8-4 野外訓練で
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今回から学園の授業が始まっていきます。新たな登場人物も登場してきますのでこうご期待!
それでは本編をどうぞ!
「それでは、これより野外訓練を始めます。今から魔物を呼びますから、各自気を抜くことのないようにしてくださいね」
担当の先生の言葉に、耳を傾けます。今日は野外訓練の日です。場所は卒業試験を行った森の一角。私は同じ班の皆さんと一緒に並んでいます。卒業試験と似ているように思いましたが、今回は班で動き回ったりせず、先生が魔道具によって呼び出した魔物を私たちが迎え撃つ形なのだそうです。
広場の向こう側に魔物を呼び出す先生がいて、そこから離れた位置に最初に訓練をする人たちがそれぞれ班の仲間同士で固まっています。
私たちの班は2番目だから彼らの後方に控えています。私たちの傍には他の先生もいて、万が一討ち漏らしたり危険だと判断した時は助けてくれるとか。まずは前の班の様子を見ることになるのね。
「それでは、始め!」
その合図とともに、先生方が笛のような形の魔道具を吹くと、低温気味な音があたりに響きました。それから少し経つと、どこからともなく魔物が表れ、こちらに向かって来ます。結構な数です。
「前衛は足止めを! その間に後衛が魔法で攻撃するんだ!」
「魔法の補助もつける! 傷を負ったら回復するわ!」
目の前で繰り広げられる戦闘に、卒業試験の時のことを思い出し、この緊迫した空気には全然慣れないと感じます。この訓練は、もしも魔物と遭遇したらを想定したもので、絶対に慣れなければならないわけではないのですが。
「……うう」
苦しそうな声が聞こえてみてみると、同じ班の子が顔を青ざめさせていました。見ると、他の班にも同じ様な生徒がちらほらといるみたいで、同じ班の子に心配されていました。。
「だ、大丈夫ですか?」
「ご……ごめんなさい。こういうのはあんまり」
得意ではないと続けようとしたのかもしれませんが、段々と言葉は萎んでいきました。よく見てみれば、身体も少し震えています。
確か彼女は高等部からの生徒だったはず。中等部では何度かこういう機会がありますが、入学して初めてでは、魔物との戦闘に慣れていなくても仕方がないのかもしれません。
「よし! 後列の班は前に出て、準備をしなさい」
そして私たちの番がやってきました。私はまだ少し震えている彼女と一緒に班の後方に立ちます。今回は3人が前衛で、私を含めた3人が後衛です。
「落ち着いてやれば大丈夫ですよ」
「……あ、ありがとうございます」
声をかけて落ち着かせいるうちに、「始め!」の合図とともに笛の音が響きました。やがて魔物が何体も現れました。表れたのはボア。鼻息荒くこちらを見ています。
「ひっ……!?」
前衛の人たちが戦闘を開始したのと、隣から恐怖で引きつったような声が聞こえたのは同時でした。見れば、先程よりも更に顔を青くした彼女———ユフィリアさんが、へたり込んでいました。声をかけようとしましたが、前衛の人からの声で、支援が必要だとわかり、一旦そちらに集中します。
私はガルムさんに教わったことを生かし、ボアの足を影で拘束したり、黒い霧で視界を奪ったりして支援を行いました。
「ぐっ!」
それでも、前衛には傷を負う人も出てきます。だけどそれでも大丈夫なように、班には治療系の魔法を使える人が一人はいますし、ポーションもあります。
「おい! 回復してくれよ!」
「ひっ! わかり、ました」
私たちの班の回復役はユフィリアさんなのですが、彼女は魔物が苦手なのか怯えていて、何度か危ない場面がありました。幸い、大事にはなりませんでしたが……。
「もう少しでやられるかもしれなかったぞ。気をつけてくれないか」
「ごめんなさい」
「回復にも手間取ってたよね。しっかりしてよ」
「はい……」
「初めてなのだから、しょうがないと思うわ」
険悪な雰囲気になりかける班の皆をなだめます。ユフィリアさんはシュンとして俯いてしまいました。
普通であれば、このくらいのことでここまで雰囲気が悪くなることはありません。まだ少ししか話した事はないですが、ユフィリアさんは普通の女の子です。ただ少し違う点があるとすれば
「なんだよ。光魔法が使えるっていう割には、大したことないな」
「もしかして、そういう演技だったりして」
「ああ。それで誰かに取り入ろうってか。あの子みたいに」
そう。ユフィリアさんは、光魔法が使えるのです。フォルティアさんと同じ様に。
本来なら歓迎されるところなのですが、まだフォルティアさんが起こした事件の記憶は新しく、また彼女の学園への入学理由がフォルティアさんとほぼ同じだったこともあって、彼女のことを懐疑的な目で見る人が多いのです。
