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    6-14 令息は卒業パーティーに臨む①

 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 長らくお待たせしましたが、いよいよ卒業パーティ編の始まりです! 果たしてどんな断罪、もとい茶番劇となるのか? お楽しみいただけたら嬉しいです。

 それでは、本編をどうぞ!

「———カルロス=ド=ハルモニア第2王子殿下、ご入場!」

 その声が響き渡るのと同時に、俺たちが入ってきたのとは反対側にある一段高いステージ状になっている方の扉が開いた。その扉をくぐって出てきたのは、カルロス。

 そしてその腕にしだれかかるようにして歩くアメリアだった。来ているドレスはカルロスが贈ったのかかなりいいものであるようだ。胸元と両耳には、彼女が「聖女の証だ」と自慢しているアクセサリーが揺れている。

 アメリアを伴っての登場に、会場はざわめいた。エレオノーラ嬢がひとりでいたから訝しがる声もあったけど、まさか婚約者以外の人間をエスコートして来るとは思っていなかったんだろう。

「諸君。卒業おめでとう。今日この日、皆と共にこの日を迎えることができて嬉しく思っている。今日は祝いのパーティだ。心行くまで楽しんでほしい、と言いたいところなのだが……」

 お祝いの向上を述べていたカルロスが言葉を切る。いよいよかな。

「その前に、皆に言わねばならないことがある。……エレオノーラ=レ=アスレイル公爵令嬢」

「……何でしょうか、殿下」

 エレオノーラ嬢が落ち着いた声でそれに答える。来るか。来るのか。

 思わずつばを飲み込む。

「お前のようなやつは、我が婚約者にはふさわしくない。今日この日をもって、カルロス=ド=ハルモニアは、お前との婚約を破棄することを宣言する!」

 大広間に響き渡るカルロスの声。エレオノーラ嬢は微動だにもしない。どんな表情をしているのかはうかがい知れないが、おそらく白けた顔をしているのだろうな。

 一方俺は、茶番だな、と思いつつ、心の中では「こんなテンプレセリフを生で聞けるとはな~」と笑いをこらえていた。

「婚約破棄、ですか。一体どのような理由があって、そんなことをおっしゃられるのですか?」

 エレオノーラ嬢が至極まっとうな言葉を返す。それに対し、カルロスはアメリアを引き寄せながら言った。

「貴様はアメリアに対し、平民が貴族に近づくなと言って酷くしかりつけ、彼女の持ち物を壊したり、水を浴びせかけたりしたそうじゃないか。アメリアが涙ながらに教えてくれたぞ」

「わ、私とても怖くて……。せっかく魔法学園に通うことができて楽しかったのに、こんなことをされるなんて」

「おお。かわいそうに」

 なにこの三文芝居と思いつつ見守る。……今エレオノーラ嬢はどんな表情をしているのだろうか。

「では、殿下はわたくしがフォルティアさんをいじめた、そう仰るのですね」

「そうだ! さっさと観念するがいい」

「観念、と仰られましても……。わたくしは、彼女に学園でのルールについて教えていただけですわ。まあ、何度言っても効果がありませんでしたが。それに、物を壊しただの水を浴びせかけただの、覚えがありませんわね」

「ふん。しらじらしい。お前が取り巻きの令嬢たちと共に、アメリアに酷いいじめを行っていたことは調べがついているのだぞ! 証人もいる」

 そう言ったとたん、カルロスたちのところに歩いていくマーカスをはじめとした何名もの男子たち。彼らはそれぞれ声高に、エレオノーラ嬢や自分の婚約者がアメリアに危害を加えたと証言し始めた。

 名指しされた女性たちがそれぞれやってきた。マーカスの婚約者であるルイーザ嬢。ランドルの婚約者であるリリナ嬢。カノン嬢もいる。出てきた人数は思っていたより多い。かき集めたものだ。

