6-21 令息は相対する
8月23日、誤字を修正しました。ご報告ありがとうございました。
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断罪という茶番も無事に終わり、この6章も締めくくりに入っていきます。今回、主人公はついにあの人物と腹を割って話すことになります。それでは、本編をお楽しみください。
ふたりの人物と共に、姿を消したアメリア。アメリアが消えた後、手を尽くして暴れていた生徒たちを抑え込み、その行方を探したが、ついぞ見つかることはなかった。
また、最後に聞いた割れるような音は、学園に張られていた侵入者を阻むための結界が破られた音であったらしい。それはかなりの一大事だったみたいで、パーティは中止。生徒たちは寮での待機となった。
安全確認と結界の張り直しが終わったことで待機は解除され、俺たちはそれぞれの家の屋敷へと一旦帰っていた。フィオナもまだ侯爵家のごたごたが片付いていないので、一緒に伯爵家の屋敷に来ている。
久しぶりにトールと料理談義をしたり、兄と模擬戦をしたりして過ごしているときに、彼女はやってきた。
「卒業パーティ以来ね」
そう言って、エレオノーラ嬢はにっこりと笑った。なお、笑顔の行き先は俺ではなく、隣に座っているフィオナだ。フィオナもまた、彼女に向かい笑顔を返していて少し和んだ。
「しかし、言っちゃあなんだが、ここにいてもいいのか? 公爵家も大変だと聞いたが」
「大変なのは、お父様やお兄様たちだもの。私の方はもう区切りがついてるからここにいるの」
あの騒動の後、カルロスは王位継承権をはく奪され、現在は王城の片隅で幽閉状態になっている。その際、エレオノーラ嬢との婚約も白紙になっていた。なお、マーカスなどの取り巻き立ちも、家を追放されたり辺境に送られたりとそれぞれ厳しい罰を受けている。
公爵家では、侯爵家を初めとして、今回の騒動で甘い汁を啜っていた貴族や商人を告発したり潰したりしていたので、その後始末に追われていると両親から聞いたのだ。最も、伯爵家も一枚かんでいたから、母たちも忙しそうにしていたし、今日はその報告やらで王城に行っている。
「それに、一応私の思い通りになったわけだし、骨を折ってくれたわけだからお礼を言いに来たのよ」
「そうか。それじゃあ、お願いは達成ってことで?」
「ま、そうね。それで? あなたは狙った通りになったのかしら?」
エレオノーラ嬢の言葉に、頷く。
「ああ。フィオナの悪評云々は全部吹き飛んだし、一応は達成かな。まあ、アメリアが予想以上に闇の深そうなもの持ってたからってのもあるけど。……ただ、取り逃がしたのは悔しいし、最後にアメリアと一緒にいた奴の正体がわからないのは気持ちが悪い」
アメリアは”帝国”とか言っていた気がするし、エルバス帝国の関係者だったのか……。
ちらりと目の前のエレオノーラ嬢に目を遣ると、彼女は俺を試すような目で見ていた。———両親と兄がいないタイミングで来たのはおそらくそういうことなんだろうな。
「……そういえば、あなた、私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」
どう切り出したものかと思っていると、むこうから直球で聞いてきた。だったら……。
俺は”収納”に入れていたあるものを取り出すと、それをエレオノーラ嬢へと見えるように置く。それは俺をここまで導いてくれたあの攻略本だった。
「この冊子を書いたのって君だろう? エレン。いや、転生仲間さん?」
そう告げると、彼女はいたずらがバレてしまった子供のような笑顔で言った。「正解♪」と。
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「いつ気が付いたのかしら? むしろ、気が付かれなかったらどうしようかとも思っていたのだけど」
にやりとした笑顔を見せる彼女に俺は答える。
「注意して見てればおかしなところは多かったぞ。馴染みがある食べ物や道具類の出所がアスレイル公爵領で最近になって隆盛を極めるダールストン商会を初め、公爵領を地盤に持つところだとか。この冊子に出ている君の紹介文と実際のキミが色々と違い過ぎる、とか。
何よりも違和感が大きかったのは、キミの話す言葉だね。結構しゃべったけど、わざとなのか、時々この世界にはない言葉使ってたよな? 例えば『一蓮托生』。ためしに調べてみたけど、存在しなかったぞ」
