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    8-5 新たな友人

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 作品内は春も過ぎたあたりですが、現実はまさに春の盛りでしょうか。緑あふれ、花咲き誇り、温かく過ごしやすいですね。これで花粉が飛ばなければ最高なんですが(笑)。

 それでは本編をどうぞ!

「魔法が上手く発動できない?」

「はい。なんだか上手くいかなくて……」

 シュンとするユフィリアさん。この数週間で、私たちはユフィリアさんと食堂で一緒に昼食を食べられるくらい仲を深めることができていました。私たち———特にエレンと一緒にいることで、彼女に対する懐疑的な目は少しずつ収まっていっているみたいです。

 ただ、彼女が今言ったように、魔法がうまく使えないことによる嘲りに近いものはまだ残っていました。特に光魔法が使える人は、強力な回復魔法が使える事例が多かったことも原因のひとつでしょうか。フォルティアさんでも、自分の周囲にいる数人を一度に回復できるくらいの力はありました。

「パメラさん。私が闇魔法を使えることは知っていますか?」

「はい。フィオナ様のお話は窺ったことがあります」

「……私も、最初は闇魔法がうまく使えなかったわ。暴発して、一時的に母の目が見えなくなったこともあったし、自身の耳が聞こえなくなったこともあったのよ」

 あの時は、すぐに治ったから良かったけれど、もし加減を間違えていたら、永遠に耳が聞こえなくなっていたかも。今にして思えば、危ないことをしていたのだと実感します。

 パメラさんは「そうなんですか!?」と驚いた顔をしています。

「そうなの。失敗もたくさんしたわ。その中で少しずつ魔法や魔力の使い方を学んでいったの」

「誰も初めからうまくはできないものよ。……でも、こうしてみると、あなたって食事とかの所作が中々整っているわね。感心したわ」

 エレンの言葉にユフィリアさんは戸惑いつつも少しだけ笑みを浮かべました。なんでも、ハルモニア魔法学園への入学が決まってから、家庭教師の方にマナーや所作を徹底的に仕込まれたのだそうです。彼女の家は男爵家とは言え生活は平民とほとんど変わらなかったそうで、学園で恥をかかないようにと家族からも言い含められたのだとか。

 ただ、マナーの授業などが優先された結果、勉学は本当に最低限しかやっておらず、魔法も最初に使って以降、発動の感覚をつかむこともできないままやってきてしまったと。

「……一番最初に魔法を使ったときは無我夢中で、それ以降は上手く発動できないんです。その、光魔法を使えることに、まだ慣れていない、というかそれを上手く想像できなくて……」

 恥じ入るような顔でそう話すユフィリアさんにエレンが最初に魔法を使ったときのことについて問いかけました。

 すると彼女は、一瞬だけ照れたような表情を浮かべた後、今度はさっと顔を青ざめさせ、どこか落ち着かない様子であちらこちらに視線をさまよわせました。明らかに挙動不審です。

 そう言えば、訓練の時は魔物に怯えていました。もしかしたらあまり思い出したくないのかも。

 話したくなければ無理に話さなくてもいいと伝えようとしたのと、彼女が話し始めたのは同時でした。

「あの時は……何人かで、町の近くにある森に行っていたんです。普段はほとんど魔物も出ない森だったんですが、あの日は何体も出てきて……。私たちは慌てて逃げ出しました」

 しかし、その途中で転んでしまい、魔物に狙われたユフィリアさんを、幼なじみの男の子が庇ったのだと。

「パトリックは、私をかばって怪我をして……血が流れてて……顔色もどんどん悪くなっていったんです。目の前が暗くなって。助けなきゃ。治さなきゃって。……そう思ってたら身体が熱くなって、気が付いたらパトリックは怪我が治って、顔色もよくなってました」

 それからすぐに、町から救援が駆けつけ、ふたりは助かったのだそう。その後、鑑定で光魔法に覚醒していることがわかったんだとか。

「それから、何度も鑑定を受けたりとかして、気が付いたらハルモニア魔法学園に入学することが決まっていたんです。その日以来、ずっとマナーとかの勉強をすることになりました」

 聞いた限り、ユフィリアさんはかなりの重傷であった人を魔法で治癒しているようです。それが確かなら、急な入学も納得です。

「でも、魔法が使えたのはその時だけで、それからは……」

 実際、彼女は初歩的な治癒魔法はいくらか使えていましたが、今の話に出たような効果の高いものを使った話は未だ聞いたことがありません。そして、ほぼ間違いなく、その規模の魔法を使えるようになることを暗に求められているのでしょうね。

