6-16 令息は卒業パーティーに臨む③
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まだまだ諦めていないヒロイン側は、さらなる証拠?を投入しようとしてきます。それはあの人で——⁉
それでは、本編をどうぞ!
「その女が闇魔法を使えるからだ!」
勝ち誇ったかのようにそう口にするカルロス。ギャラリーがざわめいた。秘密にしていたのだから当然だ。
「で? それがどうしたというんだ?」
それに対し、俺は至極冷静にそう返した。あちらはこれで俺が動揺すると思っていたんだろうが、とっくに打ち明けられていたし、こうなることも予想の範囲内だったので慌てたりはしない。
「確かに彼女は闇魔法が使えるが、それが罪の証拠になるのか?」
「闇魔法で何ができるか。それを知らないわけじゃあるまい。皆も知っているだろう! 過去に闇魔法使いが犯した大罪の数々を! 魔族たちがその魔法で我々の祖先たちを苦しめたのを! それと同じことができる魔法が使えるだけで、証拠としては充分だ!」
「そうです! 闇魔法のせいで、皆おかしくなっちゃったんですよう」
呆れてものも言えないな。でも、言わないといけない。そんなのは間違っていることを。
「闇魔法が何をしたか、か。確かに許されざる罪を犯したやつもいるだろうが、ほとんどの原因は今お前らがいったみたいな差別と偏見のせいだろうが」
フィオナを庇うように立って、続ける。
「闇魔法が使えるってだけで仕事を失い、盗賊になったやつ。闇魔法が使えることでいじめにあい、逆上して村を滅ぼした奴。中には妻と娘を奪われ、王城で暴れた騎士もいたんだっけか? 今言ったやつらは本人だけが悪いと言えるのか? 周りの環境こそが問題であり、”闇魔法は悪”という考えがなければ起こり得なかったはずの問題だろう?」
「だ、だが」
「それに、昔は戦争をしていたとは言え、今は魔族も隣人だ。いつまでも昔のことを引っ張り出して差別するのは失礼なんじゃないのか? お前は将来、魔国の人間がやってきたとしても、同じようにする気なのか?」
「……」
「後、軽薄だった自身を顧みて、本来あるべき姿……婚約者との仲を深めているだけなのに、洗脳されているとか、失礼を通り越して口にするなって話だ。何度も言うが証拠はあるの?」
「ふん。証拠など。お前がその女といるようになってからおかしくなったと証言するものはたくさんいる。お前たち。話して聞かせてやるがよい」
カルロスの言葉にこたえるように、数人の男子生徒が出てきて、口々に俺がどんなに凶暴で、残忍になったかを話し始める。……というかお前ら誰よ。初対面では?
「……と言うように、アルバート殿は短慮で、弱きものにあたり散らすようになったのです」
男子生徒たちの説明が終わり、辺りはシンとなる。
「でもそれ、1年前と変わらないよな?」
誰かの声が会場内に響く。それはあまり大きい声ではなかったが、静まり返っていた会場内ではよく聞こえた。
「……確かに。レオンさんは大体いつもどこかイラついた感じでいたし」
「手は出さないけれど声を荒げることって結構あったよね」
「むしろ最近の方が落ち着いていて、最初は何かの間違いだと思ったもんな」
「婚約者と仲直りしてから性格丸くなりましたね」
「言うてさ。噂のわりにそういうところほとんど見てないよな」
「婚約者を溺愛しているところならイヤになるほど見たがな」
「「それな」」
途端に会場内は1年前のレオンのことを話す声でいっぱいになる。……過去のレオンの所業の悪さに今さらながら涙が出そうだ。
「それで、俺がいつ弱いものいじめをしたって? 少なくとも君たちじゃないよね? 名前も知らないし」
そう問いかけると、男子たちは少し怖気づいたように身体を揺らす。だがすぐにこちらを睨むと声をあげた。
「白々しいぞ! お前に何度も何度も魔法を打ち込まれ、剣で撃たれた奴が俺たちに話してくれたのさ。さあマルバス! ここに来てお前がどんなひどい目にあったのかを語ってやれ!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、マルバスがやってくる。顔はうつむき気味で、表情は窺い知れない。
マルバスは男子たちのところまで来たが、ためらうかのように話し出す様子はなかった。
「恐れなくてもいい。あいつが逆上しようとも、俺たち、いやアメリアが守ってくれるさ」
「そうだぞ。安心して、あいつの所業を暴露すればいい」
男子たちはマルバスを励ますようにそう声をかける。
そうして顔をあげたマルバスだが……その顔は喜色満面だった。
「ではでは、語って聞かせてあげましょう! ぼくとレオンさんの、厳しくも充実した鍛錬の日々を!」
そうして始まった口上は、俺がどれほど慈悲深く聡明で、魔法と剣の扱いに長けているかについてだった。マルバスはよどみなく、俺との鍛錬の日々について語る。その様はいじめられている人間の様子では全くなく、むしろ心酔しているとしか表現できない様であった。
しかし、指示したのは俺とは言え、くそ恥ずかしいな! カルロスたちを初めとして、隣のフィオナまで目を丸くしている。
「僕のレオンさんへの尊敬と忠誠の念は遥か神山よりも高いものですが、レオンさんの度量と器の広さは海よりも遥かに大きく……」
マルバスは止まることなく、語るのが嬉しいという感じだ。……もうだめ。無理!
