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    9-2 令息はつかの間の日常を送る

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 今回のお話は戦争の前のわずかな日常シーンが主になります。それでは本編をどうぞ!

 隊列を組んで街道を進んでいく。現在俺は馬上の人となっていた。周りには父とその護衛達や荷物を運ぶ者もおり、さながら大名行列の様だ。……規模は小さいし結構早く移動しているけれど。


「そう言えば、知り合いに挨拶とかはちゃんとしてきたのか?」


 父からの問いかけに「昨日済ませました」と答える。父は屋敷を出る直前に母と見つめあった状態で何やら話していた。


 マルバスたちには昨日の昼休みの後に時間が少しあったのでその時に話した。マルバスがついていくと言い出しそうな表情だったのでくぎを刺したっけ。無茶をしないか少し心配だ。エレンにはフィオナを頼むと手紙を出しておいた。出さなくても彼女はフィオナを放っておかないだろうけれど、一応……な。


 フィオナとも、昨日の夕方以降は会っていない。見送りはいらないと予め言ってあった。あの空気の後じゃあ、会ってもしめっぽい感じになりそうだったから。代わりに昨日話しきれなかったことを手紙にして届けてもらった。可能な限り俺がラングレイにいたころと同じ様に手紙のやり取りをしようと思う。


 報告によれば、ラングレイの方では護衛に同行する部隊を編成している所だとか。あっちに着いたら訓練もしないとだなあ。


「よいか。国内とはいえ油断はするな。荷駄を狙う盗賊や、それに見せかけた敵の部隊による攻撃があるかもしれん。既に帝国の影も幾人も入り込んでいるだろうからな」


「はい、父上」


 馬で並走しながら父に護衛のあれこれを教授してもらう。あれやこれやと話している間にあっという間にラングレイは近づいてきていた。


「お帰りなさいませ」


 ラングレイにある屋敷の門の前には、屋敷の管理を任せている執事長とシンマが待っていて出迎えてくれた。


「む。久しいな。……ここでの生活はどうだ?」


「はい。やりがいのある仕事をさせていただいております」


「ふむ。愚息はどうだ? やっていけそうか」


「覚えもよく、民と向き合う姿勢も強いです」


「———そうか」


 ラングレイ(うち)の執事長は元々侯爵領で働いていた人物なんだが、こちらに引っ越して来て色々と内政に関することを中心に教えてくれている。シンマも叔父上の息子の一人で、騎士として働いてくれている。


 父は執事長からの話を聞くと、どこか感慨深げな表情を一瞬だけ見せた。そして最後に、「くれぐれも気を付けるように」と俺に言ってから護衛と共に侯爵領に向かっていった。


 父が見えなくなると、シンマが「ふうう」と気が抜けたような声を漏らす。


「緊張した……」


「わからんでもないぞ」


 一緒に働き初めて早1年以上。今や気心も知れた仲になった俺たち。こちらにいるときは、時たま一緒に菓子を食べたりサボったりする仲である。


 気を抜くと「昼寝がしたい」とか「騎士なんてやらずにのんびりしたい」とこぼすシンマだが、仕事ぶりは結構まじめだ。まあ領地でしごかれていたのだからのんびりなんてしてられなかっただろうけど。


 普段は屋敷の警備や領内の巡回をしているが、魔物や盗賊が出れば討伐もする。本人は戦いは苦手だと公言しているが、いざ戦いになるとなんだかんだで戦果を挙げてくるのだ。


「毎年の討伐と山籠もりはすごく苦痛でしたね。……まあいつも途中から記憶があいまいで気が付くと終わっていたりするんですけどね」


 あははとのんきに笑うシンマを見て、こいつも難儀な奴だよなと思う。かつてのレオンも家のことや家族のことで歪んでいたが、シンマもまた本人の気性と家としてやらなければならないことの食い違いに苦しんで、レオンとはまた違う歪み方をしているんだよな。


 これまで何度も話はしていて、日常にはあまり影響がないから現状維持になっている。これからも共に働いていくんだし、気長に付き合っていこうか。どちらも気のいいやつだしな。




 一息ついた後、案内されて今回の護衛部隊に配属された兵たちのもとに向かう。訓練場には彼らが隊列を組んで待っていた。人数は50人。少ないと思うかもしれないが、そもそも俺たち以外にも500人以上護衛がいる。それに、形になってきたとはいえたくさんの兵を出すのはまだ厳しいからな。後半年もあれば練兵も済んで出せる兵は増えるだろうけど、今回は50名で良いという話なので大丈夫だろう。