「ルイーザ。君はアメリアのノートを切りさいたそうじゃないか。おまけにナイフの刃をアメリアの部屋に送り付けたとも。なんて浅ましく、醜いのだろうね」

 一番に口を開いたマーカスが、ひとりの令嬢を軽蔑した様に糾弾した。

 マーカスの視線を受けたルイーザ嬢は、マーカスを見返しながら口を開いた。

「……わたくしがそちらの方のノートを切りさいたとおっしゃいますが、それは不可能ではありませんこと?」

「言い逃れする気か」

「事実を申し上げただけですわ。そもそも、同じ学園に通ってもいないのに、どうしてその方のノートを破くなんてことが出来るのです? その方の名前も今日初めて知ったというのに」

 ルイーザ嬢はため息をつかんばかりの声音だ。

「わたくしは名前どころか寮の部屋の場所すら知りませんでしたのよ。学園の中に不慣れであることはあなた様が一番よく知っていらっしゃるはずですわよね。一度として案内してくださらなかったのですし。

 それに、ナイフの刃を送り付けたと言いますが、そのような危険物を送ることなどできません。配達の際に危険物や違法の物がないかを確認することはご存じのはずでしょう。……本当に愚かになってしまわれたのですね。侯爵家にはしっかりと抗議させていただきますわ」

 呆れたと言わんばかりである。その毅然とした態度にマーカスはたじろいだ。

 次に声をあげたのはランドルだった。

「リリナ。君は2月ほど前から、アメリアを数人で囲んで手ひどい言葉を何度も投げつけたそうだね。それに、アメリアの大事にしていたペンを壊したそうじゃないか。君がそんな人だとは思わなかったよ」

 ランドルの言葉に、残っていた男子の内数人が迎合する。言い分としては、リリナ嬢と数人の取り巻きがそれをしたということだった。

「私は、婚約者を持つ殿方と節度を持って接するように忠告しただけですわ。ですが、いくら言っても効果がなく、逆恨みされそうでしたので、2度目以降はしていませんわ。その2度目も、昨年のこと。この3か月ほどは、ほとんど関わらないようにしておりましたもの」

 リリナ嬢の言葉に、他の数名も肯定する。

「み、見苦しいぞ」

「見苦しいも何も、真実を述べただけです。……そういえば、ペンを壊されたとのことですが、それはいつの話ですの?」

「は。そんなことも忘れたか。今から一か月前、聖バレッティアの日の昼休憩前だ! 大方、俺がアメリアと過ごすと知っての醜い嫉妬だろう!」

 聖バレッティアの日とは、こちらのバレンタインのことだ。俺がこそこそしていた日である。報告書にも記載があった。

「聖バレッティアの日の午前中は、魔法植物学の実習で学園の温室と畑を行き来していましたの。それは担当の先生や同じ講義を受けていた方々が証言してくださいます。どうやってフォルティアさんのペンを壊すことができるというのですか」

 リリナ嬢はやや不機嫌そうにそう言い放った。

「そもそも、私は嫉妬なんてこれっぽっちもしてはいません。ランドル様の魔法や魔術に関する真摯な姿勢は尊敬していましたが、近頃はフォルティアさんにかまけて、随分と勉学がおろそかになっていますよね? 魔法薬学の講義にもいらっしゃいませんでしたし、近頃は呆れを通り越して軽蔑すらしていますわ」

「なっ!」

「ですから、ランドル様がどなたと懇意にしていようが、私にはもうどうでもいいのです」

 彼女の言い様に、ランドルは絶句している。ふむ。彼女は物静かでランドルに対して意見を言うようなことは今まであまり無かったらしい。それがここまで噛みつかれたら驚きもするか。

 それからも、男子側が何か言えば、それを相手がアリバイ付きで反論する、というのが続いた。この場でカルロスの味方に回りそうなやつらの婚約者の女子生徒たちには、エレオノーラ嬢を通じてあらかじめフィオナと同じ様に行動の記録やアリバイ作りをお願いしていた。

 中には、あまりにも酷い言葉を使ったことで怒った女子生徒に平手打ちをされ、「あなたとの婚約なんて、こちらから願い下げです!」と言われた奴までいた。その時は更に追撃しようとする彼女を他の女子たちが慌てて宥めたほどである。なお、その時にこんな人のために腕を痛める価値もない、的なことを散々言われ、その男子は涙目になっていた。……ご愁傷様。

