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幕間 sideフィオナ~膨らむ気持ち。引き締まる思い~

 6月28日。誤字を修正しました。ご報告ありがとうございました。


 ブックマーク・評価・感想・誤字報告など、いつもありがとうございます!

 今回は少し普段よりも長めです。それでは、どうぞ!

「フィオナ=ミストレア侯爵令嬢ですね? 伺いたい件がありますので、御同行いただいてもよろしいですか?」

 その方が現れたのは、試験が中止になって、先生方の詰め所がある初めの広場に戻ってきたときでした。その方の後ろには先生も付いています。

 確か、あの恰好は近衛騎士のものだったはず。何かあったのかしら?

 少しだけ不安になりながらも、その方についていき、馬車に乗って向かったのは貴族用の勾留所でした。ど、どういうことなの?

 その建物の中で、かなり上等な部屋に通された私が聞いたのは、父と母、ミーナが騎士団の手で拘束されたということでした。父と母は横領に脱税、国家反逆罪。ミーナはその共犯と、傷害に窃盗。

 そして、それらを告発したのが、弟のキースだというのです。両親とミーナは今勾留用の部屋に軟禁状態。キースは重要参考人として騎士団から話を聞かれているのだそうです。

 事ここに至って最初に浮かんだのは、アニエス様がおっしゃっていたこと。手出しはさせないってこのことなの?

 それから、私もまた騎士団の方からいろいろなことを聞かれました。屋敷での扱いに始まり、どんなことを言われてきたか、何をされたか。両親の不正のことや、ミーナの傷害や窃盗に関して知っていたか。

 私はこの時、侯爵領の民が重税であえいでいたことや、そのお金を両親が横領していたこと。もう不満が爆発寸前であったことなどを初めて知りました。……もうあちらの方には随分と行ってなかったから。そんなことになっていたなんて。

 何よりも衝撃だったのは、両親が私を売ろうとしていたこと。試験会場に現れたあのおぞましい魔物は、そのためのものだったのではないかと。

 もしも、あの時魔道具が作動していなかったら。私はどうなっていたのでしょうか。

 それを自覚した瞬間、安心と恐怖が同時に襲ってきて、急激に体が冷えていくような感覚がありました。

 今さらながら震える私を見て、今日はもうゆっくりと休んでほしいと騎士団の方は言いました。

 それから案内された部屋は、ベッドなどが一通りそろっている部屋で、私のように何らかの事情があってこの場所に滞在することになった人物が使うための部屋なのだそうです。ですが一番驚いたのは。

「あ! フィオナ。大丈夫だった!? 怪我とかしていない?」

 そこに、アンナがいたことでした。どうして、ここにいるの?

「アンナ。どうして……」

 思わず口から出てしまった言葉に、アンナは答えてくれました。

「フィオナをお世話する人が必要だろうからって、呼ばれたんだ。あ、それとお母さんは今もお屋敷にいるよ。もちろんお父さんも」

 アンナたちは無事であることがわかってほっとしました。

 そしてアンナは私に、これまでにあったことを話してくれました。

 侯爵家の屋敷に騎士団がやってきたとき、お母様たちだけでなく、屋敷にいた何名ものメイドや侍従も騎士団に連れていかれたこと。それを指示したのはキースであること。キースは今まで、お父様たちの不正の証拠を集めていて、それを騎士団に告発したこと。

 また、その際に私のことを教えてもらい、リアさんと話し合った結果、アンナがここにやってきたのだそうです。

「なんかもう、ね。そんなことしてたんだなって感じ。しかも旦那様たちがやっていた悪事の一部、私たちにかぶせようとしていたみたいなんだよね」

「えっ!?」

「多分、フィオナを可愛がる私たちが邪魔だったんだろうね」

 キース様のおかげで助かったよと笑うアンナとは裏腹に、私は背筋が凍る思いでした。私だけじゃなくて、アンナたちにも両親の手が伸びようとしていたなんて。

 改めて、辛く、勇気のいる決断と行動をしたキースと、それを支えてくれたのであろうアニエス様たちに感謝します。私だけじゃなくて、私の大切な人たちまで守ってくれたのね。


