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SS とある山にて④

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「諦めんじゃねえ!」

「‼」

 クリスタルエレザードの後方からその声が響くと同時に、高く跳躍したカリオンがクリスタルエレザードの、今まさに電撃を放とうとしている角に剣を突き立てた。

 バチッ! 

「くっ!」

 カリオンの一撃により角は砕かれたものの、角にため込まれていた電撃が溢れ、それがカリオンに襲い掛かり、ダメージを負ってしまう。しかし、攻撃手段であり、充電池の役割を担う角を破壊されたことで、クリスタルエレザードの方も少なくないダメージを受ける。また、砕けた角の破片が目に刺さったとで、クリスタルエレザードはその痛みにのたうち回る。

 カリオンの方は、クロエの近くに着地したが、その場に膝をついた。

「あ、あんた、大丈夫なの⁉」

 呆然としていたクロエだったが、目の前で膝をつくカリオンを見て我に返り、慌てて彼に駆け寄る。カリオンは脚に火傷を負っていた。背中からは出血もしている。木にぶつかった衝撃は身体能力を強化していたおかげでやや軽傷であったが、クリスタルエレザードがため込んでいた電撃は防ぎきれず、少なくないダメージとなっていた。。

「か、かの者の、怪我を癒せ。”癒しの宝花”」

 クロエがそう唱えると、地面から一本の花がにょきりと生える。ぷっくりと膨らんだ花びらの中心部分には、蜜が称えられていた。

「こ、これ! 花の蜜を飲めば傷が治るし、魔力も回復するの! 早く飲んで!」

クロエは花の部分を手折るとカリオンの口元に持っていく。カリオンはそれを受け取り、蜜をグイっと飲み干した。

 何とも言えない甘みが喉を通り抜けていき、少しずつ体の痛みが引いていくのがわかる。魔力も少しずつだが回復し始める。

 クロエは残っていた花の葉を取ると、それをぎゅっと絞りそのしぼり汁をカリオンの特に傷が酷い部分にかけた。すると傷が治っていく。

「……すまねえな」

「……」

 クロエからの返事はない。見てみると、クロエは今にも倒れそうなほど青白い顔をしていた。

「お、おい! 大丈夫かよ!」

「……休めば、治るわ。あの魔法、すごく疲れるのよ……」

 その言葉に、先ほどの花を咲かせる魔法はかなりの魔力を使うものなのだと察したカリオン。話すうちに限界が来たのか、クロエは身体をかしがせる。彼女の身体を受けとめたカリオンは、様子を見ながら彼女を離れたところに横たえると、ようやく立ち直りの兆しを見せ始めたクリスタルエレザードに向き直る。

「これ以上長引かせられねえな。……やるか」

 あちらが持ち直す前に、片をつけようと決心したカリオンは、剣をやや細身のものに持ち換えると、それに電撃を纏わせ、それを制御する。やがて、剣全体を覆っていた電撃はふたつの線に集約される。柄から剣先に向けて走る2本の雷の線へと。

「……よし。やるかあ!」

 そうカリオンが口にするのと、クリスタルエレザードが電撃を彼に向けて放つのは同時だった。しかし、強化した脚力で電撃を躱したカリオンは、音すらも置き去りにする勢いでクリスタルエレザードに接近し、勢いのままに剣をその胸へと突き立てた。

「ガアア!」

 刺突の勢いに押され、クリスタルエレザードは後退し、数メートルほどで止まる。その胸にはカリオンの剣が深々と刺さっていたが、頑強な体がそれを致命傷にする一歩手前で押しとどめていた。クリスタルエレザードは、最後の力を振り絞って爪に雷を纏わせ、カリオンを切りさこうとする。

「悪いが、これでしまいだ」

 カリオンがそうつぶやいた瞬間、剣が光を放つ。

 ズガン‼ バキイン!

 一瞬ののち、胸に穴をあけたクリスタルエレザードが、力尽きたようにその場に倒れる。カリオンの方は、根本から砕け散った剣を手に、今しがた放った攻撃の威力の高さを再確認していた。

「扱いに注意しろと聞いていたが、これほどとはなあ」

 カリオンの目の前には、クリスタルエレザードを貫通するにとどまらず、数メートル以上先まで一直線に焼き払ったような跡があり、その先にあった岩壁にも、大きく穿たれた跡を作り出していた。

ピシ。ビキビキ。ガラララ……。

 そう思ったのもつかの間、穿たれた岩壁のところが時間差で崩れていく。

「確かにこりゃあ、使いどころに注意しないとだ」

 カリオンはそう呟いて、手に持っていた魔石を見る。

 先ほどカリオンが何をしたか、その答えが魔石であった。彼は剣とその刀身に走る雷をレールガンに見立て、魔石を弾として発射したのである。強くなることとそのための技術に貪欲なカリオンは、弟が前世の記憶を持っていて、かなり発達した世界にいたと聞き、強くなるヒントになりそうなことがないか聞いたのである。その中で出てきたものが彼が求めているハルバードであり、レールガンもその一つであった。