「マルバス! もういい! それ以上はいたたまれない!」
思わず止めに入るが、マルバスはやや不満そうである。
「ええ! まだまだ言うことはたくさんありますよ!」
「慕ってくれるのは嬉しいが、お前の中の俺って何なの!? もはや建国の英雄王よりも大人物じゃないか! 盛り過ぎだ」
「僕の中ではもはや同義語です」
「ドヤ顔で言うことじゃない……」
これはだいぶストレスがたまっていたな。どうしようか。ガス抜きしたらマシになるかな?
「マ、マルバス! これはどういうことだ!」
マルバスに話をするように言った男子が、ここで我に返ったようで、マルバスを問い詰める。それに対しマルバスは、冷めきったような表情で口を開く。
「は? 僕はレオンさんがいかに素晴らしいかを語っただけだが?」
「!? だ、だが、いつもお前、あいつにひどい目にあわされていると言っていただろう⁉」
「はあ? バカか貴様? 僕は一度もそんなことを言った覚えはないぞ。貴様らが勝手に勘違いしたのだろうが。
僕はいつも、初めにレオンさんとの鍛錬がどれほど厳しいもので会ったかを語り、それからその鍛錬で得たことやレオンさんの気遣いを始めとした素晴らしいところを話していたのだ。なのに、最初だけ聞いてもういいと去って行っていたのは貴様らだろう? 最も重要な部分を聴いてもらえず、かなり腹が立っていたのだぞ」
何を言っているんだと言わんばかりな態度でマルバスはそう言い切った。……後半部分が誰にも語られることがなかったことにほっとしたのは黙っておこう。いや、今しがた大勢に聞かれたんだった。……いたたまれなさすぎて、ギャラリーの方を見れないよ。
「そもそも、僕は貴様らがレオンさんにとって不本意なことをしようとしているのを察知して、その情報を得るために近づいたに過ぎん。最初から貴様らの味方ではないのだよ」
マルバスはそう締めくくると踵を返し、俺の近くに立つ。一方マルバスに声をかけていた男子たちはまだ事態が呑み込めていないのかフリーズしていた。
「何が、どうなっているのだ?」
カルロスの口からそんな言葉が飛び出る。
「要するに、お前らが聞いてた俺の噂は、全て俺が仕組んだことだ。マルバスを通して俺の噂をお前らに流し、俺はそれに沿った態度や行動をわざとしていた。面白いくらい簡単に信じてくれたな。冷静に考えてみればおかしいところはあっただろうにな」
全く気づけなかったからこうなったわけだけど。
「レオン。俺たちをだましていたのか⁉」
「それは申し訳ないと思うが、先に言い出したのはそちらだろう? アメリアから離れた俺を敵視して、挙句の果てには洗脳されているってな」
「だが、お前が変わったのは事実だろうが!」
「……人間死にかければ考えのひとつやふたつくらい変わるもんだぞ」
盗賊、魔物、怒った父。直面してきた命の危機とくぐった死線に思わず渇いた笑いが出る。乙女ゲームって思っていたよりもハードなんだな。もうちょっとご都合主義でゆるゆる設定だと思っていたわ。
現実が厳しいのはどこも同じか。
「とにかく、前にも言ったと思うが、俺は俺の意思でアメリアから離れた。それは俺がそうしたいからそうした。それだけだ。とやかく言われる筋合いはないし、俺は今幸せなんだ。邪魔しないでくれ」
「……だからそれがまやかしだと言っているんだろうが」
「それを言うなら、お前がアメリアに感じているものの方がまやかしなんじゃないか?」
「何だと⁉」
「彼女の言ったことを疑いもなく信じ込んで、ろくに証拠もなく他人を責め立てているじゃないか。恋は盲目とは言うものの、これは度が過ぎている。お前らがアメリアに洗脳されていると言われた方がまだ納得できるぞ?」
おどけたようにそう言った次の瞬間、俺の足元に白いものが叩きつけられた。見るとそれは白い手袋で……。
「レオン! 俺と、そしてアメリアをそこまで侮辱するか! それを取れ! この俺が直々に貴様に罰を与えてやる! その後でその女にも罰を下してやるわ!」
そうカルロスは言い放ち、俺を睨みつけた。これでもう、後戻りはできないな。
次回更新は7月21日(金)を予定しています。それでは、また!