こちらの世界では、『ペルスラの手枷』とか言ったりする。
「それに、一度そう当てはめると、キミがフィオナを可愛がる理由だとか、色々と腑に落ちる部分が多かったから」
「勘違いしないで。確かにきっかけはあなたの考えていることに近いだろうけど、私はフィオナがとっても素敵な女の子だから仲良くしているの。もしアメリアみたいに性悪だったら一緒にいないわ」
「まあそれはキミが本来の取り巻きと一緒にいなかったことからもわかるけど」
冊子に書いてあった取り巻き達は、アメリアほどじゃないが性格等に難がある令嬢たちばかりだった。本来は彼女たちと共にフィオナをいじり倒し、アメリアにも嫌がらせをしていたようだったが、目の前にいるエレオノーラ嬢はその令嬢たちとはほとんど関わりを持っていなかった。それどころかフィオナへの悪口などを止めることすらしていた。
「あ、あの。レオン様。エレンも。……その、間違っていたら申し訳ないのですが、エ、エレンも、レオン様と同じ様に、別の世界の記憶を持っているということですか?」
戸惑いながら声をあげたのはフィオナだった。ここで彼女をほとんど空気にしていたことを不覚にも思い出した。
「そうなの。私は、この男とおそらく同じ国で生きていたの。今まで黙っていてごめんね」
フィオナにそう言った後、彼女は改まった口調で言った。
「それじゃあ改めて。私の今の名前はエレオノーラ=レ=アスレイル。前世は日本の片田舎で農業をしていたの。アニメも漫画も大好きな正真正銘のオタクだったわ。乙女ゲームも好きで、この世界のことはゲームでプレイしていたからよく知っていたの」
彼女は言い終えたのち、俺を見る。次は俺か。
「じゃあ俺も。今はレオン=ファ=アルバート。前世では日本の首都郊外で働く社会人だった。もうすぐ中年ってとこで病気になって、気が付いたらこの世界にいた。俺もアニメや漫画が好きだったよ。この世界のことは全然知らなかったから苦労したな」
「あなたがアニメ好きなのはフィオナの歌ですぐにわかったわよ」
「ああ。やっぱりあれが気づいたきっかけだったか?」
「あんたねえ。いくらかアニメを見た人なら誰でも気づくわよ。かなり有名な曲じゃない」
「あれが前世の最推しだったんだ。まあ、アメリアは気が付かなかったみたいだけど」
「え⁉」
ここで驚いたのは、エレオノーラ嬢ではなく、フィオナの方だった。
「どうしたのフィオナ?」
「いえ。もしかして、フォルティアさんも……?」
「おそらく、というか確実だな」
「そうね」
俺たちの言葉に、フィオナは驚きを隠せない表情をしていた。確かに、前世の記憶を持つ人間はまれな存在。それが自分の近くに3人もいたなんて驚きだよな。
それからは、俺はエレオノーラ嬢と話をして、自分たちが日本のいつを生きていたのかを確認しあった。大きな出来事や政党名。首相の名前。それとやっていたアニメや曲の名前が確認には大いに役立った。
ただ、アニメの名前は同じだったが、やっていた時期がずれているものもあった。首相の名前は同じでも、狙撃などは受けていないようであったし。どうやら俺と彼女はかなり似ている別の日本を生きていたらしい。パラレルワールドというやつだ。もしかしたらこの世界が出てくる乙女ゲームも彼女がいた日本の産物なのかもしれない。
年齢的なことを言えば、俺の方が先に亡くなっていたようだし、彼女に比べ一回り以上は年上であったようだが、この世界では同い年で、彼女の方が10年ほど早く記憶を取り戻している。不思議なものだ。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「こちらこそ」
お互いのことを知り、信用できると確信した俺たちは、がっちりと握手しあう。ここに、転生者同士の交流及び同盟が結ばれることになったのだった。
「ところで、今回の用件は挨拶ってことか?」
握手を交わした後にそう尋ねると、「それ以外にもあるわ」と返事があった。
「王城の方の情報を少しだけ。まず、そろそろミストレア侯爵家の処遇が決まりそうね。それと伯爵家の方も」
「うん? 伯爵家も?」
俺の言葉に、エレンは頷く。
「今回の騒動で伯爵家は国内の膿を出すのに貢献したもの。毎年の魔物の大量発生の対処に、盗賊の捕縛、去年には、とある子爵家のお家乗っ取り騒動を未然に防いでいたみたいだし。それで何かしらの褒賞が出るみたい」