 その日から約3日の間、私はその部屋で過ごしました。何度か女性騎士から聴取を受けましたが、変わったことといえばそれぐらいで、それ以外の時間はほとんど部屋にこもっていたように思います。レオン様やエレンたちに会えないのは寂しかったですが、久しぶりにアンナと過ごせたのは嬉しかったです。

 レオン様からは一度手紙が届きました。定型文の挨拶に始まり、危険な目に合わせたことへの謝罪、学園の様子と共に、卒業パーティのことが書かれていました。そこで、噂やそのほかのことについて片をつけると。

 パーティで起きるかもしれないことや、その時にしてほしいことなど書かれていて、その時が近づいているのだと実感できました。……気をしっかり持たなければいけませんね。

 それ以外にも、様々な情報が耳に入ってきました。

 動かぬ証拠が多数あったことで、お父様たちは有罪確定だということ。侯爵家の処遇はまだ決まっていないけれど、キースが告発したことで、情状酌量の余地があること。

 そのキースとだけは、一度だけ面会することができました。キースは思ったよりも落ち着いていて、様々なことを話してくれました。

 私が学園に行っている間の家のこと。アンナたちがお母様たちに虐げられないように手をまわしてくれていたこと。前々からエレンと協力していたこと。

「……こんな方法でしか事態を収めることができなかった、自身の力不足を恥じるばかりです」

 キースはその時だけ、悔し気な顔をしていました。

「キース。ごめんなさい。私は、何も知らない。……知ろうともしなかった。キースにこんなにつらい役目を背負わせてしまうなんて」

「姉上、いいのです。例え侯爵家を潰すことになったとしても、やると決めたのは僕自身なのですから。それに、姉上が僕に力をくれたのですよ?」

「え?」

「僕はただあなたに、幸せでいてほしい、それだけです」

 キースはそういった後は、黙って微笑むだけでした。


 また、今回の騒動で他にも悪事が露見した貴族や商会が多数あったこと。それらの処遇を巡って騎士団はてんてこ舞いみたいです。きっとそちらも、キースやエレンが関わっているのでしょう。

 騎士団の方に警護されて学園の寮の部屋に帰ってきたのは、卒業式の前日でした。

 普通ならば立ち入らないような場所で過ごしていたからか、学園の空気を酷く懐かしく感じました。

 明日は卒業式と、パーティがあります。そこでどのように振る舞えばいいかは、頭には入っています。 

そういえば、レオン様は殿下方とかなり険悪になっていたと思います。私が騎士団の方と一緒にいなくなったことで悪く言われていなければいいのですが。

 不安になると同時に、レオン様に会いたいという気持ちがむくむくと湧いてきます。明日が待ち遠しいわ。


 その日はまさに卒業式日和ともいえる温かな晴れの日になりました。

「フィオナ! おはよう!」

 エレン、ユーリ、カノンが私を見つけて次々に挨拶をします。私もそれを返して、4人で卒業式の会場に向かいます。

「ほら、あの方が……」

「婚約者を洗脳して、家を破滅させたって……」

「アメリアをいじめて」

 途中、おそらく私に対してであろうひそひそ声が耳に入ってきます。……どうやら、私は侯爵家を破滅させたことになっているみたい。

特に声高にそれを言っているのは、男子生徒です。きっとフォルティアさんの取り巻きの方なのでしょう。

「やかましい鳥がいるようね。品位が落ちるからやめて欲しいものですわね」

 隣にいたエレンが声のした方をじろりとにらみます。すると話していた方々はそそくさと離れていきました。

「ふん」

 エレンは持っていた扇で口元を隠しています。それで不機嫌であることを隠しているのを、何度も見てきました。

「フィオナ。気にしちゃだめよ」

「そうですわ。言いたい奴には言わせておけばいいのですわ」

「ありがとう」

 皆がいてくれるから、自身の悪評を聞いてもいくらか冷静でいられます。

 でも、侯爵家がどうなるのか。それについては私も少し不安でした。

 思っていた以上にお父様たちは罪を犯していて、侯爵家の処遇についてはまだ決まっていませんでした。

 キースはどうなるのでしょうか? 

