SS とある山にて⑦
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カリオンが主役のSS第7話目です。このお話も終わりが近づいてきました。全8話ですから、この次で終わる予定です。それでは、どうぞ!
「いやあ、この度は我が姪を助けて下さり、まことにありがとうございました。ささやかですが、どうぞお召し上がりください」
カリオンの前には様々な料理が並んでおり、卓の上座には肥えた男がニコニコしながら座っている。上座近くにはその男によく似た若い男も座っており、その隣にはクロエが硬い表情で座っていた。
薬屋を出たカリオンたちは、その足でウィラー子爵家の屋敷へと向かった。その結果、こうして歓待を受けるに至ったのである。上座に座る肥えた男こそがクロエの伯父であり、クロエの隣に座っている方がその息子であった。
「ひとりで山に向かうなど、心配でなりませんでしたが、まさかゴールドランクのハンター殿に助けてもらっていたとは。メタルエレザードを倒されたと聞きました。わたくしも商人の端くれ。ハンターの方に護衛を頼む機会もあります。魔物を相手に戦うなど、わたくしどもには到底真似できません」
そう言いながら笑うが、その言葉の端々に、ハンターを見下すような意識が感じ取れ、カリオンは内心眉を顰める。クロエも同じ思いを持ったのか、伯父をたしなめる言葉を放っていた。
あまり面白くない食事の後、カリオンは通されたウィラー子爵家の屋敷の一室にいた。
不意に窓がコンコンと叩かれる。カリオンが窓によって行くと、そこには彼に付き従う影のひとりがいた。
「そっちはどうだ?」
「万事抜かりなく。それと、所望の品です」
その言葉と共に渡された包みを受け取り、中身を確認したカリオンは頷くと、部屋に引っ込んだ。
しばらくして、今度は部屋のドアが叩かれる。やってきたのはメイドで、クロエの伯父がぜひともカリオンと話したいことがあると言う。
カリオンはそれに応じる旨を伝えると、準備をしてからメイドの案内する部屋に入った。
部屋は執務室のようで、中にいたのは伯父ただひとりだった。
「わざわざお呼びしてしまって申し訳ありませんね。おや、わざわざ着替えてきてくださったのですか?」
「ええ」
カリオンはハンターの恰好から、貴族の夜会でも通用しそうなフォーマルに近い衣装へと着替えていた。
部屋にある応接セットのソファを勧められ、座るカリオン。伯父もまた反対側に座り、しばらく雑談めいたことをしていたが、やがて本題を切り出した。
「あなたにお願いがあるのですよ」
「なんでしょう?」
「あなたが持っているヘリオス草の薬。……それをわたくしに売っていただきたいのです」
「ほう?」
「代金は相場の2倍、いや3倍は払いましょう。どうです?」
「なぜそのようなことを? アレはあなたの甥御殿に飲ませるためのものでは?」
「だからこそです。わたくしも商人の端くれですから。そのあたりはしっかりとしておきたいのです」
「……あの薬の持ち主は、紛れもなくあなたの姪後殿です。俺は預かっているだけ。そのような取引は必要ありません」
確かにカリオンはクロエから、件の薬をひとつ預かってはいる。クロエは薬屋での一件などからもしもの時のためにとカリオンにそれを預けていた。
それを親類とは言え勝手に売るのはおかしいとカリオンは突っぱねるが、伯父はしつこく薬を売ってほしいと言ってくる。それでもカリオンが頷かないと見るや、今度はこう言ってきた。
「ならば売らなくてもいい。その代わり、薬を持って早々に屋敷を、いや、この町から出て行ってもらおう」
「なぜです?」
「知れたこと。その薬があっては都合が悪いのだ。いやしいハンター風情にはわからんだろうがな」
ふんと小馬鹿にしたようにそう口にする。
「ふうん。都合が悪い、ねえ。それは例えば、自分が子爵家を乗っ取るのに、とかか?」
「な!」
カリオンの言葉に、伯父は驚きをあらわにする。
両親の事故を初め、借金もそうだし、襲ってきた盗賊に、街の薬屋のこと。どうせ彼女につけようとした護衛も、街から離れたところで彼女を襲うように命令してあったのだろう、とカリオンは話す。
「そ、そんな世迷言を口に出すなど、無礼だぞ! たかがハンターごときが!」
「それが世迷言じゃあないんだよなあ。賊がお前に命令されたって吐いたってよ。それと、街の薬屋の家族を人質に取って言うこと聞かせてたのも知ってるぜ」