 少し毛色が違ったのはカノン嬢だ。彼女は婚約者ではなく、アメリアの糾弾だった。曰く、アルマ君に差し入れを持っていったら、手ひどい言葉を投げつけられて追い返されたり、会うのを邪魔されたりしたとか。

 いかにも哀しそうに訴えるアメリアに対し、カノン嬢は当たり前でしょうといった反応をした。

「普通であれば、自分の恋人に他の方が無遠慮に近づこうとすれば嫌悪して当然だと思います」

「わ、私は、ピアノのことを少し教えてもらいたかっただけなのに! 少し近づいただけで悪者扱いなんて、酷い。恋人って言っても、婚約もしていないのに!」

 その言葉に、会場内の女子たちの目線が鋭くなった気がした。更に敵を増やしたぞおい。

「婚約? あなたがアルマ君に近づいてきていたのって、昨年の秋口くらいからでしたよね? 私と彼、夏の休暇前にはもう婚約が成立していたんですよ? 届も出したので、調べてもらえばわかります」

「! 嘘! そんなわけない!」

「なんであなたにそんなことを言われないといけないんですか? まあ親切な友人に背中を押してもらえていなかったら、まだもだもだしていたかもしれませんけど」

 ふふっと控えめに笑うカノン嬢に、アメリアは信じられないといった感じで口をパクパクとさせていた。

「だ、だが、貴様がアメリアを部屋から追い出したり、持っていった差し入れを取り上げて捨てたのは事実だろう!」

 カルロスがアメリアに代わってカノン嬢を責め立てる。カノン嬢も言い返そうとした。

「すみません。発言してもいいでしょうか?」

 それを遮るように、眼鏡をかけ、こげ茶色の髪をしたひとりの男子生徒が出てきた。

「アルマ君」

 カノン嬢がその男子生徒を見て、嬉しそうにした。アルマは、カノン嬢の隣に立つと、カルロスに首を垂れる。

「恐れながら、僕に発言をお許しください」

「いいだろう。なんだ?」

「彼女がしたことの数々は、僕の身を案じてのことなのです。どうか寛大な処置をお願いします」

「なに?」

「まず、彼女が他人を部屋から追い出したのは、僕が集中して練習できる環境を作ってくれようとしたからです。僕はあの時、大事な演奏会が控えていて、普段よりも集中して練習する必要がありました。そのために部屋の中には講師の先生以外の方には遠慮いただいていたのです。その時は、彼女も別の部屋にいました。僕はその場を見てはいませんが、そちらの方がしつこく部屋に入ってこようとしたので無理やり帰ってもらったとは聞いています。もし気分を悪くされたなら申し訳なく思います」

 アルマの言葉に、その時に同じ場にいたのであろう先生がそれは事実だと同意した。

「だが、そうだとしても善意の差し入れを捨てるなど、酷い話ではないか」

 若干勢いが落ちた声でカルロスが言う。それに対しての答えはこうだった。

「……お恥ずかしい話ですが、僕は過去に毒物入りの差し入れを口にして生死の境をさまよったことがありまして、それ以来そういったものは受け取らないようにしているのです。心ぐるしいですが、婚約者であるカノン嬢からもそれは同様です」

 ふむ。アルマはその出来事がきっかけで心を閉ざすようになり、それを優しく包み込んでくれたヒロインに恋をする。それが冊子の筋書きだったな。どうやらそれはカノン嬢が成し遂げたらしい。ふたりの間には確かな絆と情愛があるように見える。

「そういえば、そちらの方は以前から、僕の周りに現れては色々とを言っていたそうですね? 僕の過去のこと。カノン嬢の悪口。いろんな人から聞きました。はっきり言わせてもらえば迷惑ですので、今後一切やめていただきたい」

 怒りを含ませた声音でそう言うと、彼はカノン嬢を連れて人垣の中へと帰っていった。あまりにもはっきりとした物言いに、アメリアは固まっている。カルロスも思っていたよりも重めの話が飛びだしてきたからか、言葉につまっていたのだった。

 ヒロイン(笑)側の思惑をくじく場面はまだまだ続きます。次の出番はあの方です。

 次回更新は7月7日(金)を予定しています。それでは、また!

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