7-7 令息はやりたいことを考える
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今週も引き続き内政回です。あまり動きがないですね。まあそこはしょうがないと割り切りつつも、人が訪ねてきたりと主人公的には退屈してる暇はないのでしょうが。
それでは、本編をどうぞ!
さて、これで俺は15歳になり、この世界においては一応成人になったわけだ。これで結婚もできるようになるのだが、貴族で15歳になったら結婚する例はそんなに多くない。貴族の場合は、18歳や20歳ぐらいまで教育機関に通うことが多く、その卒業を待ってから結婚することが多いからだ。俺とフィオナも、学園の高等部を卒業してからということになっているしな。
逆に15歳で教育機関を卒業したり、そういったところに通っていない人なんかは結婚する割合が高いという。
この世界の結婚観についてはさておき、まず取り組まなければならないのは領地の復興だ。既に大まかな計画は立案し、できるところから指示を出したけれど、実際の現場がどうなっているかとか、細かい調整は必要だろうし、復興した後、今度は領地を発展させる計画を随時実行していかなければならない。
もちろん昨日の会議で全て決められたわけではないので、資料と顔を付き合わせて細かい部分を検討する必要があるだろう。
ひと段落着いたら、現場の視察をできるように予定を調整しておこう。一緒に酒かなんかを差し入れすれば、作業員の人たちのやる気も上がるだろうしな。
今日は休みということだけど、復興作業に顔を出せるか確認してみるか。
確認の結果、今回は急すぎて警護などの準備が間に合わないというので、空いているワイン樽に氷水を入れたものを差し入れとして持って行ってもらうだけにした。……次はもっと余裕をもって準備しておこう。スポーツドリンクに近いものを用意してもいいかもしれない。
用意と言えば、こちらに来る直前に頼んでおいたものが、多分届いているはずだよな。チェックしておこう。
向かった先は倉庫のひとつ。ここに運び込まれたと聞いていた。開けてみてみれば、そこには頼んでいた道具たちが置いてあるのが見える。
「……レオン様。それらの道具はいったい? 作事に使うものに似ておりますが」
護衛に聞かれたので答える。
「ああ。まさに作事で使う道具たちだ。これから町の復興やら道の整備なんかで使うことになるだろうから運び込ませた。見慣れないものは今回から試験的に使う奴だろうな」
元からあった道具を改良したもの。前世の知識を基に作ってもらったもの。機械化には届かないが、少しでも作業効率を上げ、負担を軽減させたい。
道具をいくつか持ち出して、敷地の一角にある荒れた元畑らしきところで試しに使ってみる。ふむふむ。どれもいい感じだな。
この世界には魔法があって、それで人力ではできない作業もできるが、魔法が不得手な人も大勢いる。そういった人たちのためにこういった道具はやはり必要になる。
それに、これらは俺がやってみたいことにも必要なものだしな。
俺がやりたいと考えているのは、領軍とは別に工兵部隊を作ることだ。
これから先、新たな街作りに街道整備と工事が山積みだ。いくらかは地元の大工を生業にする人だとかに任せるにしても、手が足りない。その大工たちも、親方が前領主と癒着していたり、迫害されて逃げてしまっていたりであまりいないし。
だからもう、それを専門にやる部隊を育成してしまおうと考えたのだ。いちいち工事のたびに人を集めるのも大変だしな。そっちの経験はあるし、何とかなるだろう。
領軍の募集をした際、一緒に人員を集める予定だが、まず人が集まるかだな。狙い目は家を継げない次男以下の人たちで、寮付きでできる限り福利厚生も考えた条件を提示する予定だから、全く集まらないと言うことはないと思いたいが……。残ってくれている領軍の人たちとも相談しておかないとだな。
この屋敷の土地無駄に広いから宿舎くらいは普通に建てられるし、なんなら敷地の一部を領軍や衛兵の基地にしてもいいくらいだ。捕まえてきた動物を放して狩りの真似事をして遊ぶためのサッカーコートも余裕で入りそうな原っぱまであるし。
そしてそれは、ガリアの方の屋敷にも同じことが言える。今のところ、そこに役所の機能を持たせ、余った土地には兵の詰め所や公民館、孤児院、学校なんかを併設する案も出ている。……病院でもいいかもな。
一朝一夕で実現できるようなものじゃないけど、皆が暮らしやすい領地になるようにできそうなことはどんどんやっていきたいものだな。
「ごきげんよう。来てあげたわよ」
昼下がり、その言葉と共にやってきたのは、エレンさんでした。従者としてガルム……ではない男女を伴っている。あの人がいないなんて珍しいな。……しかし、先触れとかあったっけ?
