7-8 令息は商人と会談する
ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!
あやうく更新を忘れかけて焦りました。あと数話でこの章は纏めたいと思っているので、おそらく年末か年明けには休載に入るかと思います。
長くお付き合いいただいている皆様、新たにこの物語を見つけて読んでくださっている皆様に少しでも楽しんでいただけるように、これからも励もうと思います。
それでは、本編をどうぞ!
俺との話を終えたエレンが「目指せ温泉付き別荘!」と意気込みながら去っていってからそれほどしないうちに、会談予定の商会の人たちが到着したという報告があった。
会談を行う予定の部屋に行くと母は既に来ており、その隣に座って客人を待つ。しばらくすると3人の男性が使用人に案内されてやってきた。
「本日はようこそおいで下さいました。どうぞおかけください」
立ち上がって彼らを出迎える。3人とも笑顔で返してくれたが、こちらを見定めるような雰囲気を出している。……横暴な領主と、それに癒着していた商人がはびこる場所で自身の商会を守り通してきた人たちだ。気を引き締めて臨まないと。
最初に口を開いたのは、一番右側に座っている痩せた男性だった。
「本日はお招き下さりありがとうございます。私はラングレイにて材木商を営んでおります、ロプス商会の商会長を勤めているラントと申します。領主様に置かれましてはご機嫌麗しく」
「私は領内で布地や服を取り扱っているバール商会のラルフと申します」
真ん中に座っていた口髭の立派な男性も続いて自己紹介。
「私は、領内で細々と食料品を扱っております。ナルス商会の会長サハラです。本日はお招きくださりありがとうございます」
最後に左端の痩身の男性が自己紹介をして商会の側は終わったので、こちらも名を名乗る。
お互いの名乗りが終わると、さっそく会談開始。こちらで練っていた町の復興案やそれに必要な資材、金額の概算などを基に、それぞれの商会でどれほどの資材や人材が出せるかを聞いていく。
もちろん、この3つの商会だけでなく、これから新たな人がやってくるハンターギルドや領内で活動している他の商会とも協力して復興にあたるわけだが、今回は今の領内でも大きな規模を誇るところに来てもらったのだ。
「早速ですが、ここに呼ばれたということは、先日話されていたダンジョン前にできる新たな町の建設に加われるということでしょうか⁉」
材木商のラント氏が鼻息荒く質問してきた。他のふたりも新たな街ができたら店を構えたり、ダンジョンで出た物を取り扱いたいと口にする。
「まあそう慌てずに。その話もいずれします。ですが、それよりも優先すべきことについて話をしましょう」
「となれば、町の復興でありますかな?」
その言葉に頷く。3人とも店の本拠をここラングレイに構えていることから町の荒廃には心を痛めていたようで、資材の調達や炊き出しに使う食材の確保を請け負いたいと言ってくれた。
「それと、これは領内で商いを行う商会達からのお願いなのですが……」
そう言って切り出されたのは、領内に商人ギルドを誘致してほしいというもの。
新ダンジョン発見のこともあり、これから領内で商売が活発になることは明らか。しかし今、旧ガリア領には商人ギルドがなく、ほぼハンターギルドが肩代わりしている状況。そのハンターギルドの前支部長は前領主と癒着状態だったため新体制になったとはいえまだ不安をぬぐい切れないと。
だからこそ、商人ギルドを誘致することで今の歪んだ状態を正そうということらしい。
「それに、これから商人は続々とやってくると思われます。そうなれば商人同士を仲介するギルドは不可欠かと」
うーむ。だとすれば確かに必要になりそうだな。
これに関しては、その商人ギルドやら薬師ギルドから新ダンジョンについての問い合わせが来ていたから、誘致することは難しくない。なんせ肉類限定ならば庶民向けから高級希少なものまで手に入る。欲しがる商人や料理店は多いだろう。まずはその食材を持ってくるハンターがいないとだが、新ダンジョン発見の話は既にギルド経由で広まっているだろうから心配いらないだろう。
