8-14 観劇デートとお茶会
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ちょうどお盆の時期、皆様はどうお過ごしでしょうか?作者は暑くてやや引きこもり気味です。夏バテや熱中症に気を付けて生活しましょう!
今回のお話はとても久しぶりなデート回です。糖分多め(当者比 ※誤字ではない)でお送りします!
それでは、本編をどうぞ!
今日は学園がお休みです。もう夏の強い日差しが照りつける中、私はレオン様と一緒に馬車で劇場に向かっていました。きっかけはレオン様からデートに誘われたことです。観劇をしてから伯爵邸改め侯爵邸に行ってアニエス様たちとお茶会をします。
今日の私は水色のワンピースに薄めの上着を羽織っています。お化粧もアンナがしてくれました。レオン様も小さな規模の夜会なら問題なさそうな格好です。首元には指輪ネックレスのチェーンが見えています。もちろん私も。
今回見に行く演目は、「テンキューノブシゲ」。ノブシナさんのひいおじい様であるタケダ・ジロウ=ノブシゲ様の活躍を描いたお話です。テンキューというのは通称だそうです。レオン様が言うには、こちらで言う貴族の位のようなものだとか。
王都の劇場でこの演目をすることを知ったレオン様がせっかくだから見に行かないかと誘って下さいました。私も興味がありましたし、何より久しぶりにふたりで出かけられることが嬉しくてすぐに了承したのです。
王都の劇場は歴史ある大きな建物です。以前にエレンと来たことがあり、その時は恋を描いた物語を観たのだったわ。あの時はこうしてレオン様とふたりデ、デートで来ることになるなんて思いもしませんでした。過去の私に教えても信じてもらえなさそうです。
レオン様にエスコートされ、手をつないだ状態で座席へ向かいます。座席はほどほどに埋まっていて、私たちは真ん中よりもやや前方にある席に並んで座ります。
「楽しみですね」
「そうだね。劇場とか初めてだから、楽しみだ」
劇場は初めてみたい。以前の場所にも劇場や似たような施設はあったと聞きます。そちらの方は誰かと言ったことがあるのでしょうか?
……考えてもしょうがないわ。今、一緒に来ているのは私だもの。
そう思いながらちらりと隣でステージの方を見ているレオン様を見ます。肘掛けに置かれている手を握ってもいいかしら?と考えていたら、周囲の明かりが堕とされてあたりが暗くなりました。どうやら演目が始まるみたい。
それでも手が寂しいからと言い訳をしながらそっと肘掛けに置かれているレオン様の手に私の手を重ねると、優しく握り返してくれました。辺りは暗くてその時レオン様がどんな表情をしているかはわからずじまいでしたが、伝わるぬくもりに全てが込められている気がしました。
演目は、以前にノブシナさんから聞いた内容とほぼ同じです。彼のひいおじいさまであるノブシゲ様が牧場を営む夫婦に助けられて介抱されるところから始まり、侵略にやってきた隣領の軍を蹴散らす場面や周囲の人々の期待に応え、騎士団長、やがては領主になっていく過程が演じられました。
戦いの場面は緊張感たっぷりでハラハラしましたし、同じ落ち人から故郷のタケダ家が滅んだと聞かされた時の場面は思わず胸が苦しくなるほど悲壮感が溢れていました。
『なぜ私がこの異国に流されたのかはわからぬ。だが、ここに守るべきものができたからには、守らねばならぬ! 兄上! 今少し待っていてくだされ。必ずやタケダの名と血を、この世にとどろかせ、残してみせましょうぞ!』
『御旗を掲げよ! 行くぞ!』
『おお!』
最後は迷いを断ち切り、この世界で生きていく覚悟を決めたところで劇は終わりになりました。幕が下りて演者の人たちが出てくると、惜し気のない拍手がおくられます。もちろん、私とレオン様からも。創作された部分もあったとは思いますが、見ごたえのある演劇でした。
「とてもよくできていたな。面白かった」
「はい。実際に劇で見てみると、聞いただけではわからなかったところもわかりやすかったです」
「それじゃあ次は侯爵邸だけど、その前に……」
そう言うとレオン様は劇場の外にある出店を見ながら「少し何か食べないか?」と言いました。侯爵邸でのお茶会はお昼過ぎからと聞いています。少し食べておいてもいいかも。
劇場近くには劇場のお客さんを見込んだ屋台やお店が並んでいます。食欲を刺激する匂いも風に乗ってこちらまで届いていますね。
匂いがする方にふたりで近寄ります。肉を串に刺したものやサンドイッチ、クッキーなどのお菓子に、切った果物を串に刺して冷やしたものもありました。氷魔法でも使っているのでしょうか?