 兵たちの前に立っているのは小隊長のふたり。今回の副官たちだ。片方は侯爵領からやってきた経験豊富な人物で、もう一人は去年入隊したばかりだが実力で上ってきた人物。もちろんどちらも年上だ。


 その片方。比較的年が近い方の人物に目を向ける。名前はシゲヤ殿。兵になるやめきめきと頭角を現して小隊長になった男。だけど、相も変わらず瞳の奥は暗く(よど)んで見える。


 調べによれば、シゲヤ殿は王国と帝国の緩衝地帯、その帝国よりの村の出身。だが、村は帝国の軍に襲われて滅び、シゲヤ殿はそこで奥さんを亡くしている。うちの軍に入ったのは有り体に言えば”復讐”のためだ。戦場で家族の敵を討つつもりなのだろう。


 ただ、それを抜きにしても優秀なのは確かだ。そうじゃなきゃ1年でここまで来れない。……ただ、帝国軍を見つけたとき、血気に(はや)って突撃しないかが少し心配だ。


 部隊の中にはかつて侯爵領で共に戦ったマルスをはじめとした騎士たちもいる。彼らはシンマと同時期にこちらに移住して働いてくれていた。これは心強い。


 顔合わせと共に軽く訓練をこなして顔合わせは終了。その後は溜まっていた書類の決裁を行う。いくらかはこちらに詰めている人でも決裁できるようにしてあるが、それでも溜まっていた。ラングレイやガリアに作る公園の整備について。領内における盗賊や魔物の目撃情報と対処の報告書。ダンジョンがあるランペルの町に作っている砦の普請について。ラングレイの城壁の普請・修繕の進捗状況についての報告書。……花街からの報告書もあるな。帝国の間者がいたと。とうとう入り込んできたか。ダンジョンについて調べている模様。陰からの報告には、街に忍び込んでいた間者の一部を始末したとも書かれていた。


 小山になっていた書類が半分くらいになったころ、夕食の呼び声がかかった。そこで日が暮れかけていることと、お腹が空いていることに気がついた。今日は何が出てくるのかな?


 今日のメインはハーブコッコのステーキだった。その他にもサラダにライス、スープもある。スープにはたくさんの野菜が入っていて具沢山だ。


「いただきます」


 食前の挨拶をしてから食べ始める。食卓にいるのは俺とシンマ。母型の祖父であるナリス公だけだ。ナリス公は母からの頼みで領地運営の手助けや領主としての仕事について補佐してくれている。年齢的には50代のはずだが若々しい。俺が学園に通っている間も領地が回っているのは公のおかげだ。


 最初の頃は食卓は俺だけで物寂しかったな。食事は誰かと一緒に食べた方が美味しい。


 だから最初は屋敷で働いている人皆で食べれればと思ったのだが、身分差やら仕事やらで実現せず、今は一族とも言えるふたりを入れた3人で食べている。だけど、皆で食べることもまだ諦めていない。色々調整してバーベキューみたいな催しを企画して行ったので、それをまたできればと思っている。……今は無理だろうけれど。


 お! スープは野菜のうまみが出ていて美味しいな。ステーキもかかっているソースが肉のおいしさを引き立てている。これはすりおろした玉ねぎか? ほのかに甘い。


 シンマたちにも好評で、シンマはさっそくライスのお代わりを頼んでいる。ちょうどいいのでライスのお代わりを持ってきたトールに声をかけた。


「今日の料理もおいしいよ。特にステーキのソースがいい」


 トールは王都の屋敷からこっちのコックとして引っ越してきていた。去年の暮れに親父さんから一人前と認められての栄典である。まあ本人が言うには俺の近くにいた方が新しい料理のアイデアが手に入りやすそうだからだと言っていたがいくらかは照れ隠しだと思う。


 なお、俺の次に喜んだのはサクヤだった。前にカヅキからサクヤが餌付けされていると言われたことがあったが本当だったらしい。カヅキは食べ過ぎで仕事に支障が出ないか心配していたが、俺としてはしっかりと食べてほしい。年齢的にこれから成長期だし。


「そりゃあよかった。刻んだ玉ねぎをじっくり煮込んで味付けしたんだ。新作も練習中だから、楽しみにしていてくれよ」


「そうする。そう言えば、パトリック君はどうだ?」


「ああ。働き者だし筋もいいと思うぞ。大助かりだ」


 去年からハンターとして、途中からは工事の作業員として働いていたパトリック君だが、現在はうちの屋敷でコック見習いをしている。去年の夏、例の告白の後、俺はエレンと共に彼と面談をして、カマをかけたところもあったが互いに前世の記憶仲間であることを確認した。彼の記憶は俺たちよりも大分ぼんやりとしたものだったが、本人は自分以外にも仲間がいたことを泣いて喜んでいた。やはり他人と違うことで不安があったそうだ。


