SS とある山にて⑤
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カリオンが主役のSS。第5話目です。それでは、どうぞ!
薬草を手に入れた後、カリオンはクロエを連れて山を下山した。もう目的はお互いに果たしていたし、山にいる理由ももうなかった。何より、クロエは一刻も早く薬草を町の薬師ギルドにもっていき、薬にしてもらう必要があったのだ。
ふもとに近いあたりで更に一夜を明かし、次の日、ふたりは街道を走っていた。
「しっかり捕まっていろよ。落ちたら危ないからな」
「わ、わかっているわよ!」
「何ごともなければ昼前には着くと思うぜ」
「は、早いのね。アタシなんて朝に出て昼過ぎに着いたのに」
現在、カリオンとクロエは馬に二人乗りしている状態であった。カリオンが手綱を引き、その背中にクロエが手をまわしている格好となる。
なぜそんなことになっているのかと言うと、クロエの乗ってきた馬がいなくなっていたからだ。彼女は街道近くにつないでいたらしいが、ここは魔物が跋扈する地帯。何か手立てを講じなければ襲われるばかりである。ちなみにカリオンは、魔物よけの手立てを講じたうえで繋いでいたので馬は無事であった。かくして、このような状態となったのである。
初めは魔物に襲われても逃げられるようにといくらかの速さで馬を走らせていたカリオンだったが、見通しが良くなり、町もやや近づいてくると、スピードを緩めた。
「クロエ」
「な、なに?」
「改めて言うけどよ。クリスタルエレザードの時も、それ以外の時も、ありがとうな」
「へ? あ、うん」
突然の感謝にどぎまぎするクロエだったが、カリオンの言葉はまだまだ続いた。
「クロエの魔法があったおかげで、大分助けられた。それに、思ったんだよな。クロエは魔法の扱いが上手いなって。大したもんだと思う」
「そ、そう?」
「ああ。それに、状況を見て魔法を使い分けたり、薬草の知識が備わっていたり、すげえと思うところが多いな」
「……」
「それでよ。俺としては、クロエが一緒にいてくれたらいいなって思うんだよ」
「…………え⁉」
「弟の件が片付いたらでいいからさ。少し考えてくれないかと思ってな」
「は、え?」
元々カリオンの背中に抱き着くような格好になっていることに気恥ずかしさを覚えていたクロエ。そこへ来て急にプロポーズともとれる言葉がカリオンの口から飛び出したことに動揺を隠せなかった。
「ええ!? いきなり何を言ってるの!?」
「突然ですまん。でも言うべきだと思ったのさ」
「で、でもその、いいの? い、家のこととか、問題があるんじゃない?」
「家? ああ。確かにそっちでもいいかもな」
「‼ あ、あう」
カリオンの言葉にクロエはもう真っ赤であった。その頭の中では、出会ってそんなに経ってないのに、早すぎる、だとか。でも、命の恩人だし、顔も悪くないし、だとか。とにかくいろんな言葉が浮かんでは消え、を繰り返していた。そしてその口から言葉が紡がれようとしたとき、一番大事な部分がカリオンの口から飛び出た。
「だからよ、騎士団への入隊、考えてみてくれないか?」
「そ、そうね、騎士団に入隊ね……。ん? 騎士団?」
「ああ。クロエみたいに魔法の扱いがうまいやつが仲間にいてくれたら、頼もしいと思ったのさ」
そう、カリオンはあくまで騎士団に入る気はないかと聞いていただけであり、決して愛の告白とか、そういう類のものでは無かったのだ。
しかし、クロエはもう恥ずかしいやらいたたまれないやらでそれどころではない。しかも、カリオンのことをちょっといいかもと思うくらいには好意を持ち始めていたからなおさらである。
勘違いしたのはクロエだが、思わせぶりなことを言ったカリオンに対して怒りがわいてきて、腹いせにその背中を思いっきり叩いてやろうとした。
「! 頭を低くしろ!」
しかし突然、先ほどまでと近い切迫したカリオンの声がして、ただ事ではないと感じ取ったクロエは頭を下げ、更にカリオンに密着した。
カアン!