 だけど、ユフィリアさんの場合は、おそらく感情の高ぶりによって奇跡的に強い魔法を使えたようですし、今の状態では、相当に修練をしないといけないでしょう。

「それで、そのパトリックさんは大丈夫だったのかしら」

 ユーリがそう問いかけると、たちまちユフィリアさんは沈んだような表情になりました。

「……パトリックには、怪我の時以来会ってないんです」

「それは……どうしてですの?」

「光魔法が使えるとわかってから、勉強ばかりでパトリックや他の子たちにもほとんど会えなくなってしまって。パトリックが元気になったというのは聞いたんですけど」

 話しているうちに、じわじわと目尻に涙が溜まっていくユフィリアさん。

「少し、前に。なんとか時間を作って会いに行ったんです。そしたら、ハンターになると言って出て行ったって言われて……。パトリックは、前に将来は家の仕事を手伝うって言ってたから意味が分からなくて。

 おまけに、いつの間にか私は、『光魔法が使える特別な子』だとか言われるようになっていて、皆どこかよそよそしいし、家族を始め家の人たちも態度が変わりました」

 ……なんとなく、わかりました。私は闇魔法のことで避けられ、腫れ物のような扱いをされましたが、きっとユフィリアさんも方向性は違えど似たような扱いをされたのね。

 もういないフォルティアさんも、光魔法が使えるとわかった時は、きっともてはやされたはず。それだけ希少な魔法なのだから。彼女はそれを当然のものとして受けとめた。学園でもそれは如実に現れていました。

 だけど、ユフィリアさんは突然変わった周りの態度や環境を受け入れられなかったのね。

「故郷で急にもてはやされて心が追いついていないのに、いざ王都に来てみれば例の騒ぎのせいで疑いの目を向けられるなんて、不憫というかなんというか……」

「そうですわね……」

 あの騒動の当事者だった私たちとしては、何とも言えない感じです。

 その日のお茶会は、この空気のまま終わりを迎えることとなったのですが、それからも一緒に過ごしていてわかったことがありました。

 まず、勉強は苦手だけど、頭は悪くないということ。

 やはり基礎学力が低かったようで、エレンたちと基礎的な部分から教えているのですが、飲み込みが速いです。これなら、なんとか今の学習内容に追いつけそうです。

 次に、魔法がうまく使えないのは心理的な要因である可能性が高いこと。

 話を聞いていると、光魔法を使えるようになったことで周りの環境や態度が一変したことから、光魔法に対して忌避感に近い感情があって、心のどこかで発動を妨げているのかもしれないと。

 ユフィリアさんは、私たちが仲良くしてくれるのをありがたいし、助かってると感謝してくれています。学園生活も楽しいと言っていますが、時々遠くを見て寂しそうな表情をすることがあるので、本当は故郷に帰りたいのかもしれません。

 そして最後に引っかかってると思われるものは、彼女の幼なじみである、パトリックさんでしょう。

 本人は隠しているつもりなのかもしれませんが、わりとわかりやすかったです。彼の話をしているときは、とてもいい表情をしていましたから。

 どうやら彼が黙っていなくなってしまったことにかなりショックを受けているようで、仲良くしていた子たちが光魔法が使えるようになってからよそよそしくなったことから、彼に嫌われたのではないかと考えているみたいでした。そこから、『光魔法なんて使えなければ良かったのに』という思いが生まれて、それもまた心理的な枷になっているのかもしれないというのがエレンやユーリの意見で、私も大きく外れていないのではと思います。魔法を使う際の精神状態も魔法の効き目や威力に影響を与えると教わりましたから。

 そうなると、パトリックさんとのわだかまりを解消する必要があるのかしら? 一番の原因のように思えますし。

 リリーさんは、彼女の故郷の辺りに帰った卒業生に連絡して何かわからないか調べてみると言いました。おそらくファンクラブの情報網がまだ生きているのでしょう。学園内にとどまらず、国のあちこちに散らばっている情報源。殿下が目をつけるのも納得です。少し複雑ですが。

 エレンもパトリックさんのことが気になるみたい。私も、レオン様に手紙で聞いてみようかしら。ダンジョンもあるし、働く場所も多いからもしかするかも。

 見つかるかどうかはわかりませんが、少しでもいい結果になってくれれば……。

 次回更新は4月25日(金)を予定しています。それでは、また!

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