2-5 6日目② ダメ男は依頼をこなす
初めて主人公は町の外に出るわけですが、何がまっているのでしょうか? 単身で読んでもらえたら嬉しいです。
「目的地の森はもう少し行ったところだ」
隣を歩く兄が、そう言いながらこっちを見た。ギルドの建物を出た俺たちは、王都を出て、そこから少し離れたところにある森に向かっていた。ちなみに、今は馬に乗って移動している。(馬の乗り方は体が覚えていて、難なく乗れた)
兄が持っていた紙は、依頼について書かれた紙で、内容は、「魔物の討伐」と、「薬草の採取」だった。前者が兄上ので、後者が俺のだ。薬草の採取。……とてもらしい仕事だと思う。なお、この世界にも「ポーション」と呼ばれるものがあり、体力や魔力の回復、毒消しと、色々なものがある。俺はまだ飲んだことはないが、どんな味なんだろうか?
やがて目的地の森付近に到着したので、馬を降りて近くの木に馬をつなげた。
「さてと……。まずは薬草のほうからやるか。ついてきな」
そういうと、兄は森に入っていく。俺もまた、はぐれないようについていく。
森の中は、少しざわめいていた。チチチ、と鳥の鳴き声が聞こえ、草の揺れる音も聞こえる。
不意に兄がしゃがんだ。近づいて見ると、一本の草を持っている。
「見ろ。これが薬草だ。ポーションの材料にもなるし、すりつぶして傷口に塗ってもいいし、最近じゃあ、料理の材料にもなるんだぜ」
受け取ったそれを見てみる。見た目は肉厚なたんぽぽの葉っぱと言ったところ。試しに臭いをかいでみると、さわやかな感じの臭いがした。何だろう? ハーブに似てるかも?
「兄上。これをどのくらい取ればいいんですか?」
「う~ん。……10本で小銅貨1枚だからな。20~30本もあればいいと思うぞ」
「わかりました」
さっそく近くにある薬草を探す。薬草10本でだいたい100円か。
この世界の通貨だが、紙幣はなくて、金貨や銀貨だ。上から大金貨、小金貨、大銀貨、小銀貨、大銅貨、小銅貨、大鉄貨、小鉄貨になっている。小鉄貨1枚=1円といったところだ。なお、人が1日最低限の暮らしをするのに必要な金額はだいたい小銅貨3~4枚だという。つまり、薬草採取で食べていくには、一度にさっき言った数くらい採らないとダメなんだな。
新米ハンターの仕事としては、この薬草採取の他にも、公共事業の手伝いといった、街の様々な仕事の手伝いなんかもあるようだ。
さくさくと森の中を探索しながら薬草を採取していく。薬草はやや目立つ見た目をしているので、難なく見つかった。近くに1本見つけて、ぐいっと引っ張ると、根っこごと抜けた。さっき見せてもらった時にはなかった根っこ。見てみると、細い根の真ん中に親指くらいまで肥大化した黄色い部分があった。
どっかで見たような形だ。試しにそれを鼻先に近づけてみると、前世でも嗅いだことのあるにおいがした。……これ、生姜じゃないか? ……葉っぱがハーブで根っこが生姜。さすがは異世界。
「兄上。薬草は根っこの部分はいらないのですか?」
ちょっと気になったので聞いてみた。もしいらないなら、トールに渡して生姜料理を作ってもらおう。
「ああ。根っこか、そっちは魔物除けとか、薬とかの材料になるぞ。持っていけば買い取ってもらえるぜ」
なるほど。じゃあこれも持っていくか。いくらかは買い取ってもらって、残りはトールに渡そう。採取した薬草は土を払ってから、「収納」する。多分、薬草30本くらいなら入るだろう。
それから2時間ほどで薬草は30本集まった。あとは「魔物の討伐」だけだ。このあたりに出る魔物を数体倒して、討伐を証明できる部位を持っていけばいいらしい。兄曰く、このあたりの魔物の強さはそこまででもなく、強くてもブロンズランクの強さがあれば楽勝とのこと。ちなみにその兄はブロンズよりもひとつ上のシルバーランクなんだそうな。14歳でハンターをはじめて、それから2年ほどでハンターの中でも上位に位置するところまでランクを上げているなんて、さすがとしか言いようがない。
余談だが、今現役のハンターで最高ランクはゴールドの人らしい。
歩いていると、少し開けた場所に出た。日差しが差し込んでいて明るい。
「レオン。ここで休憩だ。ついでに昼飯も食っちまおう」
そういうと、兄は荷物の中から包みを取り出した。受け取ってみると、それはサンドイッチだった。さっそく食べてみる。ハムとチーズだ。うまい。
食べ終わった後は、来た道を戻りつつ、討伐する魔物を探す。探す、と言えば、探知系の魔法が思い浮かぶ。この世界にもあるようで、風魔法によるものが特によく使われるようだ。それならば、俺にだって使えるはずだが、今の俺には難しそうだ。他の魔法とかで代用できないか? ……そういえば、無属性魔法はイメージ次第でいろいろできると昨日聞いたっけ。例えば、蛇みたいに、周囲にいる生物の体温を感知する、とか。お湯などの温度を測る生活魔法があると聞いたので、これを応用すれば行けるかも。
