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    7-4 令息は自分の領地(予定)に向かう③

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 前回はダンジョンの前まで行きましたが、今回は……?

 それでは、本編をどうぞ!

「氷天戟!」

 放った魔法が、こちらに向かってきたフルーティーディアに突き刺さる。もう2体いたが、そちらは共にいた騎士が切り伏せていた。

「レオン様! 我らだけで対処できますのに」

「いやいや。ただいるだけじゃ鈍ってしまうよ。どんな奴が出てくるのか知りたいだけさ」

「そうですか。……それにしても、フルーティーディアか。果実を好んで食すため、油や肉がほのかに甘く、臭みも少なく美味い魔物と聞きますが。ミートンオークやハーブコッコなど、美味いと評判の魔物ばかり。そういうダンジョンなのでしょうか?」

「かもしれないな」

「ダンジョンとは不思議なものですね」

 確かに、俺もまだ一つしか潜ったことはないが、文献を漁ると薬草を初め植物系の素材が取れやすいとか、空飛ぶ魔物ばかり出るみたいなダンジョンもあるらしい。そういった系統があるダンジョンのひとつなのかもしれないな。

「中に入っていった皆は大丈夫でしょうか」

「無事を祈るほかないな」

 今俺がいるのは昨日野営をした広場。俺はそこで護衛の騎士たちと共に広場の整理や亀裂から出てきた魔物を片づけていた。他の騎士たちはダンジョンアタック中である。本当は俺も潜る気満々だったのだが、そんなことはさせられないと猛反対にあってしまい、仕方なくお留守番中なのである。

 そして、彼らがダンジョンの中で魔物を狩っているからか、外に出てくる魔物もほとんどいなくなってしまったので、野営地にした広場の片づけや整理をしているのだ。

 今までに見つけたのは、古井戸に作業員が休んでいたと思しき小屋の残骸。食堂の跡地。崩れかけの作業小屋。後は、はげ山になりかけの山と土砂崩れで地肌がむき出しになった斜面だ。これはラングレイの街の方向に目を向けたときに見えた。どうやらあのあたりが材木の産地であったらしい。

 一度奥の旧鉱山の入り口にも行ってみたが、入り口は板でふさがれていた。こちらにも小屋の残骸があり、こちらも綺麗にした方がよさそうだと思った。

 ダンジョンの詳細がわかったら国に届け出を出して、土砂も除去して、植林して、この広場もきっとハンターで溢れるだろうから宿や食堂を作ってと。ラングレイの街とかの被害状況も調べて復興しなきゃ。……やることがいっぱいだ。

 とにかく、今の状況に関しては母に書簡を送っておいたし、今はこの広場の整理と片づけを終わらせてしまおう。

 風の刃で伸びている草を刈り、がれきを隅へと運ぶ。ついでに亀裂付近に落ちていた大小さまざまな岩も片づけた。

 その際、亀裂を見張っていたハンターたちとも話をした。旧男爵領には、ガリアとラングレイにハンターギルドがあるのだが、ガリアのギルド長は前領主とつながっており、ハンターたちに不当な待遇を強いていた。ラングレイのギルド長は彼に抵抗していたが、力及ばず罷免されてしまったのだそうだ。彼は最後まで魔物出没原因の調査と領軍の派遣を求めていたそうだが、それが叶うことはなかった。

 それもあり、今この地にいるハンターの数はかなり少なく、残っているのはここが地元というような理由の人たちばかりらしい。実際、彼らもメンバーの半分以上がラングレイ周辺の生まれだという。

 だが、領主の失脚でギルド長も失脚。罷免された元ギルド長が今はその座に収まり、出て行ったハンターたちも少しずつ戻ってくるのではないかと言っていた。

「そりゃあ嬉しい。なんせこれからは仕事が溢れる。人手は多い方がいい」

「なら、街の連中にも仕事を与えておくれよ。前領主(くそやろう)の横暴のせいで仕事をなくしたり、ひもじい思いをしている連中がごまんといるんだ」

「任せてくれ。俺にも、守りたいものがある。そのためにも、預かったこの地を繁栄させなきゃいけないからな」

「学園通いの子供が新領主と聞いた時はどうなるかと思ったけど、いい目をしてるじゃないか。あの前領主(くそやろう)よりは期待できそうだ」

「期待以上の働きをできるようにがんばるよ」

 そう口にしながら俺はハンターたちのリーダーと握手を交わしたのだった。この時、その様子を物陰からこっそりと覗いている人影があることに俺は気が付かなかった。

 

 その存在が表れたのはその日の夜中。

「敵襲! 敵襲!」

 その声が野営地に響く。俺はテントの中で跳ね起き、少しぼうっとしている頭を振って無理やり覚醒させた。敵襲? どういうことだ!?

 テントを出ると、あちこちから金属同士のぶつかる音や足音、怒号が聞こえる。確かに戦っている音と気配がした。

「レオン様!」

 出くわした騎士に状況を聞く。それによると襲撃しているのは街道で返り討ちにした盗賊たちの残党であるらしい。相手がわざわざ名乗り、報復を掲げてやってきたとか。———面倒なことだな全く!

「数は? 被害状況も」

「数は……20はいないかと。被害は見張りが軽傷を」

「どこから来たかは?」

「この奥の方から……」

 廃鉱山の坑道の方からか。中までは調べてなかった。もしかしたらそこがアジトだったのか! こちらの様子を窺っていたのかもしれない。

 その時、遠くにあったかがり火が倒され、同時に悲鳴が聞こえた。明かりを奪う気か!

