8-7 異世界の人①
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ゴールデンウィークも終わってしまい、暑さも本格化してきてまいっちゃいますよね。
今回のお話は、以前に閑話で出てきた人たちの話に触れます。主人公たち以外にもこの世界に流れてきた人はいるよって話です。
それでは、本編をどうぞ!
黒く、丸い瞳が私を見つめています。私もまたそれを見つめ返し、そっと顔を撫でます。すると受け入れてくれたのか、私の手に顔をこすりつけてくれました。拒絶されなかったことにほっとします。
今は馬術の授業。私は、学園所有の馬を前に、馬に慣れる訓練をしていました。……いえ、正確には、馬が私に慣れる訓練でしょうか。
座学で馬についての基本的なことを教わった後、さっそく馬と触れ合うことになったのですが、馬は身体を触らせず、私の前からふいと逃げて行ってしまったのです。
相性が悪かったのだろうと他の馬にしたのですが、皆逃げ出したり、中には怯える馬までいたのです。どうやら、私の闇魔法の魔力を警戒しているのではないかと言う話でした。それを聞いた時は落ち込みそうになりましたが、魔力を抑えて何度も挑戦しているうちに段々と馬たちも警戒を解いてくれたのか、今では触らせてくれる子も増えてきました。
馬が懐かないから授業を受けられないなんてことにならなくてよかったです。
まだ乗ることはできませんが、まだ授業は始まったばかり。焦らずにいきましょう。
「——少しいいだろうか?」
「はい? なんでしょうか」
馬を撫でていると、同じ授業を受けている男子生徒から声をかけられました。少し世間話をした後、馬の触れ方について少し助言をもらいました。……彼はオルテノールからの留学生で、馬の扱いに長けた領地の人だからか、助言が的確です。殿下が生徒会役員にと連れてきた生徒でもあります。
お礼を言うと、彼は戻っていきました。高等部に入ってから、こうして話しかけられることも増えました。リリーさん主導のファンクラブの人もそうですが、生徒会の方や、それ以外の方とも話す機会が増えました。注目されているというのを実感することも多いです。
とはいえ、友好的な方ばかりではなく、陰口を言う方や、私に近づいて、レオン様や侯爵家に近づこうという方もいます。
馬術の授業の初めの頃、まさにそういう方が私に難癖をつけてきたことがありました。私も毅然と対応したのですが、相手はそれでも収まらず、激昂して私を攻撃しようとしてきたのです。それを抑えてくれたのが、先程話しかけてきた男子生徒——ノブシナさんと、もう一人。
「奥様。何か困りごとはありませんか?」
馬を連れてやってきたのは、昨年に知り合いになり、今ではレオン様を敬愛するマルバス様です。私も驚いたのですが、私たちがラングレイに行っている間に飛び級の試験を受けて、今では私たちと同じ学年になったのだそうです。
「特に問題はありません。後その……奥様はできればやめてもらえると」
「何を言いますか。ラングレイを納め、ゆくゆくは領主夫人となるのですから、速いか遅いかの違いでしかないですよ」
「それでも、恥ずかしいので、今まで通りでお願いします」
「わかりました」
マルバス様はしばしばこのような形で私の護衛のようなことをしているので、巷では私の従者のようだと言われています。とはいえ、マルバス様自身もいずれはラングレイに行きレオン様のもとで働くつもりのようで、その噂すら計算に入れて動いているみたいですが。
ただ、エレンからは自分の受けていない授業で私についていてくれることから評価は高いです。リリーさんたちのファンクラブにも、馬術の授業を受けている人はさすがにいないみたいですし。
「ほう。流石はジロウ殿だ。馬の扱いが巧みですな。僕も負けてられませんね。では失礼します。何かあればいつでも呼んでください」
マルバス様はノブシナさんを追いかけるように馬を連れて行ってしまいました。私ももう少ししたら乗れるようになるかしら。
「フィオナ」
「あ、エレン」
エレンと合流したのは、その次の授業でした。教室には、ノブシナさんもいて、少し離れたところに座っているのが見えます。後、リリーさんに紹介された方々も何名か見かけました。私のファンクラブっていったい何人いるのかしら。知りたいような、知りたくないような……。
やがて授業が始まりました。今日の内容は、オルテノールの歴史についてです。
ハルモニア王国の同盟国であるオルテノール共和国は、ハルモニア王国などに比べると歴史は浅いです。元々はオルト帝国という名前だったのですが、暴政や天災により崩壊。それから数十年の間貴族や有力部族が相争う時代となっていました。今の共和国になってからまだ50年ほどです。
今回の授業では、まさにその戦国時代の話でした。オルト帝国が崩壊した後、国は30以上に割れて争ったと言います。
その歴史の中で特に興味深かったのは、”落ち人”と呼ばれる存在です。
”落ち人”というのはこことは異なる世界から落ちてきた人のこと。前世の記憶を持つ人について調べていた時に知った言葉です。記録にも何名かの名前が書いてありました。
そして、戦国期のオルテノールは、まさにその”落ち人”が活躍した時代でした。
名前が残っているのは2人。1人はノブシゲ=タケダ・ジロウ。テンキュー様とも呼ばれています。もう一人はトヨヒサ=シマズ。どちらも滅びかけていた貴族家や部族を蘇らせ、強国に押し上げた人物。伝わっている話も興味深かったりやや荒唐無稽なものもあります。生涯で10回以上戦場で殿を務めても生き延びたと言うのは本当なのでしょうか?
それと、この方たちはレオン様がかつて生きていた世界の人なのではというのも興味を惹かれる理由です。名前の響きというか、構成というのでしょうか。似ていると思ったので。
「戦国期オルテノールの落ち人? 確実に私やあいつと同郷だと思うわ。ただ、暮らしていた時代が大分違うと思うけど」
エレンが言うには、レオン様たちの世界もオルテノールと同じ様な時代があって、その時に活躍していた人だろうとの事でした。ただ、それがエレンが暮らしていた時よりも400年以上昔だと聞いた時には驚きましたが。
「私はそのあたり、少しかじった程度であんまり詳しくないのよね。レオンは多分知っているんじゃない? 今度聞いてみたら? あとはジロウ君に聞いてみてもいいかもね」
ジロウ君ことノブシナさんはタケダ・ジロウ家の末裔なのです。かつては無敵と呼ばれた騎馬軍団を率いた彼の家は、今では軍馬をはじめとする馬の牧場を経営しているのだと前に言っていました。エレンが言うには、タケダという家は、エレンたちの世界でも最強の騎馬隊を率いていたことで有名であったそうです。
そうね。せっかくだから、話を聞いてみようかしら。
今回出てきた二人の武将ですが、片方は漫画「ド〇フターズ」の影響です。いいキャラしてますよね。
もう一人の方は戦場で散った武将を探していた時に、たまたまゲームで”川中島の合戦”イベントがあったのがきっかけです。結果として馬術の授業で自然にフィオナちゃんたちと絡ませることができました。
次の更新は5月23日(金)を予定しています。それでは、また!