「……! ちいっ! お前たち。入ってこい」
伯父がそう言うや、ドアを開け武器を手にした男たちがぞろぞろと入ってくる。
「お、お前たち。こいつを痛めつけてやれ! 殺しても構わん!」
「わかってますよ旦那」
男たちはカリオンを囲むように展開する。
「へえ。図星を突かれたら実力行使かよ」
「……素直に従っておけばよかったものを。貴様さえ消してしまえば何とでもなる」
「そうかい。一応今俺は、ハンターではなくて、騎士団員としてこの場にいるんだが、それでもやるかい?」
「騎士団? ははは! 少し身ぎれいにしたくらいでだませると思っているのか! もっとましな嘘をつくんだな。やってしまえ!」
「へい。……ところで、これが終わったらあの娘もいただいていいんですかい? ……アレの母親についていたメイドはもう壊れちまったんで、新しいのが欲しかったんでさ」
「用済みになったら構わんぞ」
「へへ。これでやる気がでるってもん」
男の言葉が最後まで口から出ることはなかった。なぜなら、カリオンが雷を纏った手刀で男の首を掻き切ったからである。高熱の雷に焼かれたことで、血が飛ぶこともなく、男の首がころりと転がる。泣き別れした胴体がどさりと倒れるまで、彼らは今起きたことを認識できなかった。
「え……。今何が——」
そう呟いた男も、次の瞬間には、片足を雷で切断され、声にならない悲鳴を上げる。遅れて、それを今自分たちが取り囲んでいる男がやったのだと知った時には、もう遅かったのだ。
1分も掛からず、伯父が呼んだ男たちは全員沈黙した。圧倒的なまでの強さ。それは戦いとは呼べず、もはや蹂躙だった。なんせカリオンには、かすり傷ひとつついていなかったのだから。
「ひっ。ひいい」
伯父は予想とは全く違う光景に、腰を抜かしている。カリオンがここまで強いとは思っていなかったのだ。もはや絶望的な状況だが、どうにか逃れるすべはないかと頭を回転させる。
その時、ドアが叩かれ、慌てた様子が隠せない声が響いた。
「も、申し上げます! き、騎士団が! 門の前に!」
「何⁉ 騎士団が!」
驚愕した様子を見せたが、伯父はすぐさまこう続けた。
「は、入ってもらえ! 屋敷内に暴漢がいる。捕まえろとな!」
足音が遠ざかると、伯父は勝ち誇ったように笑った。
「は、はは。もうすぐ騎士団がやってくるぞ。貴様はおしまいだ!」
「はたしてそうかな?」
「何を」
「さっきも言ったよな? 騎士団員として来ているって」
カリオンの言葉に、伯父はそんな馬鹿なという思いと、嘘に決まっているという思いが頭の中でぶつかり合う。
そしてその答えは、すぐに訪れた。
「夜分に申し訳ない。第2騎士団ウィラー準基地の者だ。この場に重大な罪を犯した者がいると通報を受けたのだが」
「こ、ここに! 我が家の警備兵を殺し、わたくしどもを殺そうとしている賊がここに!」
わずかな希望にかけて、伯父はやってきた騎士たちにそう訴えた。
「ふむ」
騎士たちの責任者は、カリオンを見る。カリオンはニヤッと笑うと、懐から取り出した魔石に魔力を流した。
『お、お前たち。こいつを痛めつけてやれ! 殺しても構わん!』
『わかってますよ旦那』
流れ出す今までの会話。伯父は一気に顔を青くする。
「……シルエル=ゲイマン殿。あなたには、領主夫妻殺害及び、恐喝、拉致監禁、違法取引などの疑いがかけられています。御同行を」
「な……な——」
シルエルは信じられないといった感じで口をパクパクさせていたが、もう手遅れだと思い至ると、憤怒の表情になってカリオンに襲い掛かった。
「貴様の、貴様のせいでええ!」
しかしカリオンはひょいと足をひっかけてシルエルを転ばせる。転んでじたばたする彼に向けて、カリオンはヘリオス草の薬を取り出した。
「これを奪おうとしたんだろうが、無駄だぜ。なんせ薬はもう1本あるからな。嬢ちゃんがもう弟に飲ませてるだろうよ」
「……!」
「こいつは初めから2本あった。でも、俺だけが持っているかのように見せかけた。あんたが俺を狙うようにな。それに、嬢ちゃんの方には俺の部下が付いてる。もしあんたの息子がなんかしようとしても無駄だぜ?」
「く……!」
その時、別行動をしていた騎士たちがクロエを伴って合流した。そちらでも、シルエルの息子がクロエに襲い掛かろうとしたが、床の上であっけなく伸びていたという。それを聞き、シルエルはがっくりと肩を落とし、おとなしくなったのだった。
次の更新は9月29日(金)を予定しています。それでは、また!