 魔法に関しては天賦の才があったカリオンは、弟の説明と自らの試行錯誤と感性により、それをほとんど独学で完成させてしまったのだ。

 ただ、剣を銃床に見立てて弾となる魔石を撃つ、というのは流石のカリオンでも難しく、未完成であるとも言えた。

 だが、今回に至ってはゼロ距離からの攻撃。魔石は発射と同時にクリスタルエレザードの身体に突き刺さり、命を刈り取る一撃となったのだった。

 クリスタルエレザードの絶命を確かめたカリオンは、離れたところに寝かせておいたクロエの様子を見る。彼女は木にもたれ、すうすうと寝息を立てていた。魔力枯渇と疲労が限界だったのだろう。

「はは。剛毅な嬢ちゃんだな。ここが危険地帯なのは変わらないってのに」

 彼女に毛布をかけつつ、そうカリオンはつぶやいた。

「だが、ますますいいな。騎士団員向きの逸材かもしれない」

 魔法の扱いに加え、魔物との戦闘に加われる胆力。状況を把握して的確に魔法を使い分けてもいた。野外でもぐっすりと眠れるのも騎士には必要なスキルだ。

 本人はそこまで乗り気じゃなかったが、気が変わった時のために一筆書いて渡しておく位いいかもしれない。

 自分が強くなるのももちろんだが、頼れる仲間が増えるのも同じくらい大事だ。割と本気で彼女を騎士団に勧誘することを考えるカリオンであった。


 クロエが目を覚ましたのは、次の日の朝であった。

「あれ……。アタシ———」

「起きたか」

 カリオンの声に、かぶっていた毛布を跳ね飛ばして起き上がったクロエは、何ごともなさそうにしているカリオンの姿を見てほっとしたような表情をした。

 しかしその表情は、少し離れたところに倒れ伏しているクリスタルエレザードの亡骸を見たことで驚愕に変わった。

「あ、あれを倒したの?」

「ああ。嬢ちゃん、いや、クロエの魔法のおかげでな」

 そう言ってカリオンはニカッと笑った。不意の名前呼びに明るい笑顔を向けられて、思わずクロエは赤面する。

「な、なら良かったわね。あれ、かなり疲れるから、発動した甲斐があったってものね」

 動揺でやや口調がおかしくなっているクロエであったが、カリオンは気にする様子もなく、「あの魔法のおかげで助かったぜ」と礼の言葉を口にする。

「……あの魔法は今のアタシが使える一番強い魔法なの。1日に一度が限界だけど、花の蜜には高い体力と魔力の回復効果があるんだ。……病気には効かないんだけどね」

 自嘲気味にそう呟くクロエの頭に、カリオンはポンと手を載せる。

「でも、あの蜜が無かったら危なかったかもしれなかった。感謝は受け取ってくれると助かる」

「……ん。———ていうか、頭を撫でないでよ! もう子供じゃないんだから!」

「すまんすまん」

 恥ずかしさと怒りと照れくささでわめく彼女だが、カリオンにはほほえましさしか出てこず、どこ吹く風であった。

 食事をとって落ち着いたところで、ああそういえば、とカリオンは話を切り出す。

「そこの崩れてきた岩に、クロエが探している薬草らしきものがあったんだが」

「ええ⁉ 本当!」

 それを聞くや、クロエは立ち上がると「それどこ? 連れてって!」とカリオンの腕をぐいぐいと引っ張る。

 カリオンが苦笑しながら連れて行ったのは、昨日、最後の一撃で大きくひびが入り、崩れてきた岩壁のところであった。

「これ……何があったの?」

「あの後大技を放った余波でな」

「す、すごいのね」

 改めてカリオンの強さを再認識したクロエ。少し冷静になったことで、自身がカリオンの手をがっちりと握っていることに気が付き、少し頬を染めながらもそれをそっと手放した。

「そ、それで、薬草は?」

「あの岩の上に生えているのじゃないか?」

 カリオンが指さしたのは、崩れてきた岩の一部。見れば確かに、その岩からは植物がにょきりと生えており、風でゆらゆらと揺れていた。どうやら岩壁の上の方にあった部分が、昨日の余波で崩れて落ちてきたらしい。

「あ……。これだ。間違いない。……やった。これで、ハルの病気が治る」

 クロエは採集したその植物を手に、涙を流す。カリオンはその様子をどこか優し気に、だが憂慮するような目で眺めていた。

 戦いは決着し、次回は町に戻ります。また、作中出てきたレールガンもどきですが、レオンは最初、とある世界の女の子みたいな形になると考えていましたが、カリオンは武器を持って戦うためにあの形で落ち着きました。威力は申し分ないのですが、狙いをつけるのに苦労しているため、カリオン自身はまだ実戦では使えないと判断しています。

 次回更新は9月19日(火)を予定しています。それでは、また!

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