次に最初に話していた新ダンジョン前にできる町についてだが、それぞれ新店舗を作りたいとか、ダンジョン産の商品を仕入れたいというものだった。どうやら新ダンジョンの運営方針が不明瞭なためこちらにお伺いを立てにきたと。
ちょうどいいので彼らにダンジョンの出入りは無料。ただしダンジョン前の町は領主の直轄になることを話す。
つまり店などを出す際はお金がかかるわけだが、他の貴族が運営するダンジョンも似たような感じなので納得してもらえた。入場無料はやや驚かれたが。
彼らはダンジョンの商品を扱えそうだとわかると喜色を浮かべて、町を作る際には支援をするとも言ってくれた。その時にぜひ便宜を図ってほしいというようなことを言われたが、言質を取られないように苦労したな。
最後の方にはラルフ氏に「うちの娘を愛人にどうか」なんて言われて困ってしまったな。あちらもそこまで本気ではなかったようだけど。ただ、「可愛い婚約者がいますので」とやんわり断ったら、「でしたらぜひ、その愛しい婚約者様に我が商会よりドレスを贈らせていただきたく」と切り返してきて、こちらとの関係を少しでも深くしようと手を打ってくるあたり、流石は商人だなと思った。
ちなみに、この国で一夫多妻が認められているのは国王と王太子のみだ。それ以外は基本的に一夫一妻だが、愛人を囲っている貴族が多いのは公然の秘密だったりする。むしろうちの両親や王太子のアルフレッド様みたいなのはやや少数派なんだよな。俺? もちろんフィオナだけだ。
なお、他のふたりは既に屋敷の建築材や厨房で使う食材の販路を得ていてがっつく必要もないという考えなのか、特に何かを言ってくることはなかった。
お互いに今回はどこか探り合いといった空気を纏った会談だったが、成果はあった。これで復興計画も進むはずだ。
その後も別の商人たちと会談を繰り返し、全部で10人ほどと会談したのだった。
「悪くはなかったけど、少し感情が表に出すぎかもしれないわ。今回は比較的協力的な人たちだからよかったけど、もしこれがもっと癖の強い人とかであったら、何かしら付け込まれていたかもしれないから気をつけなさい。
まあでも、フィオナちゃん、というか黒に偏見を持っていたあの商人の態度に我慢できたことは上出来よ。とはいえ、あの態度を貫くつもりなら、少し考えた方がいいかもしれないわね。どうも後ろ暗いことがありそうだもの」
「———そうですね」
話題に出たのは、最後に最後にやってきた商会の代表に関してのことだった。男は今日約束をしていないにも関わらず割り込むようにやってきて、自身の商会がいかに優秀かを喧伝し、自身の商会と独占的な契約を結んでほしいと言ってきた。
だが、その態度は高圧的でまるで俺たちが断るわけがないと言わんばかり。こちらを下に見るような言動に内心眉を顰めたものだ。
だが、それだけでは終わらなかった。そいつはフィオナのことを話題に出して、あろうことか俺に対して黒い髪を持つ者は不吉だから、遠ざけた方がいいと言ったのだ。なんなら、代わりの女を用意するとまでも。
そいつを氷のオブジェにしてやろうかと結構本気で思ったね。聞くに堪えなかったので半ば無理やりに追い出した。「後悔するなよ!」と三下の悪役みたいなセリフを吐いて帰っていったけど。
男の商会は、前領主と癒着してこのあたりをほぼ牛耳っていた商会……とはいっても上層部はほとんどが捕まっていて、商会自体も潰れている。があの男が別名義で復活させたとか。しかし、つぶれたどさくさで残っていた従業員の半分ほども他社に引き抜かれたり独立されたりで復活早々だが既に倒れる寸前という。
奴らはかつての隆盛を誇ったころが忘れられなかったのか、新領主となる家に繋ぎをつけてきたようだった。
「調べてもらったけど、あの商会は放っておいてもまた潰れるでしょう。膿を出すために泳がせようかと考えれば追い出したのは短慮だったと思うけど、その必要もないくらい追い詰められているみたいだし」
奴らはこちらに来てすぐに捕まえた元私兵たちとも繋がりがありそうだと調べてもらっていた。これは案外早くボロを出しそうだな。
不穏分子についての対策を母と話し合い、初めての会談は終わりとなった。
次回更新は12月15日(金)を予定しています。それでは、また!