「不思議そうな顔してるけど、許可は既にあなたのお母様よりいただき済みよ。明後日まで宿泊の許可もいただいたわ」
俺の知らないところで根回ししていたらしい。「この後フィオナにサプライズするつもり♪」とか言っているので、目的はフィオナに会いに来たといったところだろうな。
別れ際にちゃっかりと”カラオケルーム”の使用許可も取りつけてからエレンは去っていった。
少し驚いたけど、フィオナが屋敷の外に出るのにやや不安がある今の状況を鑑みれば、いい話し相手が来てくれたと思えばいいか。それに、エレンのところには彼女がこちらの世界に持ち込んだあれやこれやがある。できたら技術提携かなんかを結んで、領地発展に役立てたいところだ。口には出さなかったが、もしかしたらそれも訪問の目的であるのかもしれない。
それから1時間ほど経って、サプライズが済んだらしいエレンはフィオナと一緒にやってきて、”カラオケルーム”に入っていった。俺はルームを開いた場所から少し離れたところで、鍛錬に精を出す。……この状態だと、常に魔力を少しずつ消費しながら訓練することになるな。今までにない感覚でちょっと新鮮だ。
2時間ほどでふたりは出てきたが、その時、フィオナはとてもニコニコとしていて、エレンは逆に何やら複雑そうな顔をしていた。何を話していたのかは気になるが、フィオナが楽しそうにしているならいいか。
次の日の午前中は、町の住民から寄せられた嘆願であったり、領地運営のもろもろに関する決済書を確認して、承認したり否認したりした。俺と一緒に母と実家からこちらを手伝うために派遣されてきた文官の人に教えてもらいながら決済していく。住民から復興を急いでほしい建物であったり、前領主の横暴で奪われた土地や物を返してほしい、誰それが不正をしているなど、内容は多種多様だった。
精査してみると、嘘やこちらを騙そうとしている内容もあり、書類の確認はしっかりとしなければならないと学ぶ。派遣されてきた文官さんはこれからもいてくれるというので、ありがたい。
午前中いっぱいで書類整理は何とか終わり、次の予定は……町に残っている商会の代表たちと面談か。彼らには町の復興や新しく作るダンジョン前の町への出資などについて話し合うことになっている。緊張するなあ。
しかし、その商人たちよりも先にやってきたのは貴賓扱いで逗留しているエレンだった。
「町とその周辺を歩く許可が欲しい?」
「そうよ」
観光にしてはどこか緊張感を孕んだ表情の彼女に疑問を抱く。間者でも狩るのか?
尋ねてみると、どうやら昨日入った温泉をいたく気に入ったようで、他にも温泉がないか探してみたいのだとか。
「公爵領では、結局温泉は見つからなかったのよね。ここに温泉施設ができるなら願ってもないわ。作るなら出資はもちろん、技術者の派遣も考えるわよ」
思ったよりも簡単に技術提携の話が纏まりそうだ。なお、温泉探しの方は、彼女の水魔法で探すという。こちらの温泉は微量な魔力を含んでいて、水魔法でその魔力の気配を探せばいいとか。昨日試しに探知してみたところ、似た魔力の気配を近くに感じたらしい。そこを掘れば温泉が出る可能性があるという。
「それで、温泉が見つかったらどうするんだ? あと、その魔力の気配とやらはどれくらいあるんだ?」
「その近くにうちの別荘を建てる。土地についてはそのあたりを借りられないか交渉中よ」
「……初めて聞いたんだが」
「初めて言ったもの」
交渉相手はやはり母だった。俺はまだ正式な領主じゃないしな。実権はどちらかというと母にある。いずれは俺が正式に領主になるわけだし、その手腕を学んでいかないとだな。
なお、件の気配とやらは3つほど感じたという。ひとつはラングレイの町の中。残りは町のはずれ。前領主が狩場にしていた辺りだった。……本当に出たら狩場の所を整地して温泉街にしてもいいな。
温泉が出たときの権利や使用云々は実際に出たときに話し合うことにし、彼女には何人か護衛をつけることで折り合いをつけた。
それにしても、家の温泉と似た気配、か。もし温泉が新たに出たとして、同じ泉質のものなのか、違うものが出るのか。彼女は温泉の泉質によって含まれる魔力の質も違うかもと言っていたが……。
まあ出たら儲けものと考えるか。例え出なくても公爵家との技術提携の話はほぼ成ったようなものだからな。
次回は商人たちと楽しい話し合い? そこまでバチバチはしないと思いますが。
更新は12月8日(金)を予定しています。それでは、また!