 屋敷で働いている使用人たちも心配です。もし侯爵家が取りつぶされたら、次に働くところはあるのでしょうか? 

 居心地の悪い場所でしたが、優しくしてくれた方もいます。私だけ安全な場所にいる気がして、どこか後ろめたい気持ちになりました。

「フィオナ」

 私を呼ぶ声に、沈みかけていた気持ちが浮上します。声の主はレオン様でした。

「おはようございます。レオン様」

「ああ。おはよう」

 レオン様はいつもと変わらぬ様子……と思いきや、私の手を取るとその甲にキスを落としました。―――はうっ!?

「朝から会えるなんて最高の気分だよ。ところで、体調は平気? 気分は悪くないかい?」

「だ、大丈夫です。元気ですから、心配しないでくださいませ!」

 久しぶりの甘い態度に、顔が熱を持つのがわかりました。いたたまれなくて、思わず拒絶するような言い方をしてしまいます。私ったら……。

「照れているところも可愛いよ。我が愛しの婚約者殿」

「~~~~~っ!?」

 しかし、レオン様は気にする様子もなく、聞いているだけで恥ずかしい言葉を放ってきます。うう。やっぱりこういうのは、物語や演劇だからよいのであって、実際にされるとすごく恥ずかしいわ。

 そのことをこの2か月ほどで酷く理解させられました。その、悪くはないのだけど、毎日はさすがに心臓がもたないわね。

 火照った頭でそんなことを考えている間に、レオン様は満足したのか歩いていきました。

「……すごかったわね」

「そうね」

 ユーリたちが顔を赤らめてこちらを見ています。……きょ、今日で終わりのはず。だからあと少し耐えればいいのよ。

 私はそう自身に言い聞かせて、羞恥に耐えたのでした。

 もしかしたら何かあるかも、と身構えていましたが、卒業式後のホームルームで何人もの生徒(皆女子生徒でした)から挨拶されたり握手を求められたことを除けば変わったこともなく、私は寮の部屋へと帰ってきていました。

「フィオナ! お帰りなさい」

「アンナ……と」

 寮の部屋には、アンナと、何人ものメイドがいました。最初は驚きましたが、見てみると伯爵家のお屋敷で見たことのある方たちです。

「フィオナ様。こちらはアニエス様より預かってまいりました。パーティ用のドレスでございます」

「え?」

 ドレス? 

 見てみると、見事なドレスが一式と、アクセサリーまでついていました。

「こちらをぜひ、この後のパーティでお召しになってほしいと」

 そう言えば、ドレスを贈ってくださるとの話でした。改めてドレスを見ます。

 淡いブルーで、腰から足元にかけてふんわりと広がる、流行りのドレスです。胸元などは白いレースがあしらわれ、布地には淡い金色のバラが刺繍されています。小さな黒いリボンもいいアクセントになっていました。

 まさかこんなに素敵なドレスを贈ってくださるなんて。

「本当にありがとうございます。アニエス様によろしくお伝えください」

「もちろんでございます。ですが、私共の仕事はフィオナ様を美しく磨き上げることです。ささ。それでは準備と参りましょう」

「は、はい」

 それから、私は宣言通りメイドの皆様とアンナによって磨き上げられることになるのでした。


 準備を整えた後は、パーティの会場近くにある控室の方へと移動して、レオン様が来るのを待ちます。

 今日の服装はどうでしょうか。変ではないかしら?

 パーティ会場でおそらく何かが起きることは察していましたが、今日のためにといただいて着つけてもらったドレス姿の私を見て、レオン様がどんなことを言ってくれるかが気になっていました。……せっかく素敵な衣装や装飾品をつけているのだし、その位は期待してもいいと思うの。

 胸元を見れば、そこには初めてのデートでいただいた指輪のネックレスがあります。今は指輪の両隣に後付けの装飾具をつけて、ドレスにも見劣りしないものになっています。これもアニエス様が用意してくださったものでした。

 パーティの際には、指輪のネックレスは外しておこうかと思っていたので、この心遣いは嬉しかったです。

 しばらくののち、レオン様が来たことが告げられ、控室から出ます。

 レオン様は礼服を着ていました。黒みがかった青に金の縁取り。……私のドレスと色合いが似ているのは偶然ではないのでしょう。首元には指輪のネックレスのチェーンがのぞいています。……今日はお揃いの部分が多いです。

 口元が緩みそうになるのを抑えます。

「どうでしょうか?」

 意を決して、聞いてみます。なんといってくださるのかしら。

「……これで勝てるな」

「え?」

 初めにレオン様の口から出てきたのは、期待していモノとは違いました。……何と戦うのでしょうか?

