7-2 令息は自分の領地(予定)に向かう①
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今回から、舞台は主人公が賜った領地である旧ガリア領になります。おそらく10話分ぐらいの話になるかと思います。それでは、どうぞ!
フィオナのステータス鑑定と、俺の新たな目標が決まった翌々日。善は急げとばかりに、俺は馬車に揺られていた。行き先はもちろん旧ガリア領。俺が領主になるかもしれない場所だ。
影たちの調べで、今そこでは、魔物の動きが活発になっていることが分かった。伯爵領で毎年夏に起きる魔物の大量発生ほどではないが、放置しておけば大きな被害が出るだろう……いうか既に出ているとわかり、急遽向かうことになったのだ。
今の旧ガリア領は領主が失脚して領軍がほとんど機能しておらず、うちの領地から派遣されてきた少数の衛兵や地元のハンターたちなどにより何とか持たせているらしく、それでも荒れているのだからここに魔物の襲撃があれば最悪滅びかねない。それだけは何としてでも阻止しないといけないのだ。
今旧ガリア領の元領都「ガリア」へ向かっているのは俺とフィオナ、母に、屋敷から連れてきた護衛を含む騎士が50人ほど。先遣隊として150人が先に出発していて、これとは別に領地の方からも援軍として更に300人が向かっている。
王都から旧ガリア領までは急いで約3日半。領都レイリスからは約4日ほどかかる。それまで何もなければいいんだけど……。
「まずはガリアに向かうけど、目的地はその先にあるラングレイの街よ」
母曰く、そのラングレイの街にほど近いあたりで魔物の動きが特に活発化しているらしい。ラングレイの街にも防壁はあるが、伯爵領の街にあるものと比べると簡素であり、今は防衛のための戦力も少ない。
そのあたりでは数年前から魔物の出没が増えていたそうだが、前領主はそれの対処をハンターたちに丸投げしていたらしい。
しかし昨年からその数がさらに増えはじめ、ハンターたちでも対処が厳しくなってきた。ギルドは領軍の派遣を求めたそうだが前領主は黙殺した。
処罰された前領主も、聞けば悪徳領主の典型例のような奴だった。
領民から税を巻き上げ私腹を肥やし、随分と贅沢な生活に身を置いていたらしい。若い女性をさらったり、気に入らない領民に嫌がらせをしたり。領軍の一部の者はそれに加担すらしていた。そいつらも罪が明るみになり既に解雇されたり捕まったりしているようだったが。
「旧ガリア領は、良質な木材が取れるんですね」
フィオナが資料を見ながらそう呟いた。
「そうみたいだね。ただ、最近は出荷量も減っているからまだあるのかは疑わしいけどね」
はげ山にでもなったか? 密輸もしていたようだし。そこまで規模は大きくないが、一度土砂崩れも発生している。植林も視野に入れた方がいいなこれは。
もしかしたら魔物の大量発生は木の切りすぎが原因という線もあるか……? 森がなくなって生態系が壊れるってのは前世でも聞いた話だ。
自然災害と言えば、旧ガリア領には大き目の川が流れていて、そちらも大雨で水害が発生することもあると報告書には書かれていた。これも対処しなければいけない問題かもな。
問題が山積みだな。本当に。
こっそりとため息をつく。学生に与えるような褒賞じゃないだろこれ。色々な事情や駆け引きがあってこうなったのは理解しているし、将来的な地位がほぼ約束されているのは正直ありがたくもあるが。
とにかく、この目で確かめないことには細かい方針も立てられないか。
そう思いながら、馬車の行く先を見つめた。
ガタガタッ‼
それが起きたのは、もうすぐでガリアに着こうというときだった。それまではそれなりの速さでもあまり揺れないようにと慎重に走らせていたのに、急に揺れが強くなったのだ。そして、その答えはすぐにもたらされた。
「盗賊です!」
馬車に並走していた騎士の言葉で今の状況について説明される。どうやら現在、街道の横合いから盗賊団がこの馬車めがけてやってきていると。もう少し行くとやや開けた場所に出るため、そこで応戦すると言われた。盗賊のお出迎えとは穏やかじゃないな。……そういえばこの道、あまり通行人がいなかった。そいつらのせいか?