「……”ライト”!」

 無属性魔法のライトを花火のように空へ打ち上げ、前にフィオナがやっていたように空中で破裂させる。ぱあっと辺りが明るくなり、騎士たちと盗賊が戦っているのが見えた。その中で近くにいた盗賊のひとりにアサルトを打ち込み、氷漬けにする。

 柵の中にまで入り込まれているな。半ば乱戦状態じゃないか!

 更に”ライト”を出すと、ハンターの後ろから襲い掛かろうとしていた盗賊の前で破裂させる。急な光に目が眩んでいる間に、その盗賊は倒された。

「敵は暗闇に紛れてこちらを攻撃している! 味方と2、3人で背中合わせになって対処するんだ!」

 それからも、俺はライトで場を照らしては不利になりそうになっている騎士を支援したり、隙を見せたり向かってくる盗賊を倒していった。俺のテントは野営地の中央にあって全体を見渡しやすかったからこそできたことだ。

「……”氷華”」

 雪の結晶の形をした盾が現れ、飛んできた矢を防ぐ。”気配感知”で見えていた。”ウィンドアロー”を数十本お返しする。

「くそ! こいつら強いぞ! 退却!」

 その声と共に、気配が廃坑道の方に移動し始める。残りは10人くらい。———逃がすか!

 強化した脚力で飛びだし、坑道に繋がる広場の片隅に降り立つ。

———”氷結”!

 地面が凍り付き、逃げようとしていた盗賊たちの足元を凍らせる。数人氷の範囲外だったようで逃がしてしまったが、深追いはしない。土地勘はないし、夜中で視界も悪い。今は、捕まえたやつらを確実に沈黙させる。

 半ば氷漬けになっていた盗賊たちは、ろくな抵抗もできずそのまま捕まえることができたのだった。


******


「レオン様! ご無事でしたか!」

 襲撃から明けた朝。野営地にやってきたのはラングレイに残っていた騎士たちの一部だった。昨日、母から尋問した盗賊が廃坑道をアジトにしていることがわかったと報告が届き、急ぎ応援に駆けつけてくれたらしい。ラングレイの方は魔物の襲撃が収まってきたため、彼らも応援にやってくることができたと。

 こちらも状況を説明した後、休憩に入った。残党による襲撃の警戒や捕らえたやつらの見張りだとかで、結局徹夜だったのだ。この身体で徹夜は堪える。もうくたくただ。

 横になったとたんに睡魔が襲ってきて、俺はあっけなく意識を手放すことになったのだった。

 次に目を覚ました時には、ダンジョンアタックしていた騎士たちが帰ってきていて、その報告が積みあがっていた。同時に、応援部隊が廃坑道を制圧し終えて、盗賊たちを根絶やしにもしていた。外を見れば日は既に暮れていて、結構な時間寝ていたのがわかる。

 報告書を読んでみる。ダンジョンは全6階層。1階は洞窟だが、地下1階以降は所々に林や泉のある草原になっている……と。地下5階は森になっていて、その奥にボス部屋。ボスはブラックワイルドコッコが5体。時間を空けてから何度か挑んだ所、キングミートンオークや、タンクバッファロー、キングブラックブルなんかが出てくるパターンもあったと。どれもダンジョン内で出る魔物たちの上位種で、どの魔物の肉も王都などでは高級肉として出回っているという。……特A5ランクの最高級肉みたいなものか。

 ボス部屋の奥には魔法陣があり、それに乗ると1階の入り口近くにある小部屋に転移するのか。時間ができたら潜ってみたいものだな。

 出てくる魔物はどれも美味い肉質の魔物ばかりで、それ以外にもそれらの魔物が餌にする木の実やハーブ、薬草なんかも多少取れるようだ。

 魔物の強さから、ランクは2階までならストーン、踏破するにはブロンズ以上が妥当か。アイアンでもパーティを組めば踏破は可能かもしれないが、ボスによっては苦戦するだろう、と。

 続いて、盗賊のアジトについての報告書も読む。廃坑道の一部を改造してアジトとしていたようだ。踏みこんだ際、盗賊たちはちょうど逃げようとしていたところだったらしいが、全員お縄となった。

 また、略奪をされた村から攫われてきたらしい男女を数人保護していた。荷物の運搬役などをさせていたらしい。

 アジトには略奪した金品も置いてあり、そちらも運び出し、最後に坑道を封鎖したと。

 読み終わったころ、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。呼ばれて出てみれば、夕食だと言う。調査隊がダンジョン内で狩った肉が夕食であるらしい。色々な肉でできた肉串が簡易竈に並んでいて、非常に食欲をくすぐる匂いを放っていた。

「おお! レオン様。どうぞお召し上がりくだされ」

「ありがとう」

「何々。軽く300頭分はありますぞ」

「そんなにいたのか」

「はい。数はその倍以上いたかと思います。ですが数が多すぎて同士討ちをしている個体も多く、魔法を使えるものが遠距離から打ち込むだけでかなりの数を削れましたぞ」

「ご苦労だったな。では、ありがたくいただくよ」

 さっそくかじりついてみる。フルーティーディアは噛めば噛むほどに甘みが増すし、タンクバッファローはとってもジューシー。ブラックワイルドコッコは地鶏のようにうまみが強かった。どれもこれも美味い。これ絶対売れるやつだ。いやむしろ俺が食べたい。……名物は肉料理で決まりだな。

 肉の盛り合わせや乾燥野菜の入ったスープに舌鼓を打ちながら、騎士たちやハンターたちと会話をする。ダンジョンの中での話。ハンターとしての体験談。話は尽きず、夜は更けていったのだった。

 今回、ダンジョン攻略は無しでした。いずれ書くかも?

 次回更新は11月17日(金)を予定しています。それでは、また!

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