ち場から離れて動き回っていたわけでもあるので、お叱りがあるかと思ったのだが、逆に評価されてわずかだが褒賞がいただけるらしい。
皆の前で称えられのは少し気分がよかった。特に、散々嫌味を言っていたダグラ伯爵が悔しそうにしていたからな。あの襲撃は人間だった。対人戦はダグラ伯爵の得意分野だったから見せ場を奪ったようなものだからな。
ただ、あの襲撃者たちの現れ方がどうもひっかかる。……あれ、サクヤたちが使う影魔法に似てたんだよな。
帝国だって魔法の研究はしているだろう。闇魔法の研究の成果か?
以前の卒業試験で対峙したあの黒い獣も、闇魔法によって強化・改造されていたんじゃないかって話だった。あの時のフィオナの怯えようを見れば、きっとろくでもない手段を使ったんだろうということは想像に難くない。
帝国は研究のために人を集めているって話もある。アメリアの件も含めて要注意だな。
いい気分が一瞬で吹き飛んでしまった俺は、褒賞で湧く仲間たちと笑いながらも、帝国への警戒を強めるのだった。
主人公に敵愾心を向けるダグラ伯爵ですが、実は他の人とも因縁が……。これからどうかかわってくるのか⁉
次の更新は11月1日(金)を予定しています。それでは、また!




