2-7 9日目 ダメ男は同級生に会う
今日は曇り空で、日差しがあまり強くなく、過ごしやすそうだ。午前中はいつものように、トレーニングに励む。……ラジオ体操に参加する騎士の数がさらに増えていた。その光景は、夏休みの朝か、学校の体育の授業を彷彿とさせる。一通りメニューをこなした後、人数が多いからいつもとは違うことをしてみたいという声が上がり、試しに“ケイドロ”や“ドッヂボール“、”鬼ごっこ“といった大人数でやる遊びを提案してみた。
すると、意外にも食いつきがよく、特に“ケイドロ”は訓練になりそうだということで、残りの時間はそれに時間を費やした。そうして作られたケイドロ改め“騎士ドロ”は、新たなルールなどが盛り込まれて、“ラジオ体操”ともどもアルバート家の騎士団内で急速に広まっていくことになるのだが、もちろんこの時の俺は、そんなに広まるとは考えていなかった。
午後は空が雨模様になってきたので部屋で魔力操作の練習を行う。今やっているのは、少量の魔力を自力で操る練習だ。まずは弱い威力の魔法を操れるようになってから、少しずつ魔力の量を増やし、威力のある魔法を使えるようになろうと考えていた。魔力の量の基準として、収納を使った時に使う魔力量を基準にした。あれが一番今のところ使っていて、感覚をつかみやすそうだったからだ。
それから2時間ほど、練習を続けた結果、もう少しで自身の魔力を掌握できそうなところまでできるようになった。以前考えたように、電池のように一定量の魔力をひとまとまりとしてイメージしていった結果、これがはまったのか、驚くほどさくさくと練習が進んだ。でも、まだ完全に掌握したわけではないから、もっと練習する必要がありそうだ。
集中していて疲れたのもあり、休憩していると、アレクがやってきて、来客を知らせてきた。そしてやってきたのは、制服を着たふたりの男子生徒だった。炎のように赤い髪の男子と、青い髪の男子。そして赤い髪の方が、口を開いた。
「思ったより元気そうで安心したぞ。休みが長いから重篤なけがかと心配した」
この男子は、カルロスと言って、この国の第2王子らしい。結構昔からつるんでいる友人で、学園内でも一緒に行動することが多いみたいだ。
「騎士団長の息子が階段から落ちてけがをした、というのも何とも言えませんけどね。……まあ、大事なくてよかったですが」
そう言うのは、青い髪の方で、こちらはマーカスといって、この国の宰相の息子だ。彼とレオン、カルロスの3人で行動することが多いようだ。でも、問題なのは、この3人にあのアメリア嬢がくっついていることだ。前はカルロスの婚約者や、フィオナも一緒だったことがあったようだが、最近は、3人+アメリア嬢というのが普通になっているようで……つまり、学校に復帰したら、あの子と一緒に行動する機会が増える可能性が非常に高い。……ため息が出そうだ。
そして、このふたりはどちらもかつてのレオンのように、アメリア嬢にまいっている。……彼女は本当に逆ハーレムを狙っているのか? 今この場にはいない。もしかしたら、一緒に来るかと思っていたので、ほっとする。個人的にあまり会いたくないというか、関わりたくないし。
「そ、そういえば、ア……メリア嬢はいないんだな」
不自然にならないようにしながら、探りを入れてみる。言葉が詰まってしまったが、ふたりは“アメリア”という名前が聞こえた瞬間に、顔を輝かせて、語りだした。
「ああ。アメリアなら、今日は学園でピアノを練習すると言っていたな。なんでも、芸術科にピアノの達人がいるとかで、その演奏に感動したらしい」
「歌とピアノを練習して、私たちに披露したいと言っていました。女神のように優しいですね」
「そ……そうか」
「アメリアのような素晴らしい女性に出会えて、俺たちは幸せ者だな」
「全くです」
「……ソ、ソウダナー」
ふたりの熱に浮かされたような態度に、思わず棒読みになってしまったが、アメリアの可憐さや素晴らしさを思い描いているらしいふたりは気が付かなかったようだ。
その後も、ふたりはアメリアのことを小一時間ほど語って、帰っていった。……精神的に疲れた。明後日から学園に通うわけだが、なにか理由をつけて彼らと一緒に行動するのを避けた方がいいかもな。あの子さえ絡まなければけっこういいやつらっぽいのに……残念だ(中身が)。ふたりともイケメンと言ってもいいくらい顔がよかったな。……これがほんとの「残念なイケメン」か。……やめよう。笑えない。
さてと……まだ夕食までは時間があるし、図書館で何か本でも探そうかな。そう思って部屋を出た俺は、図書室に向かう途中で、ちょうど帰ってきた父上にばったりと遭遇してしまった。そして修練場に連行されて、夕食までしごかれた。おまけに夕食後もしごかれた。暗闇の中で襲ってくる攻撃に対して、俺はこの前の依頼の時に使った“体温感知”の魔法で応戦し、父上の姿をとらえることには成功した。でも、父上の持つ木剣は体温が無くて感知できず、結局たくさんの攻撃をもらうことになったのだった。
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