というわけでさっそく実験。生物の体温を感知~と考えながら、魔力を放ってみた。すると、少し前を歩く兄の体に、色がついた。前世のサーモグラフィーのようになっている。周りを見てみると、草木や地面はほとんどが色落ちしたような状態に見え、どうやらイメージした通りになったらしいと分かった。成功はしたけど、視界のほとんどが灰色の世界みたいになっていて、違和感が強いのが難点だな。もうちょっと景色の彩度が上がらないものか……。
そう考えながら、ある方向を見つめたとき、気が付いた。その方向の先が、かなり色鮮やかだったからだ。赤い部分が多く、それが動いている。……明らかに生物のものだ。
「……兄上。何か来ます」
「……そうだな。数は……5、いや6か。すぐそこに少し開けたところがあるからそこで迎え撃つぞ。お前は無理のない範囲で動け」
「了解」
「走るぞ」
だっと走り始めた兄の後を追い、俺も走る。10秒もしないうちにさっと日の光が差し込み、開けた場所に出た。
と次の瞬間、兄がくるりと反転し、雷を放った。それは今自分たちが走ってきた方に飛んでいき、間をおかずギャワン、という悲鳴のようなものが聞こえた。そしてガサガサという音とともに、黒い毛でおおわれた大きな犬……いやオオカミが姿を現した。数は4体。兄が剣を抜いたのを見て、自分もまた今まで特に出番のなかった剣を抜いた。木剣とは違う重みが、腕にかかる。
オオカミたちは兄を敵と見定めたのか、唸りながらじりじりと接近してきた。そしてまず2匹が牙をむき出しにして襲い掛かった。兄は冷静に2匹の攻撃をいなし、1匹を切り捨てる。時間差で残りの2匹も襲い掛かってきたが、これも軽くいなした。と次の瞬間には電光が走り、それが1匹を貫く。一気に2匹も仲間がいなくなったことにより、オオカミたちは少し動揺したようなそぶりを見せる。その一瞬のスキを見逃さず、兄は一気に間合いを詰め、残りの2匹も倒してしまった。……すごい。流れるように終わってしまった。
「レオン‼ まだ来るぞ。気をつけろ!」
兄の声が聞こえた瞬間、ガササッと音がしたと思うと、さらに4体のオオカミが現れ、3体が兄の方へ、そして1体が俺に襲い掛かってきた。っ⁉ まじかよ⁉
集中がきれたことで体温感知はとっくに解除されており、クリアな視界に迫る、オオカミの体。反射でその攻撃をよける。しかし、とっさだったこともあり、バランスを崩してしまう。慌てて起き上がり、片足立ちになって見たものは、今まさにとびかかろうとしているオオカミの姿だった。や、やばい! 剣は手にあるが間にあわなそうだ。何か手はないか⁉ ばっとオオカミが飛び上がり、牙をむき出しにして襲い掛かってくる。とっさに俺は、自分とオオカミの間に収納から取り出した大量の薬草をばらまいた。
後から思えば、きっと少しの目くらましにでもなれば、とやったのだろう。でも、これが結果として俺の命を救うことになった。
飛び出していたオオカミは、突然現れた薬草に頭を突っ込んだ。しかし、ここで予想外の結果が起きる。オオカミは、ギャンと短い悲鳴をあげると、空中でバランスを崩した。……そこからはまるでスローモーションのようだった。バランスを崩し、自分の目の前に無防備に落ちて来るオオカミ。剣を握る右手がゆっくりと身体の前面に移動する。剣を両手で握り、ぐっと足に力に入れながらそのまま前に突き出す。それは吸い込まれるようにオオカミの体を……貫いた。ズンと肉を貫く感触が腕に伝わる。急所にあたったのか、オオカミは動かない。剣を引き抜くと血がついていて、今、自分自身の手で命を奪ったのだと理解した。
(俺は……この手で命を奪ったのか……)
自覚したとたん、血の臭いやらで、気分が悪くなり、その場にうずくまる。吐き気こそないが、気分が凄く悪かった。前世だったら、きっと吐いていたに違いない。でも、そうはならなかった。きっとこの世界で生きてきたレオンの記憶が作用したからなのだろう。それでも、気持ち悪さは消えなかった。
気が付くと、オオカミたちを倒したらしい兄が、背中をさすってくれていた。その感触で、少しだけ楽になる。背中をさすりながら、兄は静かに言葉を発する。
「……はじめてにしては、お前はよくやったよ。俺だって最初は怖かったさ。これから少しずつ、たくさんのことをしながら、学んでいけばいいさ……」
「……」
そのあと俺は、倒したオオカミたちを解体する兄をただぼんやりと眺めていた。
帰り道、馬に揺られながら、俺は今日あったことを改めて思い返していた。
(この世界で生きると言いながらも、俺はまだ覚悟が全くできていなかったんだな。この世界には戦争もあるし、今日みたいに魔物の討伐をすることだって必ずあるだろう。……ここは、前世みたいなただ平和を享受できるような世界ではないんだ)
常識が全く違う場所で生きているんだということを改めて実感させられる1日だった。
なお、ハンターの依頼は無事に達成された。そしてあのとき、オオカミがひるんだわけだが、魔物は薬草の根っこの臭いが苦手だからだということを後から知った。とっさの判断だったけど、運よく最適解を選んでいたらしい。……助かった。
今回はあまり戦ったりはしません。でも、夏休みになったら嫌でも戦うことになるわけですが……。