やがて馬車が止まると、俺は剣を持ち、馬車の外へと出る。馬車の周りには騎士たちガ並んで迎撃態勢をとっており、馬車を半ば囲むようにして盗賊たちが展開していた。数は———こちらと同じくらいか? 随分と多いな。
「がっはっは! 俺たちに出会ったのが運の尽きよ! 金目のもんと女を出しやがれや新領主様よお!」
「よくも俺たちをクビにしやがったなあ‼」
「のこのこやってきやがって!」
話を聞く限り、こいつらはどうやら前領主の悪行の一端を担っていた元領軍というか私兵連中であったようだ。仕事をクビになり、盗賊に身を落としたか。凶悪な奴は捕まったはずだから、こいつらは残党なのだろう。
「次の領主が15歳のガキとは恐れ入ったぜ! だがやっちまえば俺たちの天下よ」
「間抜けなことに婚約者まで連れてきてるとはな。今から楽しみだぜ」
「全くだ。貴族の女を好き放題できるなんて夢のよう———あべしぃっ‼」
下卑びた笑いをあげていた盗賊のひとりが、飛んできた氷の矢によって沈黙する。もちろんやったのは俺だ。
「へえ。今なんて言った?」
精いっぱいの笑みを張りつけて、俺はそう声を出した。
「誰が、誰を好き放題するって? 全く。自殺志願者なら先に言えよ。……地獄に送ってやる」
言い終わると同時に、氷の矢が盗賊たちに降り注ぐ。
「———殲滅しろ!」
「おおお!」
俺の攻撃と同時に、護衛部隊の隊長が指示を出し、騎士たちも攻勢にでる。騎士たちもやる気満々といった感じで、盗賊たちを屠っていく。俺は最初の攻撃を放った後は、周りを見渡し怪しい動きをする奴を狙い撃ちしたりして騎士たちの援護をするにとどめた。一応俺も護衛対象。さっきは熱くなってしまったが、前に出過ぎるのはよくない。それに
「一歩引いた位置にいることで、お前らみたいなのにも対処できるしな!」
馬車の影から近づいてきていた盗賊のひとりを捕らえて後続の奴らへと投げつけ、動きを封じる。フィオナを人質にでも取ろうとしたんだろうがそうはいくか!
「こいつ強いぞ!」
「逃げろお!」
馬車の方に来ていた何人かが逃げ出そうとするがそうは問屋が下ろさない。
「! 動けねえ」
「足が!」
地面を凍らせて動きを封じる。そいつらを騎士たちが狩っていった。
俺がキレて出鼻をくじいたことが功を奏したのか、それから20分もしないうちに盗賊は殲滅されたのだった。こちらの被害は軽微ですんだ。勝手に飛び出したことで何か言われるかと思ったが、特に何もなかった。ただ、フィオナが「無茶はしないで」と言うようにガリアに着く直前までずっとこちらを見ていていたたまれなく、母の小言よりもずっと効いた。……なるべく無理・無茶・無謀は控えるからそんなもう少しで泣くみたいな顔しないで~。
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「これは侯爵夫人! そしてご子息とその婚約者様! このようなところまで起こしいただき真にありがとうございます。賊も討伐していただきなんとお礼申し上げればいいか」
「これはこの地の領主となる身として当然のことをしたまでです。それで、今の状況はどうなっていますか?」
母の言葉に、官吏は説明を始める。今いるガリアには先遣隊のうち40名がいて、治安維持を主に活動中。残りの110名は魔物の動きが活発なラングレイを含む地域へと出張っている。そして領地からの300人の援軍は真っ直ぐにラングレイの方を目指していると。
「失礼します!」
話がそろそろ終わりかというタイミングで、慌てた様子の騎士団員が飛び込んできた。
「何ごとか!」
「魔物の大群がラングレイ近くの森に出現! 森から溢れた魔物たちが、ラングレイの街へと押し寄せています!」
「! 何だと!」
「現在ハンターと騎士団で迎え撃っていますが、次から次へと魔物が来るようで……」
「くっ。援軍が到着するまでまだ半日以上掛かるというのに」
その報告によって、場が一気に沈んだものになる。やはり領軍がほとんど機能していないことで、かなり苦しい状況であるらしい。
「ラングレイの街まではどのくらいかかりますか?」
「急げば3時間ほどです」
その言葉を聞いて、母が俺を見た。———まあそうなりますよね。
「では、私が30名の騎士と共にラングレイに向かいましょう」
そう口にしつつ母を見れば、小さく頷いていた。これが最良か。
さっそくラングレイ周辺の大まかな地図を見せてもらい、進路を確認。それから護衛の騎士たちを再編成して、少し休憩してから出発することになった。
いよいよ出発の時間になり、俺は30名の騎士と共に整列していた。母とフィオナ、その護衛の騎士たちはそのままここに残る。フィオナは不安げに瞳を揺らしていたので、大丈夫だと伝えるように笑顔を見せる。無茶はしない。———なるべく。
「無理だと思ったら引き返してきてもかまいません。無茶はほどほどに」
「はっ! では、行ってまいります!」
フィオナたちに背を向け、移動を始める。……頼むから、間に合ってくれよ。
ついて早々盗賊に魔物の大群。話が以前の領地編と被る部分もありますが、ご容赦ください。
次回更新は11月3日(金)を予定しています。それでは、また!