「いや、とても似合ってるし、すごいきれいだってこと」

「……っ///」

 しかし、それから放たれたのは、期待以上の言葉で、ポッと顔が熱を持ちました。嬉しい。

「では」

「はい」

 差し出された手を取り、エスコートされながら会場へと移動します。会場へと続く廊下には、同じ様に会場に向かう方々がパートナーと共に歩いています。中には、私たちの方を見て驚いたような表情をする方もいました。

 私やレオン様の噂を見聞きした人でしょうか。それとも。

 隣を歩くレオン様を盗み見ます。 

 身に着けている礼服は、”箒星の夜会”の時のものよりも落ち着いた感じで、デザインは騎士のそれにやや近いものでした。”箒星の夜会”の時の衣装も華やかさがあって素敵でしたが、今の衣装も……凛々しく見えて素敵でした。

 また新たなレオン様の魅力を見つけたようで密かに嬉しくなってしまうのでした。


 いよいよパーティ会場となる大広間の入り口が見えて来て、開け放たれている扉の中に入ります。

 会場には既に大勢の生徒たちがいて、思い思いに談笑していました。ちらほらと先生方の姿も見えます。……そういえば、カーリン先生も婚約者であるシリル先生と共にいらっしゃるはず。ひと段落着いたら挨拶に行きたいです。とてもお世話になりましたし。

 ザワザワ。ひそひそ。

 会場内に入った私たちを見て、少しだけ、会場が静かになった気がしました。噂がまだまだ尾を引いているんだわ。

「?」

 あれ? 少し暗いかしら?

 そんな気がして会場を見回します。証明は明るく広間を照らしています。なのに、なぜか薄暗く感じます。

 そうして気が付いたのは、会場全体に、薄くベールのように何かが掛かっている様子でした。それで少し暗く見えたみたいです。あれは……魔術の結界か何かでしょうか?

 国王陛下も参席なさるのですから、警備が厳重でもおかしくはありません。

 でも、なぜでしょうか。あまりあれを直視していたくないと言う気持ちがあります。そう、どこかあのヘドロのような魔力に似ているような気がしたのです。

 会場内の空気がどこか歪に見えるのもそのせい?

 あの魔力を纏ったウルフに襲われたことは記憶に新しく、思い出すだけで体が震えそうになります。

 レオン様に言った方がいいかしら。そう思いながら視線を下ろすと、会場の中央付近にエレンが立っているのが見えて驚きました。どうしてエレンが今ここにいるの? 殿下と入場するのではないの? 

 エレンは私たちの方を一瞬見ました。そこに浮かんでいたのは、貴族然とした笑顔。

 ひとりで立っているエレンは凛としていて思わず見とれてしまいそうになりますが、どことなく寂しそうにも見えて、胸が締め付けられました。

 その時、優しく握られていた手に、力がこもるのがわかりました。

 レオン様を横目で見ると、先ほどよりも少しだけ纏う雰囲気が鋭くなったように感じました。緊張、とも少し違う気がします。

 それはきっと、これから起きる、いえ、起こすことに関するものなのだろうとあたりをつけます。

「レオン様」

 その手を握り返して、微笑みます。少しでもレオン様の心が軽くなるように願って。私も、一緒に背負います。

「……大丈夫だよ」

 微笑むレオン様は、何かを強い思いを秘めたような顔をしていました。

 王子殿下の入場を告げる声が響き渡ったのはそれからすぐでした。

 やっと本編に追いつきました。次回からはまた本編に戻ります。

 次回更新は6月30日(金)を予定しています。それでは、また!

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