それにどうやら、本人はあまり魔法が得意ではないみたいで、そのことが更に噂をされる原因にもなていました。見た感じ、魔法が得意でないのは事実のように見えます。魔力はそれなりにあるように感じますが、その使い方が拙いように感じましたし。
聞いた話では、光魔法に覚醒してからまだ1年と経っていないというので、勉強の機会が足りなかったのかもしれません。
「ユフィリアさん——」
「あ。今日は、すみませんでした……」
訓練の後、まだ落ち込んだ様子の彼女に声をかけようとしましたが、ユフィリアさんはどこか怯えたような様子で謝ると、そのまま走って行ってしまいました。それはどこか、かつての私を思い起こさせる姿でした。
「……じゃあ、フィオナはユフィリアさんと友達になりたいの?」
「友達……というより、放っておけないの。まるで、以前の私を見ているみたいで」
あれから数日経ちましたが、ユフィリアさんを取り巻く環境はあまり良くなっていません。あからさまに彼女に何かするような感じはありませんが、彼女を受け入れるような動きもありません。
ユフィリアさんは、いつも一人で、俯きがちに過ごしています。その姿が、どうしても重なってしまうのです。あの頃の私に。
「だから、話をしたいし、できたらこのお茶会にも呼べたらいいなって思ったの。エレン。だめかしら」
私の言葉に、エレンは少し考えた後、「別にいいわよ」と言いました。
「少し調べたけど、光魔法が使えるだけで、普通の子みたいだし。特に怪しいところはないわね」
「そうですわね。私たちも調べましたが、大体いつも一人で過ごしていますし、殿方に言い寄ったりする様子もない。授業態度はまじめですが、勉学も魔法もあまり得意ではない……というよりもおそらく知識が足りていないように見受けられましたわ」
エレンの言葉に続けて、お茶会に参加していたリリーさんがそう言いました。さっそく彼女たちの情報収集の的になったみたいです。
「光魔法に覚醒するまでは、男爵家の普通の令嬢だったそうよ。むしろ、勉学よりも家での家事や畑作業なんかを主にしていたみたい」
エレンはもっと詳しく調べていたみたいで、光魔法という希少な魔法の所持による入学で、充分な知識を得る間もなく学園に来ることになったのだろうと話しました。
「でも、フィオナが自分から言い出すなんて珍しいね。そんなに気になったの?」
「……ユフィリアさんが、寂しそうにしていたから」
俯いて立っている様子は、本当に昔の自分を見ているようでした。味方のいない場所で、ひとりで立っているのがどれほど辛く、寂しいかは私が一番よく知っています。余計なお世話かもしれませんが、このまま何もせずにいるのは嫌だったのです。
「ほ。本日はお招きいただき、真にありがとうございます」
お茶会にやってきたユフィリアさんは、見るからに委縮した様子で、私たちを見ています。そう言えば、私も初めてエレンのお茶会によばれたときはとても緊張しました。何か粗相をしたらどうしようと。実際は、とても気さくに話しかけられて、驚いた記憶があります。
「ユフィリアさん。歓迎するわ。さあさ、座って」
エレンがにこやかにそう言いますが、彼女はびくびくとした様子です。椅子に座ってもまだ少し震えているように見えます。……何もしていないのに、なんだかいじめでもしているみたい。
少しでも空気を変えなければ、と口を開きます。
「とてもいい香りね。今日のお茶かしら?」
「ふふ。そうよ。今日の紅茶は、ラミン地方でとれた茶葉を使ったものなの」
「それに、お茶菓子の果物の砂糖漬けも美味しそうだわ」
「パメラ男爵領でとれた果物を使ってみたの」
「楽しみだわ」
パメラ家はユフィリアさんの家で、ラミン地方は男爵領がある地方です。エレンもユフィリアさんになじみ深いものを出すことで歓迎の意を示すと同時に緊張をほぐそうとしているみたいです。
それからお茶を楽しみつつ私たちはかわるがわるユフィリアさんに話しかけました。故郷の話なども交えると彼女も話しやすかったみたいで、お茶会が終わるころには大分打ち解けることができました。
今回登場のユフィリアちゃんは以前に投稿した閑話に出てきた子です。
学園に戦闘訓練があるのは、卒業後に騎士団に入る生徒が一定数いるからというのと、魔物からの自衛方法を学ばせるため。そして何より実際に使うことで魔法や武器の制御や感覚をつかむためです。
主人公の家の領地は特に多く魔物が出る地域なのですが、そうでないところでも魔物は出ますし、盗賊もいます。自衛手段があるに越したことはないのです。
次回更新は4月11日(金)を予定しています。それでは、また!