見て回った末に私たちは最初に気になった冷やした果物をいただくことにしました。日差しもあり熱かったのが選ぶ決めてでした。
「すみません。冷やしフルーツが欲しいんですが、おすすめはありますか?」
レオン様が尋ねると、お店のおばさまは快く答えてくれました。
「お兄ちゃんたち恋人かい? 初々しいねえ。王道はやっぱりパイナップルだね。甘さと酸っぱさのハーモニーがなんとも言えないよ。ただ、最近始めたラージカンとかビッグマンゴーもおすすめさ」
そう言って指し示す先には、オレンジ色の果実と鮮やかな黄色の果実。どちらも半分凍ったような状態で置いてあります。
「ううむ。どうしようか?」
「そうですね。私はビッグマンゴーが気になります」
じゃあ俺はラージカンというのをもらおうかなと言うと、レオン様はその二つを注文しました。
お店のおばさまに「ありがとうね~」と言われながらお店を離れ、馬車の近くまで行き、日陰のベンチに腰を下ろします。
「はい、フィオナのだったよね」
レオン様から鮮やかな黄色の果実を手渡されます。串に刺さったそれは、細長い棒のような形をしています。まだ冷えているのか、黄色い果実からはうっすらと冷気が白い煙のように出ています。
レオン様がもっているラージカンという果実は、丸みがある三日月のような形の果実がふたつ串に刺さっていました。レオン様は「大きなミカンみたいだ」と言って不思議そうな顔をしています。
少し控えめに果実を口に含むと、思っていたよりも柔らかな食感がして、瑞々しさと濃い甘みがが口の中に広がりました。思っていたよりもずっと甘くてびっくりです。半分凍った状態だからか、柔らかいだけではなく歯ごたえのあるところや少し弾力のある部分もあって見た目の鮮やかさだけではなくて、食感でも楽しめるようになっていてすごいと思いました。
隣を見ると、レオン様は豪快に果実を口に含んでいました。それだけで果実の半分ほどが口の中に消えています。シャリシャリという音が聞こえるので、あちらの方がより凍っているのかしら?
「———良かったら少し食べる?」
レオン様のラージカンを見ていたら、レオン様がそう言って串をこちらに寄せてきました。……もしかして私、物欲しそうに見えたのかしら。恥ずかしい。
「でしたら私の———! だ、大丈夫です!」
少しだけ、甘えてもらってしまおうかという考えが頭をよぎりましたが、恋人とは言え相手が口をつけたものをもらうのはどうなのかと待ったがかかります。
それに今私、自身のビッグマンゴーと交換して食べさせあいっこをって言いそうになってたわ。想像しただけで顔が熱くなってきます。ち、違うの。決して仲のいい恋人はそういうことをすることもあるとか聞いてやってみたいと思ったわけじゃないの!