次の瞬間、金属同士がぶつかるような音が響き、クロエは身を固くする。何度かその音は続いて聞こえ、その度にしがみついているカリオンの身体が少し揺れる。恐る恐る目を開けば、金属音の後に矢のようなものが落ちていくのが目に入った。
やがて音がしなくなり、馬が止まる。周りを見てみると、馬は数人の男たちに囲まれていた。全員剣を持ってにやけた笑みを浮かべている。
「おうおう。にいちゃん。荷物と、その嬢ちゃんを置いていきな。そしたら命は取らねえでやるよ」
言葉通りの盗賊であった。カリオンたちの乗る馬に矢を射かけてきたのも彼らであった。
「穏やかじゃないな。もしかして最近この辺を荒らしまわっているってのはお前らか?」
カリオンは世間話でもするかのような口調でそう聞く。
「は。確かにこのあたりで結構稼がせてもらっているぜ。いいカモもいるからな」
「ふうん」
「おら! 無駄話はしまいだ。嬢ちゃんを渡しな!」
盗賊たちの視線が集中したクロエは、身体をびくつかせてぎゅっとカリオンの外套の生地を掴む。カリオンはその外套を脱ぐと、それをそのままクロエにかぶせて言った。「馬につかまっていな」と。
「聞こえてねえのか? なら力づくで———くぺええ!?」
前に踏み出した盗賊のひとりが、身体をけいれんさせて倒れる。カリオンが放った電撃だった。
突然倒れた仲間に動揺し、一瞬隙ができた盗賊たち。その隙をカリオンは見逃さなかった。馬から降りると同時に”雷装”を発動し、強化された身体能力でもって近くにいた賊をふたり切り伏せる。
「”ライジング・レイ”」
雷の魔力を波のように放射し、数人の盗賊をしびれさせて昏倒させる。
カリオンに向けて矢が放たれるがそれも全て剣で叩き落とされる。
「”ライジングショット”」
雷の矢じりが飛んでいき、潜んでいた狙撃手たちを正確に打ち抜いていく。
「く、くそ! 馬を狙え!」
残った賊たちは守るものがいない馬を狙おうとするが
「させると思うか」
移動してきたカリオンによって次々に意識を刈り取られていく。その様はさながら、意思を持った雷が駆け回っているかのようであった。
「終わったぞ。もう大丈夫だ」
カリオンはそう馬上で自分が書けた外套にくるまっているクロエに声をかけた。馬がいた場所を中心に辺りは地面が一部焼け焦げており、戦闘があったことを示している。縛られて転がっている盗賊たちが何よりの証拠であった。
「……本当に強いのね」
「まあな」
カリオンはまだ意識がある盗賊の内二人ほどを連れて来るとその縄の端を馬につないだ。
「ほれ、しっかり走らないと引きずるからなあ」
「……!?」
驚愕する賊ふたりを尻目に、カリオンはひょいっと馬に飛び乗ると、走らせ始める。
「あれ? あいつらはあのままでいいの?」
「全員連れてくなんてできないからな。あそこに転がしておいて、町に着いたら衛兵に話して回収してもらう」
「じゃあふたり連れて来たのは」
「少し聞きたいことがあるのさ。後は盗賊がいたことの証明だな」
「そう……」
クロエはカリオンの大き目の外套をかぶったままその背中に身体を預ける。改めてこの青年に出会えた幸運をかみしめながら。
クロエはおそらく赤くなったり青くなったりで百面相してました。
そしてフラグを建てるカリオン。彼の無自覚な言動に振り回された女子が今までにもいたとかいなかったとか? ただ、騎士団内ではそれが良い方向に働き部下に信頼される一因になっていたり……。
町に帰ってきたけど何やら不穏。もう少しお話は続きます。
次回更新は9月22日(金)を予定しています。それでは、また!