「へええ」
「他人事みたいに言っているけど、あんたにも出る可能性があるわよ?」
「何ですと!?」
「あんたねえ……。魔物の大群と盗賊から街を守るのに貢献し、闘技大会は優勝。今回の騒ぎを無駄に大事にせず、ほぼ学園内だけで収めてみせた。普通なら騎士爵の打診が来るくらいの功績よ?」
「まじか……」
「今日伯爵ご夫妻がいないのも、案外そのあたりの打診のためかもね」
ううむ。爵位か。俺の勝手なイメージだと、貴族同士の付き合いとか、かなり面倒くさい感じがする。そもそも、爵位を継ぐという考えを今まであまりしてこなかったしなあ。兄がいるし。あの人に何かあって俺がっていうのは考えたくなかったし……。
何か———。そういえば。
「なあ。聞きたいことがあるんだが」
「なにかしら」
「この乙女ゲームには、”帝国編”があるのか? 消える直前、アメリアがそんなことを言っていた」
「!」
俺の言葉に、エレンは驚くような表情をした後、何かを考え込むような表情になった。しばらく考え込んだ後、おそらくだけど、と前置きしてから口を開いた。
「このゲームはね、第1部と第2部があるの。1部は中等部。2部は高等部ね。舞台はどちらもここ。帝国ではないの」
そう言った後、ただね、と続ける。
「帝国が舞台のスピンオフ作品的なものがあるのよ。乙女ゲームじゃないのだけれど」
「どういうことだ?」
「そのゲームは、なんていうのかしらね。……シミュレーションゲームなのよ。田舎に生まれた主人公が畑を耕して作物を育てたり、住んでいる村に井戸を作ったり道を整備したり。スローライフができるっていうのが売りのゲームだったの。
だけど、できることはかなり幅広かった。……それに、一定の条件を満たすとゲーム内のキャラと結婚もできるようになっていて、相手の中にはそれなりの地位を持つキャラもいたのよね」
「ジャンルは違うけど、やりようによっては……」
「こっちと同じ様なことができるわ。特に今のあの子は魔女よ? おそらく、少しでも下心なりを見せたらあっさり操られるでしょうね」
エレン曰く、アメリアの鑑定結果に出ていた『魅惑の言霊』というのは、自身に対して好意的な感情を持った相手を、魔力を乗せた言葉を媒介に操れるスキルなのだという。過去にも、同じスキルを持った男がいて、そいつは高位貴族の女性や王女をわがものにしようとしたらしい。
だから見つけ次第所持者を拘束することが義務づけられたのだとか。
「確証はないけど、元から『言霊』のスキルを持っていたんでしょうね。『言霊』スキルは、自身が口にした願望が叶いやすくなるものなの。それを魔力の豊富なあの子が使えば、効果は更に高くなるわ。『魅惑の言霊』ともなれば、その力はもっと強くなる。魔力が少ないと抵抗できないでしょうね。特に、彼女に好意的なら猶更」
その言葉に、かつてマルバスと話した、魔法への抵抗力というのを思い出していた。スキルがレベルアップしていくごとに、アメリアに感じていた違和感や忌避反応。それが彼女のスキルによる精神干渉への抵抗だったのだとすれば納得できたからだ。つくづく、鍛錬をしていてよかったと思う。
まあそれはそれとして……。
「頭が痛い」
「同感よ。一応各国に通達して指名手配したみたいだけど、上手くいくかどうか……」
どんよりとその場の空気が重くなる。フィオナも重要な話なのが分かっているのか口をはさめないようだ。……こういう時こそ俺のスキルの出番か?
「……つかぬことを聞くが」
「何よ」
「転生とかするとさ、転生特典とか、チートがついてくることってあるけど、そういうのあったか?」
「すごい唐突ね。……まあいいか。私は農業系のスキルを持っているの。多分前世が農家だったからかも。おかげで特産品の開発がはかどったわ。……それを聞くってことは、あなたも何か持ってるのね?」
その問いに頷くと、俺は自分が持つスキルについて説明した。結果、テンションの上がった彼女が、「カラオケさせろ‼」と迫ってきたのは言うまでもない。
キーとなるイベント「卒業パーティーでの断罪」は終わりましたが、元凶がまだ残っているため、この物語はまだ続きます。書いてみたいシーンもありますので。
次回更新は8月25日(金)を予定しています。それでは、また!