 それから、パトリック君に今後どうしたいか聞いた。このままラングレイ(ここ)にいてもいいし、ユフィリア嬢はエレンが後見しているようなものだから彼女が公爵領や王都で仕事を世話してもいいと提案もした。


 パトリック君は悩んだ末、現在のパーティメンバーとのことや仕事のこともあるため、しばらくラングレイで働きながら考えるという結論を出した。


 そして今はうちの厨房でコック見習いである。将来はレストランか実家のパン屋を広げて軽食を楽しめるようにしたいとか。


 彼女との仲も良好なようで、今年の夏にラングレイでデートしていたと報告が上がっている。まあ俺とてしていたので人のことは言えないが。


 とにかく、優秀な助手ができたとトールを始め厨房の皆は喜んでいた。




 翌日は、また書類の決裁だ。昼までにある程度終わらせて、午後からは街の見回りに出る。これも久しぶりだな。


 護衛数人を連れて街を回る。街は活気がありつつも少しの緊張感を孕んでいた。いつもよりも見回りの兵を増やしているからそれもあるのかもしれない。


「レオン様! 見回りですか? ありがとうございます!」


「これも役目だからな」


「ダンジョンで出たお肉、また屋敷に届けておきましたよ。召し上がってください!」


「おお。以前のも美味かったからな。ありがたくいただくよ」


 街を歩いているといろんな人に声をかけられる。約2年色々なところに顔を出し、交流を重ねてきた成果だ。


「領主様、次の懇親会はいつでしょうか? 一回目の話を聞いて、うちの娘も参加したいと言っているんです」


「次……はまだ未定だな。決まったら告知しよう」


 懇親会も交流のひとつ。簡単に言うと合コンだ。屋敷や騎士団、警羅隊で働いている独身者を集めて食事会を催した。そこに希望した未婚の街の人も参加していて、めでたくいくつかカップルや婚約が成立している。うちの兵には元ならず者とか、流民もいて少し怖がられていたのを解消するための策だったんだが意外と好評で、こうして次の開催について聞かれることもある。ただ、次はなあ。戦争が落ち着いてからになりそうだ。


 見回りついでに普請場の視察もする。ラングレイの南と西では、今も城壁の工事をしている。西はダンジョンに通じている道で、南は帝国方面に通じている。ラングレイ周辺ではこの2方向からやってくる魔物が多いため、こちら側の防備を厚くしている。……万が一、帝国に攻撃を受けたときも想定はしている。現実にならないことを祈るばかりだが。




 見回りを終えて戻り、夕食を食べる。その後はまた書類と格闘だ。だけど一時間もかからずに終わり、ほっとする。温泉に浸かって後は自由時間だ。まあ最近はずっと書き物をしている。


 中身は前世で見たアニメや漫画、小説の内容を紙に書き写している。『転生者』の恩恵でしっかり覚えているからできるわけだが、これはエレンからの依頼でもある。俺が知っているアニメの内容を知りたいそうだ。そしてこちらの世界でも中身が通用しそうなものは手直しして本にするという。原稿料をくれるというのでやっているが、最近思うのは武田信繫公や島津豊久公がこちらに転移してきているのなら、あちらの戦国時代を描いた話を書いてもいいのではないかということだった。川中島とか関ケ原とか。もちろん時間ができたらだけど。


 ……よし、これで女子高生に扮したエージェントの話は終わり。王都に戻るときにもっていくか。


 ……でも、こうやってのんびりと書き物とかができるのも最後かもしれないんだな。当然ながら俺は戦争なんて行ったことはない。ゲームが高じて戦国時代の合戦を模したイベントに数回出たことがあるが、それとは比べ物にならないだろう。魔物とも、盗賊相手とも違う、本当の戦争だ。

 俺は、そこで何を体験することになるのだろうか……。


 その日の夜は、なかなか寝付けなかった。

 次回以降戦闘描写が多くなる予定です。また、それに際し主人公以外にその場面ごとの中心人物目線の描写も増える予定です。どんどんと場面が動いていく緊迫した様子をお送りできればと思います。

次回更新は10月24日(金)を予定しています。それでは、また!

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