「そ、そうか。ぶしつけだったかな。ごめん」
「あ、いえその、レオン様が謝る必要は」
私の出した声に驚いた様子のレオン様が申し訳なさそうな顔で謝りました。本当は謝る必要なんてないのに。
とはいえ、私の頭をよぎったことを話すのは恥ずかしくて、その後は無言のままフルーツを食べ、迎えに来てくださった馬車で侯爵邸に向かいます。
侯爵邸では、アニエス様がにこやかに出迎えてくださいました。案内されたのは室内。外は暑いからだそうです。
椅子に座るとほどなくしてカートが押されてきて、テーブルにお茶請けが並べられていきます。色鮮やかなサンドイッチ、ふんわりとしたシフォンケーキやショートブレッド。クッキーやフィナンシェなどがティースタンドに並んでいます。
今回は昼食も兼ねているからか、お茶請けが多いです。軽食になりそうなものもお茶菓子になるものも一緒に並んでいます。
「ふたりは確か演劇を見た後でしょう? 昼食もまだだろうと思って、お茶請け多めにしたの。レオンは普通のお茶会の量じゃ足りないでしょ?」
「人を大ぐらいみたいに言わないでくれます? 確かに空腹ではありますが」
「ならちょうどいいじゃない。食べ過ぎで醜態を見せないようにしなさい」
アニエス様がレオン様をからかうようなことを言って、レオン様がそれに不満げな様子で答えます。気安い親子の会話に少しまぶしくなります。世の中を見ればこんなやり取りをする親子は多くないでしょう。特に貴族では。
私も最初は戸惑うことが多かったです。以前の私だったら素直に受け取れなかったかもしれません。
でも今は素直に受け入れることができています。それも私と向き合い続けてくれたレオン様のおかげ。こんなことを言ったらエレンたちが拗ねてしまいそうですが、今は許してほしいです。
教の参加者は私とレオン様とアニエス様の3人だけみたい。レオン様はサクヤちゃんも呼びたかったみたいですが、今はラングレイにいるのだとか。
「今日のお茶はソプラニアの方から取り寄せたものなの。味わってね」
「はい」
アニエス様が手ずから紅茶を注いでくださり、お茶会が始まりました。
「そう言えばあなた知ってる? カリオンにいい子ができたかもしれないわ」
「兄上にですか? 俺は知りませんが」
世間話の中で、アニエス様が興奮気味にカリオン様のことを話します。カリオン様には現在婚約者がいらっしゃいませんが、候補者が現れたとか。
「クロエちゃんて言うのよ。カリオンが珍しくお菓子なんか持ってるから問い詰めたら、部下の女の子がくれたって言うじゃない。カリオンが珍しく褒めてたから、さっそく調べさせたわ」
調べたところ、そのクロエさんの家が乗っ取られそうになっていた所を、カリオン様が助けたとか。もしかして以前に聞いた子爵家の乗っ取りを防いだ話はこのことかしら?
「クロエちゃんはね、カリオンを追いかけてわざわざ王都の騎士団に入ったんですって! カリオンに付けてるヒタキもクロエちゃんはカリオンに気があるって言っていたし、カリオンも嫌がっていない。これはチャンスだと思うの!」
アニエス様は長男であるカリオン様に婚約者がいないことを気に病んでいたのか、とても嬉しそうです。アニエス様に気に入られているのならきっと素敵な人なんでしょう。
「期待するのはいいですが、あまりちょっかいはかけない方がいいのでは? まさか屋敷に呼んだりはしていませんよね? 聞けば子爵家の子らしいじゃないですか。いきなり呼んだら委縮しますよ」
レオン様は興味があるという顔をしながらも、慎重さを求めるように言います。それにアニエス様は「わかっているわよ。とりあえずふたりに人をつけて様子を報告させているわ」と笑顔で返しています。おそらく、様子見して好機があれば何かするつもりなのかもしれません。
アニエス様はたくさんのお話をして下さいました。私とレオン様の婚約が決まった経緯や、アニエス様と私の母の関係性など。今まで知らなかったことも話してくださいました。
最後に、久しぶりに”歌い手の集い”で歌ったあの歌を2人に披露して、お茶会は終わりとなりました。
歌っているときに身体から魔力が抜けて、それが声と共に拡散していくような感覚がありました。これが”歌魔法”の効果なのかしら?
私はこの歌で二人が喜んでくれればと思いましたが、レオン様は変化がありませんでした。
ただアニエス様は身体が軽くなったと喜んでいました。執務や社交で少し疲れ気味だったそうですが、それがきれいさっぱりとなくなってしまったとか。
私自身もこの魔法についてはわからないことが多いです。王家の方にも既に報告は挙がっていますが、国としてもバリトニック教国との関係性が揺らいでいることなどから、認知はするけれども干渉はしない、そのまま過ごしてくれて構わないとの事でした。まあ、できればこのままハルモニア王国にい続けてほしいというのは感じましたが。
私が今まで通りの生活ができるのもアニエス様を始め侯爵家の皆様が交渉してくださったおかげです。私の歌が少しでもその尽力に報いることに繋がったなら嬉しいと思いました。
テンキューノブシゲこと武田信繁公を含めたそのほかの転生・転移者のお話は機会があればもう少し出したいですね。なお、彼のスキルは某戦国SLGの能力を参考にしました。
次回更新は8月29日(金)を予定しています。それでは、また!




